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第3章︰思わぬ再会
第30話
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「もたもたするな!」
「は、はい…!」
眩しく照りつける日差しの中、白い砂浜の上を全速力で駆け抜けていく。
騎士学校を卒業し、王国騎士団に入団した僕は、副団長のアリサによる指導を受けることになった。
今は王都を離れ、ミッド王国の北に浮かぶ島にやって来ている。
「今回の任務、きちんと頭に入れてる?」
「えーと…大雨の被害にあった人々の為、炊き出しや片付けを手伝うんですよね?」
「そうよ。遊びに来た訳じゃないんだから、そわそわするのはやめなさい。」
「え!バ、バレてた…?」
「はぁ…。それだけ周りをキョロキョロしてたらわかるわよ。」
「で、でも…!任務はきちんとこなします!任せてください!」
「そこまで言うなら期待しておくわ。…やっと街が見えて来たわね。」
街と思われるその場所は、流木や倒壊した建物の板材で埋め尽くされていた。本来なら賑わっているはずの商店街も、人気のない閑散とした場所に成れ果てている。
「思ったより被害が大きいわね…。明らかに人手が足りないから、応援を要請しましょう。」
「はい…!」
「あなたは他に必要な物資がないか、聞き込みを頼むわ。恐らく、山の麓にある役所に兵士が集まってると思うから。」
「わかりました。」
一度彼女の元を離れ、役所へ足を踏み入れた。
彼女の言う通り、避難してきたであろう住民と先に派遣されていた兵士達が開けた場所に集められていた。
「騎士様!御足労いただき、ありがとうございます。」
近くにいた兵士の1人が僕に気付き、こちらに向かって駆け寄ってきた。
「ご苦労様です。今着いたばかりで詳しい状況がわからないので、説明してもらえますか?」
「はい!只今、避難民への炊き出しの準備を行っています。被害状況については、まだ全てを把握しきれていません。」
「なるほど…。副団長より、必要物資の確認を命じられているのですが、どの程度把握出来ていますか?」
「それでしたら、こちらにまとめてあります。」
彼から必要物資をまとめたリストを預かり、不備がないか目を通していく。
「まだ全ての被害状況を把握しきれていないのであれば、避難民が増えることを想定して…毛布と食料をもう少し増やした方がいいかと思います。それと、飲み水は多めに確保してください。」
「承知しました。そのように物資の手配を進めます。」
「お願いします。」
兵士の背中を見送ると、炊き出しの準備が行われている調理場へと歩みを進めた。
「あれ?パル?」
「フラン…!」
部屋の隅に置かれた箱の前で座り込んでいた彼女は、こちらに気付いてその場に立ち上がった。
「あ…ごめんなさい…騎士様。」
「あぁ…いいよいいよ。騎士と言っても僕はまだ見習いな訳だし、普段通り接してくれて構わないよ。」
「良かった…!ありがとう。」
「ところでパルはどうしてここに?学校はどうしたの?」
「島、私故郷。家族心配…様子見に来た。」
「ここがパルの故郷の島だったんだね!それで炊き出しの手伝いを?」
「そう。食材調達、慣れてる。」
「僕も手伝うよ。パルが一緒だと心強いし。」
「なら、足りない調達向かう。森、食料と薬草沢山。」
「じゃあその森に行こう。何を持って行けばいいかな?」
「準備してくる!フラン出口待って。」
準備を済ませた彼女と共に、近くの森へ食材調達に向かった。
「フラン、薬草詳しい。何故?」
見つけた薬草を次々と摘み取っていると、驚いた様子の彼女が僕にそう問いかけてきた。
「ん?あぁ…僕にもよく分からないんだけど、なぜか薬草の知識が頭に入ってたんだよね。」
「わからない…?知らない知識…頭に入る…?」
彼女は首を傾げ、眉間に皺を寄せていた。
自分でも曖昧な話を告げられて、理解出来るはずが無い。ましてや彼女は言葉に慣れておらず、今現在もぎこちない喋り方をしている。
「えーっと…記憶喪失のせいで、過去の記憶も言葉も分からなくなったんだけど…薬草のことは、不思議と思い出せるんだ。」
「記憶…喪失って?」
「そうだな…何らかの原因で、昔の事が思い出せなくなる病気だよ。ギルドに入る前の事を、よく覚えてないんだ。」
「ごめん…。フラン、病気…知らなかった…。」
「パルが謝ることじゃないよ。思い出せなくても、生きていくのに困る訳じゃないし。」
「でも家族…思い出せない。すごく辛い。」
「両親の話は兄から聞いたよ。でも小さい頃に亡くなってるから、病気じゃなくてもよく覚えていないと思う。…パルの家族は?」
「両親、もういない。フラン一緒。」
「それじゃあ…兄弟がいるの?」
「兄弟いない。」
「家族の様子が心配で見に来たって言ってたから、てっきり家族がいるものだと…。」
「ここ生まれ故郷。島の民、皆家族。」
「なるほどね。島の人達が、パルの大切な家族なんだ。」
「フラン。森暗い…日、暮れてきた。」
「もうそんな時間か…そろそろ戻ろうか。」
彼女を引連れ、来た道を足早に引き返して行った。
役所ではすでに食事の準備が始まっていて、僕達もすぐに手伝いを始めた。
「あら騎士様!随分手際がよろしいですね~。」
「そうですか?それほど料理はしないんですが…。」
ギルドにいた頃は、食堂に立つシェリアの手伝いで料理を作ることもあった。その時も彼女に褒められていたが、あまり上手いという自覚はない。
「きっと、手先が器用なんでしょうね。料理が出来る男性が居てくれたら…私も楽なんですけどねぇ~。」
「あなたのような素敵な女性なら、お相手はいくらでもいるでしょうに。」
「あらやだもう~!私はもう既婚者なんですよ?でも、旦那が台所に立っている所を見たことがないんですよね。」
「じゃあ、毎日美味しいご飯が食べれるってことですよね?旦那さんが羨ましいです。」
「あらまぁ~!ねぇパルフェ聞いた?騎士様とっても素敵な方なのねぇ!」
彼女は満面の笑みを浮かべ、隣で黙々と作業に取り組むパルに向かって話を振った。
「え?…あ、そう…思う。」
「本当にそう思ってる?なんだかぎこちないわね?」
「騎士様…普段とイメージ違う。目上の女性話す、見たことない。」
「学校では、ほとんどが同級生だしね。話す機会は少ないと思うよ。」
「そうだ騎士様!学校でのパルフェはどうですか?ちゃんと勉強についていけてますでしょうか?」
「な、なんで私の話聞く…!?」
「そうですね…。僕は教官ではないので、学友としての意見なのですが…。とても真面目で、人一倍努力家です。しかし、それが仇となって無理をしすぎる所があるので…そこさえ直せば、立派な騎士になれると思いますよ。」
「あら!よかったわね~パルフェ。ちゃんとやっていけるのか心配だったけど、騎士様がこう言うなら間違いないわねぇ。」
「自分の話される…恥ずかしい…。」
「もっと自信を持ってよ。本当は…僕なんかより、パルの方がよっぽど騎士に向いてるって思うくらいだからさ。」
「そんな事ない!私…勉強、実力まだまだ足りない。もっと学ぶ…したい。」
「焦ることないよ。僕は僕の道を、パルはパルの道を進めばいいんだから。お互い頑張ろう!さてと…あとは皿に盛り付けて、少しずつ運びはじめようか。」
避難者と共に食事を済ませ、僕はアリサの元へ報告に向かった。
「…といった状況です。報告は以上になります。」
「ご苦労様。明日は、追加で派遣される騎士がやって来る予定だから、彼等と一緒に瓦礫の片付けを進めましょう。」
「はい。分かりました。」
「それと、今日の寝床なのだけど…まだ確保出来て居ないのよね…。」
「騎士団用の天幕が…ないんですか?」
「そうなのよ。ちょっとした手違いで、明日届く荷物に入ってしまったらしくて…。そこで相談なのだけど…あなた、パルフェと親しかったわよね?彼女の家に泊めてもらうことは出来ないかしら?」
「確かに彼女の家は、土砂崩れの現場から離れているので被害はないはずですが…。わかりました。掛け合ってみます。」
「頼んだわ。」
部屋を出て役所内を歩いていると、寝床の準備をしているパルフェの姿を見つけた。
彼女にアリサの話を伝えると、快く家に招いてくれる事になった。
「布団…足りる思います。部屋、狭いですが…。」
「横になれる場所があれば十分よ。ありがとう。」
「こんな風にみんなで並んで寝るのは懐かしいな。」
「懐かしい?一体誰とどこで寝たのよ。」
「そう言われると…わからないけど…。」
「明日も早いしさっさと寝なさい。」
「はーい。パルも早く寝よう?」
「う…あ、はい。おやすみなさい。」
夜中、物音で目を覚ました僕は、微かな明かりのついているリビングへと足を運んだ。
「パル?」
「っ!?…フ、フラン?…びっくりした。」
「ごめんごめん。そんなに驚いた?」
「薄暗い、背後から声かけられる…驚く。」
「まぁ…それもそっか。ところで、パルは何をしてたの?」
「月…見てた。」
「月?」
彼女の視線の先には、カーテンの空いた窓がある。彼女はそこから、空に浮かぶ月を見ていたようだ。
「パルは月が好きなんだね。」
「月だけじゃない。空眺める、好き。」
「空を眺めるのが好き…かぁ。誰かもそんなこと言ってたような…。ソンノだったかな?」
僕は以前、ソンノが外で寝ていた時の事を思い出した。草の上に寝転がり、空を見上げながら風を感じたあの瞬間は、僕にとって貴重な体験だったせいかよく覚えている。
「フラン、最近よく言う。」
「え?何を?」
「懐かしい。見たことある。聞いたことある。」
「そうかな?」
「記憶、戻ってきた?」
「うーん。どうだろう?何か思い出しかけてるのかもしれないね。」
記憶はほとんど取り戻せていないが、過去について全く進展が無いわけではなかった。ルドルフの存在や自分が元は吸血鬼であったことがわかったが、これはパルと言えど安易に口に出せるような話題ではない。
「そういえば僕、パルに聞いてみたいことがあるんだ。せっかくだから聞いてもいいかな?」
「聞きたいこと?何?」
「どうしてパルは騎士になりたいの?」
「人助ける。役に立つことしたい。」
「騎士に憧れがあるんだ?」
「憧れ…違う。」
「え?」
「島、吸血鬼襲われた。両親、殺された。島の民…いっぱい死んだ。」
彼女の口から、物騒な言葉がいくつも飛び交った。その表情は外へ向けられていて、見ることは出来ない。
「今も苦しむ人、沢山。私、助けなりたい。強くなって、大事な人守るしたい。」
「そう…なんだね。あ、そういえば…!島に来た時、砂浜を歩いたんだけどね?そしたら…」
必死に動揺を隠しながら、自然な流れで話題を変えた。しばらく話をした後、明日に備えて眠りにつくことにした。
「は、はい…!」
眩しく照りつける日差しの中、白い砂浜の上を全速力で駆け抜けていく。
騎士学校を卒業し、王国騎士団に入団した僕は、副団長のアリサによる指導を受けることになった。
今は王都を離れ、ミッド王国の北に浮かぶ島にやって来ている。
「今回の任務、きちんと頭に入れてる?」
「えーと…大雨の被害にあった人々の為、炊き出しや片付けを手伝うんですよね?」
「そうよ。遊びに来た訳じゃないんだから、そわそわするのはやめなさい。」
「え!バ、バレてた…?」
「はぁ…。それだけ周りをキョロキョロしてたらわかるわよ。」
「で、でも…!任務はきちんとこなします!任せてください!」
「そこまで言うなら期待しておくわ。…やっと街が見えて来たわね。」
街と思われるその場所は、流木や倒壊した建物の板材で埋め尽くされていた。本来なら賑わっているはずの商店街も、人気のない閑散とした場所に成れ果てている。
「思ったより被害が大きいわね…。明らかに人手が足りないから、応援を要請しましょう。」
「はい…!」
「あなたは他に必要な物資がないか、聞き込みを頼むわ。恐らく、山の麓にある役所に兵士が集まってると思うから。」
「わかりました。」
一度彼女の元を離れ、役所へ足を踏み入れた。
彼女の言う通り、避難してきたであろう住民と先に派遣されていた兵士達が開けた場所に集められていた。
「騎士様!御足労いただき、ありがとうございます。」
近くにいた兵士の1人が僕に気付き、こちらに向かって駆け寄ってきた。
「ご苦労様です。今着いたばかりで詳しい状況がわからないので、説明してもらえますか?」
「はい!只今、避難民への炊き出しの準備を行っています。被害状況については、まだ全てを把握しきれていません。」
「なるほど…。副団長より、必要物資の確認を命じられているのですが、どの程度把握出来ていますか?」
「それでしたら、こちらにまとめてあります。」
彼から必要物資をまとめたリストを預かり、不備がないか目を通していく。
「まだ全ての被害状況を把握しきれていないのであれば、避難民が増えることを想定して…毛布と食料をもう少し増やした方がいいかと思います。それと、飲み水は多めに確保してください。」
「承知しました。そのように物資の手配を進めます。」
「お願いします。」
兵士の背中を見送ると、炊き出しの準備が行われている調理場へと歩みを進めた。
「あれ?パル?」
「フラン…!」
部屋の隅に置かれた箱の前で座り込んでいた彼女は、こちらに気付いてその場に立ち上がった。
「あ…ごめんなさい…騎士様。」
「あぁ…いいよいいよ。騎士と言っても僕はまだ見習いな訳だし、普段通り接してくれて構わないよ。」
「良かった…!ありがとう。」
「ところでパルはどうしてここに?学校はどうしたの?」
「島、私故郷。家族心配…様子見に来た。」
「ここがパルの故郷の島だったんだね!それで炊き出しの手伝いを?」
「そう。食材調達、慣れてる。」
「僕も手伝うよ。パルが一緒だと心強いし。」
「なら、足りない調達向かう。森、食料と薬草沢山。」
「じゃあその森に行こう。何を持って行けばいいかな?」
「準備してくる!フラン出口待って。」
準備を済ませた彼女と共に、近くの森へ食材調達に向かった。
「フラン、薬草詳しい。何故?」
見つけた薬草を次々と摘み取っていると、驚いた様子の彼女が僕にそう問いかけてきた。
「ん?あぁ…僕にもよく分からないんだけど、なぜか薬草の知識が頭に入ってたんだよね。」
「わからない…?知らない知識…頭に入る…?」
彼女は首を傾げ、眉間に皺を寄せていた。
自分でも曖昧な話を告げられて、理解出来るはずが無い。ましてや彼女は言葉に慣れておらず、今現在もぎこちない喋り方をしている。
「えーっと…記憶喪失のせいで、過去の記憶も言葉も分からなくなったんだけど…薬草のことは、不思議と思い出せるんだ。」
「記憶…喪失って?」
「そうだな…何らかの原因で、昔の事が思い出せなくなる病気だよ。ギルドに入る前の事を、よく覚えてないんだ。」
「ごめん…。フラン、病気…知らなかった…。」
「パルが謝ることじゃないよ。思い出せなくても、生きていくのに困る訳じゃないし。」
「でも家族…思い出せない。すごく辛い。」
「両親の話は兄から聞いたよ。でも小さい頃に亡くなってるから、病気じゃなくてもよく覚えていないと思う。…パルの家族は?」
「両親、もういない。フラン一緒。」
「それじゃあ…兄弟がいるの?」
「兄弟いない。」
「家族の様子が心配で見に来たって言ってたから、てっきり家族がいるものだと…。」
「ここ生まれ故郷。島の民、皆家族。」
「なるほどね。島の人達が、パルの大切な家族なんだ。」
「フラン。森暗い…日、暮れてきた。」
「もうそんな時間か…そろそろ戻ろうか。」
彼女を引連れ、来た道を足早に引き返して行った。
役所ではすでに食事の準備が始まっていて、僕達もすぐに手伝いを始めた。
「あら騎士様!随分手際がよろしいですね~。」
「そうですか?それほど料理はしないんですが…。」
ギルドにいた頃は、食堂に立つシェリアの手伝いで料理を作ることもあった。その時も彼女に褒められていたが、あまり上手いという自覚はない。
「きっと、手先が器用なんでしょうね。料理が出来る男性が居てくれたら…私も楽なんですけどねぇ~。」
「あなたのような素敵な女性なら、お相手はいくらでもいるでしょうに。」
「あらやだもう~!私はもう既婚者なんですよ?でも、旦那が台所に立っている所を見たことがないんですよね。」
「じゃあ、毎日美味しいご飯が食べれるってことですよね?旦那さんが羨ましいです。」
「あらまぁ~!ねぇパルフェ聞いた?騎士様とっても素敵な方なのねぇ!」
彼女は満面の笑みを浮かべ、隣で黙々と作業に取り組むパルに向かって話を振った。
「え?…あ、そう…思う。」
「本当にそう思ってる?なんだかぎこちないわね?」
「騎士様…普段とイメージ違う。目上の女性話す、見たことない。」
「学校では、ほとんどが同級生だしね。話す機会は少ないと思うよ。」
「そうだ騎士様!学校でのパルフェはどうですか?ちゃんと勉強についていけてますでしょうか?」
「な、なんで私の話聞く…!?」
「そうですね…。僕は教官ではないので、学友としての意見なのですが…。とても真面目で、人一倍努力家です。しかし、それが仇となって無理をしすぎる所があるので…そこさえ直せば、立派な騎士になれると思いますよ。」
「あら!よかったわね~パルフェ。ちゃんとやっていけるのか心配だったけど、騎士様がこう言うなら間違いないわねぇ。」
「自分の話される…恥ずかしい…。」
「もっと自信を持ってよ。本当は…僕なんかより、パルの方がよっぽど騎士に向いてるって思うくらいだからさ。」
「そんな事ない!私…勉強、実力まだまだ足りない。もっと学ぶ…したい。」
「焦ることないよ。僕は僕の道を、パルはパルの道を進めばいいんだから。お互い頑張ろう!さてと…あとは皿に盛り付けて、少しずつ運びはじめようか。」
避難者と共に食事を済ませ、僕はアリサの元へ報告に向かった。
「…といった状況です。報告は以上になります。」
「ご苦労様。明日は、追加で派遣される騎士がやって来る予定だから、彼等と一緒に瓦礫の片付けを進めましょう。」
「はい。分かりました。」
「それと、今日の寝床なのだけど…まだ確保出来て居ないのよね…。」
「騎士団用の天幕が…ないんですか?」
「そうなのよ。ちょっとした手違いで、明日届く荷物に入ってしまったらしくて…。そこで相談なのだけど…あなた、パルフェと親しかったわよね?彼女の家に泊めてもらうことは出来ないかしら?」
「確かに彼女の家は、土砂崩れの現場から離れているので被害はないはずですが…。わかりました。掛け合ってみます。」
「頼んだわ。」
部屋を出て役所内を歩いていると、寝床の準備をしているパルフェの姿を見つけた。
彼女にアリサの話を伝えると、快く家に招いてくれる事になった。
「布団…足りる思います。部屋、狭いですが…。」
「横になれる場所があれば十分よ。ありがとう。」
「こんな風にみんなで並んで寝るのは懐かしいな。」
「懐かしい?一体誰とどこで寝たのよ。」
「そう言われると…わからないけど…。」
「明日も早いしさっさと寝なさい。」
「はーい。パルも早く寝よう?」
「う…あ、はい。おやすみなさい。」
夜中、物音で目を覚ました僕は、微かな明かりのついているリビングへと足を運んだ。
「パル?」
「っ!?…フ、フラン?…びっくりした。」
「ごめんごめん。そんなに驚いた?」
「薄暗い、背後から声かけられる…驚く。」
「まぁ…それもそっか。ところで、パルは何をしてたの?」
「月…見てた。」
「月?」
彼女の視線の先には、カーテンの空いた窓がある。彼女はそこから、空に浮かぶ月を見ていたようだ。
「パルは月が好きなんだね。」
「月だけじゃない。空眺める、好き。」
「空を眺めるのが好き…かぁ。誰かもそんなこと言ってたような…。ソンノだったかな?」
僕は以前、ソンノが外で寝ていた時の事を思い出した。草の上に寝転がり、空を見上げながら風を感じたあの瞬間は、僕にとって貴重な体験だったせいかよく覚えている。
「フラン、最近よく言う。」
「え?何を?」
「懐かしい。見たことある。聞いたことある。」
「そうかな?」
「記憶、戻ってきた?」
「うーん。どうだろう?何か思い出しかけてるのかもしれないね。」
記憶はほとんど取り戻せていないが、過去について全く進展が無いわけではなかった。ルドルフの存在や自分が元は吸血鬼であったことがわかったが、これはパルと言えど安易に口に出せるような話題ではない。
「そういえば僕、パルに聞いてみたいことがあるんだ。せっかくだから聞いてもいいかな?」
「聞きたいこと?何?」
「どうしてパルは騎士になりたいの?」
「人助ける。役に立つことしたい。」
「騎士に憧れがあるんだ?」
「憧れ…違う。」
「え?」
「島、吸血鬼襲われた。両親、殺された。島の民…いっぱい死んだ。」
彼女の口から、物騒な言葉がいくつも飛び交った。その表情は外へ向けられていて、見ることは出来ない。
「今も苦しむ人、沢山。私、助けなりたい。強くなって、大事な人守るしたい。」
「そう…なんだね。あ、そういえば…!島に来た時、砂浜を歩いたんだけどね?そしたら…」
必死に動揺を隠しながら、自然な流れで話題を変えた。しばらく話をした後、明日に備えて眠りにつくことにした。
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