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第15章︰夢のような時間
第134話
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「ん…。」
目を開けると、辺りは薄暗く、物がたくさん置いてある埃っぽい場所だった。
広い部屋の中に、ぽつんぽつんと裸の豆電球が天井からぶら下がっている。
「ここは…?」
「…だ…誰か……。」
「だ、誰?」
「………お兄…ちゃ……ん。」
「お兄…ちゃん…?」
か細い少女の声が微かに聞こえて来る。
辺りを見渡すが、暗いせいで少女の姿はどこにも見つからなかった。
「どこにいるの?」
「助け…て…お兄ちゃ……ん…。」
「わ、わかった!待ってて!今行……って…あれ…。」
ーガチャガチャ
金属がぶつかり合う音と共に、動かそうとした足の動きが止まる。足元を見ると、足枷がはめられて動けない状態になっていた。
「な、なにこれ…。」
「……い…や…やだ………やめ…て!」
「大丈夫!?えっと…どこかに鍵は…。」
足だけでなく、手まで拘束されていて、思うように動くことができなかった。身体を捩りながら、少しずつ前に進んでいく。
「どこだ…鍵…どこかにあるはずなのに…っ。」
「ルカ!」
僕の目の前に、使い魔のルナが姿を現した。
「ル、ルナ!どうしてここに…。」
「ルカの事を助けに来たの!待っててね…今、魔法で鍵を作るから。」
彼女は親指を噛んで血を出すと、魔法を唱え始めた。
「あ、あれ…?」
物を作り出す魔法“ファブリケ”を詠唱したはずが、彼女の手元には何も握られていなかった。魔法を得意としている彼女が初歩的な血の魔法を失敗するなど、今までに1度も見た事がない。そんな状況に、魔法を発動した本人が1番驚いている様子だった。
「嘘…失敗した…?」
「ルナ!…まずは落ち着け。」
指から滴り落ちる血を呆然と眺めていた彼女の元に、今度はミグが姿を現した。彼は彼女の肩にそっと手を触れ、取り出したハンカチを彼女に差し出した。
「ご、ごめん…。まさか作れないとは思わなくて…。」
「使い魔になって、身体の仕組みが変わったせいだろうな…。慣れれば作れる様になるはずだ。心配するな。」
「大丈夫だよルナ!鍵は僕が作るから、2人は枷を外してくれる?」
「どうやって魔法を発動するの?指から血を出さない事にはどうにも…。」
「俺じゃ鍵は作れないし…。」
「ミグなら、武器は作れるよね?針で指を刺せば、少しは血が出るでしょ?」
「い、痛いと思うぞ…?」
「それでもやらなきゃ!」
「…わかった。」
なんとか魔法を発動して手足の枷を外すと、その場に立ち上がった。前方に明かりは一切なく、数メートル先は真っ暗で何も見えなくなっている。
「この先に行くの…?」
「暗い中を進むのは危ないだろうから…まずは明るくしよっか!」
「そうだな。」
「じゃあランタンを作るね。」
「ごめんねルカ…役に立てなくて…。」
「ううん。そんな事ないよ。今までは僕が頼ってばっかりだったから…こういう時くらい頼りにしてよね。」
「う、うん!」
作り出したランタンを右手に持ち、空いた左手で隣に立つ彼女の手をとった。
「えっ!?ど、どうしたの…ルカ…。」
「ルナ、暗い所苦手でしょ?一緒に行こ。」
「ありがとう…///」
「なら、ランタンは俺が持つよ。この先何があるかわからないし、武器を持ってた方がいいだろ?」
「うん…そうだね。」
万全の準備を整え、恐る恐る暗闇の中を進み始めた。
「誰かいる…!」
ランタンの明かりで、少し離れた所に人の足元が照らし出された。踵が高くなっている黒いヒールを履いている様子から、女性である事が伺える。彼女は立ち止まった僕達の方にゆっくりと近付き、暗がりの中から見覚えのある顔が現れた。
「え…ヴェラ?」
「ようやくここまで辿り着けたな。随分時間がかかったものだ。」
「なんでヴェラがここにいるの!?」
「それよりここはどこなんだ?暗くて何も見えやしない。」
「それについては、私の方からご説明します。」
彼女が立っているその後ろから、白い装いに身を包んだミラ様が歩み寄って来た。白と黒、対称的な2人が並んでいるのを見て、まるで天使と悪魔のようだった。
「え!?なんでミラ様が…」
「いいからまずはそこに座れ。」
彼女が指をさした先には、廃墟のような空間に似合わない小綺麗なソファーが置かれていた。
「こんなのいつの間に…。」
「質問の多い奴だな。説明すると言っているだろう?」
「説明してくれるのはミラ様でしょ…。」
「お茶を用意しますね。どうぞお座りに。」
彼女達の言う通り、用意された長いソファーの上に並んで腰を下ろした。いつの間にか追加されているテーブルの上には、どこで用意したのか全く検討のつかないティーセットが置かれている。
「こんなにゆっくりしてていいのかな…。」
「それ以前に謎が多すぎて、どこからつっこんでいいかわからん…。」
紅茶を啜りながら、隣に座っているミグが苦渋の表情を浮かべた。
「まずは、この夢の話からだな。」
「あー…そうだよね?こんなありもしない状況になってるのって、やっぱり夢だからだよね…?」
「なら、これはルカの夢?」
「正確には、ルカが人間だった頃の夢だ。」
「これが僕の夢?見た覚えがないんだけど…。」
「印象が薄い夢は、記憶に留まらない事が多い。故に、不思議すぎたこの夢は殆ど覚えていないのだろう。」
「あ、あぁ…。なるほど…。」
不思議な出来事が起こっているという事自体は、どうやら彼女達も自覚があるらしい。
「繰り返し何度も見ていた夢のはずだが…覚えていないのなら簡単に説明してやろう。人間だったお前は、手足を拘束された状況では何もする事が出来なかった。先に進もうにも鍵を見つけられず、鍵を見つけても暗闇の中を進む事が出来ず…まさに為す術がなかった。しかし、吸血鬼になった事で道が開けたという訳だ。」
「そ、それで…?」
見た覚えのない夢の話をヴェラから聞かされたが、その話を僕達にする彼女の意図が理解出来なかった。
「では次は、私の方からこの場所について説明しましょう。」
ヴェラの隣に座っていたミラ様が、持っていたカップをテーブルに置いて口を開いた。
「ここは昔、ディオース島に建てられていた塔です。主に…罪人を収容するのに使われていました。」
「あ、あの…ディオース島なのに、ミグとルナが普通にいるのはなんでですか?」
「それは、ここが地下だからでしょう。吸血鬼を寄せ付けない為の結界は、地上でしか効果を発揮しないのです。」
「じゃあ…僕達がここに居る理由は…?」
恐る恐るそう問いかけると、彼女は胸元で指を絡め、祈るように目を閉じた。
「あなたに、お願いしたい事があるのです。」
「お願いって?」
「この塔に捕らえられたままになっている、1人の少女を助けて欲しいのです。」
彼女はゆっくりと目を開き、真っ直ぐに僕の目を見つめてそう言った。
「ちょっと待てよ…!なんで俺等がそんな事する必要があるんだ?」
「そうだよ!ヴェラがいるんだったら、何も私達がする事ないんじゃないの?」
突然の要求に、彼等は揃って異を唱えた。
「娘を助ける為には、この塔の頂上に行かなければならない。しかしここから上は、神聖な力の結界があるせいで、吸血鬼は存在する事が出来ない。いくら私でも不可能だ。」
「その点あなたなら…吸血鬼としての能力が失われても、人間としての状態で身体を維持する事が出来ます。」
「で、でも…。」
正直ここまで来られたのは、2人の助けがあったからこそだった。吸血鬼になったからとはいえ、出来ない事はまだまだ沢山ある。自分1人で、誰かを助けるという自信が今の僕にはなかった。
「ルカ。今度は私が、お前に問おう。お前は何故、危険を冒してでも暗闇の中を進んでここまで来た。」
「えっと…女の子の声がしたんだ。お兄ちゃん助けて…って。何故だかその声が、僕の事を呼んでるような気がして…。」
「お前に妹なんていないだろ?」
「そうなんだけど…なんとなく…?」
どこからか聞こえてくる謎の少女の声が、何故だか助けなければいけないという気持ちにさせ、僕をここまで突き動かしていた。
「その少女は…以前私が殺めてしまった吸血鬼、ステライラージュの妹なのです…。」
「ステラの妹なら…ルカの妹みたいなものだよね!?」
「そっか…!だから懐かしい感じがしたんだ…。」
ステラは僕の元の姿であり、そのステラの妹となれば全く関係がないとは言えなかった。
「なぁ…ミラ様が殺めてしまったって事は、もう死んでるのか?それなのに、なんで声が聞こえるんだ?」
「彼女は死んだ後も成仏する事が出来ず、この場所でずっと彷徨い続けています…。ですから、彼女が安らかに眠れるよう、私の元へ連れて来て欲しいのです。」
「ルカ…どうする…?」
「………やってみるよ。」
どうなるかは、自分でもよくわからない。しかし、僕の中にある助けたいという想いが揺らいでいた決意を固めた。
「よく言ったルカ。流石、私の弟子だな。」
「別に、ヴェラが師匠だからって訳じゃないんだけどね…。」
「では早速、地上へ行く為の扉に案内しましょう。こちらです。」
暗闇の中をさらに奥へ進むと、色とりどりの鮮やかな扉が目の前に現れた。
「うわぁ…目が痛くなるような扉だね…。」
「これ作ったやつのセンスを疑うよ…。」
「あはは…。」
「この塔は、それぞれの階にあるこの扉を開く事で次の階へ進む事が出来ます。」
「じゃあ、この…色鮮やかな扉を目印にすればいいんだね。」
「まぁ…わかりやすいといえばわかりやすいか…。」
「ルカ。ここから先はお前1人になる。もう一度聞くが、本当に進むんだな?」
「うん!1人でも何とかしてみせるよ。」
僕はヴェラの目を見て、決意を新たにした。彼女は口元を緩め、小さく頷いた。
「ごめんねルカ…。私、また役に立てないみたい…。」
彼女の後ろから、ルナがこちらに歩み寄り申し訳なさそうに俯いた。
「…そんな事ない。2人は僕の身体の中に居てくれるでしょ?だから、不思議と心強いんだ。」
「随分頼もしくなったな。会ったばかりの頃は、俺が守ってやらなきゃと思ってたのに。」
「何言ってるの?これから先もミグに守ってもらうよ?そのおかげで、僕は強くいられるんだから…!」
「ふっ…わかったよ。…怪我しないようにな。」
「うん…行ってくるね。」
扉の前に立ち、両手を押し当てた。足を前に踏み出して扉を開けると、眩しい光が差し込み目を閉じた。
目を開けると、辺りは薄暗く、物がたくさん置いてある埃っぽい場所だった。
広い部屋の中に、ぽつんぽつんと裸の豆電球が天井からぶら下がっている。
「ここは…?」
「…だ…誰か……。」
「だ、誰?」
「………お兄…ちゃ……ん。」
「お兄…ちゃん…?」
か細い少女の声が微かに聞こえて来る。
辺りを見渡すが、暗いせいで少女の姿はどこにも見つからなかった。
「どこにいるの?」
「助け…て…お兄ちゃ……ん…。」
「わ、わかった!待ってて!今行……って…あれ…。」
ーガチャガチャ
金属がぶつかり合う音と共に、動かそうとした足の動きが止まる。足元を見ると、足枷がはめられて動けない状態になっていた。
「な、なにこれ…。」
「……い…や…やだ………やめ…て!」
「大丈夫!?えっと…どこかに鍵は…。」
足だけでなく、手まで拘束されていて、思うように動くことができなかった。身体を捩りながら、少しずつ前に進んでいく。
「どこだ…鍵…どこかにあるはずなのに…っ。」
「ルカ!」
僕の目の前に、使い魔のルナが姿を現した。
「ル、ルナ!どうしてここに…。」
「ルカの事を助けに来たの!待っててね…今、魔法で鍵を作るから。」
彼女は親指を噛んで血を出すと、魔法を唱え始めた。
「あ、あれ…?」
物を作り出す魔法“ファブリケ”を詠唱したはずが、彼女の手元には何も握られていなかった。魔法を得意としている彼女が初歩的な血の魔法を失敗するなど、今までに1度も見た事がない。そんな状況に、魔法を発動した本人が1番驚いている様子だった。
「嘘…失敗した…?」
「ルナ!…まずは落ち着け。」
指から滴り落ちる血を呆然と眺めていた彼女の元に、今度はミグが姿を現した。彼は彼女の肩にそっと手を触れ、取り出したハンカチを彼女に差し出した。
「ご、ごめん…。まさか作れないとは思わなくて…。」
「使い魔になって、身体の仕組みが変わったせいだろうな…。慣れれば作れる様になるはずだ。心配するな。」
「大丈夫だよルナ!鍵は僕が作るから、2人は枷を外してくれる?」
「どうやって魔法を発動するの?指から血を出さない事にはどうにも…。」
「俺じゃ鍵は作れないし…。」
「ミグなら、武器は作れるよね?針で指を刺せば、少しは血が出るでしょ?」
「い、痛いと思うぞ…?」
「それでもやらなきゃ!」
「…わかった。」
なんとか魔法を発動して手足の枷を外すと、その場に立ち上がった。前方に明かりは一切なく、数メートル先は真っ暗で何も見えなくなっている。
「この先に行くの…?」
「暗い中を進むのは危ないだろうから…まずは明るくしよっか!」
「そうだな。」
「じゃあランタンを作るね。」
「ごめんねルカ…役に立てなくて…。」
「ううん。そんな事ないよ。今までは僕が頼ってばっかりだったから…こういう時くらい頼りにしてよね。」
「う、うん!」
作り出したランタンを右手に持ち、空いた左手で隣に立つ彼女の手をとった。
「えっ!?ど、どうしたの…ルカ…。」
「ルナ、暗い所苦手でしょ?一緒に行こ。」
「ありがとう…///」
「なら、ランタンは俺が持つよ。この先何があるかわからないし、武器を持ってた方がいいだろ?」
「うん…そうだね。」
万全の準備を整え、恐る恐る暗闇の中を進み始めた。
「誰かいる…!」
ランタンの明かりで、少し離れた所に人の足元が照らし出された。踵が高くなっている黒いヒールを履いている様子から、女性である事が伺える。彼女は立ち止まった僕達の方にゆっくりと近付き、暗がりの中から見覚えのある顔が現れた。
「え…ヴェラ?」
「ようやくここまで辿り着けたな。随分時間がかかったものだ。」
「なんでヴェラがここにいるの!?」
「それよりここはどこなんだ?暗くて何も見えやしない。」
「それについては、私の方からご説明します。」
彼女が立っているその後ろから、白い装いに身を包んだミラ様が歩み寄って来た。白と黒、対称的な2人が並んでいるのを見て、まるで天使と悪魔のようだった。
「え!?なんでミラ様が…」
「いいからまずはそこに座れ。」
彼女が指をさした先には、廃墟のような空間に似合わない小綺麗なソファーが置かれていた。
「こんなのいつの間に…。」
「質問の多い奴だな。説明すると言っているだろう?」
「説明してくれるのはミラ様でしょ…。」
「お茶を用意しますね。どうぞお座りに。」
彼女達の言う通り、用意された長いソファーの上に並んで腰を下ろした。いつの間にか追加されているテーブルの上には、どこで用意したのか全く検討のつかないティーセットが置かれている。
「こんなにゆっくりしてていいのかな…。」
「それ以前に謎が多すぎて、どこからつっこんでいいかわからん…。」
紅茶を啜りながら、隣に座っているミグが苦渋の表情を浮かべた。
「まずは、この夢の話からだな。」
「あー…そうだよね?こんなありもしない状況になってるのって、やっぱり夢だからだよね…?」
「なら、これはルカの夢?」
「正確には、ルカが人間だった頃の夢だ。」
「これが僕の夢?見た覚えがないんだけど…。」
「印象が薄い夢は、記憶に留まらない事が多い。故に、不思議すぎたこの夢は殆ど覚えていないのだろう。」
「あ、あぁ…。なるほど…。」
不思議な出来事が起こっているという事自体は、どうやら彼女達も自覚があるらしい。
「繰り返し何度も見ていた夢のはずだが…覚えていないのなら簡単に説明してやろう。人間だったお前は、手足を拘束された状況では何もする事が出来なかった。先に進もうにも鍵を見つけられず、鍵を見つけても暗闇の中を進む事が出来ず…まさに為す術がなかった。しかし、吸血鬼になった事で道が開けたという訳だ。」
「そ、それで…?」
見た覚えのない夢の話をヴェラから聞かされたが、その話を僕達にする彼女の意図が理解出来なかった。
「では次は、私の方からこの場所について説明しましょう。」
ヴェラの隣に座っていたミラ様が、持っていたカップをテーブルに置いて口を開いた。
「ここは昔、ディオース島に建てられていた塔です。主に…罪人を収容するのに使われていました。」
「あ、あの…ディオース島なのに、ミグとルナが普通にいるのはなんでですか?」
「それは、ここが地下だからでしょう。吸血鬼を寄せ付けない為の結界は、地上でしか効果を発揮しないのです。」
「じゃあ…僕達がここに居る理由は…?」
恐る恐るそう問いかけると、彼女は胸元で指を絡め、祈るように目を閉じた。
「あなたに、お願いしたい事があるのです。」
「お願いって?」
「この塔に捕らえられたままになっている、1人の少女を助けて欲しいのです。」
彼女はゆっくりと目を開き、真っ直ぐに僕の目を見つめてそう言った。
「ちょっと待てよ…!なんで俺等がそんな事する必要があるんだ?」
「そうだよ!ヴェラがいるんだったら、何も私達がする事ないんじゃないの?」
突然の要求に、彼等は揃って異を唱えた。
「娘を助ける為には、この塔の頂上に行かなければならない。しかしここから上は、神聖な力の結界があるせいで、吸血鬼は存在する事が出来ない。いくら私でも不可能だ。」
「その点あなたなら…吸血鬼としての能力が失われても、人間としての状態で身体を維持する事が出来ます。」
「で、でも…。」
正直ここまで来られたのは、2人の助けがあったからこそだった。吸血鬼になったからとはいえ、出来ない事はまだまだ沢山ある。自分1人で、誰かを助けるという自信が今の僕にはなかった。
「ルカ。今度は私が、お前に問おう。お前は何故、危険を冒してでも暗闇の中を進んでここまで来た。」
「えっと…女の子の声がしたんだ。お兄ちゃん助けて…って。何故だかその声が、僕の事を呼んでるような気がして…。」
「お前に妹なんていないだろ?」
「そうなんだけど…なんとなく…?」
どこからか聞こえてくる謎の少女の声が、何故だか助けなければいけないという気持ちにさせ、僕をここまで突き動かしていた。
「その少女は…以前私が殺めてしまった吸血鬼、ステライラージュの妹なのです…。」
「ステラの妹なら…ルカの妹みたいなものだよね!?」
「そっか…!だから懐かしい感じがしたんだ…。」
ステラは僕の元の姿であり、そのステラの妹となれば全く関係がないとは言えなかった。
「なぁ…ミラ様が殺めてしまったって事は、もう死んでるのか?それなのに、なんで声が聞こえるんだ?」
「彼女は死んだ後も成仏する事が出来ず、この場所でずっと彷徨い続けています…。ですから、彼女が安らかに眠れるよう、私の元へ連れて来て欲しいのです。」
「ルカ…どうする…?」
「………やってみるよ。」
どうなるかは、自分でもよくわからない。しかし、僕の中にある助けたいという想いが揺らいでいた決意を固めた。
「よく言ったルカ。流石、私の弟子だな。」
「別に、ヴェラが師匠だからって訳じゃないんだけどね…。」
「では早速、地上へ行く為の扉に案内しましょう。こちらです。」
暗闇の中をさらに奥へ進むと、色とりどりの鮮やかな扉が目の前に現れた。
「うわぁ…目が痛くなるような扉だね…。」
「これ作ったやつのセンスを疑うよ…。」
「あはは…。」
「この塔は、それぞれの階にあるこの扉を開く事で次の階へ進む事が出来ます。」
「じゃあ、この…色鮮やかな扉を目印にすればいいんだね。」
「まぁ…わかりやすいといえばわかりやすいか…。」
「ルカ。ここから先はお前1人になる。もう一度聞くが、本当に進むんだな?」
「うん!1人でも何とかしてみせるよ。」
僕はヴェラの目を見て、決意を新たにした。彼女は口元を緩め、小さく頷いた。
「ごめんねルカ…。私、また役に立てないみたい…。」
彼女の後ろから、ルナがこちらに歩み寄り申し訳なさそうに俯いた。
「…そんな事ない。2人は僕の身体の中に居てくれるでしょ?だから、不思議と心強いんだ。」
「随分頼もしくなったな。会ったばかりの頃は、俺が守ってやらなきゃと思ってたのに。」
「何言ってるの?これから先もミグに守ってもらうよ?そのおかげで、僕は強くいられるんだから…!」
「ふっ…わかったよ。…怪我しないようにな。」
「うん…行ってくるね。」
扉の前に立ち、両手を押し当てた。足を前に踏み出して扉を開けると、眩しい光が差し込み目を閉じた。
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