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第15章︰夢のような時間
第142話
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「はいどうぞルカくん。」
「あ、ありがとうございます!」
シェリアさんから紅茶を受け取り、ゆっくりと口に運んだ。僕達は再びルナの部屋に集まり、紅茶を片手にそれぞれ見た場所の話を始めた。
「いくら広いと言っても、誰も見つけられないなんてね…一体どこにあるんだろう?」
「外には見当たらなかったですけど、その辺にある扉に変化がある訳でもなさそうですね。」
「となると…俺達が立ち入れないような場所か?」
「上の階にある部屋は一通り見て回ったはずだけど…。見落としてる可能性はあるね。」
「誰も居ないみたいですし、私達も見に行くのはどうですか?」
「では…テト様が回った場所を、もう一度全員で見て回って…」
「あら?何かしら~これ。」
持っていた紅茶のポットを机に置き、空いた右手で1冊の本を手に取った。
「随分傷んだ本だな。見た目は古文書のようだが…」
「読んでみれば何の本かわかるんじゃない?」
「じゃあ読んでみるわね。…今日から、この部屋で新しい生活が始まる。周りがキラキラ輝いて見えて、これは夢なんじゃないかと思ってしまう程だ。…手書きの文字のようだから、誰かの日記みたいねぇ~。」
「続きは?」
「えっと~…今の所、思い出せる事は何も無いけど、テトが力になってくれるから心強い。明日は街へ行く事になった。行った覚えのない場所ばかりで目が回りそうだけど、記憶を戻す為に頑張らなきゃ!…って書いてあるわ。」
「街に…?あ!もしかしたらルナの日記かもしれない!城に来た次の日に、街へ出かけたんだ。」
「自身の記憶が無いように書いてある辺りを見ると…そのようですね。」
「どうしてルナの日記がそんな所にあるんだろう?」
「ねぇシェリア。何かそこに挟まってない?」
彼女が持っていた日記の真ん中辺りに、折り畳まれた細長い紙が挟まっていた。
「一体何の紙だ?」
「何か書いてあるね…えっと…。少女の記憶を辿った先に、未来へ続く扉あり…。」
「扉って…僕達が探してる扉の事でしょうか?」
「うーん…断言は出来ないけど、その可能性が高いだろうね。」
「少女っていうのはルナの事かしら~?」
「恐らくな。」
「なら、その日記を読んでルナが行った場所に向かえば、何か手がかりがあるかもしれないよね!」
「シェリアさん。続きを読んでくれる?」
「わかりました~。」
彼女はページをめくって、書かれた文字を読み上げた。
~今日は、馬車に乗って街へ出かけた。私の執事をしてくれる事になったミグは、優しいけれどちょっと怖い。怒られないように気をつけなきゃ…。それと、路地で変な人に絡まれた時に、王国騎士のアリサさんに助けてもらった。かっこよくて頼りになりそうな人だった。今日も思い出す事はなかったが、アリサさんがギルドという所で活動している事を知った。ギルドってどんな所なのか、すごく興味が湧いた。今日はとにかく沢山人に会う、目まぐるしい1日だった。~
「わぁ…すごく懐かしい。ミグやアリサの事まで、日記に書いてたんだなぁ。」
「街に行った時の事書いてるけど、手がかりは街の中にあったりする…?」
「それは無いと思う!私、さっきお城の敷地から出ようとしたんだけど、いつの間にか戻されてたの。多分、この辺りから離れられないようになってるんだと思う…。」
「ならもっと続きを読むしかないな。」
「じゃあ、次のページを読むわね~。」
~今日は、ミグに城の中を案内してもらった。食堂でご飯を食べた後、図書室、物置部屋を歩いて周り、外に出て王妃様のお墓を遠くから眺めた。そこでテトを見つけて、建国記念日の今日が王妃様の命日だという事をミグが教えてくれた。~
「あ、そこじゃない?食堂でご飯を食べて、図書室と物置部屋に行ったって所…。」
「どうやらそうみたいだな。」
「じゃあまずは、食堂に何か手がかりがないか探しに行こう。」
部屋を出て食堂へ向かうと、全員で部屋の中を散策し始めた。
「手がかりって一体なんだろうね?」
「ここに扉がある訳じゃないんだよね?扉の場所を教えてくれる手紙…とか?」
「そんな都合のいい手紙、あればいいけど…。」
「兄さん。食器棚の中に、こんなものがあったぞ。」
こちらに歩み寄って来たリーガルさんが、手のひらサイズのカードをクラーレさんに差し出した。
「何これ…。」
「大きな文字で【ぎ】と書かれているな。」
「ぎ…?これが手がかりなのかな?」
「他に変わった様子は見られないし…そうなんじゃないかしら~?」
「ひとまず次の場所に行ってみませんか?確か…図書室でしたよね?」
「そうだね…行ってみよう。」
食堂へ来た時と同じように、テト様の後に続いて廊下を歩き始めた。
「図書室かぁ…。かなり広いから、探すのに時間かかりそうだね…。」
「本の事なら俺に任せろ。」
「ちょっとリーガル。探し物ついでに、本を読み漁ったりしないでよ?」
「そんな事…する訳ないだろう。」
「リーガルは、私が見張ってるから心配しないで~。」
「ね、姉さんまで…。」
「手分けして探せばきっと見つかるよ!これだけ人数がいるんだもん。」
「そうだね!僕も頑張って探すよ。」
図書室へ辿り着くと、手分けして部屋の中にある手がかりを探し始めた。部屋の広さに加え、本当に図書室にあるかも分からないような手探り状態の中、並んでいる本棚を隅々まで見て回った。
「あった…!あったよーみんなー!」
しばらくして、部屋の端の方からリアーナが大きな声をあげた。
彼女の手に握られていたのは、先程と同じ文字の書かれた1枚のカードだった。
「今度は【よ】って書いてありますね。」
「これってもしかして、文字を繋げると扉の場所がどこだかわかるんじゃないですか?」
「なるほど…それなら、扉の場所の手がかりと言えるね。」
「次はどこだったっけ?」
「確か…物置部屋でしたよね?」
「物置部屋かぁ…。思い付くだけでも3部屋はあるけど…。」
「手分けして探します?」
「そうねぇ…それしかなさそうよね~。」
「待ってください。…あの、テト様。その3部屋の内、ここから1番近いのはどこですか?」
「えっと…階段を降りてすぐの所にある部屋かな。」
「なら、そこに行きましょう!」
「どうしてそこだと断言出来る?」
「ただの憶測なんですけど…図書室に行った後、次にミグが部屋を案内するとしたら、この近くなんじゃないかと思うんです。」
「僕もそう思うよ。手分けして探せばすぐ見つかるかもしれないけど、結局全員が合流するのに時間がかかるしね。大変かもしれないけど、今は全員で行動する方がいいと思う。」
「じゃあそうしよっか。部屋はこっちにあるよ。」
テト様の案内で、今度は物置部屋へと移動した。
「何ここ…!埃っぽい!」
部屋に置かれた家具の上に、埃が白く積もっている。床全体と天井からぶら下がっている照明器具までも埃にまみれてしまっているようだ。
「本当にここ、ミグさんが案内したのかしら~?」
「そのはずだけど…。」
「部屋の前を通ったってだけで、中には入ってないんじゃない?」
「果たしてそれは、ここへ来た事になるのか?」
「なんだか僕…自信無くなって来ました…。」
「そんな事言わないでよルカ。せっかく来たんだから、探してみようよ。」
「そうですね…わかりました。」
食堂や図書室とは違い、狭い部屋の中に物が詰め込まれている為、移動するだけでも一苦労だった。
「これだけ物が沢山あると大変だね…。」
「ルカくん。ちょっとそっち持ってくれる?狭くて通れないの…。」
「うん。わかった!」
僕はリアーナと共に、物を退かしながら部屋の奥へと進んで行った。
「姉さん。そっちの方行けそうか?」
「なんとか通れそうだわ~。」
「なら、そっちは任せたぞ。俺はこっちの方を見てみる。」
部屋の中央では、シェリアさんとリーガルさんが物と物の間を掻い潜るようにしてカードを探している。
「テ、テト様…!流石にそこは通れないと思います…。」
「え、そうかな?」
「おーいルカ~。そっちが終わったら、こっちも手伝ってくれない?」
「あ、はーい!」
全員で協力しつつ、部屋の中を調べて行くと、壊れかけている椅子の上に同様のカードを見つけた。
「あ!ありました!」
「本当?よかった~。」
「それには、何て書いて…」
「まずは部屋から出ましょ~。ここじゃ落ち着いて話も出来ないわ~。」
「そうだな…そうした方が良さそうだ。」
彼女の提案で部屋を出て廊下に集まると、手に持っていたカードを彼等に見せた。
「これは…【く】?」
「【へ】じゃないか?」
「私も【へ】に見えるけれど~…。」
「えー?絶対【く】ですよ!ね?マスター。」
「うん。僕も【く】だと思う。」
「テト様はどう思いますか?」
「え?うーん…【へ】かなぁ?」
カードの向きによって2通りの見え方になる為、僕達の意見は見事に別れた。
「今まで見つけたカードを繋げて読むと【ぎよく】か【ぎよへ】になりますけど…。」
「意味がわからないな…。」
「うーん…順番が違うのかな?」
「シェリア。さっきの日記もう1回読んでくれる?」
「ええ。わかったわ。…今日は、ミグに城の中を案内してもらった。食堂でご飯を食べた後、図書室、物置部屋を歩いて周り、外に出て王妃様のお墓を遠くから眺…」
「あ!もしかして、物置部屋の次は王妃様の墓なんじゃない?」
「4文字目があるって事?」
「うん。3文字じゃ意味がわからないし、順番も合ってるとなると、それしか考えられないと思う。」
「なら外に行ってみよう。」
今度は全員で城の外に出ると、中庭を通って石碑へと向かった。大きな石碑の隣に、半分程の大きさの小さな石碑が並んで立っている。
「こっちの大きい方が、僕の母…王妃の墓だよ。」
「隣の小さい方は、誰の墓なんですか?」
「そっちは…執事だったシグのものだよ。」
「あ…シグさんの…。」
前方に立つ大小の石の下に、テト様の大切な人が2人も眠っている。それを黙って見つめる彼に、どのような言葉をかけたらいいのかわからなかった。
「…ルナがここに来たかは僕にもわからないけど、とにかく周りを探してみよっか。」
「はい…そうですね。」
「石碑の裏にこれが!」
僕の予想通り、王妃様の墓の裏で例のカードが見つかった。
「これで全部のはずだよね?」
「日記を読んだ感じでは、5文字目はないだろうな。」
「4文字目は【ざ】かぁ…。」
近くにあった庭石の上に、4枚のカードを並べて置いた。
「順番通りに並べると【ぎよくざ】か【ぎよへざ】って事になるね。」
「ぎよくざ?うーん…どこかで聞いた事があるような…。」
「聞き覚えがあるのなら、3文字目は【く】かもしれないわね~。」
「ん…?なんか【よ】だけ小さくない?」
「あれ?ほんとだ。」
「そっか…!カードに書いてあったのは、きっと玉座【ぎょくざ】の事だよ!」
「玉座って…なんですか?」
「国の王が座る椅子の事だ。俺も見た事はないが、本で読んだ事がある。」
「とにかく見に行ってみない?案内するよ。」
城の中に入ると、長い階段を上って最上階にある王の間へと向かった。
「あれが…玉座?」
扉を開けると、入口から奥へ向かって赤い絨毯が真っ直ぐ伸びていた。その先には、身長よりも高さのある大きな椅子が鎮座している。
「扉があるとすれば、玉座の裏側でしょうか?」
「あの大きさなら、扉があってもおかしくなさそうだね。」
「それにしても素敵な部屋ねぇ~。床も天井も綺麗だし、広々としてるわ~。」
「そりゃそうだよ。この国で1番偉い、国王だけが座れる椅子が置いてあるんだからね。」
「いずれはあの椅子に、テト様が座るのですよね?」
「気が早いよ~。まだ父は健在だし、僕も子供だから…国のトップに立つなんていつになる事やら…」
「あ!ありました!これです!」
椅子の裏側に、色鮮やかな扉が張り付いていた。玉座の形に合わせるように、今までの扉とは少しだけ形状が違っている。
「すごい色だね…。」
「うん…目が痛くなりそう…。」
「素晴らしい…!この色合いは、中々出せるものじゃないぞ。」
「えぇ…!?これのどこが素晴らしいの!?」
「特にこの青!青というものは、色の中で最も鮮やかさを出しにくい色で…」
「あーはいはい!わかったわかった。その話は、後でゆっくり聞いてあげるから!」
クラーレさんは、熱く語り出したリーガルさんの口元を手で抑え、僕達の側を離れて行った。
「よかったねルカくん!扉を見つけられて。」
「ありがとう!みんなにカードを探してもらったおかげだよ。それと…すみません。テト様にまで手伝わせてしまって…。」
「いいよいいよ。宝探しをしているようで楽しかったし、こうして君と話が出来…」
「紫や緑といった色も!色の組み合わせから生まれるもので、色を重ねて鮮やかさを出すのは難し…」
「もー!リーガル!色の話はわかったってばー!」
「…あの子に捕まる前に、先へ進んだ方が良さそうね~。」
「あはは…そうします。」
「またねルカくん。そっちの生活が落ち着いたら、ギルドにも顔を出してよね?」
「うん!わかった。」
「良かったら城にも顔を出してよ。君ならいつでも大歓迎だから。」
「身体に気をつけてね~ルカくん。応援してるわ~。」
彼等に笑顔で見送られながら、扉を開いて次の階へ足を踏み入れた。
「あ、ありがとうございます!」
シェリアさんから紅茶を受け取り、ゆっくりと口に運んだ。僕達は再びルナの部屋に集まり、紅茶を片手にそれぞれ見た場所の話を始めた。
「いくら広いと言っても、誰も見つけられないなんてね…一体どこにあるんだろう?」
「外には見当たらなかったですけど、その辺にある扉に変化がある訳でもなさそうですね。」
「となると…俺達が立ち入れないような場所か?」
「上の階にある部屋は一通り見て回ったはずだけど…。見落としてる可能性はあるね。」
「誰も居ないみたいですし、私達も見に行くのはどうですか?」
「では…テト様が回った場所を、もう一度全員で見て回って…」
「あら?何かしら~これ。」
持っていた紅茶のポットを机に置き、空いた右手で1冊の本を手に取った。
「随分傷んだ本だな。見た目は古文書のようだが…」
「読んでみれば何の本かわかるんじゃない?」
「じゃあ読んでみるわね。…今日から、この部屋で新しい生活が始まる。周りがキラキラ輝いて見えて、これは夢なんじゃないかと思ってしまう程だ。…手書きの文字のようだから、誰かの日記みたいねぇ~。」
「続きは?」
「えっと~…今の所、思い出せる事は何も無いけど、テトが力になってくれるから心強い。明日は街へ行く事になった。行った覚えのない場所ばかりで目が回りそうだけど、記憶を戻す為に頑張らなきゃ!…って書いてあるわ。」
「街に…?あ!もしかしたらルナの日記かもしれない!城に来た次の日に、街へ出かけたんだ。」
「自身の記憶が無いように書いてある辺りを見ると…そのようですね。」
「どうしてルナの日記がそんな所にあるんだろう?」
「ねぇシェリア。何かそこに挟まってない?」
彼女が持っていた日記の真ん中辺りに、折り畳まれた細長い紙が挟まっていた。
「一体何の紙だ?」
「何か書いてあるね…えっと…。少女の記憶を辿った先に、未来へ続く扉あり…。」
「扉って…僕達が探してる扉の事でしょうか?」
「うーん…断言は出来ないけど、その可能性が高いだろうね。」
「少女っていうのはルナの事かしら~?」
「恐らくな。」
「なら、その日記を読んでルナが行った場所に向かえば、何か手がかりがあるかもしれないよね!」
「シェリアさん。続きを読んでくれる?」
「わかりました~。」
彼女はページをめくって、書かれた文字を読み上げた。
~今日は、馬車に乗って街へ出かけた。私の執事をしてくれる事になったミグは、優しいけれどちょっと怖い。怒られないように気をつけなきゃ…。それと、路地で変な人に絡まれた時に、王国騎士のアリサさんに助けてもらった。かっこよくて頼りになりそうな人だった。今日も思い出す事はなかったが、アリサさんがギルドという所で活動している事を知った。ギルドってどんな所なのか、すごく興味が湧いた。今日はとにかく沢山人に会う、目まぐるしい1日だった。~
「わぁ…すごく懐かしい。ミグやアリサの事まで、日記に書いてたんだなぁ。」
「街に行った時の事書いてるけど、手がかりは街の中にあったりする…?」
「それは無いと思う!私、さっきお城の敷地から出ようとしたんだけど、いつの間にか戻されてたの。多分、この辺りから離れられないようになってるんだと思う…。」
「ならもっと続きを読むしかないな。」
「じゃあ、次のページを読むわね~。」
~今日は、ミグに城の中を案内してもらった。食堂でご飯を食べた後、図書室、物置部屋を歩いて周り、外に出て王妃様のお墓を遠くから眺めた。そこでテトを見つけて、建国記念日の今日が王妃様の命日だという事をミグが教えてくれた。~
「あ、そこじゃない?食堂でご飯を食べて、図書室と物置部屋に行ったって所…。」
「どうやらそうみたいだな。」
「じゃあまずは、食堂に何か手がかりがないか探しに行こう。」
部屋を出て食堂へ向かうと、全員で部屋の中を散策し始めた。
「手がかりって一体なんだろうね?」
「ここに扉がある訳じゃないんだよね?扉の場所を教えてくれる手紙…とか?」
「そんな都合のいい手紙、あればいいけど…。」
「兄さん。食器棚の中に、こんなものがあったぞ。」
こちらに歩み寄って来たリーガルさんが、手のひらサイズのカードをクラーレさんに差し出した。
「何これ…。」
「大きな文字で【ぎ】と書かれているな。」
「ぎ…?これが手がかりなのかな?」
「他に変わった様子は見られないし…そうなんじゃないかしら~?」
「ひとまず次の場所に行ってみませんか?確か…図書室でしたよね?」
「そうだね…行ってみよう。」
食堂へ来た時と同じように、テト様の後に続いて廊下を歩き始めた。
「図書室かぁ…。かなり広いから、探すのに時間かかりそうだね…。」
「本の事なら俺に任せろ。」
「ちょっとリーガル。探し物ついでに、本を読み漁ったりしないでよ?」
「そんな事…する訳ないだろう。」
「リーガルは、私が見張ってるから心配しないで~。」
「ね、姉さんまで…。」
「手分けして探せばきっと見つかるよ!これだけ人数がいるんだもん。」
「そうだね!僕も頑張って探すよ。」
図書室へ辿り着くと、手分けして部屋の中にある手がかりを探し始めた。部屋の広さに加え、本当に図書室にあるかも分からないような手探り状態の中、並んでいる本棚を隅々まで見て回った。
「あった…!あったよーみんなー!」
しばらくして、部屋の端の方からリアーナが大きな声をあげた。
彼女の手に握られていたのは、先程と同じ文字の書かれた1枚のカードだった。
「今度は【よ】って書いてありますね。」
「これってもしかして、文字を繋げると扉の場所がどこだかわかるんじゃないですか?」
「なるほど…それなら、扉の場所の手がかりと言えるね。」
「次はどこだったっけ?」
「確か…物置部屋でしたよね?」
「物置部屋かぁ…。思い付くだけでも3部屋はあるけど…。」
「手分けして探します?」
「そうねぇ…それしかなさそうよね~。」
「待ってください。…あの、テト様。その3部屋の内、ここから1番近いのはどこですか?」
「えっと…階段を降りてすぐの所にある部屋かな。」
「なら、そこに行きましょう!」
「どうしてそこだと断言出来る?」
「ただの憶測なんですけど…図書室に行った後、次にミグが部屋を案内するとしたら、この近くなんじゃないかと思うんです。」
「僕もそう思うよ。手分けして探せばすぐ見つかるかもしれないけど、結局全員が合流するのに時間がかかるしね。大変かもしれないけど、今は全員で行動する方がいいと思う。」
「じゃあそうしよっか。部屋はこっちにあるよ。」
テト様の案内で、今度は物置部屋へと移動した。
「何ここ…!埃っぽい!」
部屋に置かれた家具の上に、埃が白く積もっている。床全体と天井からぶら下がっている照明器具までも埃にまみれてしまっているようだ。
「本当にここ、ミグさんが案内したのかしら~?」
「そのはずだけど…。」
「部屋の前を通ったってだけで、中には入ってないんじゃない?」
「果たしてそれは、ここへ来た事になるのか?」
「なんだか僕…自信無くなって来ました…。」
「そんな事言わないでよルカ。せっかく来たんだから、探してみようよ。」
「そうですね…わかりました。」
食堂や図書室とは違い、狭い部屋の中に物が詰め込まれている為、移動するだけでも一苦労だった。
「これだけ物が沢山あると大変だね…。」
「ルカくん。ちょっとそっち持ってくれる?狭くて通れないの…。」
「うん。わかった!」
僕はリアーナと共に、物を退かしながら部屋の奥へと進んで行った。
「姉さん。そっちの方行けそうか?」
「なんとか通れそうだわ~。」
「なら、そっちは任せたぞ。俺はこっちの方を見てみる。」
部屋の中央では、シェリアさんとリーガルさんが物と物の間を掻い潜るようにしてカードを探している。
「テ、テト様…!流石にそこは通れないと思います…。」
「え、そうかな?」
「おーいルカ~。そっちが終わったら、こっちも手伝ってくれない?」
「あ、はーい!」
全員で協力しつつ、部屋の中を調べて行くと、壊れかけている椅子の上に同様のカードを見つけた。
「あ!ありました!」
「本当?よかった~。」
「それには、何て書いて…」
「まずは部屋から出ましょ~。ここじゃ落ち着いて話も出来ないわ~。」
「そうだな…そうした方が良さそうだ。」
彼女の提案で部屋を出て廊下に集まると、手に持っていたカードを彼等に見せた。
「これは…【く】?」
「【へ】じゃないか?」
「私も【へ】に見えるけれど~…。」
「えー?絶対【く】ですよ!ね?マスター。」
「うん。僕も【く】だと思う。」
「テト様はどう思いますか?」
「え?うーん…【へ】かなぁ?」
カードの向きによって2通りの見え方になる為、僕達の意見は見事に別れた。
「今まで見つけたカードを繋げて読むと【ぎよく】か【ぎよへ】になりますけど…。」
「意味がわからないな…。」
「うーん…順番が違うのかな?」
「シェリア。さっきの日記もう1回読んでくれる?」
「ええ。わかったわ。…今日は、ミグに城の中を案内してもらった。食堂でご飯を食べた後、図書室、物置部屋を歩いて周り、外に出て王妃様のお墓を遠くから眺…」
「あ!もしかして、物置部屋の次は王妃様の墓なんじゃない?」
「4文字目があるって事?」
「うん。3文字じゃ意味がわからないし、順番も合ってるとなると、それしか考えられないと思う。」
「なら外に行ってみよう。」
今度は全員で城の外に出ると、中庭を通って石碑へと向かった。大きな石碑の隣に、半分程の大きさの小さな石碑が並んで立っている。
「こっちの大きい方が、僕の母…王妃の墓だよ。」
「隣の小さい方は、誰の墓なんですか?」
「そっちは…執事だったシグのものだよ。」
「あ…シグさんの…。」
前方に立つ大小の石の下に、テト様の大切な人が2人も眠っている。それを黙って見つめる彼に、どのような言葉をかけたらいいのかわからなかった。
「…ルナがここに来たかは僕にもわからないけど、とにかく周りを探してみよっか。」
「はい…そうですね。」
「石碑の裏にこれが!」
僕の予想通り、王妃様の墓の裏で例のカードが見つかった。
「これで全部のはずだよね?」
「日記を読んだ感じでは、5文字目はないだろうな。」
「4文字目は【ざ】かぁ…。」
近くにあった庭石の上に、4枚のカードを並べて置いた。
「順番通りに並べると【ぎよくざ】か【ぎよへざ】って事になるね。」
「ぎよくざ?うーん…どこかで聞いた事があるような…。」
「聞き覚えがあるのなら、3文字目は【く】かもしれないわね~。」
「ん…?なんか【よ】だけ小さくない?」
「あれ?ほんとだ。」
「そっか…!カードに書いてあったのは、きっと玉座【ぎょくざ】の事だよ!」
「玉座って…なんですか?」
「国の王が座る椅子の事だ。俺も見た事はないが、本で読んだ事がある。」
「とにかく見に行ってみない?案内するよ。」
城の中に入ると、長い階段を上って最上階にある王の間へと向かった。
「あれが…玉座?」
扉を開けると、入口から奥へ向かって赤い絨毯が真っ直ぐ伸びていた。その先には、身長よりも高さのある大きな椅子が鎮座している。
「扉があるとすれば、玉座の裏側でしょうか?」
「あの大きさなら、扉があってもおかしくなさそうだね。」
「それにしても素敵な部屋ねぇ~。床も天井も綺麗だし、広々としてるわ~。」
「そりゃそうだよ。この国で1番偉い、国王だけが座れる椅子が置いてあるんだからね。」
「いずれはあの椅子に、テト様が座るのですよね?」
「気が早いよ~。まだ父は健在だし、僕も子供だから…国のトップに立つなんていつになる事やら…」
「あ!ありました!これです!」
椅子の裏側に、色鮮やかな扉が張り付いていた。玉座の形に合わせるように、今までの扉とは少しだけ形状が違っている。
「すごい色だね…。」
「うん…目が痛くなりそう…。」
「素晴らしい…!この色合いは、中々出せるものじゃないぞ。」
「えぇ…!?これのどこが素晴らしいの!?」
「特にこの青!青というものは、色の中で最も鮮やかさを出しにくい色で…」
「あーはいはい!わかったわかった。その話は、後でゆっくり聞いてあげるから!」
クラーレさんは、熱く語り出したリーガルさんの口元を手で抑え、僕達の側を離れて行った。
「よかったねルカくん!扉を見つけられて。」
「ありがとう!みんなにカードを探してもらったおかげだよ。それと…すみません。テト様にまで手伝わせてしまって…。」
「いいよいいよ。宝探しをしているようで楽しかったし、こうして君と話が出来…」
「紫や緑といった色も!色の組み合わせから生まれるもので、色を重ねて鮮やかさを出すのは難し…」
「もー!リーガル!色の話はわかったってばー!」
「…あの子に捕まる前に、先へ進んだ方が良さそうね~。」
「あはは…そうします。」
「またねルカくん。そっちの生活が落ち着いたら、ギルドにも顔を出してよね?」
「うん!わかった。」
「良かったら城にも顔を出してよ。君ならいつでも大歓迎だから。」
「身体に気をつけてね~ルカくん。応援してるわ~。」
彼等に笑顔で見送られながら、扉を開いて次の階へ足を踏み入れた。
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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愛していました。待っていました。でもさようなら。
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カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
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