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第3章︰思わぬ再会
第33話
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数日が経ち、地下牢に捉えられたルナの事が徐々にわかってくる…はずだった。
1日2回の食事の時間、配膳と共に紙を見せる事で僕は彼女から情報を得ていた。
しかし彼女は僕の質問に対し、首を縦に振ることは無かった。
「何故ここに来たのか…どうして捕まったのか…それすらもわからないなんて…。」
「だが、全ての記憶を無くしたわけではなさそうだ。お前の事をわかっている様子だった。」
「こうなったら、それとなく他の兵士に話を聞…」
「やめておけ。あまり踏み込んで詮索するな。」
「でも…。」
「お前がルナに接触したのは、記憶を取り戻したいからだったはずだ。助けるのが本来の目的じゃないだろう。」
「それはそうなんだけど…。」
「じゃあ、何故そこまで肩入れする。何か思い出せたのか?」
「いや…彼女の事は覚えてない。でも、なんだか放っておけなくて…。」
「同情か?以前のお前では、ありえない変化だな。」
「僕と彼女の本当の関係は?ただの学友だとは思えないよ。何か…隠してるんじゃないの?」
「身体が同じとはいえ、お前の腹の内までは知らん。だが、あいつと喋っている時のお前は…生き生きとしていた。」
「生き生き…。」
「いいか?捕まったあいつを助ける行為は、ハッキリ言って無謀だ。今までの苦労が水の泡になる事くらいわかるな?」
「…わかってるよ。」
「なら余計な事は考えず、さっさと寝ろ。」
僕は彼の言葉通り、灯りを消して布団にもぐった。
真っ暗になった天井を見つめながら、彼女の顔を思い浮かべる。
薄暗い牢獄の中、ほんの少しの灯りで輝く白い髪。相手の全てを見透かしてしまうような、澄み切った青い瞳。彼女には人を惹き付ける魅力があるのかもしれない。
恐らく僕もその1人。以前の僕もそうだったのかもしれない。
彼女には、特別な何かを感じる。目には見えない、特別な何かを。
翌日、いつも通り朝食の配膳をしようと袋を持ち上げると、いつもと違う変化に気がついた。
「あの…!数が1つ足りないような気が…」
「今朝早く、囚人を1人牢屋から出したんだ。聞いてなかったか?」
「え?どうしてですか?」
「驚くなよ?俺もさっき知ったんだが、1番奥に入ってた囚人が吸血鬼だったんだとさ。」
その言葉を聞いた瞬間、その囚人がルナである事を悟った。
「その囚人は今どこに!?」
「そうだな…。ここを出たのが明け方だったから、そろそろ城から出る頃か…」
僕は咄嗟に、手に持った袋をその場に投げ出した。
荒々しく扉を開けて、全速力で階段を駆け上がる。
長い廊下を駆けて行き、角を曲がった先で歩いている兵士と薄汚れた服を着た少女の姿を見つけた。
「ま、待って下さい…!」
僕の呼びかけに、彼等はその場で歩みを止め、こちらを振り返った。
「一体何事ですか?」
「…っ…そ、その囚人は…!テト様の…命によってっ…連れてくるようにと…言われ…たんです!」
「そのような話…我々は聞いておりませんが…。」
「これを…見てください!」
懐から取り出した木彫りの札を、兵士達の前に突き出した。
「これは…!テト様の許可証ですね。」
「あとは僕が連れて行きますから…。お2人は…持ち場に戻って下さい。」
「分かりました。では、我々はこれで。」
背を向けて歩き出した兵士達を見送ると、彼女の腕を掴んで駆け足で歩き出した。
「ど、どこへ行くつもり?」
「まずは僕の部屋に、荷物を取りに行きます。そしたらすぐに街を出ましょう。いつ追っ手が来るかわかりません。」
「街を出る…?追っ手…?テトの所に行くんじゃないの?」
「あれは嘘です。テト様の許可証は本物ですけどね。」
「じゃあ…どうして?」
「さぁ…どうしてでしょう?君の事は覚えてないのに、気が付いたら身体が動いていました。」
「フラン…。」
「お喋りしてる暇はありません。急ぎましょう。」
「…うん!」
部屋で荷物をまとめ、兵士達の目を掻い潜って足早に城を抜け出した。
ローブで顔を隠し、極力目立たないように街の北側へと歩みを進める。
「隠れて…!」
兵士の姿を見つけ、咄嗟に彼女の腕を引いて路地裏へと姿を隠した。
「もう追っ手が?まだそんなに経ってないのに…。」
「ごめんね…私のせいで…。」
「仕方ありません。僕の身体が勝手に動いたんですから。」
「でも…。」
「巻き込んで謝られるより、無事逃げ切って感謝される方が僕は嬉しいですね。」
「やっぱりフランは…フランのままだね。」
「君は…僕の事をよく知ってるんですか?」
「よく知ってるって程じゃないけど…。昔から変わらないなって思って。」
「…ひとまず、ここから抜け出しましょう。詳しい話は、それから聞きます。」
「うん…わかった。」
そっと顔を覗かせ、兵士の姿がない事を確認して路地裏から抜け出した。
人の隙を縫うように大通りを進んでいくと、人々の合間から城門の姿が見え始めた。
「おい…!そこのローブを着た2人組!」
「まずい…兵士だ!」
城門に辿り着く手前で兵士に見つかり、再び路地裏へと姿を隠した。
何とか追っ手から逃れようと、細い道を右へ左へ駆け抜けていく。
「っ…!行き止まりか…。」
「貴様!囚人を連れてどこへ行く気だ!」
「大人しく降伏し、我々にその囚人を渡せ!」
後ろを振り返り、彼女を背中に庇うように壁際へと押し込んだ。後を追いかけてやって来た2人の兵士は、こちらの出方を伺っているように見える。
「渡せません。彼女は僕が連れて行きます。」
「テト様の命だと嘘をつき、囚人を連れさろうとするとは…。このような大罪を犯して、騎士として恥ずかしくはないのか!」
「無実の者が裁かれるのを、黙って見ていられません!」
「無実だと?状況が分かっていないようだから、教えてやろう。その囚人は吸血鬼であり、さらには城の侵入禁止区域内に無断で侵入した。これでも無罪だと言えるのか?」
「侵入禁止区域…?どうしてそんな所に…?」
兵士達の話に思わず言葉を漏らした彼女は、まるで身に覚えが無い様子だった。
「彼女が吸血鬼だからと、弁明も聞かずに裁くなど…。騎士である前に、人として恥ずべき行為です!」
「ふん…。どうやら貴様は話が通じないようだな。ならば、力で語り合うしかあるまい!」
前方の兵士が鞘から剣を引き抜くと、もう1人の兵士も同じように剣を構えた。何とか話し合いで解決したかったが、どうやらそれは叶わないらしい。
「危ないからもう少し下がって下さい。」
「で、でも2人を相手にするなんて…!」
「大丈夫。剣の数なら互角です。」
ローブの下から両手で剣を引き抜くと、兵士のうち1人がこちらに斬りかかってきた。するりと剣をかわすと、間髪入れずにもう1人の兵士が剣を振り下ろす。
金属がぶつかり合い、擦れ合う。力で弾かれ、身体が後ろによろめく。その隙にと剣が振り下ろされるのは、想定内だった。
それもするりと回避すると、守りの甘い足元に素早く足をかけた。倒れた仲間を守ろうと、もう1人の兵士が後ろから斬りかかってくる。その剣目掛けて力を込め、思い切り剣を弾き飛ばした。
「今のうちに逃げましょう!」
「フラン!後ろ!」
彼女の声に反応し、後ろを振り返ると数本の針のような物が目の前を横切っていった。
針は兵士の首元に刺さり、その場に倒れ混んだ。
「ふぅ…間一髪だったな…。」
「き、君は…一体どこから…。」
「ミグ!どうやって出てきたの!?」
突然現れたその青年を、彼女はミグと呼んだ。どこかで聞いた事のあるような名前だが、曖昧な記憶のせいで彼の事をよく覚えていない。
「今は話してる場合じゃないだろ。さっきの音を聞いて、兵士達がこっちに集まってる。街を出るんだよな?俺にいい考えがある。こっちだ!」
僕達は、彼の背中を追いかけるように走り出した。来た道を戻り、お城の裏手へとやって来た。
「街を出るのにどうして城へ?」
「昔、テトと使った抜け道があるんだ。そこを通れば、北の森に抜けられる。」
「お城にそんな道が…どうして君がそんな事を知っているんですか?」
「俺の話は後で話すよ。ちょっと狭いから、頭ぶつけないように気をつけろよ。」
彼の言葉を信じ、庭木に隠された小さな横穴へと入って行った。
1日2回の食事の時間、配膳と共に紙を見せる事で僕は彼女から情報を得ていた。
しかし彼女は僕の質問に対し、首を縦に振ることは無かった。
「何故ここに来たのか…どうして捕まったのか…それすらもわからないなんて…。」
「だが、全ての記憶を無くしたわけではなさそうだ。お前の事をわかっている様子だった。」
「こうなったら、それとなく他の兵士に話を聞…」
「やめておけ。あまり踏み込んで詮索するな。」
「でも…。」
「お前がルナに接触したのは、記憶を取り戻したいからだったはずだ。助けるのが本来の目的じゃないだろう。」
「それはそうなんだけど…。」
「じゃあ、何故そこまで肩入れする。何か思い出せたのか?」
「いや…彼女の事は覚えてない。でも、なんだか放っておけなくて…。」
「同情か?以前のお前では、ありえない変化だな。」
「僕と彼女の本当の関係は?ただの学友だとは思えないよ。何か…隠してるんじゃないの?」
「身体が同じとはいえ、お前の腹の内までは知らん。だが、あいつと喋っている時のお前は…生き生きとしていた。」
「生き生き…。」
「いいか?捕まったあいつを助ける行為は、ハッキリ言って無謀だ。今までの苦労が水の泡になる事くらいわかるな?」
「…わかってるよ。」
「なら余計な事は考えず、さっさと寝ろ。」
僕は彼の言葉通り、灯りを消して布団にもぐった。
真っ暗になった天井を見つめながら、彼女の顔を思い浮かべる。
薄暗い牢獄の中、ほんの少しの灯りで輝く白い髪。相手の全てを見透かしてしまうような、澄み切った青い瞳。彼女には人を惹き付ける魅力があるのかもしれない。
恐らく僕もその1人。以前の僕もそうだったのかもしれない。
彼女には、特別な何かを感じる。目には見えない、特別な何かを。
翌日、いつも通り朝食の配膳をしようと袋を持ち上げると、いつもと違う変化に気がついた。
「あの…!数が1つ足りないような気が…」
「今朝早く、囚人を1人牢屋から出したんだ。聞いてなかったか?」
「え?どうしてですか?」
「驚くなよ?俺もさっき知ったんだが、1番奥に入ってた囚人が吸血鬼だったんだとさ。」
その言葉を聞いた瞬間、その囚人がルナである事を悟った。
「その囚人は今どこに!?」
「そうだな…。ここを出たのが明け方だったから、そろそろ城から出る頃か…」
僕は咄嗟に、手に持った袋をその場に投げ出した。
荒々しく扉を開けて、全速力で階段を駆け上がる。
長い廊下を駆けて行き、角を曲がった先で歩いている兵士と薄汚れた服を着た少女の姿を見つけた。
「ま、待って下さい…!」
僕の呼びかけに、彼等はその場で歩みを止め、こちらを振り返った。
「一体何事ですか?」
「…っ…そ、その囚人は…!テト様の…命によってっ…連れてくるようにと…言われ…たんです!」
「そのような話…我々は聞いておりませんが…。」
「これを…見てください!」
懐から取り出した木彫りの札を、兵士達の前に突き出した。
「これは…!テト様の許可証ですね。」
「あとは僕が連れて行きますから…。お2人は…持ち場に戻って下さい。」
「分かりました。では、我々はこれで。」
背を向けて歩き出した兵士達を見送ると、彼女の腕を掴んで駆け足で歩き出した。
「ど、どこへ行くつもり?」
「まずは僕の部屋に、荷物を取りに行きます。そしたらすぐに街を出ましょう。いつ追っ手が来るかわかりません。」
「街を出る…?追っ手…?テトの所に行くんじゃないの?」
「あれは嘘です。テト様の許可証は本物ですけどね。」
「じゃあ…どうして?」
「さぁ…どうしてでしょう?君の事は覚えてないのに、気が付いたら身体が動いていました。」
「フラン…。」
「お喋りしてる暇はありません。急ぎましょう。」
「…うん!」
部屋で荷物をまとめ、兵士達の目を掻い潜って足早に城を抜け出した。
ローブで顔を隠し、極力目立たないように街の北側へと歩みを進める。
「隠れて…!」
兵士の姿を見つけ、咄嗟に彼女の腕を引いて路地裏へと姿を隠した。
「もう追っ手が?まだそんなに経ってないのに…。」
「ごめんね…私のせいで…。」
「仕方ありません。僕の身体が勝手に動いたんですから。」
「でも…。」
「巻き込んで謝られるより、無事逃げ切って感謝される方が僕は嬉しいですね。」
「やっぱりフランは…フランのままだね。」
「君は…僕の事をよく知ってるんですか?」
「よく知ってるって程じゃないけど…。昔から変わらないなって思って。」
「…ひとまず、ここから抜け出しましょう。詳しい話は、それから聞きます。」
「うん…わかった。」
そっと顔を覗かせ、兵士の姿がない事を確認して路地裏から抜け出した。
人の隙を縫うように大通りを進んでいくと、人々の合間から城門の姿が見え始めた。
「おい…!そこのローブを着た2人組!」
「まずい…兵士だ!」
城門に辿り着く手前で兵士に見つかり、再び路地裏へと姿を隠した。
何とか追っ手から逃れようと、細い道を右へ左へ駆け抜けていく。
「っ…!行き止まりか…。」
「貴様!囚人を連れてどこへ行く気だ!」
「大人しく降伏し、我々にその囚人を渡せ!」
後ろを振り返り、彼女を背中に庇うように壁際へと押し込んだ。後を追いかけてやって来た2人の兵士は、こちらの出方を伺っているように見える。
「渡せません。彼女は僕が連れて行きます。」
「テト様の命だと嘘をつき、囚人を連れさろうとするとは…。このような大罪を犯して、騎士として恥ずかしくはないのか!」
「無実の者が裁かれるのを、黙って見ていられません!」
「無実だと?状況が分かっていないようだから、教えてやろう。その囚人は吸血鬼であり、さらには城の侵入禁止区域内に無断で侵入した。これでも無罪だと言えるのか?」
「侵入禁止区域…?どうしてそんな所に…?」
兵士達の話に思わず言葉を漏らした彼女は、まるで身に覚えが無い様子だった。
「彼女が吸血鬼だからと、弁明も聞かずに裁くなど…。騎士である前に、人として恥ずべき行為です!」
「ふん…。どうやら貴様は話が通じないようだな。ならば、力で語り合うしかあるまい!」
前方の兵士が鞘から剣を引き抜くと、もう1人の兵士も同じように剣を構えた。何とか話し合いで解決したかったが、どうやらそれは叶わないらしい。
「危ないからもう少し下がって下さい。」
「で、でも2人を相手にするなんて…!」
「大丈夫。剣の数なら互角です。」
ローブの下から両手で剣を引き抜くと、兵士のうち1人がこちらに斬りかかってきた。するりと剣をかわすと、間髪入れずにもう1人の兵士が剣を振り下ろす。
金属がぶつかり合い、擦れ合う。力で弾かれ、身体が後ろによろめく。その隙にと剣が振り下ろされるのは、想定内だった。
それもするりと回避すると、守りの甘い足元に素早く足をかけた。倒れた仲間を守ろうと、もう1人の兵士が後ろから斬りかかってくる。その剣目掛けて力を込め、思い切り剣を弾き飛ばした。
「今のうちに逃げましょう!」
「フラン!後ろ!」
彼女の声に反応し、後ろを振り返ると数本の針のような物が目の前を横切っていった。
針は兵士の首元に刺さり、その場に倒れ混んだ。
「ふぅ…間一髪だったな…。」
「き、君は…一体どこから…。」
「ミグ!どうやって出てきたの!?」
突然現れたその青年を、彼女はミグと呼んだ。どこかで聞いた事のあるような名前だが、曖昧な記憶のせいで彼の事をよく覚えていない。
「今は話してる場合じゃないだろ。さっきの音を聞いて、兵士達がこっちに集まってる。街を出るんだよな?俺にいい考えがある。こっちだ!」
僕達は、彼の背中を追いかけるように走り出した。来た道を戻り、お城の裏手へとやって来た。
「街を出るのにどうして城へ?」
「昔、テトと使った抜け道があるんだ。そこを通れば、北の森に抜けられる。」
「お城にそんな道が…どうして君がそんな事を知っているんですか?」
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