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第13章︰吸血鬼の道
第117話
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「あ、ルカ!」
この街に来てから数日が経ち、この日もいつもと同じように研究の手伝いをしていた。手伝いと言っても雑用ばかりで、研究室に溜まった資料やゴミを運び出す作業が主な役目となっている。
「おはようスレイ!」
「ん?誰だ?そいつ。」
スレイの斜め後ろに、彼と同じ背格好の少年が立っていた。髪や目の色は対照的な青系の色で、そのせいか顔色まで悪いような印象を受ける。
「こいつは、俺の弟のレヴィ。まだ挨拶してなかったなーと思って連れて来たんだ!」
「初めまして!ルカです!」
「ガゼル・マーレンだ。よろしく。」
「は、初めてまして…。」
軽い握手をするべく彼に向かって手を差し出すと、ビクリと身体を震わせて急に廊下を走り出してしまった。
「あ、おい…レヴィ!ごめん2人共!また今度、家に遊びに来てよ!」
「う、うん!そうするね…!」
「なんなんだ?あれ…。」
「ガゼルが怖かったんじゃない?」
「…俺にはお前を避けてるように見えたぞ。」
「う…。」
この間ソルティにあった時にも感じたが、彼等は僕の事を怖がっているように見えた。人間にとって吸血鬼は恐ろしいもので、それをわかったつもりでいた。しかし、いざ目の前で避けられるのを見ると落ち込まずにはいられなかった。
「ルーカーくーん!」
「うわぁ!?」
スレイ達と入れ替わるようにして、背後からマコが抱きついてきた。彼女は僕を見つける度に、こうして身体を密着させてくる。何度同じ事をされたかわからないが、彼女のこの行動にいつまで経っても慣れる事はないだろう。
「マ、マコ…!?どうしたの!?」
「ルカくんの姿が見えたからつい~。」
「ついじゃないよ…!離してよ~!」
「いいじゃないか。お前の事を好むやつは中々いないぞ?」
「そうだよぉルカくん~。」
「そ、それは嬉しいけど苦し…」
「あ、ごめんねぇ~。」
「マコも休憩か?」
「そうなのぉ!2人と一緒に、ご飯を食べようかな~と思ってぇ。」
「確かにそろそろ昼だな。」
「でも僕達、研究所の食堂しか食べる場所知らないよ…?」
「それならあたしがいい所、知ってるよぉ。」
「え?そうなの?」
「うんっ。案内するからついてきてぇ~。」
彼女の案内でお昼を食べる場所に向かう為、研究所から街の方へと歩き始めた。
「あれ…?ここって…。」
案内されたのは、見覚えのある赤い屋根の民家だった。
「どうかしたのぉ?」
「ここ、ソルティの家でしょ?1度、彼女を連れて来た事があるんだ。」
「え~!知り合いだったんだぁ!」
「マコも知り合いなんだな。」
「うんっ。ソルティちゃんは、先生の患者さんだからねぇ。」
「患者…そういえば、ソルティは何の病気なの?あんまり具合悪そうに見えないけど…。」
「ごめんねぇ。病気の事は、誰にも言わないようにって言われてるのぉ。」
「そっか…そうだよね…!ごめん…。」
「んで、昼飯を食べに来たのになんでここに来たんだ?」
「まぁいいからいいから~。とりあえず入ろぉ?」
「あ、うん…。」
彼女の後に続いて家の中に入ると、ソファーに座って本を読んでいるソルティの姿を見つけた。
「ソルティちゃーん。」
「あ、マコ!いらっしゃ…」
マコの後ろに立っている僕達を見た彼女は、金縛りに合ったかのようにその場で動きを止めてしまった。
「お、お邪魔します…!」
「ごめんねぇソルティちゃん。急なんだけど、2人も一緒にお昼食べてもいいかなぁ?」
「あ、うん…大丈夫だよ!なら、4人分のご飯を作るね。」
「悪いな…急に押しかけて。」
「なんでも手伝うから言ってね!」
「は、はい…!じゃあ…お野菜を洗ってもらってもいいですか?」
「うん!わかった!」
4人で作業を分担しつつ、昼食の準備を進めていった。
「ルカくんって、お料理上手なんだねぇ~!これなんか、すっごく美味しいよぉ!」
「上手って言える程じゃないよ…!マコだって、料理を作るのに慣れてるように見えたよ?僕の勝手な偏見だけど、研究してる人って料理しないイメージだったから…。」
「私の場合はお母さんがいなかったから、自然と身についた感じかなぁ?」
「俺もマコと同じタイプだな。その点、ルカは変わってるよな。掃除も洗濯も、嫌な顔せずやってたし。」
「料理もだけど、掃除と洗濯も結構好きなんだよね。ギルドにいた時は、家事くらいしか出来なかったし…。」
「…。」
テーブルを囲んで作った料理を食べていると、斜め前に座っているソルティの視線が僕の方に向いている事に気づいた。
「ソルティ…どうかした?」
「え?あ、ごめんなさい…!その…ルカさんって、吸血鬼なんですよね…?料理を食べたり、作ったりもするんだなぁって思って…。」
「あー…うん。普通の吸血鬼ならしないかもね…。僕は元々人間だったから、人としての生活が染み付いちゃってるのかも。」
「俺はこいつが吸血鬼でも気にしないぞ。ルカが人間を襲うようには見えないからな。」
「それって僕が弱そうって事~?」
「ま、そうだな。」
「そんなにハッキリ言わなくても!まぁ…強すぎて怖がられるよりはいいかな。」
「私は…。」
彼女は、言葉を詰まらせながら視線を落とした。箸を持った手が、ほんの少しだけ震えているように見える。
「ソルティ。僕の事が怖いのは気にしなくていいよ。吸血鬼の事が怖いって思うのは、人として当たり前の感情だから…。」
「ごめんなさい…。」
「そうだソルティ!僕達がここに来た時、どんな本を読んでたの?よかったら聞かせてくれない?」
「え?えっと…さっき読んでたのは…」
「ソルティ!」
大きな音を立て、玄関の扉が勢いよく開いた。するとそこに、苦しそうな表情を浮かべたレヴィが立っていた。
「レヴィ!?一体どうし…」
「大変なんだ…!森で…狼に襲われて…!兄さんが…囮になって…」
「スレイが…!?」
「僕は剣を持ってなかったから…お前が助けを呼んでこいって…。」
「なら、助けに行かなきゃ!森って、どの方角?」
「あ、案内します…!」
「マコはソルティと一緒に家で待っててくれ。俺達で行ってくる。」
「うん…わかった!」
「はいこれ…!レヴィの剣よ!」
「ありがとうソルティ!」
「気をつけて帰って来てね…!」
家を飛び出したレヴィの後ろをついていき、急いで街の外にある森へと向かった。
「兄さん!」
「レヴィ…!」
茂みの中に身を潜めていたスレイを見つけ、彼の元に駆け寄った。
「なんでルカ達まで…。」
「狼に襲われたって聞いて、助けに来た。」
「その腕…怪我したの!?」
「大した事ないよ!ちょっと引っかかれただけで…」
「ちょっと見せて!」
右腕の服が引き裂かれ、傷口から血が滲み出していた。
「参ったな…。慌てて出てきたから、何も持ってこなかったし…。とりあえず布で止血を…」
「“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を…”」
「お、おいルカ…!」
「“…更なる力を、我に授けたまえ。キカートリックス!”」
傷口に向けた手が光出し、染み出ていた血が止まった。
「す、すげー…血が止まった…。」
「応急処置として血を止めただけだから、戻ったらオズモールさんにちゃんと治療してもらってね?」
「あ…ありがとうルカ…。」
「兄さん…狼はどうなったの…?」
「逃げ切るので精一杯で、1匹しか倒せなかったんだ…。」
「どのくらいの群れだったんだ?」
「えっと…10匹くらいいたと思う…。」
「そんなに!?」
「どうしよう…放っておいたら、森に来た人が襲われちゃうかも…。」
「なら僕達でなんとかしなきゃ!」
「なんとかって言ってもな…。3人で立ち向かうにはちょっと多過ぎるだろ…。」
「そうだよ!街に戻って手伝ってもらえる人を探した方が…。」
「その前に怪我する人が出たら意味無いよ!レヴィはスレイを連れて先に戻ってて。僕が囮になるから、ガゼルは離れた所から攻撃してくれる?」
「囮なんてやめろよ!2人で挟み込めば少しは拡散できるだろうから、まずは群れを探して…」
「2人が残るなら僕も残ります…!」
「え?でも…。」
「俺だって戦えない訳じゃないよ!傷も治してもらったし、もう平気!」
「僕達も何とかしたい気持ちはあるんです…。足でまといにはならないようにしますから…お願いします!」
「なら、お前等は無理しない程度に手伝ってくれ。ルカ、剣と盾を作ってくれるか?」
「うん、わかった!」
魔法で武器を作り上げると、スレイとレヴィが驚いた表情を浮かべていた。
「あ、2人は吸血鬼の魔法、初めて見る?」
「うん…。人と同じように魔法を使えるのは知ってたけど、物まで作り出せるんだ…。」
「吸血鬼って案外便利だろ?」
「僕の血と魔力を使って作られてる事、忘れないでよ?ガゼル。」
「…そんなに怒るなよ。」
「ガゼルが作る武器よりも脆いって事、ちゃんと頭に入れといてよね!」
「はいはい。じゃー狼の群れを探しますか。」
「2人もあんまり離れないようにね?」
「は、はい…!」
「居た…あそこ!」
「うわぁ…すごい数…。」
森の中をしばらくさまよっていると、池の側で横たわっている獣の姿があった。スレイが話した通り、10匹近くの狼が群れを成して森の中を移動しているようだった。
「近くに水場があるなら、溺れさせた方が早そうだな…。」
「なら、まずは僕が魔法で仕掛けるよ。その後、ガゼルは右から、スレイとレヴィは左から狼達を追い込んでくれる?」
「了解!」
「ルカさんは1人で平気ですか…?」
「大丈夫!魔法を使ったらガゼルの方に向かうよ。」
「気を抜くなよ。」
「ガゼルこそね。」
僕の考えた作戦通り3方向に別れた後、僕は風属性の魔法を発動した。
「“…ヴァン!”」
1番手前にいた狼が風の勢いで吹き飛ばされ、狙い通り水の中に落ちた。異変に気づいた他の狼が周りを警戒し始め、僕は身を屈めながら茂みの中を移動し始めた。
「おらぁ…!」
茂みの前方で、群れの後ろに回り込んでいたガゼルが、剣と盾を構えながら狼の群れに向かって行った。それと同時に反対側から飛び出したスレイとレヴィも、2人で上手く連携を取りながら狼を1匹ずつ退治していく。
「ルカ!お前はそのまま魔法で援護してくれ!」
「わかった!」
4人で力を合わせ、狼の群れを蹴散らして行った。半数近くの狼を退治した所で、他の狼達がその場から逃げ出し、山の方へ姿を消して行った。
「あ!逃げていくよ…!」
「追いかけないと!」
「待って、スレイ!僕は、追いかけなくていいと思う。」
「けど…ほっといたらまた森に来るかもしないよ?」
「狼だって、きっと生きる為に必死なんだよ。僕達みたいに言葉が話せないから、考えてる事はわからないけど…。2人を襲ったのも、自分の身を守る為だったんじゃないかな?」
「それは…。」
「ま、今回は追い払えたから充分だな。日が暮れると危険だし、さっさと街に戻ろうぜ。」
「そうだね…。ソルティ達が心配してるかも。」
「わ、わかった…。」
「スレイ!」
「うわ!?なんだよソルティ…急に飛び出して…。」
玄関の扉を開けると、待っていたソルティがスレイに勢いよく抱きついた。彼女の目元は赤く腫れ、頬には涙の跡が見える。2人の事を待つ間、心配で仕方なかった彼女の心情が見て取れた。
「怪我は!?大丈夫なの!?」
「大した事ないって。ルカに治してもらったしさ!」
「え…?ルカさんに…?」
「ルカくんすごぉい!この間は試せなかったけど、やっぱり治癒の魔法も扱えるんだねぇ~。」
「僕がしたのは止血だけだよ…!ちゃんとオズモールさんに診てもらった方がいいと思う。」
「俺等はこれから研究所に戻るし、スレイの怪我を診てくれって伝えとくよ。」
「ならあたしも帰ろうかなぁ。みんな無事だったみたいだしねぇ。」
「じゃあ僕達はこれで…!」
家を出て研究所に戻る途中、僕は森で出会った狼達の事を考えていた。
狼達が群れを作っていた事や、スレイとレヴィを襲った事、それは全て生きていく為にした事で、人間を傷つけたくてした訳ではないはずだ。それを人間達に誤解され、逆に襲われる羽目になってしまった。これは狼だけでなく、他の動物でも同じ事が言える。そしてまた、吸血鬼も同じだ。
吸血鬼の中には、人間に襲われて恨みを抱く者もいた。それぞれの行動が誤解をうみ、関係が拗れてしまったのかもしれない。
それがわかった上で僕はどうするべきなのか、もう一度自分の中で整理しようと思いを強めた。
この街に来てから数日が経ち、この日もいつもと同じように研究の手伝いをしていた。手伝いと言っても雑用ばかりで、研究室に溜まった資料やゴミを運び出す作業が主な役目となっている。
「おはようスレイ!」
「ん?誰だ?そいつ。」
スレイの斜め後ろに、彼と同じ背格好の少年が立っていた。髪や目の色は対照的な青系の色で、そのせいか顔色まで悪いような印象を受ける。
「こいつは、俺の弟のレヴィ。まだ挨拶してなかったなーと思って連れて来たんだ!」
「初めまして!ルカです!」
「ガゼル・マーレンだ。よろしく。」
「は、初めてまして…。」
軽い握手をするべく彼に向かって手を差し出すと、ビクリと身体を震わせて急に廊下を走り出してしまった。
「あ、おい…レヴィ!ごめん2人共!また今度、家に遊びに来てよ!」
「う、うん!そうするね…!」
「なんなんだ?あれ…。」
「ガゼルが怖かったんじゃない?」
「…俺にはお前を避けてるように見えたぞ。」
「う…。」
この間ソルティにあった時にも感じたが、彼等は僕の事を怖がっているように見えた。人間にとって吸血鬼は恐ろしいもので、それをわかったつもりでいた。しかし、いざ目の前で避けられるのを見ると落ち込まずにはいられなかった。
「ルーカーくーん!」
「うわぁ!?」
スレイ達と入れ替わるようにして、背後からマコが抱きついてきた。彼女は僕を見つける度に、こうして身体を密着させてくる。何度同じ事をされたかわからないが、彼女のこの行動にいつまで経っても慣れる事はないだろう。
「マ、マコ…!?どうしたの!?」
「ルカくんの姿が見えたからつい~。」
「ついじゃないよ…!離してよ~!」
「いいじゃないか。お前の事を好むやつは中々いないぞ?」
「そうだよぉルカくん~。」
「そ、それは嬉しいけど苦し…」
「あ、ごめんねぇ~。」
「マコも休憩か?」
「そうなのぉ!2人と一緒に、ご飯を食べようかな~と思ってぇ。」
「確かにそろそろ昼だな。」
「でも僕達、研究所の食堂しか食べる場所知らないよ…?」
「それならあたしがいい所、知ってるよぉ。」
「え?そうなの?」
「うんっ。案内するからついてきてぇ~。」
彼女の案内でお昼を食べる場所に向かう為、研究所から街の方へと歩き始めた。
「あれ…?ここって…。」
案内されたのは、見覚えのある赤い屋根の民家だった。
「どうかしたのぉ?」
「ここ、ソルティの家でしょ?1度、彼女を連れて来た事があるんだ。」
「え~!知り合いだったんだぁ!」
「マコも知り合いなんだな。」
「うんっ。ソルティちゃんは、先生の患者さんだからねぇ。」
「患者…そういえば、ソルティは何の病気なの?あんまり具合悪そうに見えないけど…。」
「ごめんねぇ。病気の事は、誰にも言わないようにって言われてるのぉ。」
「そっか…そうだよね…!ごめん…。」
「んで、昼飯を食べに来たのになんでここに来たんだ?」
「まぁいいからいいから~。とりあえず入ろぉ?」
「あ、うん…。」
彼女の後に続いて家の中に入ると、ソファーに座って本を読んでいるソルティの姿を見つけた。
「ソルティちゃーん。」
「あ、マコ!いらっしゃ…」
マコの後ろに立っている僕達を見た彼女は、金縛りに合ったかのようにその場で動きを止めてしまった。
「お、お邪魔します…!」
「ごめんねぇソルティちゃん。急なんだけど、2人も一緒にお昼食べてもいいかなぁ?」
「あ、うん…大丈夫だよ!なら、4人分のご飯を作るね。」
「悪いな…急に押しかけて。」
「なんでも手伝うから言ってね!」
「は、はい…!じゃあ…お野菜を洗ってもらってもいいですか?」
「うん!わかった!」
4人で作業を分担しつつ、昼食の準備を進めていった。
「ルカくんって、お料理上手なんだねぇ~!これなんか、すっごく美味しいよぉ!」
「上手って言える程じゃないよ…!マコだって、料理を作るのに慣れてるように見えたよ?僕の勝手な偏見だけど、研究してる人って料理しないイメージだったから…。」
「私の場合はお母さんがいなかったから、自然と身についた感じかなぁ?」
「俺もマコと同じタイプだな。その点、ルカは変わってるよな。掃除も洗濯も、嫌な顔せずやってたし。」
「料理もだけど、掃除と洗濯も結構好きなんだよね。ギルドにいた時は、家事くらいしか出来なかったし…。」
「…。」
テーブルを囲んで作った料理を食べていると、斜め前に座っているソルティの視線が僕の方に向いている事に気づいた。
「ソルティ…どうかした?」
「え?あ、ごめんなさい…!その…ルカさんって、吸血鬼なんですよね…?料理を食べたり、作ったりもするんだなぁって思って…。」
「あー…うん。普通の吸血鬼ならしないかもね…。僕は元々人間だったから、人としての生活が染み付いちゃってるのかも。」
「俺はこいつが吸血鬼でも気にしないぞ。ルカが人間を襲うようには見えないからな。」
「それって僕が弱そうって事~?」
「ま、そうだな。」
「そんなにハッキリ言わなくても!まぁ…強すぎて怖がられるよりはいいかな。」
「私は…。」
彼女は、言葉を詰まらせながら視線を落とした。箸を持った手が、ほんの少しだけ震えているように見える。
「ソルティ。僕の事が怖いのは気にしなくていいよ。吸血鬼の事が怖いって思うのは、人として当たり前の感情だから…。」
「ごめんなさい…。」
「そうだソルティ!僕達がここに来た時、どんな本を読んでたの?よかったら聞かせてくれない?」
「え?えっと…さっき読んでたのは…」
「ソルティ!」
大きな音を立て、玄関の扉が勢いよく開いた。するとそこに、苦しそうな表情を浮かべたレヴィが立っていた。
「レヴィ!?一体どうし…」
「大変なんだ…!森で…狼に襲われて…!兄さんが…囮になって…」
「スレイが…!?」
「僕は剣を持ってなかったから…お前が助けを呼んでこいって…。」
「なら、助けに行かなきゃ!森って、どの方角?」
「あ、案内します…!」
「マコはソルティと一緒に家で待っててくれ。俺達で行ってくる。」
「うん…わかった!」
「はいこれ…!レヴィの剣よ!」
「ありがとうソルティ!」
「気をつけて帰って来てね…!」
家を飛び出したレヴィの後ろをついていき、急いで街の外にある森へと向かった。
「兄さん!」
「レヴィ…!」
茂みの中に身を潜めていたスレイを見つけ、彼の元に駆け寄った。
「なんでルカ達まで…。」
「狼に襲われたって聞いて、助けに来た。」
「その腕…怪我したの!?」
「大した事ないよ!ちょっと引っかかれただけで…」
「ちょっと見せて!」
右腕の服が引き裂かれ、傷口から血が滲み出していた。
「参ったな…。慌てて出てきたから、何も持ってこなかったし…。とりあえず布で止血を…」
「“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を…”」
「お、おいルカ…!」
「“…更なる力を、我に授けたまえ。キカートリックス!”」
傷口に向けた手が光出し、染み出ていた血が止まった。
「す、すげー…血が止まった…。」
「応急処置として血を止めただけだから、戻ったらオズモールさんにちゃんと治療してもらってね?」
「あ…ありがとうルカ…。」
「兄さん…狼はどうなったの…?」
「逃げ切るので精一杯で、1匹しか倒せなかったんだ…。」
「どのくらいの群れだったんだ?」
「えっと…10匹くらいいたと思う…。」
「そんなに!?」
「どうしよう…放っておいたら、森に来た人が襲われちゃうかも…。」
「なら僕達でなんとかしなきゃ!」
「なんとかって言ってもな…。3人で立ち向かうにはちょっと多過ぎるだろ…。」
「そうだよ!街に戻って手伝ってもらえる人を探した方が…。」
「その前に怪我する人が出たら意味無いよ!レヴィはスレイを連れて先に戻ってて。僕が囮になるから、ガゼルは離れた所から攻撃してくれる?」
「囮なんてやめろよ!2人で挟み込めば少しは拡散できるだろうから、まずは群れを探して…」
「2人が残るなら僕も残ります…!」
「え?でも…。」
「俺だって戦えない訳じゃないよ!傷も治してもらったし、もう平気!」
「僕達も何とかしたい気持ちはあるんです…。足でまといにはならないようにしますから…お願いします!」
「なら、お前等は無理しない程度に手伝ってくれ。ルカ、剣と盾を作ってくれるか?」
「うん、わかった!」
魔法で武器を作り上げると、スレイとレヴィが驚いた表情を浮かべていた。
「あ、2人は吸血鬼の魔法、初めて見る?」
「うん…。人と同じように魔法を使えるのは知ってたけど、物まで作り出せるんだ…。」
「吸血鬼って案外便利だろ?」
「僕の血と魔力を使って作られてる事、忘れないでよ?ガゼル。」
「…そんなに怒るなよ。」
「ガゼルが作る武器よりも脆いって事、ちゃんと頭に入れといてよね!」
「はいはい。じゃー狼の群れを探しますか。」
「2人もあんまり離れないようにね?」
「は、はい…!」
「居た…あそこ!」
「うわぁ…すごい数…。」
森の中をしばらくさまよっていると、池の側で横たわっている獣の姿があった。スレイが話した通り、10匹近くの狼が群れを成して森の中を移動しているようだった。
「近くに水場があるなら、溺れさせた方が早そうだな…。」
「なら、まずは僕が魔法で仕掛けるよ。その後、ガゼルは右から、スレイとレヴィは左から狼達を追い込んでくれる?」
「了解!」
「ルカさんは1人で平気ですか…?」
「大丈夫!魔法を使ったらガゼルの方に向かうよ。」
「気を抜くなよ。」
「ガゼルこそね。」
僕の考えた作戦通り3方向に別れた後、僕は風属性の魔法を発動した。
「“…ヴァン!”」
1番手前にいた狼が風の勢いで吹き飛ばされ、狙い通り水の中に落ちた。異変に気づいた他の狼が周りを警戒し始め、僕は身を屈めながら茂みの中を移動し始めた。
「おらぁ…!」
茂みの前方で、群れの後ろに回り込んでいたガゼルが、剣と盾を構えながら狼の群れに向かって行った。それと同時に反対側から飛び出したスレイとレヴィも、2人で上手く連携を取りながら狼を1匹ずつ退治していく。
「ルカ!お前はそのまま魔法で援護してくれ!」
「わかった!」
4人で力を合わせ、狼の群れを蹴散らして行った。半数近くの狼を退治した所で、他の狼達がその場から逃げ出し、山の方へ姿を消して行った。
「あ!逃げていくよ…!」
「追いかけないと!」
「待って、スレイ!僕は、追いかけなくていいと思う。」
「けど…ほっといたらまた森に来るかもしないよ?」
「狼だって、きっと生きる為に必死なんだよ。僕達みたいに言葉が話せないから、考えてる事はわからないけど…。2人を襲ったのも、自分の身を守る為だったんじゃないかな?」
「それは…。」
「ま、今回は追い払えたから充分だな。日が暮れると危険だし、さっさと街に戻ろうぜ。」
「そうだね…。ソルティ達が心配してるかも。」
「わ、わかった…。」
「スレイ!」
「うわ!?なんだよソルティ…急に飛び出して…。」
玄関の扉を開けると、待っていたソルティがスレイに勢いよく抱きついた。彼女の目元は赤く腫れ、頬には涙の跡が見える。2人の事を待つ間、心配で仕方なかった彼女の心情が見て取れた。
「怪我は!?大丈夫なの!?」
「大した事ないって。ルカに治してもらったしさ!」
「え…?ルカさんに…?」
「ルカくんすごぉい!この間は試せなかったけど、やっぱり治癒の魔法も扱えるんだねぇ~。」
「僕がしたのは止血だけだよ…!ちゃんとオズモールさんに診てもらった方がいいと思う。」
「俺等はこれから研究所に戻るし、スレイの怪我を診てくれって伝えとくよ。」
「ならあたしも帰ろうかなぁ。みんな無事だったみたいだしねぇ。」
「じゃあ僕達はこれで…!」
家を出て研究所に戻る途中、僕は森で出会った狼達の事を考えていた。
狼達が群れを作っていた事や、スレイとレヴィを襲った事、それは全て生きていく為にした事で、人間を傷つけたくてした訳ではないはずだ。それを人間達に誤解され、逆に襲われる羽目になってしまった。これは狼だけでなく、他の動物でも同じ事が言える。そしてまた、吸血鬼も同じだ。
吸血鬼の中には、人間に襲われて恨みを抱く者もいた。それぞれの行動が誤解をうみ、関係が拗れてしまったのかもしれない。
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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