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第15章︰夢のような時間
第141話
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「…え?」
扉の向こうには、思いもよらぬ光景が広がっていた。
天井に飾られた煌びやかな照明具、地面に敷かれた豪華な絨毯、どれも目にした事のない高級そうな調度品の数々…そして、それらよりも先に目に入ったのは見覚えのある人達の姿だった。
「あれ?随分遅かったね。」
「な、なんで…こんな所に…。」
ギルドマスターのクラーレ・セシル、そして彼の兄弟のシェリアさんとリーガルさん、さらにギルドメンバーのリアーナ・ロゼッタが、広い部屋の中央でテーブルを囲みお茶を飲んでくつろいでいた。下の階でも他のメンバーと会う事はあったが、全員がベッドやソファーの上で眠った状態だった為、平然としている4人を見て唖然とした。
「…ーいルカくん?」
「え…!な、何?」
「何?じゃないよ~。せっかくの紅茶、冷めちゃうよ?」
「こ、紅茶を飲んでる場合じゃないと思うんだけど…。」
「そんな事言わないで~?ほら、ルカくんの席も用意してあげるから~。」
リアーナに背中を押され、シェリアさんが用意した椅子に腰を下ろした。彼女がカップを差し出すのと同時に、隣に座っていたリーガルさんがお菓子の乗った皿を僕の元へ寄せた。
「中々美味いぞ。」
「リーガルさんまで、そんな呑気な事を…。」
「まずは飲んで、落ち着きましょう?それからゆっくりお話したらいいわ~。」
「そうだよルカ。どうしてそんなに焦ってるの?」
「う…。…わかりました。」
彼等の強引な誘いを断り切れず、用意された紅茶とお菓子を渋々口に含んだ。
ここがどこなのか尋ねると、サトラテールに建設されたミッド城の一室だという。
「僕はそこのソファーに寝てたんだけど、突然誰かの声が聞こえて目が覚めたんだ。そしたらテーブルの上に紅茶とお菓子が用意されてて、この手紙が側に置いてあってね。」
彼が差し出した紙に視線を落とすと、書かれた内容を読み上げた。
「此度はミッド城にお越しくださいまして、誠にありがとうございます…。ささやかながら、紅茶と菓子をご用意しました。テト様がこの部屋にお越しになるまで、くつろいでお待ちください…。…シ、シグルズ・カタストル…!」
「シグルズさんって、確かテト様のお付きの方よねぇ~?もう亡くなったって聞いたけれどぉ…。」
「そ、そう…ですね。」
彼女の言う通り、テト様の執事だった彼は騎士団長としての任務を全うし、既に亡くなっている。
「どうしてシグルズさんの手紙があるのかは謎だけど…そもそも、私達がなんでここにいるのかもわからないんだよね…。」
「それでみんなは、ここでテト様を待ってたんだね。」
「ああ。まさかルカが来るとは思わなかったがな。」
「ルカは、どうしてここに?」
「えっと…じゃあ、僕が知ってる範囲で状況を説明し…」
ーバン!
「シグ!!!」
背後の扉が勢いよく開き、1人の青年が部屋に飛び込んで来た。
「テ、テト様…!」
「っ…君は…ルカ?」
突如部屋へやってきたのは、ミッド王国の王子であるテトファラージ・ミッドだった。彼を交え、ここが僕の夢の中である事を彼等に説明した。
「夢にしては…随分現実味があるよね。紅茶やお菓子が美味しく感じるし…不思議だなぁ…。」
「けれど、夢だって言うなら私達がここにいるのも、シグルズさんからの手紙があるのも納得出来るわね~。」
「え!シグから手紙が!?何て書いてあったの?」
「テト様が来るまで、この部屋で待つようにと…。」
「そ、そっか…。」
シグさんの名前を聞いてその場に立ち上がった彼は、手紙の内容を聞いてゆっくりと腰を下ろした。
「テト様は、どうしてこの部屋に?」
「自分の部屋で寝ていた所をシグに起こされて、しばらく話をしていたんだ。そしたら急に、ルナの部屋に行くって言って居なくなっちゃって…。」
「ではここは、彼女の部屋だと?」
「うん。ルナが居なくなった後も、部屋はそのままにしていたんだ。」
「ここが…ルナの部屋…。」
改めて部屋の中を見回すと、女の子が喜びそうな可愛らしい人形や装飾品が飾られている事に気づいた。ルナがお城で暮らしていた事はミグから聞いていたが、あまり詳しくは聞かされていなかった。
「それじゃあ、話を整理すると…。この城のどこかにある、鮮やかな色をした扉を探して次の階へ進むんだね?」
「はい…!」
「城の敷地はかなりの広さだろう?日が暮れるまでに見つかるといいが…。」
「あ、それは大丈夫だと思います。夢の中なので、ずっと明るいままのはずです。」
「なら、ゆっくり探せるわね~。」
「もうシェリア!ルカくんは、出来るだけ早く次に進みたいんだよ?そんなにのんびりもしていられないよ!」
「ここは手分けして探そう。テト様は、この部屋でお待ち下さい。」
「僕も探すの手伝うよ!みんなが知らないような部屋とか、入りづらい所を見て回るね。」
「ありがとうございますテト様…!」
「じゃあ、一通り見て回ったらこの部屋に集合しよう。」
各所にバラけて、城の中を見て回る事になった。今までの傾向から扉のありそうな場所を自分なりに推測し、長い廊下を歩き進めていく。
「あら~ルカくん。」
「あ、シェリアさん!」
廊下の途中でシェリアさんと出会い、彼女の元へ駆け寄った。
「どう?見つかった~?」
「いえ…まだ…。」
「そうよねぇ…。扉と言うくらいだから、きっとどこかの部屋の扉じゃないかと思っているのだけれど~…。」
「僕もそう思って、とりあえず廊下を歩いてるんですけど…。」
「他に扉のある場所と言ったら、どんな所かしらね~?」
「部屋の中に、別の扉があるとか…?あとは、タンスやクローゼットの扉が変わってる可能性も…。」
「…これは探すのに時間がかかりそうねぇ~。」
「ごめんなさい…こんな事に付き合わせてしまって…。」
「いいのよ~。ルカくんの頼みだもの。とにかく歩き回っていれば、誰か1人くらいは見つけられると思うわ~。頑張りましょうルカくん。」
「はい!」
軽く手を振り、その場を去っていく彼女を見送った後、再び廊下を歩き出した。
「あ、ルカ。」
「クラーレさん…!」
廊下に扉がない事を確認し、手当り次第に部屋の中を見て回っていると、窓辺に立っているクラーレさんの姿を見つけた。部屋の中央には大きなテーブルがあり、その周りに椅子がいくつも置かれている。
「ここは…食堂でしょうか?」
「そうみたいだね。部屋の中を一通り確認したけど、ここは違ったみたい。」
「そうですか…。」
「他の部屋は見て回った?」
「はい。色んな部屋に入ってみてるんですけど…数が多くて時間がかかりそうです。」
「…早く進みたい気持ちはわかるけど、あんまり無理したらだめだよ?いくら夢の中だからって、頑張り過ぎていい事なんてないんだから。焦らずゆっくり…とまでは言わないけど、焦ってばかりもよくないからね?」
「そうですね…わかりました!」
「じゃあ僕は、2階の方に行ってみるよ。」
「あ、はい。お願いします。」
彼と別れた後、確認済みの食堂を離れて別の部屋へと向かった。
「ここは…図書室かぁ。」
ルナの部屋の3倍程の広さがあり、大量の本が棚の中に収められている。
「さすがに図書室に扉は…うーん。」
心の中では無いと思いながらも、憶測だけで無いと判断するのもどうかと思い、部屋の奥へと歩みを進めた。歩いている通路の両脇に長々と続く本棚に、自然と目を奪われてしまう。
「見た事ない本ばっかり…。これだけの量を一体どこから集…ぅわ!?」
床に置かれた物に足を取られ、前方に体勢を崩した。そのまま地面に膝と手をつき、恐る恐る後ろを振り返った。
「だ、大丈夫か?ルカ…」
「あ…れ…?リーガルさん…なんでここに…。」
床に積み重ねられた本が崩れ、その近くにリーガルさんが座り込んでいる。彼が差し出した手を握り、その場に立ち上がった。
「すまん…怪我はなかったか?」
「は、はい!大丈夫です。」
「ならよかった。」
「あの…リーガルさんはここで何を…。」
「…たまたまこの部屋に辿り着き、つい本に手が伸びてしまってだな…。」
なんとなく想像はしていたが、どうやら彼は床に座り込んで本を読んでいたらしい。空いている時間を利用して、毎日のように本を読む程の読書家の彼にとって、まさにここは天国と言えよう。
「あー…なるほど…。…気持ちはわかります!僕も色んな本があるなーと思いながら、よそ見して歩いてたので…。」
「王城の図書室とだけあって、かなりの本が保管されているからな。興味が湧くのは当然だ。」
「それはそうですけど…今は扉を探してますし…。」
「そ、そうだったな…。これを元に戻したら、俺も探すのを再開しよう…。」
「は、はい…お願いします…。」
読書を中断させてしまった事に罪悪感を抱きつつ、図書室の中を一通り見て回る事にした。
「あ…テト様…。」
「え?あぁ…君か。扉は見つかったかい?」
「いいえ…まだです。」
「そっか…。」
城の中で様々な部屋に立ち入って見たものの、結局扉を見つける事は出来なかった。外に扉があるかもしれないと思った僕は、城の前にある中庭を散策する事にしたのだ。
「流石は夢の中だね。普通、この季節じゃ咲かないような珍しい花が咲いてる。」
「本当ですね!…あれ?よく見ると、赤とピンクの花ばっかり…」
「あ、気づいた?この庭の花は全部シグが植えて、本人がわざとそうしたんだって。」
「わざと?」
「うん。メイドから聞いた話なんだけど…ほら、僕の髪って赤とピンクを足したような色でしょ?だから花も、それに近い色にしたんだってさ。」
「へぇ~!そうなんですね!」
「だから、この花を見てるとシグの事を思い出すんだ。どんな思いで…植えたのかなって…。」
「テト様…。」
「っと…こんな話をしてる場合じゃなかったね。僕は中に戻るよ。」
「あ、はい!お気をつけて…。」
彼の後ろ姿は、どこか寂しさを感じさせるような気がした。
「リアーナ?そこで何してるの?」
「え!?あ…ルカくん…。」
城の裏手にある池の側で、彼女は水に足を浸していた。
「涼んでたの?」
「まぁ…それもあるんだけど…。実はさっきテト様とお会いして、この池の水が怪我に効くって話を聞いたの。」
「へぇ~…って、リアーナどこか怪我してるの!?」
「た、大した怪我じゃないよ!ちょっと転んで擦りむいただけで…。」
「そっか…。それで…どう?怪我に効いてるような感じはする?」
「うーん…まだよくわかんないや。テト様の言う事を信じない訳じゃないけど、怪我を治す池なんて聞いた事ないし…。」
「けどこの池、すごく水が透き通ってるね。底に沈んでる石まで見える。」
「うんうん。泳いでる魚も光が当たってすごく綺麗!」
「そうだリアーナ。扉は見つけた?」
「あー…ううん。まだ…。」
「そっかぁ…。じゃあ、もう少しゆっくりして来てよ。僕は中に戻るから。」
「あ!でも、そろそろ戻った方がいいよね?みんな待ってるかもしれないし。」
「そっか!なら一緒に戻ろう。」
「うん!」
建物の中と外を全員で見て回ったが、結局誰も扉を見つける事は出来なかった。
扉の向こうには、思いもよらぬ光景が広がっていた。
天井に飾られた煌びやかな照明具、地面に敷かれた豪華な絨毯、どれも目にした事のない高級そうな調度品の数々…そして、それらよりも先に目に入ったのは見覚えのある人達の姿だった。
「あれ?随分遅かったね。」
「な、なんで…こんな所に…。」
ギルドマスターのクラーレ・セシル、そして彼の兄弟のシェリアさんとリーガルさん、さらにギルドメンバーのリアーナ・ロゼッタが、広い部屋の中央でテーブルを囲みお茶を飲んでくつろいでいた。下の階でも他のメンバーと会う事はあったが、全員がベッドやソファーの上で眠った状態だった為、平然としている4人を見て唖然とした。
「…ーいルカくん?」
「え…!な、何?」
「何?じゃないよ~。せっかくの紅茶、冷めちゃうよ?」
「こ、紅茶を飲んでる場合じゃないと思うんだけど…。」
「そんな事言わないで~?ほら、ルカくんの席も用意してあげるから~。」
リアーナに背中を押され、シェリアさんが用意した椅子に腰を下ろした。彼女がカップを差し出すのと同時に、隣に座っていたリーガルさんがお菓子の乗った皿を僕の元へ寄せた。
「中々美味いぞ。」
「リーガルさんまで、そんな呑気な事を…。」
「まずは飲んで、落ち着きましょう?それからゆっくりお話したらいいわ~。」
「そうだよルカ。どうしてそんなに焦ってるの?」
「う…。…わかりました。」
彼等の強引な誘いを断り切れず、用意された紅茶とお菓子を渋々口に含んだ。
ここがどこなのか尋ねると、サトラテールに建設されたミッド城の一室だという。
「僕はそこのソファーに寝てたんだけど、突然誰かの声が聞こえて目が覚めたんだ。そしたらテーブルの上に紅茶とお菓子が用意されてて、この手紙が側に置いてあってね。」
彼が差し出した紙に視線を落とすと、書かれた内容を読み上げた。
「此度はミッド城にお越しくださいまして、誠にありがとうございます…。ささやかながら、紅茶と菓子をご用意しました。テト様がこの部屋にお越しになるまで、くつろいでお待ちください…。…シ、シグルズ・カタストル…!」
「シグルズさんって、確かテト様のお付きの方よねぇ~?もう亡くなったって聞いたけれどぉ…。」
「そ、そう…ですね。」
彼女の言う通り、テト様の執事だった彼は騎士団長としての任務を全うし、既に亡くなっている。
「どうしてシグルズさんの手紙があるのかは謎だけど…そもそも、私達がなんでここにいるのかもわからないんだよね…。」
「それでみんなは、ここでテト様を待ってたんだね。」
「ああ。まさかルカが来るとは思わなかったがな。」
「ルカは、どうしてここに?」
「えっと…じゃあ、僕が知ってる範囲で状況を説明し…」
ーバン!
「シグ!!!」
背後の扉が勢いよく開き、1人の青年が部屋に飛び込んで来た。
「テ、テト様…!」
「っ…君は…ルカ?」
突如部屋へやってきたのは、ミッド王国の王子であるテトファラージ・ミッドだった。彼を交え、ここが僕の夢の中である事を彼等に説明した。
「夢にしては…随分現実味があるよね。紅茶やお菓子が美味しく感じるし…不思議だなぁ…。」
「けれど、夢だって言うなら私達がここにいるのも、シグルズさんからの手紙があるのも納得出来るわね~。」
「え!シグから手紙が!?何て書いてあったの?」
「テト様が来るまで、この部屋で待つようにと…。」
「そ、そっか…。」
シグさんの名前を聞いてその場に立ち上がった彼は、手紙の内容を聞いてゆっくりと腰を下ろした。
「テト様は、どうしてこの部屋に?」
「自分の部屋で寝ていた所をシグに起こされて、しばらく話をしていたんだ。そしたら急に、ルナの部屋に行くって言って居なくなっちゃって…。」
「ではここは、彼女の部屋だと?」
「うん。ルナが居なくなった後も、部屋はそのままにしていたんだ。」
「ここが…ルナの部屋…。」
改めて部屋の中を見回すと、女の子が喜びそうな可愛らしい人形や装飾品が飾られている事に気づいた。ルナがお城で暮らしていた事はミグから聞いていたが、あまり詳しくは聞かされていなかった。
「それじゃあ、話を整理すると…。この城のどこかにある、鮮やかな色をした扉を探して次の階へ進むんだね?」
「はい…!」
「城の敷地はかなりの広さだろう?日が暮れるまでに見つかるといいが…。」
「あ、それは大丈夫だと思います。夢の中なので、ずっと明るいままのはずです。」
「なら、ゆっくり探せるわね~。」
「もうシェリア!ルカくんは、出来るだけ早く次に進みたいんだよ?そんなにのんびりもしていられないよ!」
「ここは手分けして探そう。テト様は、この部屋でお待ち下さい。」
「僕も探すの手伝うよ!みんなが知らないような部屋とか、入りづらい所を見て回るね。」
「ありがとうございますテト様…!」
「じゃあ、一通り見て回ったらこの部屋に集合しよう。」
各所にバラけて、城の中を見て回る事になった。今までの傾向から扉のありそうな場所を自分なりに推測し、長い廊下を歩き進めていく。
「あら~ルカくん。」
「あ、シェリアさん!」
廊下の途中でシェリアさんと出会い、彼女の元へ駆け寄った。
「どう?見つかった~?」
「いえ…まだ…。」
「そうよねぇ…。扉と言うくらいだから、きっとどこかの部屋の扉じゃないかと思っているのだけれど~…。」
「僕もそう思って、とりあえず廊下を歩いてるんですけど…。」
「他に扉のある場所と言ったら、どんな所かしらね~?」
「部屋の中に、別の扉があるとか…?あとは、タンスやクローゼットの扉が変わってる可能性も…。」
「…これは探すのに時間がかかりそうねぇ~。」
「ごめんなさい…こんな事に付き合わせてしまって…。」
「いいのよ~。ルカくんの頼みだもの。とにかく歩き回っていれば、誰か1人くらいは見つけられると思うわ~。頑張りましょうルカくん。」
「はい!」
軽く手を振り、その場を去っていく彼女を見送った後、再び廊下を歩き出した。
「あ、ルカ。」
「クラーレさん…!」
廊下に扉がない事を確認し、手当り次第に部屋の中を見て回っていると、窓辺に立っているクラーレさんの姿を見つけた。部屋の中央には大きなテーブルがあり、その周りに椅子がいくつも置かれている。
「ここは…食堂でしょうか?」
「そうみたいだね。部屋の中を一通り確認したけど、ここは違ったみたい。」
「そうですか…。」
「他の部屋は見て回った?」
「はい。色んな部屋に入ってみてるんですけど…数が多くて時間がかかりそうです。」
「…早く進みたい気持ちはわかるけど、あんまり無理したらだめだよ?いくら夢の中だからって、頑張り過ぎていい事なんてないんだから。焦らずゆっくり…とまでは言わないけど、焦ってばかりもよくないからね?」
「そうですね…わかりました!」
「じゃあ僕は、2階の方に行ってみるよ。」
「あ、はい。お願いします。」
彼と別れた後、確認済みの食堂を離れて別の部屋へと向かった。
「ここは…図書室かぁ。」
ルナの部屋の3倍程の広さがあり、大量の本が棚の中に収められている。
「さすがに図書室に扉は…うーん。」
心の中では無いと思いながらも、憶測だけで無いと判断するのもどうかと思い、部屋の奥へと歩みを進めた。歩いている通路の両脇に長々と続く本棚に、自然と目を奪われてしまう。
「見た事ない本ばっかり…。これだけの量を一体どこから集…ぅわ!?」
床に置かれた物に足を取られ、前方に体勢を崩した。そのまま地面に膝と手をつき、恐る恐る後ろを振り返った。
「だ、大丈夫か?ルカ…」
「あ…れ…?リーガルさん…なんでここに…。」
床に積み重ねられた本が崩れ、その近くにリーガルさんが座り込んでいる。彼が差し出した手を握り、その場に立ち上がった。
「すまん…怪我はなかったか?」
「は、はい!大丈夫です。」
「ならよかった。」
「あの…リーガルさんはここで何を…。」
「…たまたまこの部屋に辿り着き、つい本に手が伸びてしまってだな…。」
なんとなく想像はしていたが、どうやら彼は床に座り込んで本を読んでいたらしい。空いている時間を利用して、毎日のように本を読む程の読書家の彼にとって、まさにここは天国と言えよう。
「あー…なるほど…。…気持ちはわかります!僕も色んな本があるなーと思いながら、よそ見して歩いてたので…。」
「王城の図書室とだけあって、かなりの本が保管されているからな。興味が湧くのは当然だ。」
「それはそうですけど…今は扉を探してますし…。」
「そ、そうだったな…。これを元に戻したら、俺も探すのを再開しよう…。」
「は、はい…お願いします…。」
読書を中断させてしまった事に罪悪感を抱きつつ、図書室の中を一通り見て回る事にした。
「あ…テト様…。」
「え?あぁ…君か。扉は見つかったかい?」
「いいえ…まだです。」
「そっか…。」
城の中で様々な部屋に立ち入って見たものの、結局扉を見つける事は出来なかった。外に扉があるかもしれないと思った僕は、城の前にある中庭を散策する事にしたのだ。
「流石は夢の中だね。普通、この季節じゃ咲かないような珍しい花が咲いてる。」
「本当ですね!…あれ?よく見ると、赤とピンクの花ばっかり…」
「あ、気づいた?この庭の花は全部シグが植えて、本人がわざとそうしたんだって。」
「わざと?」
「うん。メイドから聞いた話なんだけど…ほら、僕の髪って赤とピンクを足したような色でしょ?だから花も、それに近い色にしたんだってさ。」
「へぇ~!そうなんですね!」
「だから、この花を見てるとシグの事を思い出すんだ。どんな思いで…植えたのかなって…。」
「テト様…。」
「っと…こんな話をしてる場合じゃなかったね。僕は中に戻るよ。」
「あ、はい!お気をつけて…。」
彼の後ろ姿は、どこか寂しさを感じさせるような気がした。
「リアーナ?そこで何してるの?」
「え!?あ…ルカくん…。」
城の裏手にある池の側で、彼女は水に足を浸していた。
「涼んでたの?」
「まぁ…それもあるんだけど…。実はさっきテト様とお会いして、この池の水が怪我に効くって話を聞いたの。」
「へぇ~…って、リアーナどこか怪我してるの!?」
「た、大した怪我じゃないよ!ちょっと転んで擦りむいただけで…。」
「そっか…。それで…どう?怪我に効いてるような感じはする?」
「うーん…まだよくわかんないや。テト様の言う事を信じない訳じゃないけど、怪我を治す池なんて聞いた事ないし…。」
「けどこの池、すごく水が透き通ってるね。底に沈んでる石まで見える。」
「うんうん。泳いでる魚も光が当たってすごく綺麗!」
「そうだリアーナ。扉は見つけた?」
「あー…ううん。まだ…。」
「そっかぁ…。じゃあ、もう少しゆっくりして来てよ。僕は中に戻るから。」
「あ!でも、そろそろ戻った方がいいよね?みんな待ってるかもしれないし。」
「そっか!なら一緒に戻ろう。」
「うん!」
建物の中と外を全員で見て回ったが、結局誰も扉を見つける事は出来なかった。
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