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第16章︰2人で
第150話
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「それでね?街中で迷子になった女の子が、王子様とばったり出会うんだけど…」
あれから数日が経ち、夜中に部屋を訪れたフランに、読んだ本の話を聞かせていた。最近は、ルナに勧められた童話を寝る前に読むようになり、僕も遅くまで起きている事が多くなったのだ。
「ね?びっくりでしょ?」
彼は僕の問いに答えるように、首を縦に振った。もう何度も部屋に来ている彼は、何を喋る訳でもないが、紅茶を飲みながら僕の話に耳を傾けている。そんな彼にも、ちょっとした変化が見られるようになった。
「あ、これ?最近、植物に興味があって、部屋で育ててるんだよ。」
彼は壁際に置かれていたブルートの鉢植えを指さした。何か気になる物があると、こうして指をさして問いかけるようになったのだ。飲みたいと思う方の紅茶を選んだり、髪の毛についたゴミを教えてくれたりと、少しづつではあるが、彼にも自我が芽生えて来たように思える。
「こっちの苗木はブルートって言って、山の方にあるヴィエトル村から枝を貰ってきたんだ。その枝を鉢植えの土に差して、育つ為に必要な光と水を与えてるの。ガラスの箱に入れてるのは、管理をしやすくする為だよ。空気を薄くして、標高の高い場所に近い状態を維持してるんだ。」
彼は眉間に皺を寄せ、首を傾げた。
「あはは。ちょっとフランには難しかったかな?その隣にあるのはアスルフロルだよ。同じガラスの箱に入れてるけど、布を被せて光を少なくしてるんだ。綺麗な空気と水を好むから、育てるのがすごく大変なんだよね。でも、その分育てがいがあって…」
話の途中、彼は目を細めながら口を大きく開いた。
「あ、そろそろ寝る?ついつい話し込んじゃった…ごめんね?」
彼は首を横に振ると、その場に立ち上がって扉の方へ歩いて行った。
「また来てね。」
彼に向かって手を振ると、彼も同じように小さく手を振った。未だに喋る様子は見られないが、少しづつ僕に対して心を開き始めているように思えた。
「ルナ、ミグ。ちょっといい?」
翌朝、自室のベッドに座り、彼等を身体の外へ呼び出した。
「どうかした?」
「少し前、僕にして欲しい事がないか2人に聞いたの覚えてる?」
「あー。翻訳を頑張ったお礼に、俺等がして欲しい事をルカがしてくれるってやつか?」
「そうそう。翻訳もほぼ終わったみたいだし、2人の考えを聞きたいなと思って。何か思い付いた事はあった?」
「一応考えてたよ!私は、サトラテールにある、海に行ってみたい!前にラヴィが言ってたんだけど、サトラテールの海は珊瑚の群生地なんだって。それを見に行きたいなぁ~。」
「海かぁ~…。今は暖かいし、悪くないかもね。ミグは?」
「なるほど…遠出するって言う手があったか。正直俺は何も思いつかなくて、ダメ元で魔法でも教えてもらおうかと…」
「えーミグが魔法?似合わ…」
「お前は黙ってろ!…そうだな。ルナがサトラテールに行きたいなら、俺もミッド城に行ってテトに顔でもみせるかな。」
「ならサトラテールに行こう…!今から!」
「え、今から?」
「仕事は無いから大丈夫だろ。俺はルカに任せる。」
「私も、ルカがそれでいいなら従うよ!」
「じゃあ決まりだね!」
まずは海の場所を調べる為に、ギルドへ向かう事にした。
「あ、ようこそギル…」
「あ!イルム~。久しぶり!」
「え…ルカくん!?どうしてここに!?」
入口の扉を開くと、掃除をしているイルムに出会った。彼女は慌ててこちらに駆け寄り、その途中で木箱に躓いて床に倒れ込んだ。
「いったぁ~…。」
「だ、大丈夫?」
「あはは…ごめんね。」
手を差し出すと、後ろから伸びて来た別の手が彼女の腕を掴んだ。
「全く…。怪我はないか?」
「え?あ!ミグくん!」
「イルムー!元気だった?」
「わぁ…ルナまで!みんな、今日は何しに…」
「ちょっとイルム~?大丈…あら~!ルカくんじゃない~。」
彼女が倒れた音を聞き付け、廊下の奥からシェリアさんが姿を現した。
「シェリアさん!おはようございます。すいません…突然押しかけて来て…。」
「何言ってるのよ~。ここはあなたの家でしょう~?お兄様が会いたがってたわ。きっと部屋にいると思うから、顔を見せてあげて~?」
「わかりました!」
階段を上り、彼の部屋の扉を叩いて中に足を踏み入れた。
「何か用…って、ルカ!」
「えっと…ただいま戻りました!」
「おかえり。わざわざ遠くから帰ってきてくれたんだね。何かギルドに用事が?」
「あ、はい!色々と話したい事とか…聞きたい事があって!」
「そっか。じゃあ…とりあえず座りなよ。イルム、お茶持ってきてくれる?」
「は、はい…!只今!」
彼女の用意した紅茶を飲みながら、ミグとルナを交えて話を始めた。彼には、2人が生きていた事やフランの話を手紙で伝えていたが、話したい事は山程あった。
「そっか。色々と頑張ってるねルカ。」
「い、いえ…!クラーレさんに比べたら、僕なんて全然…」
「なぁルカ。積もる話もあるだろうけど、本来の目的を忘れてないか?」
隣に座るミグの問いかけに、忘れかけていたギルドを訪れた目的を思い出した。
「あ、そうだった!あの、クラーレさん。僕達、海を見に行きたいんですけど、場所を教えてもらえませんか?」
「それなら案内しようか?口で言うより、実際に行った方がわかりやすいと思うし。」
「えぇ!?クラーレさんには仕事があるじゃないですか…!僕達は旅行気分で来たのに、それに巻き込むなんて駄目です!」
「ちょっとくらい平気だよ。僕が居なくても、シェリアが上手くやってくれるし。」
「けど…」
僕は彼が、忙しそうに書類を眺めている所を何度も目撃していた。朝食を食べながら届いた依頼に目を通し、時間のかかる依頼の時は昼食や夕食を食べない日もあった。僕達ギルドメンバーには見えない所で、マスターである彼が色々と苦労しているのを僕は知っている。
「ありがとうクラーレ!じゃあ…案内お願いしちゃおうかな?」
「え?ちょっと…ルナ!」
「ルナならそう言ってくれると思ってたよ~。しばらく海には行ってないから、ちょっと息抜きしたいと思ってたんよね。」
「息抜き…ですか?」
「そう。たまには、仕事をサボりたくなる時もあるんだよね~。あ、他のみんなには内緒だよ?特に、シェリアにバレると怒られちゃうから。」
「あはは…!わかりました。」
「それじゃ、バレないうちに早く行こ!」
こうして、クラーレさんの案内でサトラテールの海を目指して街の中へ歩き出した。
「わぁ…海だー!」
賑やかな大通りを抜けた先に、青い海と白い砂浜が広がっていた。それを見たルナは、両手を大きく上にあげて目を輝かせている。
「なんで叫ぶんだよ…。山じゃあるまいし。」
「えー?なんとなく叫びたくならない?海ってすごく広いから、開放的な気分になるんだよね!」
「ルナは海が好きなの?」
「うん!ルカは好きじゃないの?」
「え?あー…見るのは好きだよ!」
「ほんと、海って綺麗だよね!…あ!もしかしてあれが珊瑚かな…!?」
「あ、こらルナ!危ないから走るな!」
突然走り出した彼女を追いかけて、隣に立っていたミグも砂浜の上を走り出した。
「2人共ー!あんまり離れないでよ~?」
「ルカは行かないの?」
「あ、えっと…水は苦手なんです。少しづつ慣れてきたとは思うんですけど…まだちょっと怖くて…。」
「それは知らなかったな。じゃあ一緒に、近くまで行って2人の事を見てよっか。」
「そ、そうですね…!」
波の押し寄せる海辺に向かって歩いて行くと、浅瀬に立つ2人の姿を見つけた。
「何してるの?」
「あ、ルカ!見て見て!綺麗な珊瑚が沢山あるよ!」
彼女は海の中に手を入れて、薄いピンク色の珊瑚を僕に向かって差し出した。
「ルナ。あんまり珊瑚を取ったら駄目だよ?」
「え?どうして?」
「珊瑚は、海の水を綺麗にしてくれるんだ。本で目にしただけだから、細かい原理はどうだったか忘れちゃったけどね。」
「そうなの!?…じゃあ、悪い事しちゃった…。」
「大丈夫だよルナ。ちょっとそれ、貸してくれる?」
「う、うん…。」
彼女から手のひらサイズの珊瑚を受け取ると、両手で包み込むようにして握りしめた。
「珊瑚は死んだ後、バラバラに砕けて白い砂になるんだ。白砂は、太陽の光を反射して海の色を鮮やかに見せてくれるんだよ。」
手の中で砕いた珊瑚の砂を、海に向かって撒き散らした。光り輝く白砂は、水音を立てて海の中へ沈んでいく。
「詳しいなルカ。珊瑚の事、知ってたのか?」
「うん。前に本で読んだ事があって。珊瑚は海にとって欠かせないものだけど、少しづつ量が減って来てるんだ。サトラテールみたいに、沢山残ってる所は珍しいんじゃないかな?」
「だからここには船が入れない様になってるんだね…。今度からは、綺麗だからって珊瑚を取らないように気をつけなきゃ…。」
「もう充分見ただろ?そろそろ戻ろうぜ。」
「じゃあ次はミッド城だね。」
「今度はお城に行くの?あ、テト様に会いに?」
「はい。ミグが、テト様に挨拶をしたいと言うので。」
「そういう事なら、僕はギルドに戻るよ。時間があったら、またいつでもおいで。」
「案内ありがとうございましたクラーレさん。」
街の大通りで彼と別れると、離れた所にそびえ立つお城を目指して歩き出した。
「お城に来るの、すごく久しぶりだね!」
「ほんとだな。俺もルナとギルドに行ってから、こっちには帰って来なかったし…それ以来か。」
「あ、そうだミグ。お城にはどうやって入ったらいいかな?」
「………。」
先頭を歩く彼は僕の問いに答える事なく、その場に立ち止まった。
「ミグ?」
「…悪い。そこまで考えてなかった。」
「えぇ!?」
「で、でも!ミグが名乗って顔を見せたら、通れそうじゃない?」
「俺はもう死んだ事になってるだろ?話がややこしくなるから、それはやめた方がいい。」
「うーん…。なら、どうやってテト様に会いに行…」
「ミグ…!ルナ…!」
後ろを振り返ると、馬車の窓から顔を出しているテト様の姿を見つけた。彼に促されて馬車に乗り込むと、大きな門をくぐり抜けてお城の敷地内へ入っていった。
「2人と会えるなんて嬉しいな。色々、話を聞かせてよ。」
「もちろん!ね、ミグ?」
「話す事なんて、そんなにないと思うけどな。」
「相変わらずミグは冷たいなぁ~。あ、そうだ!シグにも挨拶していきなよ。せっかくこっちに来たんだし、手ぐらい合わせたら?」
「…そうだな。」
彼の父親のジグルズさんは、既に亡くなっている。ミグが使い魔になってから、彼のお墓に訪れる機会がなく、今までろくに挨拶も出来ていなかった。
庭の奥へ歩いて行くと、大きな石碑と小さな石碑が並んで立っているのが見えた。
「王妃様と並んで墓に入れるなんて、親父は幸せもんだな。」
「母様もきっと喜んでるよ。シグは、母様の事もよく気にかけてくれてたからね。」
石碑の前に並んで立つ2人の姿を見て、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
「ねぇミグ。僕とルナは、庭を散歩して来てもいいかな?2人でゆっくり話をしなよ。」
「…わかった。そうする。」
「僕達は、話が落ち着いたら部屋で待ってるよ。2人も、後で僕の部屋に来てくれる?」
「うん。わかった!また後でね。」
2人に気を遣い、ルナと共に庭の方へ歩き出した。
「ミグ、悲しそうだったね。」
「うん…そうだね。」
「私達の親って、どんな人だったんだろう?」
隣を歩く彼女は、遠くの方をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟いた。
「ステラの親って事?そう言われると…僕も覚えてないから、よくわからないや。」
「私も、レジデンスに行く前の事は何も覚えてないんだよねぇ…。いつになったら思い出せるんだろう?」
「まぁ…記憶が無くて困る事は何も無いし…僕は、思い出せたらいいな~くらいに思ってるよ。」
「そっか。そうだね!」
「そろそろ、テト様の部屋に行く?」
「うーん。ちょっと遅くなるくらいの方がいいんじゃないかな?あ、そうだ!元々私の部屋だった所が、どうなってるか気になるから見に行ってもいい?」
「もちろんいいよ!じゃあ行こっか。」
庭を抜けて建物の中に足を踏み入れると、階段を上って彼女の部屋を目指した。
「待ってルナ。そっちは食堂だよ?」
「え?なんでルカが知ってるの?」
「この間、夢の中で城の中を歩き回ったんだ。なんとなくだけど、ルナの部屋の場所は覚えてるよ。たしか…こっちだったと思う。」
僕は彼女を追い抜くと、突き当たりの廊下を左へと歩き出した。
「来た事ない場所の夢を見るなんて、不思議だね…。あ。歩いたんだったら、転移は出来ないの?」
「それは無理だと思う。夢の中で歩いてても、夢は単純に見たっていうだけだから…歩いた事にはならないんじゃないかな?」
「そっか~。お城って広くてとっても綺麗だけど、そういう所が不便だよねぇ~。」
「着いたよ。ここがルナの部屋だったはず!」
「入ろ入ろ!」
扉を開けて中に入ると、そこは間違いなく夢の中で目にした彼女の部屋そのものだった。
「わぁ~…!そのままになってる!懐かしいなぁ。」
「ルナがお城に住んでたなんて、夢で聞いて初めて知ったよ。ミグと会ったのも、丁度その時だったよね?」
「え?うん…そうだけど…。どうしてそんなに詳しいの?」
「あ、その…。実は、ルナの日記を…読んだんだよね。あ、でも!ちょっとだけだよ!それに、実際に読み上げたのはシェリアさんだったし…!」
「日記?私、日記なんて書いた覚えないよ?」
「え?」
僕が見た夢の中では、次なる場所へ向かう為の手掛かりとして、彼女の日記に記された場所を歩き回った記憶がある。しかし、日記を書いた彼女自身が、日記の存在を覚えていないらしい。
「変だなぁ…。確かに机の上にあったのに…。」
「まぁ…日記なんてどうでもいいじゃん!そろそろテトの部屋に行こ?待ってるかもしれないし。」
「うん…。そうだね。」
テト様の部屋を訪ねると、用意された紅茶を飲みながらしばらくの間、談話を楽しんだ。
「今日は来てくれてありがとう。ゆっくり話が出来て楽しかったよ。」
門の前で、見送りに来たテト様と軽く握手を交わした。
「私も楽しかった!次はいつ来れるかわかんないけど…また来るね!」
「先に言っとくけど、俺はもう来るつもりないからな?」
「え!なんで来ないの!?」
「俺は、必要とされてる場所で自分に出来る事をやる。親父には挨拶したし、お前に俺はもう必要ない。」
「…ミグならそういうと思ってた。けどやっぱり、どうしてるか気になるからたまに手紙をくれると嬉しいな。」
「気が向いたらな。」
「うん。待ってるよ。」
「ではテト様…またお時間のある時に。」
「ありがとうルカくん。またね。」
別れの挨拶を済ませ、魔法を唱えてレジデンスへ戻って行った。
あれから数日が経ち、夜中に部屋を訪れたフランに、読んだ本の話を聞かせていた。最近は、ルナに勧められた童話を寝る前に読むようになり、僕も遅くまで起きている事が多くなったのだ。
「ね?びっくりでしょ?」
彼は僕の問いに答えるように、首を縦に振った。もう何度も部屋に来ている彼は、何を喋る訳でもないが、紅茶を飲みながら僕の話に耳を傾けている。そんな彼にも、ちょっとした変化が見られるようになった。
「あ、これ?最近、植物に興味があって、部屋で育ててるんだよ。」
彼は壁際に置かれていたブルートの鉢植えを指さした。何か気になる物があると、こうして指をさして問いかけるようになったのだ。飲みたいと思う方の紅茶を選んだり、髪の毛についたゴミを教えてくれたりと、少しづつではあるが、彼にも自我が芽生えて来たように思える。
「こっちの苗木はブルートって言って、山の方にあるヴィエトル村から枝を貰ってきたんだ。その枝を鉢植えの土に差して、育つ為に必要な光と水を与えてるの。ガラスの箱に入れてるのは、管理をしやすくする為だよ。空気を薄くして、標高の高い場所に近い状態を維持してるんだ。」
彼は眉間に皺を寄せ、首を傾げた。
「あはは。ちょっとフランには難しかったかな?その隣にあるのはアスルフロルだよ。同じガラスの箱に入れてるけど、布を被せて光を少なくしてるんだ。綺麗な空気と水を好むから、育てるのがすごく大変なんだよね。でも、その分育てがいがあって…」
話の途中、彼は目を細めながら口を大きく開いた。
「あ、そろそろ寝る?ついつい話し込んじゃった…ごめんね?」
彼は首を横に振ると、その場に立ち上がって扉の方へ歩いて行った。
「また来てね。」
彼に向かって手を振ると、彼も同じように小さく手を振った。未だに喋る様子は見られないが、少しづつ僕に対して心を開き始めているように思えた。
「ルナ、ミグ。ちょっといい?」
翌朝、自室のベッドに座り、彼等を身体の外へ呼び出した。
「どうかした?」
「少し前、僕にして欲しい事がないか2人に聞いたの覚えてる?」
「あー。翻訳を頑張ったお礼に、俺等がして欲しい事をルカがしてくれるってやつか?」
「そうそう。翻訳もほぼ終わったみたいだし、2人の考えを聞きたいなと思って。何か思い付いた事はあった?」
「一応考えてたよ!私は、サトラテールにある、海に行ってみたい!前にラヴィが言ってたんだけど、サトラテールの海は珊瑚の群生地なんだって。それを見に行きたいなぁ~。」
「海かぁ~…。今は暖かいし、悪くないかもね。ミグは?」
「なるほど…遠出するって言う手があったか。正直俺は何も思いつかなくて、ダメ元で魔法でも教えてもらおうかと…」
「えーミグが魔法?似合わ…」
「お前は黙ってろ!…そうだな。ルナがサトラテールに行きたいなら、俺もミッド城に行ってテトに顔でもみせるかな。」
「ならサトラテールに行こう…!今から!」
「え、今から?」
「仕事は無いから大丈夫だろ。俺はルカに任せる。」
「私も、ルカがそれでいいなら従うよ!」
「じゃあ決まりだね!」
まずは海の場所を調べる為に、ギルドへ向かう事にした。
「あ、ようこそギル…」
「あ!イルム~。久しぶり!」
「え…ルカくん!?どうしてここに!?」
入口の扉を開くと、掃除をしているイルムに出会った。彼女は慌ててこちらに駆け寄り、その途中で木箱に躓いて床に倒れ込んだ。
「いったぁ~…。」
「だ、大丈夫?」
「あはは…ごめんね。」
手を差し出すと、後ろから伸びて来た別の手が彼女の腕を掴んだ。
「全く…。怪我はないか?」
「え?あ!ミグくん!」
「イルムー!元気だった?」
「わぁ…ルナまで!みんな、今日は何しに…」
「ちょっとイルム~?大丈…あら~!ルカくんじゃない~。」
彼女が倒れた音を聞き付け、廊下の奥からシェリアさんが姿を現した。
「シェリアさん!おはようございます。すいません…突然押しかけて来て…。」
「何言ってるのよ~。ここはあなたの家でしょう~?お兄様が会いたがってたわ。きっと部屋にいると思うから、顔を見せてあげて~?」
「わかりました!」
階段を上り、彼の部屋の扉を叩いて中に足を踏み入れた。
「何か用…って、ルカ!」
「えっと…ただいま戻りました!」
「おかえり。わざわざ遠くから帰ってきてくれたんだね。何かギルドに用事が?」
「あ、はい!色々と話したい事とか…聞きたい事があって!」
「そっか。じゃあ…とりあえず座りなよ。イルム、お茶持ってきてくれる?」
「は、はい…!只今!」
彼女の用意した紅茶を飲みながら、ミグとルナを交えて話を始めた。彼には、2人が生きていた事やフランの話を手紙で伝えていたが、話したい事は山程あった。
「そっか。色々と頑張ってるねルカ。」
「い、いえ…!クラーレさんに比べたら、僕なんて全然…」
「なぁルカ。積もる話もあるだろうけど、本来の目的を忘れてないか?」
隣に座るミグの問いかけに、忘れかけていたギルドを訪れた目的を思い出した。
「あ、そうだった!あの、クラーレさん。僕達、海を見に行きたいんですけど、場所を教えてもらえませんか?」
「それなら案内しようか?口で言うより、実際に行った方がわかりやすいと思うし。」
「えぇ!?クラーレさんには仕事があるじゃないですか…!僕達は旅行気分で来たのに、それに巻き込むなんて駄目です!」
「ちょっとくらい平気だよ。僕が居なくても、シェリアが上手くやってくれるし。」
「けど…」
僕は彼が、忙しそうに書類を眺めている所を何度も目撃していた。朝食を食べながら届いた依頼に目を通し、時間のかかる依頼の時は昼食や夕食を食べない日もあった。僕達ギルドメンバーには見えない所で、マスターである彼が色々と苦労しているのを僕は知っている。
「ありがとうクラーレ!じゃあ…案内お願いしちゃおうかな?」
「え?ちょっと…ルナ!」
「ルナならそう言ってくれると思ってたよ~。しばらく海には行ってないから、ちょっと息抜きしたいと思ってたんよね。」
「息抜き…ですか?」
「そう。たまには、仕事をサボりたくなる時もあるんだよね~。あ、他のみんなには内緒だよ?特に、シェリアにバレると怒られちゃうから。」
「あはは…!わかりました。」
「それじゃ、バレないうちに早く行こ!」
こうして、クラーレさんの案内でサトラテールの海を目指して街の中へ歩き出した。
「わぁ…海だー!」
賑やかな大通りを抜けた先に、青い海と白い砂浜が広がっていた。それを見たルナは、両手を大きく上にあげて目を輝かせている。
「なんで叫ぶんだよ…。山じゃあるまいし。」
「えー?なんとなく叫びたくならない?海ってすごく広いから、開放的な気分になるんだよね!」
「ルナは海が好きなの?」
「うん!ルカは好きじゃないの?」
「え?あー…見るのは好きだよ!」
「ほんと、海って綺麗だよね!…あ!もしかしてあれが珊瑚かな…!?」
「あ、こらルナ!危ないから走るな!」
突然走り出した彼女を追いかけて、隣に立っていたミグも砂浜の上を走り出した。
「2人共ー!あんまり離れないでよ~?」
「ルカは行かないの?」
「あ、えっと…水は苦手なんです。少しづつ慣れてきたとは思うんですけど…まだちょっと怖くて…。」
「それは知らなかったな。じゃあ一緒に、近くまで行って2人の事を見てよっか。」
「そ、そうですね…!」
波の押し寄せる海辺に向かって歩いて行くと、浅瀬に立つ2人の姿を見つけた。
「何してるの?」
「あ、ルカ!見て見て!綺麗な珊瑚が沢山あるよ!」
彼女は海の中に手を入れて、薄いピンク色の珊瑚を僕に向かって差し出した。
「ルナ。あんまり珊瑚を取ったら駄目だよ?」
「え?どうして?」
「珊瑚は、海の水を綺麗にしてくれるんだ。本で目にしただけだから、細かい原理はどうだったか忘れちゃったけどね。」
「そうなの!?…じゃあ、悪い事しちゃった…。」
「大丈夫だよルナ。ちょっとそれ、貸してくれる?」
「う、うん…。」
彼女から手のひらサイズの珊瑚を受け取ると、両手で包み込むようにして握りしめた。
「珊瑚は死んだ後、バラバラに砕けて白い砂になるんだ。白砂は、太陽の光を反射して海の色を鮮やかに見せてくれるんだよ。」
手の中で砕いた珊瑚の砂を、海に向かって撒き散らした。光り輝く白砂は、水音を立てて海の中へ沈んでいく。
「詳しいなルカ。珊瑚の事、知ってたのか?」
「うん。前に本で読んだ事があって。珊瑚は海にとって欠かせないものだけど、少しづつ量が減って来てるんだ。サトラテールみたいに、沢山残ってる所は珍しいんじゃないかな?」
「だからここには船が入れない様になってるんだね…。今度からは、綺麗だからって珊瑚を取らないように気をつけなきゃ…。」
「もう充分見ただろ?そろそろ戻ろうぜ。」
「じゃあ次はミッド城だね。」
「今度はお城に行くの?あ、テト様に会いに?」
「はい。ミグが、テト様に挨拶をしたいと言うので。」
「そういう事なら、僕はギルドに戻るよ。時間があったら、またいつでもおいで。」
「案内ありがとうございましたクラーレさん。」
街の大通りで彼と別れると、離れた所にそびえ立つお城を目指して歩き出した。
「お城に来るの、すごく久しぶりだね!」
「ほんとだな。俺もルナとギルドに行ってから、こっちには帰って来なかったし…それ以来か。」
「あ、そうだミグ。お城にはどうやって入ったらいいかな?」
「………。」
先頭を歩く彼は僕の問いに答える事なく、その場に立ち止まった。
「ミグ?」
「…悪い。そこまで考えてなかった。」
「えぇ!?」
「で、でも!ミグが名乗って顔を見せたら、通れそうじゃない?」
「俺はもう死んだ事になってるだろ?話がややこしくなるから、それはやめた方がいい。」
「うーん…。なら、どうやってテト様に会いに行…」
「ミグ…!ルナ…!」
後ろを振り返ると、馬車の窓から顔を出しているテト様の姿を見つけた。彼に促されて馬車に乗り込むと、大きな門をくぐり抜けてお城の敷地内へ入っていった。
「2人と会えるなんて嬉しいな。色々、話を聞かせてよ。」
「もちろん!ね、ミグ?」
「話す事なんて、そんなにないと思うけどな。」
「相変わらずミグは冷たいなぁ~。あ、そうだ!シグにも挨拶していきなよ。せっかくこっちに来たんだし、手ぐらい合わせたら?」
「…そうだな。」
彼の父親のジグルズさんは、既に亡くなっている。ミグが使い魔になってから、彼のお墓に訪れる機会がなく、今までろくに挨拶も出来ていなかった。
庭の奥へ歩いて行くと、大きな石碑と小さな石碑が並んで立っているのが見えた。
「王妃様と並んで墓に入れるなんて、親父は幸せもんだな。」
「母様もきっと喜んでるよ。シグは、母様の事もよく気にかけてくれてたからね。」
石碑の前に並んで立つ2人の姿を見て、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
「ねぇミグ。僕とルナは、庭を散歩して来てもいいかな?2人でゆっくり話をしなよ。」
「…わかった。そうする。」
「僕達は、話が落ち着いたら部屋で待ってるよ。2人も、後で僕の部屋に来てくれる?」
「うん。わかった!また後でね。」
2人に気を遣い、ルナと共に庭の方へ歩き出した。
「ミグ、悲しそうだったね。」
「うん…そうだね。」
「私達の親って、どんな人だったんだろう?」
隣を歩く彼女は、遠くの方をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟いた。
「ステラの親って事?そう言われると…僕も覚えてないから、よくわからないや。」
「私も、レジデンスに行く前の事は何も覚えてないんだよねぇ…。いつになったら思い出せるんだろう?」
「まぁ…記憶が無くて困る事は何も無いし…僕は、思い出せたらいいな~くらいに思ってるよ。」
「そっか。そうだね!」
「そろそろ、テト様の部屋に行く?」
「うーん。ちょっと遅くなるくらいの方がいいんじゃないかな?あ、そうだ!元々私の部屋だった所が、どうなってるか気になるから見に行ってもいい?」
「もちろんいいよ!じゃあ行こっか。」
庭を抜けて建物の中に足を踏み入れると、階段を上って彼女の部屋を目指した。
「待ってルナ。そっちは食堂だよ?」
「え?なんでルカが知ってるの?」
「この間、夢の中で城の中を歩き回ったんだ。なんとなくだけど、ルナの部屋の場所は覚えてるよ。たしか…こっちだったと思う。」
僕は彼女を追い抜くと、突き当たりの廊下を左へと歩き出した。
「来た事ない場所の夢を見るなんて、不思議だね…。あ。歩いたんだったら、転移は出来ないの?」
「それは無理だと思う。夢の中で歩いてても、夢は単純に見たっていうだけだから…歩いた事にはならないんじゃないかな?」
「そっか~。お城って広くてとっても綺麗だけど、そういう所が不便だよねぇ~。」
「着いたよ。ここがルナの部屋だったはず!」
「入ろ入ろ!」
扉を開けて中に入ると、そこは間違いなく夢の中で目にした彼女の部屋そのものだった。
「わぁ~…!そのままになってる!懐かしいなぁ。」
「ルナがお城に住んでたなんて、夢で聞いて初めて知ったよ。ミグと会ったのも、丁度その時だったよね?」
「え?うん…そうだけど…。どうしてそんなに詳しいの?」
「あ、その…。実は、ルナの日記を…読んだんだよね。あ、でも!ちょっとだけだよ!それに、実際に読み上げたのはシェリアさんだったし…!」
「日記?私、日記なんて書いた覚えないよ?」
「え?」
僕が見た夢の中では、次なる場所へ向かう為の手掛かりとして、彼女の日記に記された場所を歩き回った記憶がある。しかし、日記を書いた彼女自身が、日記の存在を覚えていないらしい。
「変だなぁ…。確かに机の上にあったのに…。」
「まぁ…日記なんてどうでもいいじゃん!そろそろテトの部屋に行こ?待ってるかもしれないし。」
「うん…。そうだね。」
テト様の部屋を訪ねると、用意された紅茶を飲みながらしばらくの間、談話を楽しんだ。
「今日は来てくれてありがとう。ゆっくり話が出来て楽しかったよ。」
門の前で、見送りに来たテト様と軽く握手を交わした。
「私も楽しかった!次はいつ来れるかわかんないけど…また来るね!」
「先に言っとくけど、俺はもう来るつもりないからな?」
「え!なんで来ないの!?」
「俺は、必要とされてる場所で自分に出来る事をやる。親父には挨拶したし、お前に俺はもう必要ない。」
「…ミグならそういうと思ってた。けどやっぱり、どうしてるか気になるからたまに手紙をくれると嬉しいな。」
「気が向いたらな。」
「うん。待ってるよ。」
「ではテト様…またお時間のある時に。」
「ありがとうルカくん。またね。」
別れの挨拶を済ませ、魔法を唱えてレジデンスへ戻って行った。
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※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
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異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
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