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第2章︰失われた過去
第22話
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「ん…?」
窓から差し込む光の眩しさに、開きかけた目をきつく瞑った。再びゆっくりと目を開くと、見慣れない部屋で寝ていた事に気が付き、身体を起こした。
周りが全て木製の家具で覆われた一室で、騎士学校の寮と似たような造りをしている。しかし、机や戸棚はもちろん、本棚にも学校で使いそうな本があるようには見えない。
「どこだろう…ここ。」
夢の中ではないかと思い、右手で自身の頬をつねった。痛みを感じ、ここが夢ではない事を悟った僕は、ベッドから離れて部屋の扉を開いた。
近くの階段を下りて行くと、2階同様、木で造られた部屋が広がっている。奥へ続いている調理場には、皿やカップなどの食器類が複数揃っているのを見て、ここが民家だと悟った。
なぜ自分がここで寝かされていたのかを考えていると、玄関の扉がゆっくりと開き、1人の青年が中へと入って来た。
「あ、フランさん…おはようございます。」
「レヴィ…!って事は、ここは君の家?」
「はい。検査の後、そのままという訳にはいかないと思って…僕達の家に連れてきました。」
「そっか…検査…。じゃあ、ここはプラニナタ…なんだね。」
「大丈夫…ですか?眠っている間、記憶が曖昧になったりは…」
「ううん。気が付いたら知らない場所に居たもんだから、ちょっとびっくりしただけだよ。」
「お腹すきませんか?僕も朝食がまだなので、食べましょう。兄さんを起こしてきますね。」
しばらくして、2人は揃って階段を下りてきた。
準備を始めたレヴィを手伝い、出来上がった朝食を食べながら彼に気になった話を持ちかけた。
「ねぇレヴィ。ここにはスレイと2人で住んでるの?」
「そうですけど…どうかしました?」
「あ、いや…2人で暮らすには大きいなーと思って。」
「少し前までは…3人だったんです。それでもかなり大きかったですけど…。」
「もしかして、そこの写真に写ってる子?」
身体を捻り、後ろの棚に飾ってある写真立てを指さした。昨日出会った研究者のオズモールと、幼い頃のスレイとレヴィ。その隣に並んでいる、鮮やかな檸檬の髪色をした少女が満面の笑みを浮かべている。
「そうです…彼女の名前はソルティ。僕達の妹でした。」
「でした…って?」
「彼女は死んだんです…数ヶ月前に。」
「あ…ごめん…。」
「…いいんです。元々身体が弱くて、長くは生きられない事がわかってましたから…。」
彼は今にも泣きそうな顔で、黙々と食事を進めるスレイに視線を向けた。
「…そのショックで、兄さんは言葉を失いました。それだけじゃなく、昔は手が付けられないくらい活発に動き回っていたのに…今は走る事もありません。」
「喋り方を忘れちゃったって事?それに走らないって言うのも…普通に歩いてるし、走れなくなるような怪我をしたようには見えないけど…。」
「あまりにも衝撃的な出来事があった時、物理的な原因がなくても言葉や記憶を失ってしまう場合があると先生は言ってました。」
「そう…なんだ…。ごめん。辛い話をさせて…。」
「いえ。気にしないでください。あ、それより、これからの話なんですが…」
彼の口から、今後の予定について説明を受けた。
オズモール先生の検査結果が出るまでの間、先程寝ていた2階の部屋を使わせてもらう事になった。
朝食後、2人は街へ買い出しに向かう事を知り、僕もそれに同行した。
「次はどこに行くの?」
「後は…鍛冶屋ですね。」
「薬剤に…木材に…鉄材…。これって一体、何を作る為の材料?」
「これらは、研究所の皆さんから買い出しを頼まれた物なんです。鍛冶屋では石材を買います。」
「2人はオズモール先生の手伝いだけじゃなくて、他の研究者の手伝いもしてるんだね。すごいなぁ。」
「すごくなんてないですよ…。僕達は、何かを研究出来る程の知識を持っていないので、買い出しや掃除といった雑務しか…」
「あ!2人共~。何してるのぉ?」
話をしながら歩いている所へ、鮮やかな髪色をした女性と地味な髪色の青年がやって来た。どちらも似たような白い服を着ている。
「こんにちは、マコさん。今は買い出しの途中で…あ、そうだ。まだお2人と挨拶していませんでしたね。昨日から、フランさんが家にいらしてるんです。」
「あ~!その事なら、オズモール先生から聞いたよぉ~。初めましてぇ、フランくん。あたし、マコティメリア・ジャンメルカ!長いからマコって呼んでねぇ。」
「久しぶりの再会って感じッスけど…ちゃんと話をするのはこれが初めてッスよね。俺はゼノジオ・ゲイル。マコみたいに、気安くゼノって呼んで欲しいッス。」
「マコとゼノか…よろしくね2人共。」
「ねぇねぇフランくん!目が赤くなったって聞いたけど、あたしにも見せてくれなぁい?」
「え?見せるのは構わないけど…ここじゃちょっと…」
赤くなった右目は、ギルドを出発する前に紐状の布で覆っていた。他人が見た時に誤解を招いたり、驚かせたりしないようにする為にとクラーレが配慮してくれたのだ。
「え~。見たいよぉ~。ちょっとだけだから!ね?だめぇ?」
「わがまま言うんじゃないッス!3人は、買い出しの途中だってさっき言ってたじゃないッスか。」
「後1箇所だけなので、僕1人で大丈夫ですよ。フランさんは、兄さんを連れて先に家に戻っていてもらえますか?マコさんとゼノさんも、よかったら家でお茶でも。」
「え、いいの?ありがとぉ!」
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔するッス。あ、運ぶの手伝うッスよ。」
「ありがとう。じゃあ、先に帰ろうかスレイ。」
レヴィだけをその場に残し、先に家へと戻る事になった。
「どれどれぇ~…。ふんふん…。」
隣の席に座るマコは僕の顔を両手で包み込み、真剣な眼差しで赤くなった右目を見つめている。
向かいのソファーに座るゼノとスレイは、用意した紅茶を啜りながら、その様子を静かに見守っていた。
「ただいま戻りました。」
「あ、おかえりッス。先に飲んで待ってたッスよ。」
しばらくして、残りの買い物を済ませたレヴィが家へ帰って来た。
「好きにしてもらって構いませんよ。あ、そうだ…お茶菓子があったと思うので持ってきます。」
「ありがとうレヴィ。…ところでマコ。僕の右目はどう?」
「すごいよぉ~。予想以上の展開だねぇ~。」
「予想以上の展開って…どういう事?」
「まさかとは思ってたけどぉ、フランくんの中に吸…」
「ちょ!待つッス…マコ!あんまり余計な事は言わない方が…」
彼はその場に勢いよく立ち上がり、慌てた様子で彼女の言葉を遮った。
「先生に口止めされたのは、昔の話でしょ~?今がどんな状態なのかくらい、話してもいいと思うけどなぁ~。」
「先生に口止めされたって何の話?オズモールも僕の過去について、何か隠してる事があるって事?」
「全部話してないだけで、隠し事してる訳じゃないよぉ~。記憶が曖昧なフランくんを、混乱させたくなかったんじゃないかなぁ?」
「混乱するかどうかは、聞いてみないと分からないよ。マコとゼノが知ってる事、教えてくれない?どんな些細な事でもいいから、自分の事が知りたいんだ。」
「それは、検査次第でハッキリするッス。それほど難しくない検査ッスから、明日にでも結果が出ると思うッスよ。」
「そこまで隠されると余計気になるよ…!一体僕の過去に何があるって言うの!?」
テーブルに手をつき、勢いよくその場に立ち上がった。
紅茶の入ったカップが揺れ、ガチャンと大きな音を立てる。
「フランくん…。」
「じゃあ逆に聞くッスけど、俺達が話した事をまともに信じられるんッスか?」
「それは…わからないけど。」
「俺達だって、フランに意地悪したくて言わないんじゃないッスよ?先生だって同じッス。研究の内容を外部に漏らさない為でもあるッスけど、1番はフランの事を考えて出した決断ッス。」
「フランさん。焦っても結果はすぐに出ませんし、過去の出来事が変わる事もありません。何事も、少しずつでいいんですよ?…さ、お菓子でも食べて…まずは落ち着きましょう。」
「そうだよぉ~。明日には結果が出せるように、あたしが先生のサポートするから!ね?」
「ごめんみんな…。ありがとう。」
翌日。ゼノの予想通り、検査結果の件でオズモールの元へ呼び出された。
「結果は…目が赤くなった原因はなんだったんですか?」
「そうだね~…。何から話したらいいものか…。君なら、良い話と悪い話どっちから先に聞きたい?」
「じゃあ…悪い話から。」
「その赤くなった右目、私にも元に戻す方法がわからないんだ。効果がありそうな薬を試してみる手はあるけど、正直効き目を期待できない状況だね。」
「そんなに悪いんですか…?」
「いいや?単純に色が変わったと言うだけで、身体に影響を及ぼすような事はないよ。あ、これが良い方の話ね。」
「それなら、赤くなった理由は何なんですか?」
「それについては、君の過去について話す必要があるね。長くなるけど聞いてくれるかい?」
「はい。お願いします。」
それからオズモールは、僕がギルドに引き取られる前の話を語り出した。僕が記憶や感情、言葉を失うまでの経緯や彼女がクラーレから聞いた話をわかる範囲で教えてくれた。
その中で1番衝撃だったのは、僕が元々吸血鬼であった事だ。吸血鬼から人間に生まれ変わった話も聞かされたが、何一つ頭に入ってこなかった。
「すぐには信じられないと思うけど、この話を聞いた上で私の推測も聞いて欲しい。」
「推測って何の…?」
「目が赤くなった原因だよ。私が君を吸血鬼から人間に変えたのは、吸血鬼の君が死にかけていたからなんだ。君は私の手で、吸血鬼から人間になった。その時、吸血鬼の君は死んだと思っていた…でも違ったんだ。死んだのではなく、君の身体の中で眠っていただけだったんだ。時間が経って回復し、君の身体を乗っ取ろうとしているのかもしれないね。」
「身体の中に…吸血鬼の僕が…?そんな話がある訳…。」
「今は信じられなくても仕方がないよ。過去の事だって、まだ整理が付けられてないだろう?これからどうするか、私の方で色々検討してみるから、ひとまず家に帰って身体を休めてくれ。また明日、同じ時間に来てくれるかい?」
「…はい。わかりました。」
彼女の言葉に従い、レヴィの家に帰る事にした。
「はぁ~…。」
用意された部屋のベッドに横たわり、深くため息をついた。
まさか自分が元々吸血鬼であり、吸血鬼だった自分が身体の中に眠っていたなどと、すぐに信じられるはずもなかった。彼女の事を疑っている訳では無いが、突拍子もない話をすぐに鵜呑みにする事も出来ない。
そこでふと、以前シューが話していた言葉を思い出した。彼は自身の目が赤い事を気にし、吸血鬼だと思われるのが嫌でそれを隠していた。
その話を思い返してみると、オズモールの推測もあながち間違っていないのかもしれない。
何故片目だけなのか、行く行くは両目が赤くなってしまうのか、元に戻すにはどうしたらいいのか…。考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだった。
窓から差し込む光の眩しさに、開きかけた目をきつく瞑った。再びゆっくりと目を開くと、見慣れない部屋で寝ていた事に気が付き、身体を起こした。
周りが全て木製の家具で覆われた一室で、騎士学校の寮と似たような造りをしている。しかし、机や戸棚はもちろん、本棚にも学校で使いそうな本があるようには見えない。
「どこだろう…ここ。」
夢の中ではないかと思い、右手で自身の頬をつねった。痛みを感じ、ここが夢ではない事を悟った僕は、ベッドから離れて部屋の扉を開いた。
近くの階段を下りて行くと、2階同様、木で造られた部屋が広がっている。奥へ続いている調理場には、皿やカップなどの食器類が複数揃っているのを見て、ここが民家だと悟った。
なぜ自分がここで寝かされていたのかを考えていると、玄関の扉がゆっくりと開き、1人の青年が中へと入って来た。
「あ、フランさん…おはようございます。」
「レヴィ…!って事は、ここは君の家?」
「はい。検査の後、そのままという訳にはいかないと思って…僕達の家に連れてきました。」
「そっか…検査…。じゃあ、ここはプラニナタ…なんだね。」
「大丈夫…ですか?眠っている間、記憶が曖昧になったりは…」
「ううん。気が付いたら知らない場所に居たもんだから、ちょっとびっくりしただけだよ。」
「お腹すきませんか?僕も朝食がまだなので、食べましょう。兄さんを起こしてきますね。」
しばらくして、2人は揃って階段を下りてきた。
準備を始めたレヴィを手伝い、出来上がった朝食を食べながら彼に気になった話を持ちかけた。
「ねぇレヴィ。ここにはスレイと2人で住んでるの?」
「そうですけど…どうかしました?」
「あ、いや…2人で暮らすには大きいなーと思って。」
「少し前までは…3人だったんです。それでもかなり大きかったですけど…。」
「もしかして、そこの写真に写ってる子?」
身体を捻り、後ろの棚に飾ってある写真立てを指さした。昨日出会った研究者のオズモールと、幼い頃のスレイとレヴィ。その隣に並んでいる、鮮やかな檸檬の髪色をした少女が満面の笑みを浮かべている。
「そうです…彼女の名前はソルティ。僕達の妹でした。」
「でした…って?」
「彼女は死んだんです…数ヶ月前に。」
「あ…ごめん…。」
「…いいんです。元々身体が弱くて、長くは生きられない事がわかってましたから…。」
彼は今にも泣きそうな顔で、黙々と食事を進めるスレイに視線を向けた。
「…そのショックで、兄さんは言葉を失いました。それだけじゃなく、昔は手が付けられないくらい活発に動き回っていたのに…今は走る事もありません。」
「喋り方を忘れちゃったって事?それに走らないって言うのも…普通に歩いてるし、走れなくなるような怪我をしたようには見えないけど…。」
「あまりにも衝撃的な出来事があった時、物理的な原因がなくても言葉や記憶を失ってしまう場合があると先生は言ってました。」
「そう…なんだ…。ごめん。辛い話をさせて…。」
「いえ。気にしないでください。あ、それより、これからの話なんですが…」
彼の口から、今後の予定について説明を受けた。
オズモール先生の検査結果が出るまでの間、先程寝ていた2階の部屋を使わせてもらう事になった。
朝食後、2人は街へ買い出しに向かう事を知り、僕もそれに同行した。
「次はどこに行くの?」
「後は…鍛冶屋ですね。」
「薬剤に…木材に…鉄材…。これって一体、何を作る為の材料?」
「これらは、研究所の皆さんから買い出しを頼まれた物なんです。鍛冶屋では石材を買います。」
「2人はオズモール先生の手伝いだけじゃなくて、他の研究者の手伝いもしてるんだね。すごいなぁ。」
「すごくなんてないですよ…。僕達は、何かを研究出来る程の知識を持っていないので、買い出しや掃除といった雑務しか…」
「あ!2人共~。何してるのぉ?」
話をしながら歩いている所へ、鮮やかな髪色をした女性と地味な髪色の青年がやって来た。どちらも似たような白い服を着ている。
「こんにちは、マコさん。今は買い出しの途中で…あ、そうだ。まだお2人と挨拶していませんでしたね。昨日から、フランさんが家にいらしてるんです。」
「あ~!その事なら、オズモール先生から聞いたよぉ~。初めましてぇ、フランくん。あたし、マコティメリア・ジャンメルカ!長いからマコって呼んでねぇ。」
「久しぶりの再会って感じッスけど…ちゃんと話をするのはこれが初めてッスよね。俺はゼノジオ・ゲイル。マコみたいに、気安くゼノって呼んで欲しいッス。」
「マコとゼノか…よろしくね2人共。」
「ねぇねぇフランくん!目が赤くなったって聞いたけど、あたしにも見せてくれなぁい?」
「え?見せるのは構わないけど…ここじゃちょっと…」
赤くなった右目は、ギルドを出発する前に紐状の布で覆っていた。他人が見た時に誤解を招いたり、驚かせたりしないようにする為にとクラーレが配慮してくれたのだ。
「え~。見たいよぉ~。ちょっとだけだから!ね?だめぇ?」
「わがまま言うんじゃないッス!3人は、買い出しの途中だってさっき言ってたじゃないッスか。」
「後1箇所だけなので、僕1人で大丈夫ですよ。フランさんは、兄さんを連れて先に家に戻っていてもらえますか?マコさんとゼノさんも、よかったら家でお茶でも。」
「え、いいの?ありがとぉ!」
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔するッス。あ、運ぶの手伝うッスよ。」
「ありがとう。じゃあ、先に帰ろうかスレイ。」
レヴィだけをその場に残し、先に家へと戻る事になった。
「どれどれぇ~…。ふんふん…。」
隣の席に座るマコは僕の顔を両手で包み込み、真剣な眼差しで赤くなった右目を見つめている。
向かいのソファーに座るゼノとスレイは、用意した紅茶を啜りながら、その様子を静かに見守っていた。
「ただいま戻りました。」
「あ、おかえりッス。先に飲んで待ってたッスよ。」
しばらくして、残りの買い物を済ませたレヴィが家へ帰って来た。
「好きにしてもらって構いませんよ。あ、そうだ…お茶菓子があったと思うので持ってきます。」
「ありがとうレヴィ。…ところでマコ。僕の右目はどう?」
「すごいよぉ~。予想以上の展開だねぇ~。」
「予想以上の展開って…どういう事?」
「まさかとは思ってたけどぉ、フランくんの中に吸…」
「ちょ!待つッス…マコ!あんまり余計な事は言わない方が…」
彼はその場に勢いよく立ち上がり、慌てた様子で彼女の言葉を遮った。
「先生に口止めされたのは、昔の話でしょ~?今がどんな状態なのかくらい、話してもいいと思うけどなぁ~。」
「先生に口止めされたって何の話?オズモールも僕の過去について、何か隠してる事があるって事?」
「全部話してないだけで、隠し事してる訳じゃないよぉ~。記憶が曖昧なフランくんを、混乱させたくなかったんじゃないかなぁ?」
「混乱するかどうかは、聞いてみないと分からないよ。マコとゼノが知ってる事、教えてくれない?どんな些細な事でもいいから、自分の事が知りたいんだ。」
「それは、検査次第でハッキリするッス。それほど難しくない検査ッスから、明日にでも結果が出ると思うッスよ。」
「そこまで隠されると余計気になるよ…!一体僕の過去に何があるって言うの!?」
テーブルに手をつき、勢いよくその場に立ち上がった。
紅茶の入ったカップが揺れ、ガチャンと大きな音を立てる。
「フランくん…。」
「じゃあ逆に聞くッスけど、俺達が話した事をまともに信じられるんッスか?」
「それは…わからないけど。」
「俺達だって、フランに意地悪したくて言わないんじゃないッスよ?先生だって同じッス。研究の内容を外部に漏らさない為でもあるッスけど、1番はフランの事を考えて出した決断ッス。」
「フランさん。焦っても結果はすぐに出ませんし、過去の出来事が変わる事もありません。何事も、少しずつでいいんですよ?…さ、お菓子でも食べて…まずは落ち着きましょう。」
「そうだよぉ~。明日には結果が出せるように、あたしが先生のサポートするから!ね?」
「ごめんみんな…。ありがとう。」
翌日。ゼノの予想通り、検査結果の件でオズモールの元へ呼び出された。
「結果は…目が赤くなった原因はなんだったんですか?」
「そうだね~…。何から話したらいいものか…。君なら、良い話と悪い話どっちから先に聞きたい?」
「じゃあ…悪い話から。」
「その赤くなった右目、私にも元に戻す方法がわからないんだ。効果がありそうな薬を試してみる手はあるけど、正直効き目を期待できない状況だね。」
「そんなに悪いんですか…?」
「いいや?単純に色が変わったと言うだけで、身体に影響を及ぼすような事はないよ。あ、これが良い方の話ね。」
「それなら、赤くなった理由は何なんですか?」
「それについては、君の過去について話す必要があるね。長くなるけど聞いてくれるかい?」
「はい。お願いします。」
それからオズモールは、僕がギルドに引き取られる前の話を語り出した。僕が記憶や感情、言葉を失うまでの経緯や彼女がクラーレから聞いた話をわかる範囲で教えてくれた。
その中で1番衝撃だったのは、僕が元々吸血鬼であった事だ。吸血鬼から人間に生まれ変わった話も聞かされたが、何一つ頭に入ってこなかった。
「すぐには信じられないと思うけど、この話を聞いた上で私の推測も聞いて欲しい。」
「推測って何の…?」
「目が赤くなった原因だよ。私が君を吸血鬼から人間に変えたのは、吸血鬼の君が死にかけていたからなんだ。君は私の手で、吸血鬼から人間になった。その時、吸血鬼の君は死んだと思っていた…でも違ったんだ。死んだのではなく、君の身体の中で眠っていただけだったんだ。時間が経って回復し、君の身体を乗っ取ろうとしているのかもしれないね。」
「身体の中に…吸血鬼の僕が…?そんな話がある訳…。」
「今は信じられなくても仕方がないよ。過去の事だって、まだ整理が付けられてないだろう?これからどうするか、私の方で色々検討してみるから、ひとまず家に帰って身体を休めてくれ。また明日、同じ時間に来てくれるかい?」
「…はい。わかりました。」
彼女の言葉に従い、レヴィの家に帰る事にした。
「はぁ~…。」
用意された部屋のベッドに横たわり、深くため息をついた。
まさか自分が元々吸血鬼であり、吸血鬼だった自分が身体の中に眠っていたなどと、すぐに信じられるはずもなかった。彼女の事を疑っている訳では無いが、突拍子もない話をすぐに鵜呑みにする事も出来ない。
そこでふと、以前シューが話していた言葉を思い出した。彼は自身の目が赤い事を気にし、吸血鬼だと思われるのが嫌でそれを隠していた。
その話を思い返してみると、オズモールの推測もあながち間違っていないのかもしれない。
何故片目だけなのか、行く行くは両目が赤くなってしまうのか、元に戻すにはどうしたらいいのか…。考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだった。
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