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第4章:記憶の欠片
第40話
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「ルシュ様。いらっしゃいますか?」
薬草の入ったカゴを持ち、幹部の1人であるヴェラヴェルシュの部屋の前にやって来た。扉を叩いてしばらく待っていると、中から1人の女性が姿を現した。
「誰かと思えばフランか。何の用だ?」
「以前頼まれていた、薬草を摘んできました。」
「あぁ…。確かに頼んだわね。随分遅かったじゃない。」
「すみません…。エーリの課題で手一杯だったものですから…。」
「そういう時は、無理にやらなくていい。お前に頼む仕事は、どれも急用ではないからな。」
「はい…わかりました。」
「そこのテーブルに置いてちょうだい。後は私が何とかするわ。」
沢山の本棚に囲まれた彼女の部屋は、足の踏み場もないくらい大量の本で溢れかえっていた。高く積み上げられた本の隣にカゴを置き、部屋を出ようと扉を開けると、廊下の先から少女が走ってくるのが見えた。
「た、大変です…!ヴェラ!」
「フィーか。どうした?そんなに慌てて。」
「レー…ガ…がが、けけ怪我し…ててて…!」
「は?」
「レ、レム様…!落ち着いて下さい。」
「レ、レーガ…が!怪我したんです…!階段を降りていたら、後ろから…転げ落ちて…きて…。」
「階段から落ちたくらいで大袈裟よ。」
「でで、でも…!沢山、血が流れてました…!」
「フラン。フィーの使い魔と一緒に、レーガを医務室に運んで。」
「は、はい!」
「こっちです…!」
彼女の後ろを着いていくと、階段の前で倒れているラギト様の姿があった。階段から落ちたにしては、多すぎる怪我が身体のあちこちに見られる。使い魔の背中に彼を乗せ、ルシュ様の待つ医務室へと向かった。
彼女の診察の結果、彼は階段から転げ落ちる前に大きな怪我をしていたらしい。何とかレジデンスに戻って来たが、怪我のせいで思うように歩く事が出来ず、階段から落ちてしまったという訳だ。何事もなく治療を終え、後の事は彼女に任せる事になった。
「ねぇルナちゃん。メモーリアって植物知ってる?」
机に座る彼女の背中に、僕は問いかけた。
「メモーリア?んー…そんな植物あったかなぁ?」
「知らないならいいんだ。ごめんね?変な事聞いて。」
「ララは知ってる?」
「うーん…。どこかで…聞いた事あるような…?」
彼女は、飲み物の入ったカップを持ったまま首を傾げた。
「その植物がどうかしたの?」
「この間、薬草の本を読んでたら見かけたんだ。どこに行ったら見つかるのかな?と思って。」
「なるほど、薬草だから気になるんだね。」
「うん。薬草を摘むの好きだから、実物が見て見たいんだ。」
「ごめんね。力になれなくて…。」
「ううん。いいんだ。ちょっと興味がある程度だからね。」
僕は、息を吸うように嘘をついた。実物がみたいというのは建前で、本当はその薬草を手に入れようとしている。
彼女達に問いかけたメモーリアという薬草は、薬として使われる事が多いが、別の目的にも使用される。メモーリアに血液を混ぜて煎じると、その人の過去の記憶を見る事が出来るのだ。
僕はそれを使って、確かめたい事がある。レジデンスの幹部の1人、レーガイルラギトの過去を遡って。
「マスター。」
「お、来たかラン。持ってくるから、ちょっと待ってろ。」
数日後。白いローブで身を隠し、薄暗い酒場へとやって来た。仕事をする時の情報収集によく訪れるが、今日は別件でマスターの元を訪れたのだ。
「ほれ。これが頼まれてたやつだ。」
「助かる。お代は?」
「金はいらねぇ。…だが、1つ頼まれ事をしてくれるか?」
「何だ?」
「この家に住んでる男が、長いこと酒代を払ってねぇんだ。こいつから、金を取り立ててくれないか?」
「わかった。」
マスターから家の場所が書かれたメモを預かると、ローブのポケットに小包をしまって店を後にした。
「な、なんだよテメェ!どっから入ってきやがった!」
「マスターから頼まれて来た。酒代を払ってもらう。」
「そんな金があったら、とっくに払ってるっつーの!」
「その腕輪、売ったら金になりそうだな。切り落とすなら手伝う。」
「は?テメェ…何言って…」
指を噛み、滴り落ちる血で剣を作り、男に向かって振りかざした。男は、刃がかすった腕が赤く滲み始めた。
「いっ…てぇ!テメェ!何しやが…」
「動かない方が痛みも少ない。大人しくしていれば、腕1本で済む。」
「腕1本で済ませられるか!金は無いって言ってるだろ!」
「なら首にしよう。マスターには僕から伝える。」
「は?く、首…」
鈍い音と共に、白いローブが赤く染った。男は床に倒れ、それ以上言葉を発する事はなかった。
「あれ…?フランくん?」
エーリの図書室で、1人の女子生徒が声をかけてきた。
「あ、ララちゃん。君も本を借りに来たの?」
「う、うん…!フランくん、あんまり本は読まないと思ってた…ちょっと意外かも。」
「あはは。僕には似合わないよね?」
「そ、そんな事ないよ!私も本を読むのは好きだから…嬉しいなと思って。」
「ちょっと調べたい事があったんだ。でも、もう済んだからそろそろ帰るよ。」
「あ、うん…。気をつけてね。」
「ララちゃんもね。じゃ、また明日。」
僕は、足早にその場から離れた。
普段本を読まない僕が、図書室にいた事を彼女は怪しんでいた。計画を実行する為には、まだ彼女達にバレる訳にはいかない。
逸る気持ちを抑えながら、その日は自室で大人しく過ごす事にした。
「出来た…。」
レジデンスの部屋で、例の薬が完成した。メモーリアを使った煎じ薬で、薬草と共にラギト様の血が含まれている。
この薬を飲み、彼の過去を見る事で僕の両親が死んだ真相がわかる。両親がどのように死んだのか、どうしてもそれを知りたかった。
覚悟を決め、瓶の縁に口を付けて一気に飲み干す。しばらくして脈が激しく波打ち、そのまま意識が遠のいていった。
「見えました!あの島です!」
船乗りの1人が、声を張り上げた。荒々しい波に揉まれながら、数隻の船が島に上陸する。
「ここが例の島か…。」
「ラギト様。我々にご指示を。」
「人間を見つけ次第、とにかく殺すこと。ただし、子供は殺さずに船まで連れてきて。」
「かしこまりました。皆!ラギト様の指示に従い、早急に島を制圧するのだ!」
「「はっ!!!」」
鎧で身を固めた吸血鬼達が、次々と船を降りていく。
しばらくして、遠くの方から人々の悲鳴が聞こえてきた。女の甲高い声や男の野太い声、泣きわめく子供の声と喚く動物達の声。しかしそれも、ものの数刻で聞こえなくなっていった。
「ラギト様。島の制圧、並びに子供の輸送を完了しました。」
「わかった。じゃあ、僕もちょっと覗いてくるよ。」
「かしこまりました。お気をつけて。」
船を降り、砂浜を踏みしめながら陸地へ向かって歩き出した。
あちこちで倒れている人間達を横目に、街の中を進んでいく。
「レーガ。あっちの方に、子供の気配があるわ。」
「わ、ちょっとベル。出てこなくていいって言ったのに。」
突如僕の元に現れたのは、使い魔のベルだ。この惨状は、使い魔と言えど見るに堪えないものだろうと思い、中に取り込んでいた。
「なによ。あたしはあなたの使い魔なんだから、少しは力を使いなさいよ。」
「僕のこんな姿、君に見られたくなかったんだ。」
「今更何を言ってるんだか…。早く子供を輸送しましょ。こっちよ。」
ヒラヒラと飛び回る彼女の後について行くと、鐘が飾られた石造りの建物の近くにやってきた。
「ここよ。」
「見たところ、男と女がいるだけに見えるけど?」
「おかしいわね…確かにこの辺りから気配がするのだけど…。」
「…たす……け…」
「レーガ。この男、まだ息があるわ。」
倒れている男が、僕に助けを求めて来た。地面を這いずり、足元に近付いて来る。
「申し訳ないけど、助ける気は無いよ。」
「妻の…お…なかに…赤子が…。」
「どおりで反応があるわけだわ。女の方が身ごもっているのよ。」
「わざわざ教えてくれてありがとうね。ゆっくり休んで。」
僕は持っていた剣を、上から下に振り下ろした。
「さて…子供はどうするべきかな…。」
「簡単よ。腹を割いて取り出せばいいわ。」
「人間の子供どころか、吸血鬼の子ですら取り上げたことないよ…。」
「しょうがないわね…あたしに任せなさい。」
そういうと、彼女は女の腹を割き、中から小さな赤い塊を取りだした。腹部から伸びた紐を切って水で洗い流し、風で乾かし僕の腕にそれを抱かせた。
「これが…赤子…。」
「力を入れすぎると潰れるわよ。」
「こんなに小さいものなんだね。」
「そうよ。あなたもこうだったんだから。」
倒れている女の側に歩み寄り、地面に膝をついた。剣で斬られた首元を指でなぞり、滴り落ちる液体を舌ですくいあげた。
「君はセシルって言うんだね。さっきの男がルドルフで…この赤子がフラン…か。」
「でもこの赤子、誰に預けるべきかしら?」
「大丈夫。僕が責任を持って育てるよ。」
「え!?赤子を抱いた事もないあなたが母親の代わりになれる訳が…。」
「その時はその時さ。他に子供の反応はある?」
「…いいえ。無いみたいだわ。」
「じゃあレジデンスに帰ろう。これから、忙しくなりそうだしね。」
来た道を引き返し、子供達を乗せた船は大海原へ出航した。
「今日から君の名前は…フランドルフルクだ。」
腕に抱かれた赤子の小さな手が、僕の指を力強く握り返した。
薬草の入ったカゴを持ち、幹部の1人であるヴェラヴェルシュの部屋の前にやって来た。扉を叩いてしばらく待っていると、中から1人の女性が姿を現した。
「誰かと思えばフランか。何の用だ?」
「以前頼まれていた、薬草を摘んできました。」
「あぁ…。確かに頼んだわね。随分遅かったじゃない。」
「すみません…。エーリの課題で手一杯だったものですから…。」
「そういう時は、無理にやらなくていい。お前に頼む仕事は、どれも急用ではないからな。」
「はい…わかりました。」
「そこのテーブルに置いてちょうだい。後は私が何とかするわ。」
沢山の本棚に囲まれた彼女の部屋は、足の踏み場もないくらい大量の本で溢れかえっていた。高く積み上げられた本の隣にカゴを置き、部屋を出ようと扉を開けると、廊下の先から少女が走ってくるのが見えた。
「た、大変です…!ヴェラ!」
「フィーか。どうした?そんなに慌てて。」
「レー…ガ…がが、けけ怪我し…ててて…!」
「は?」
「レ、レム様…!落ち着いて下さい。」
「レ、レーガ…が!怪我したんです…!階段を降りていたら、後ろから…転げ落ちて…きて…。」
「階段から落ちたくらいで大袈裟よ。」
「でで、でも…!沢山、血が流れてました…!」
「フラン。フィーの使い魔と一緒に、レーガを医務室に運んで。」
「は、はい!」
「こっちです…!」
彼女の後ろを着いていくと、階段の前で倒れているラギト様の姿があった。階段から落ちたにしては、多すぎる怪我が身体のあちこちに見られる。使い魔の背中に彼を乗せ、ルシュ様の待つ医務室へと向かった。
彼女の診察の結果、彼は階段から転げ落ちる前に大きな怪我をしていたらしい。何とかレジデンスに戻って来たが、怪我のせいで思うように歩く事が出来ず、階段から落ちてしまったという訳だ。何事もなく治療を終え、後の事は彼女に任せる事になった。
「ねぇルナちゃん。メモーリアって植物知ってる?」
机に座る彼女の背中に、僕は問いかけた。
「メモーリア?んー…そんな植物あったかなぁ?」
「知らないならいいんだ。ごめんね?変な事聞いて。」
「ララは知ってる?」
「うーん…。どこかで…聞いた事あるような…?」
彼女は、飲み物の入ったカップを持ったまま首を傾げた。
「その植物がどうかしたの?」
「この間、薬草の本を読んでたら見かけたんだ。どこに行ったら見つかるのかな?と思って。」
「なるほど、薬草だから気になるんだね。」
「うん。薬草を摘むの好きだから、実物が見て見たいんだ。」
「ごめんね。力になれなくて…。」
「ううん。いいんだ。ちょっと興味がある程度だからね。」
僕は、息を吸うように嘘をついた。実物がみたいというのは建前で、本当はその薬草を手に入れようとしている。
彼女達に問いかけたメモーリアという薬草は、薬として使われる事が多いが、別の目的にも使用される。メモーリアに血液を混ぜて煎じると、その人の過去の記憶を見る事が出来るのだ。
僕はそれを使って、確かめたい事がある。レジデンスの幹部の1人、レーガイルラギトの過去を遡って。
「マスター。」
「お、来たかラン。持ってくるから、ちょっと待ってろ。」
数日後。白いローブで身を隠し、薄暗い酒場へとやって来た。仕事をする時の情報収集によく訪れるが、今日は別件でマスターの元を訪れたのだ。
「ほれ。これが頼まれてたやつだ。」
「助かる。お代は?」
「金はいらねぇ。…だが、1つ頼まれ事をしてくれるか?」
「何だ?」
「この家に住んでる男が、長いこと酒代を払ってねぇんだ。こいつから、金を取り立ててくれないか?」
「わかった。」
マスターから家の場所が書かれたメモを預かると、ローブのポケットに小包をしまって店を後にした。
「な、なんだよテメェ!どっから入ってきやがった!」
「マスターから頼まれて来た。酒代を払ってもらう。」
「そんな金があったら、とっくに払ってるっつーの!」
「その腕輪、売ったら金になりそうだな。切り落とすなら手伝う。」
「は?テメェ…何言って…」
指を噛み、滴り落ちる血で剣を作り、男に向かって振りかざした。男は、刃がかすった腕が赤く滲み始めた。
「いっ…てぇ!テメェ!何しやが…」
「動かない方が痛みも少ない。大人しくしていれば、腕1本で済む。」
「腕1本で済ませられるか!金は無いって言ってるだろ!」
「なら首にしよう。マスターには僕から伝える。」
「は?く、首…」
鈍い音と共に、白いローブが赤く染った。男は床に倒れ、それ以上言葉を発する事はなかった。
「あれ…?フランくん?」
エーリの図書室で、1人の女子生徒が声をかけてきた。
「あ、ララちゃん。君も本を借りに来たの?」
「う、うん…!フランくん、あんまり本は読まないと思ってた…ちょっと意外かも。」
「あはは。僕には似合わないよね?」
「そ、そんな事ないよ!私も本を読むのは好きだから…嬉しいなと思って。」
「ちょっと調べたい事があったんだ。でも、もう済んだからそろそろ帰るよ。」
「あ、うん…。気をつけてね。」
「ララちゃんもね。じゃ、また明日。」
僕は、足早にその場から離れた。
普段本を読まない僕が、図書室にいた事を彼女は怪しんでいた。計画を実行する為には、まだ彼女達にバレる訳にはいかない。
逸る気持ちを抑えながら、その日は自室で大人しく過ごす事にした。
「出来た…。」
レジデンスの部屋で、例の薬が完成した。メモーリアを使った煎じ薬で、薬草と共にラギト様の血が含まれている。
この薬を飲み、彼の過去を見る事で僕の両親が死んだ真相がわかる。両親がどのように死んだのか、どうしてもそれを知りたかった。
覚悟を決め、瓶の縁に口を付けて一気に飲み干す。しばらくして脈が激しく波打ち、そのまま意識が遠のいていった。
「見えました!あの島です!」
船乗りの1人が、声を張り上げた。荒々しい波に揉まれながら、数隻の船が島に上陸する。
「ここが例の島か…。」
「ラギト様。我々にご指示を。」
「人間を見つけ次第、とにかく殺すこと。ただし、子供は殺さずに船まで連れてきて。」
「かしこまりました。皆!ラギト様の指示に従い、早急に島を制圧するのだ!」
「「はっ!!!」」
鎧で身を固めた吸血鬼達が、次々と船を降りていく。
しばらくして、遠くの方から人々の悲鳴が聞こえてきた。女の甲高い声や男の野太い声、泣きわめく子供の声と喚く動物達の声。しかしそれも、ものの数刻で聞こえなくなっていった。
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「わかった。じゃあ、僕もちょっと覗いてくるよ。」
「かしこまりました。お気をつけて。」
船を降り、砂浜を踏みしめながら陸地へ向かって歩き出した。
あちこちで倒れている人間達を横目に、街の中を進んでいく。
「レーガ。あっちの方に、子供の気配があるわ。」
「わ、ちょっとベル。出てこなくていいって言ったのに。」
突如僕の元に現れたのは、使い魔のベルだ。この惨状は、使い魔と言えど見るに堪えないものだろうと思い、中に取り込んでいた。
「なによ。あたしはあなたの使い魔なんだから、少しは力を使いなさいよ。」
「僕のこんな姿、君に見られたくなかったんだ。」
「今更何を言ってるんだか…。早く子供を輸送しましょ。こっちよ。」
ヒラヒラと飛び回る彼女の後について行くと、鐘が飾られた石造りの建物の近くにやってきた。
「ここよ。」
「見たところ、男と女がいるだけに見えるけど?」
「おかしいわね…確かにこの辺りから気配がするのだけど…。」
「…たす……け…」
「レーガ。この男、まだ息があるわ。」
倒れている男が、僕に助けを求めて来た。地面を這いずり、足元に近付いて来る。
「申し訳ないけど、助ける気は無いよ。」
「妻の…お…なかに…赤子が…。」
「どおりで反応があるわけだわ。女の方が身ごもっているのよ。」
「わざわざ教えてくれてありがとうね。ゆっくり休んで。」
僕は持っていた剣を、上から下に振り下ろした。
「さて…子供はどうするべきかな…。」
「簡単よ。腹を割いて取り出せばいいわ。」
「人間の子供どころか、吸血鬼の子ですら取り上げたことないよ…。」
「しょうがないわね…あたしに任せなさい。」
そういうと、彼女は女の腹を割き、中から小さな赤い塊を取りだした。腹部から伸びた紐を切って水で洗い流し、風で乾かし僕の腕にそれを抱かせた。
「これが…赤子…。」
「力を入れすぎると潰れるわよ。」
「こんなに小さいものなんだね。」
「そうよ。あなたもこうだったんだから。」
倒れている女の側に歩み寄り、地面に膝をついた。剣で斬られた首元を指でなぞり、滴り落ちる液体を舌ですくいあげた。
「君はセシルって言うんだね。さっきの男がルドルフで…この赤子がフラン…か。」
「でもこの赤子、誰に預けるべきかしら?」
「大丈夫。僕が責任を持って育てるよ。」
「え!?赤子を抱いた事もないあなたが母親の代わりになれる訳が…。」
「その時はその時さ。他に子供の反応はある?」
「…いいえ。無いみたいだわ。」
「じゃあレジデンスに帰ろう。これから、忙しくなりそうだしね。」
来た道を引き返し、子供達を乗せた船は大海原へ出航した。
「今日から君の名前は…フランドルフルクだ。」
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