エテルノ・レガーメ2

りくあ

文字の大きさ
上 下
10 / 116
第1章︰騎士の道

第9話

しおりを挟む
「そうだフラン。この後、一緒に稽古しない?」
「稽古…ですか?」

机の向かい側で食事をしているラギト様が、僕に向かってそう口にした。

「ちょっとレーガ…!フランはまだ子供ですのよ?剣を扱うには早すぎますわ!」

隣に座るリーシア様が、彼に向かって声を荒らげた。

「こういうのは早い方がいいって言うでしょ?あと数年したらフランだってエーリに入るんだから、やっておいて損はないよ。」
「それはあなたの話でしょう!?フランはあなたの息子でも、あなただけのものではないのです!私にとっても大切な家族なのですわ!」
「リーシア様。僕なら大丈夫です。」
「で、ですが…」
「ほらー。本人が大丈夫って言ってるんだから平気だって。ご飯が終わったら中庭に行こう!僕が手取り足取り、教えてあげるからね~。」
「ありがとうございますラギト様。」
「あまり無理せず、怪我には注意して下さいね?レーガが張り切ると、ろくな事がないですから。」
「酷いよエレナ~。僕だって、やる時はやる男で…」
「そうかしら?あなたがやれると言う所を、私は見た事がないですけれど?」
「そういう君こそ!フランの為に、何かしてあげられる事があるの?怪力だけが取り柄なのにさ。」
「なんですって!?」

彼の言葉が気に触ったのか、食事をする手を止めた彼女は、大きな音を立ててその場に立ち上がった。

「リ、リーシア様…落ち着いて…。」
「レーガ!今日という今日は許しませんわ!」
「おっと…エレナがやる気みたいだね。僕は先に向かってるから、フランはゆっくり食べて来てね~。」
「こらー!お待ちなさーい!」

2人の勢いに圧倒された僕は、その場から立ち去る彼等の背中をぼんやりと眺める事しか出来なかった。



「…ん。」

目を開けると、視界いっぱいに白い布が広がっていた。ゆっくり身体を起こすと、そこが森の中に設営したテントの中である事と同時に、先程のやり取りが夢である事を悟った。

「あの人達…誰だったんだろう…。」

ぼんやりとした頭で記憶を遡るが、男の人と女の人が何やら揉めていた事しか思い出せず、会話の内容まではわからなかった。

「あ…おはようフランさん。」

テントの垂れ幕を捲り上げ、外からシューが顔を覗かせた。

「おはようシュー。…もしかして、今日も寝坊しちゃった?」
「ううん…!そんな事ないよ。朝食準備の時間まで、あと30分くらいかな…。」
「よかった~。みんな居ないから心配したよ。」
「2人なら…水浴びに行ったよ。そろそろ戻って来ると思うけど…。」
「水浴びかぁ…僕も顔くらい洗ってこなきゃ。ちょっと川に行って来るね。」 

テントの外へ歩き出した僕の元へ、彼は慌てた様子で駆け寄って来た。

「あ…。それなら自分も一緒に…。」
「すぐ戻るから1人でも大丈夫だよ。2人が戻って来て誰も居なかったら困るだろうし、シューはここで待ってて?」
「う、うん…わかった。」



しばらく森の中を歩き、薬草を探す際に訪れた川へとやって来た。流れが緩やかな場所へ近づくと、手で水をすくって顔を洗い始めた。

「あれ…?なんか目が赤いような…。」

水面に映り込む青い瞳が、赤みを帯びて青紫色に見えたような気がした。目を擦って何度も見返すが、何故か右の目だけが紫色に変色している。

「フランー!何してるー?」

遠くの方から声が聞こえ、その場に立ち上がって周囲を見回した。水浴びに出かけたパルとニアが、下流の方から歩いて来るのが見える。

「おはよう2人共。」
「今日は寝坊しなかったわね。って言うか…1人で何してんのよ。」
「顔を洗おうと思って来たんだけど…ねぇニア。僕の目、なんか赤くなってない?」
「そうかしら?気のせいじゃない?」
「目の疲れ、充血して赤くなる事ある。ちょっとだけど赤くなってる。」
「やっぱり?目が疲れるような事をしたつもりはないけど、いつの間にか疲れてたって事なのかな?」
「多分そう。」
「そんな事より…!単独行動は控えなさいよ!教官にバレたら怒られるし、あれほど危ないからするなって言われて…」
「ごめんごめん。顔を洗うくらいで、シューに付き合ってもらうのは悪いかなって思ってさ。これから戻るよ。」
「一緒に戻る!そうすれば単独行動じゃない。」
「そうそう。だから多目に見てよ。」
「全く…こういう時ばっかり調子がいいんだから…。」

怒る彼女をなだめると、シューが待っているテントへ戻って行った。



課外実習の最終日、朝食を終えた生徒達の前にはメドゥ教官が立っていた。

「今回私が教える実習の内容は、応急処置よ~。校内で教えた事はあるけれど、こうした森の中でも必要になる場面があるの~。まずはそれを説明するわね~。」

彼女が話し始めたのは、森以外にも課外での活動が多い騎士にとって、応急処置がどれ程大切かと言う事だった。
学校で教えられた治癒属性の魔法は、誰でも出来るような簡単な魔法ばかりではない。魔法を使用せずとも命を助ける行動が出来るという事を、彼女は生徒達の前で熱心に語り出した。

「さてと…。せっかくの課外実習なのだし、説明はこれくらいにしましょうか~。今から、昨日みんなに集めてもらった薬草で、薬を作る実習を行うわ~。複数種類の薬を作れるように、班ごとに薬草を仕分けておいたから、ダグラス教官から受け取って下さいね~。」
「中に入っている薬草を見極め、何の薬を作るべきかは自分達の判断で行うように。この広場に散らばって作業してもらうが、あまり遠くへ行かないようにするんだぞ。」

ダグラス教官から薬草の入った袋を受け取ると、僕達は広場の端の方へと移動した。

「まずは…何が作れるのか確認した方が良さそうね。」

ニアは袋を逆さにすると、地面に薬草をばらまいた。

「これは…消毒薬。こっちは…腹痛薬。」 
「あ、これって、僕が川辺で見つけた薬草だよね?確か…火傷に効くんだっけ?」
「そうね。火傷に効く薬は皮膚薬の一種よ。えっと…この3つが消毒薬で、こっちの4つが腹痛薬でしょ?皮膚薬が…この2つだから…。」
「1つだけ余っちゃうね…。」
「うーん…。この薬草…何の薬だったかしら…。」

ニアの手に、小さなピンクの花を咲かせた薬草が握られている。僕はその薬草に、どこか見覚えがあったような気がした。

「……解熱薬。」
「え?」
「それ、熱を下げる効果のある薬草じゃない?名前は何だったか忘れちゃったけど…。そのピンクの花に見覚えがあるんだ。」
「解熱薬ねぇ…。パルフェはどうおもう?」
「私も名前、思い出せない。フランの意見、合ってるかわからない。シューはわかる?」
「ごめん…自分もよくわからないや…。」
「合ってるかはわからないけど、とにかくそれで作ってみるしかないわね。」
「じゃあ、僕がこの薬草で解熱薬を作るよ。」
「なら、比較的簡単な皮膚薬はシュティレね。あたしが腹痛薬を作るから、パルフェは消毒薬をお願い。」
「うん!任せて。」 
「が、頑張ってみる…。」

それぞれの薬草と調合に使う道具を手に取り、薬作りを開始した。



「あら!凄いわね~。ちゃんと全種類の薬を作れてるわ~。」

出来た薬をメドゥ教官の元へ持って行くと、彼女は手を叩いて歓喜の声をあげた。

「褒められてよかったね~。」
「あんたの言ってた事、正しかったみたいね。あんまり薬草に詳しくないのに、どうして解熱薬だってわかったの?」
「なんとなくだよ。昔、誰かに作ってもらったような気がするんだ。」
「ふぅん…。」

僕の話に納得がいかないのか、彼女は不満そうに鼻を鳴らした。すると、側を離れていたパルが彼女の背後からこちらへ歩み寄って来た。

「フラン、ニア。これからテント戻って昼食作る。材料運ぶ、手伝ってくれる?」
「あ、うん。じゃあ、これ持つよ。」
「それ…かなり重そうじゃない?あたしも一緒に持つわ。」
「そう?ありがとう。」

彼女と共に材料の入った箱を持ち上げると、午後から行われる実習の内容を話しながらテントを建てた場所へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた
ファンタジー
理想郷≪アルカディア≫と名付けられた世界。 世界は紛争や魔獣の出現など、多くの問題を抱え混沌としていた。 そんな世界で、破壊の力を宿す騎士ルーカスは、旋律の戦姫イリアと出会う。 彼女は歌で魔術の奇跡を体現する詠唱士≪コラール≫。過去にルーカスを絶望から救った恩人だ。 だが、再会したイリアは記憶喪失でルーカスを覚えていなかった。 原因は呪詛。記憶がない不安と呪詛に苦しむ彼女にルーカスは「この名に懸けて誓おう。君を助け、君の力になると——」と、騎士の誓いを贈り奮い立つ。 かくして、ルーカスとイリアは仲間達と共に様々な問題と陰謀に立ち向かって行くが、やがて逃れ得ぬ宿命を知り、選択を迫られる。 何を救う為、何を犠牲にするのか——。 これは剣と魔法、歌と愛で紡ぐ、終焉と救済の物語。 ダークでスイートなバトルロマンスファンタジー、開幕。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

異世界召喚されたら【聖女様】って呼ばれたんですけど、正装がバニーガールなんですけど!!??

綾瀬 りょう
ファンタジー
異世界に召喚されて聖女様って呼ばれるのは別にいいんですけど、正装がバニーガールだなんて、聞いてないよ?!? 主人公 炎谷 美麗(ぬくたに みれい)24歳。大学を卒業して就職した職場で頑張るぞ!!と思っていたらいつの間にか異世界に召喚されていた!!聖女様の正装がバニーガールというのだけ信じられないんですけども!?! ミュゼァ26歳 前聖女の子にて歴代最強の魔法の使い手。第一王子の右腕的役割を果たしている、ところもあるとかないとか。 オズワルド26歳 リュー国の第一王子。聖女が国に縛られることを好んでいないが、魔物や邪気などから国を守れる力を持っているのが選ばれた人だけなので、全力で守ろうと思っている面もある。 遊び人に見えるけど責任感が強い。婚約者がいる。 【小説家になろう・カクヨムにも同等の作品を掲載】

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

処理中です...