エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第5章:闇の中の光

第52話

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「2人共おかえり。依頼、どうだった?」

日暮れとともにユーリさんの家へ帰ると、彼が出迎えてくれた。

「順調よ。もう解決したようなものだわ。」
「本当?それなら良かった。」
「明日もう一度確認してみて、大丈夫そうなら報告するつもりだよ。」
「フラン…随分、物腰が柔らかくなったね?」
「え?あ…す、すいません!」
「いやいや。責めている訳じゃないんだ。君が打ち解けてくれているようで、嬉しいよ。」
「ユーリー!ご飯出来たよー!」

ルナさんの声が、部屋の奥の方から聞こえて来た。花の匂いをかき消すように、料理の匂いが漂っている。その匂いに、お腹がグーっと音を立てた。

「あ…すみません…。」
「ははは。お腹が空くのは元気な証拠だね。みんなで食べよう。」

彼の母親が用意した料理の数々が、机の上にずらりと並べられた。どの料理も温かく、優しい味わいだった。母の味と言うのは、こういう料理の事を言うのだろう。

「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
「お口にあって良かったわ。ルナさんが手伝ってくれたおかげね。」
「お母様がお料理上手だから、私はほんの少しお手伝いしただけですよ!」
「そう言って貰えると嬉しいわ。あ、そうだ…お父さんの様子を見てくるから、さっきの話を皆さんによろしくね。」
「うん。わかったよ。」

すると彼女は席を立ち、リビングの方へ姿を消した。

「さっきの話と言うのは、なんですか?」
「実は、お得意様の注文が思いの外多くてね。ルナに手伝ってもらっても、あと2日くらいかかりそうなんだ。それで、この町に滞在する間、僕の家に泊まってもらおうと思ってね。」
「本当にいいの?迷惑じゃないかしら…。」
「空き部屋もあるし、母さんも父さんと2人きりより賑やかでいいって。」
「お母様がいいなら、お言葉に甘えようかしら。」
「じゃあ、部屋に案内するよ。ついてきて。」

階段をあがって2階へ向かうと、廊下の突き当たりにある部屋の扉を開いた。

「この部屋は、ユイとルナで使って。僕達はこっちだよ。」

廊下の壁に、さらに上へあがる為の梯子が掛けられていた。その梯子を上っていくと、沢山の箱が置かれた屋根裏部屋に辿り着いた。

「ごめんね。ちょっと埃っぽいけど…4人であの部屋を使うより、気が休まるだろうと思ってね。」
「そうですね。僕もそう思います。」
「僕もここで寝ようと思うけど、構わないかな?」
「ええ。もちろんです。」
「なら良かった。あ、そうだ…ちょっと聞きたい事があるんだ。依頼について、ユイは順調だって言ってたけど…フランは彼女と2人で明日も作業出来そうかい?」
「は、はい。問題ないかと。」
「そっか。…実はちょっと心配だったんだ。彼女、思った事をすぐ口にするタイプだから、君と上手くやっていけるかわからなくてね。」 
「お気遣いありがとうございます。彼女は間違った事を言っていません。皆さんが僕に合わせるのではなく、僕が皆さんに歩み寄らないといけないんだって事を改めて感じました。」
「あぁ~。それで、物腰が柔らかくなったのかい?また戻っちゃったみたいだけど。」
「ど、努力するよ…。今後、みんなの助けが必要不可欠だと思うから。よそよそしいままじゃ、みんな気まずいと思うし…。」
「そうだね。ルドルフも、少しはフランの事を見習って欲しいものだね?」
「断る。俺様は馴れ合う為に、ここにいる訳じゃない。」
「うーん。彼と仲良くなるのは、まだまだ先になりそうだね。」
「す、すみません…。」
「とにかく、今日はもう休もう。明日の事でちょっとルナに話があるから、先に休んでて?」
「あ、うん。おやすみなさい。」



翌日。日が昇り始める頃に目覚めた僕は、外の空気を吸いに、こっそり部屋を抜け出した。
大きく息を吸い込むと、冷たい空気が花の香りを連れてくる。ヴィエトルとはまた違った新鮮さを感じた。山と山の間から、昇ったばかりの陽の光が差し込む様子はなんとも幻想的だった。

「まともに太陽を見るな…眩しい…。」
「あ、ごめんルドルフ。起こしちゃった?」
「お前が起きた時からな。」
「なんだ。随分前だね。」
「何か考え事か?」
「ううん。1人になれる時間が欲しかったんだ。もう戻るよ。」
「まだ奴等が起きるまで時間がある。もう暫くここに居ても構わないだろう。俺はもう少し寝る。」

僕は時々、こうして1人なりたいと思う時がある。それは決して、周りと距離を置きたいからではない。
ただ…僕を支え、助けてくれる人達の想いに、僕は応えられているだろうか。時々、不安になることがあるのだ。
ギルドのみんな、騎士学校の友人、そしてエーリの同級生達。皆が良い人であればある程、僕の不安は大きくなっていく。

「今日は、町で材料を揃えて、井戸の周りを修復するんだったよね?」
「ええ。木材と釘、後は滑車も新しくした方がいいわね。」
「ユーリさんの話だと、確かこの辺りにお店が…」
「あれじゃないかしら?」
「そうみたいで…だね。行こっか。」

店で材料を揃え、昨日直したばかりの井戸へやってきた。

「あれ?水…こんなに少なかったっけ?」
「おかしいわね…。もっと沢山あったはずよ?」
「どこからか、漏れている可能性が高いな。壁を直す必要がありそうだ。」
「壁を直すって…まさか、水の中に潜る気じゃないでしょうね?」
「そんなことする訳ないだろう。少しは頭を使え。」
「ちょっとルドルフ!ユイにそんな言い方しないで。」
「…お前等に任せておけん。俺様がやってやるから黙って見ていろ。」

俺は魔法を行使し、ツルハシとバケツを作り出した。
まずはツルハシを動かし、少し離れた所にある岩を大小様々な大きさに砕いた。石や砂利をすくい上げてバケツに入れると、井戸の中にひっくり返した。

「これで本当に直るの?」
「石を入れただけでは、下に沈むだけだ。中の水をかき混ぜて水流を作れば、水が漏れている箇所に石が運ばれ、隙間が埋まるだろう。」
「なるほど…。じゃあ、後はかき混ぜればいいのね。」
「やり方はお前達に任せる。後は頼んだぞ。」
「ええ。わかったわ。」

すると彼女は、井戸を掘る時にルドルフが作った道具と似たような物を作り出した。
棒の先は尖っておらず、鍋の蓋のように広がっている。滑車に紐を通し、棒を水の中に沈めた。

「後は僕に任せて。魔法は苦手だけど、体力はある方だから。」
「そうね。ここはあんたにお願いしようかしら。」

紐を引くと、井戸の底から棒が浮き上がり、鍋の蓋のような部分が水を上へと持ち上げる。棒を上げきった所で力を抜き、再び水の中へ棒を沈める。これを繰り返す事で井戸の中の水をかき混ぜる事が出来るという訳だ。

「疲れたら交代するわ。明日も頑張ってもらうことになりそうだし。」
「うん。わかった。ありがとうユイ。」
「あんたもやれば出来るじゃない。」
「え?紐を引くだけなら誰でも出来るよ?」
「そういう事じゃないわよ。前みたいに気軽に話せてるって事。」
「あぁ…そっちかぁ。」
「向こうでは、騎士をしてたって言ってたわよね?誰に教わったの?」
「騎士学校に通ってだんだ。武術の他に、野営の仕方とか炊き出しとかも教わったよ。」
「へぇ…。騎士って言っても、戦うだけじゃないのね。そこにも仲間はいたの?」
「うん。そんなに多くはないけど、友達はいたよ。今ごろ…どうしてるかわからないけど。」
「…連絡はしないの?」
「僕はもう、騎士じゃない。囚人を脱獄させた犯罪者だよ。僕に関わった彼等を、巻き込みたくないんだ。」
「けど、ルナを助けた事には違いないわ。あんたが連れ出さなかったら、今頃どうなってたか。」
「そうだね。ありがとう慰めてくれて。」
「べ、別に慰めてるんじゃないわ!…ルナはあたしの大事な仲間だからよ。」
「仲間…かぁ。僕も以前は、みんなと仲間…だったのかな。」
「…記憶、無くなったものは仕方ないじゃない。一度仲間になれたんだもの、またすぐなれるわよ。」
「そうだね。頑張るよ。」
「そろそろ交代しなさい。頑張りすぎて倒れられても困るわ。」
「あ、うん。じゃあ、代わってもらおうかな。」

こうして、日暮れまで作業は続いた。
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