エテルノ・レガーメ

りくあ

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第13章︰吸血鬼の道

第113話

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翌日、ディオース島へ行く事になったアリサは、シェリアさんの付き添いで朝早くに出発して行った。一方、エアフォルシェンに行く事にした僕とガゼルは、街の場所を調べる為にリーガルさんの部屋を尋ねていた。

「ミッド王国の地理を調べるなら、この辺りの本だ。」
「うわぁ…結構冊数ありますね。」
「何冊か選んで部屋に持って帰るか?」
「持っていくのが大変なら、この部屋で読んでも構わないぞ。」
「いいんですか?ありがとうございますリーガルさん!」
「俺はちょっと外に出てくる。後は好きにしてくれ。」
「あぁ…わかった。」

ソファーに座り、大量に積まれた本に目を通し始めた。しばらく本を読んでいると、隣に座っていたガゼルが本をテーブルに置いて大きく伸びをした。

「だー!俺にはこんな作業向いてねぇ!」
「あはは…。紅茶でも淹れて来ようか?」
「この部屋じゃ飲めないだろ。食堂に行こう。」

食堂へやって来ると、調理場でお湯を沸かしているイルムの姿があった。

「あれ?イルムも休憩?」
「あ、2人共…!私は、マスターに頼まれてお茶を入れてるの。」
「客でも来てるのか?」
「スレイとオズモールさんが来てるよ。」
「誰だそれ…。」
「確か…別の街に派遣してるギルドのメンバーだよね?まだ会った事ないはずだから、この機会に挨拶しておこうかな…。」
「それなら俺も挨拶しとくべきだな。イルムの準備が終わったら一緒に行くか。」
「手伝うよイルム。」
「あ、ありがとう…!」



「あれ?2人も来たの?」

クラーレさんの部屋にやって来ると、彼の向かいに山吹色の短髪をした少年と灰色の髪の女性が並んで座っていた。

「あ、はい。ご挨拶した方がいいかなと思ったので…。初めまして!ルカ・クラーレです。」
「ガゼル・マーレンです。」
「お、俺、スレイ・ベールです!初めまして…!」
「2人共初めまして。私はオズモール・トワだよ。いやぁ…君、本当にルナちゃんそっくりだねぇ。」
「え?」
「丁度ルカの話をしてた所なんだ。せっかくだから、2人も一緒に話をしよう。イルム、お茶ありがとう。」
「は、はい…!では、私はこれで!」

僕とガゼルはクラーレさんの隣に腰を下ろし、先程話していた内容を聞いた。
僕とルナが吸血鬼である事やミグが使い魔になっていた事、彼女達にも隠していた内容を全て話したという。

「私達は必要なものがあって、サトラテールまで買い物に来たんだ。そのついでにギルドに顔を出そうかなと思ってね。」
「そうなんですね…!ルナからお2人の話は聞いてたので、会ってみたかったんです。」
「そうかい?なら丁度よかったねぇ。」
「それで2人は、エアフォルシェンがどこにあるかわかった?」
「色んな本を見てみたんですけど…まだ見つけられなくて…。」
「2人はどうしてそこに行こうとしてるの?」 
「その街で吸血鬼の研究をしてるって聞いて、人間に戻る方法を見つける為にそこに行きたいんです。」
「オズモールは、エアフォルシェンについて何か知ってるの?」
「私の母がエアフォルシェンで研究をしてたんだ。けど、街はもう無くなったんだよねぇ…。」
「そんな…。」

既に無くなってしまった街だとしたら、本に書かれていないのも納得出来る。エアフォルシェンに行けば、人間に戻る方法が見つかると期待していた分、失望も大きかった。

「ならもう、吸血鬼について研究してる所はないって事か…。」
「…実は、エアフォルシェンの研究を引き継いだ街があるんだ。」
「え!?ど、どこですか!」
「その街には、研究の関係者しか立ち入れない様になっててね。ルカくんが、私の条件をのんでくれるなら教えてもいいよ。」
「条件…ですか?」
「君の事を研究させて欲しい。」

彼女は僕の方を指さし、笑みを浮かべた。すると、隣に座っていたガゼルが、両手をテーブルの上に叩きつけてその場に立ち上がった。

「はぁ!?ルカを研究材料にするつもりか!?」
「材料だなんてとんでもない!ちょっと研究に協力してもらうだけだよ~。」
「ルカを殺さない保証はあんのか?」
「…確かに昔は、吸血鬼に対して恨みを持つ人が多かった。そのせいで、吸血鬼が死んでもいいと思ってた研究者もいたみたいだね。けど今は、昔みたいに吸血鬼を捕まえて殺したりはしてない。」
「研究に協力して、一体何のメリットがあるんだよ…。」
「ルカくんが研究に協力してくれるなら、研究関係者として街に入る事が出来るよ。私は研究者の1人だから、資料が見たいなら見せてあげられるしねぇ。もちろんガゼルくんも、彼の付き添いとして街に入れてもらえるように説得するよ!」
「…ルカ次第だな。」

僕はその場に俯き、手に持った紅茶を見つめた。そこに映る自分の顔が、ルナに見えるような気がした。彼女の事を考える度に、僕は心を突き動かされる。

「わかりました…。やります。」
「本当!?ありがとうルカくん!」
「オズモール。あまり無理はさせないでよ?彼はすぐ無茶をするから…。」
「無理をしようとしたら、俺が無理矢理にでも止める。心配するなマスター。」
「僕は、ガゼルが暴走しないか心配だよ…。」
「そうと決まれば、早速出発しようじゃないか!2人共、荷物をまとめてきてくれる?」
「は、はい…!」
「いや…急過ぎないか…?」
「先生はいつもこうなんだ…。研究の事になると目の色が変わっ…」
「ほら!行くよスレイ!」
「え!?ちょっと待ってよ…オズモール先生!」

名前を呼ばれたスレイは、部屋を出ていったオズモールさんを慌てて追いかけていった。

「向こうに着いたら手紙、ちょうだいね。」
「わかりました。」
「気をつけて行って来てね。…無理はしたら駄目だよ?」
「はい!…行ってきます!」



「さーて見えてきたよ。あそこがプラニナタさ!」

プラニナタは人間と吸血鬼の領土の境にあり、洞窟を抜けた先に街へ続く道が伸びていた。道の先に、周りが山で囲まれた小さな街が見える。

「街に入る為に研究所で話をつけてくるから、2人はここで待っててくれる?」
「あ、はい。わかりました。」
「ごめんねー不便な街で。急いで行ってくるよ。行こうスレイ。」
「はい!」

街の方へ向かって駆けて行く2人を見送ると、街道の脇に横たわっていた木の上に腰を下ろした。

「地図に載ってない街か…。ディオース島みたいな場所が他にもあったんだな。」
「そうだね。まだまだ知らない事がいっぱいあるもんだなぁ。」
「ところでルカ。お前、身を守る為の武器は持ってないのか?」
「普段は持ち歩かないよ。必要な時に魔法で作るんだ。」
「へぇ~。ちょっと作ってみてくれよ。」
「うん、いいよ。」

魔法を唱えると、合計10丁の銃を身体のあちこちに装備してみせた。

「いくらなんでも作りすぎじゃないか…?」
「弾を詰める時間を省略する為だよ。弾を詰めようと思ったら、銃と別に弾も作らなきゃいけなくなるでしょ?それに…弾を詰める間は隙になるし、血で作ってる武器だから壊れやすいんだ。こうして沢山作っておけば、弾が無くなったり壊れたりしてもすぐ他のが使えるでしょ?」
「いろいろ考えられてるもんだな。触ってもいいか?」
「うん。大丈夫だよ。」

右手に持っていた銃を彼に渡すと、食い入るように銃を見つめ始めた。

「思ったより簡単な造りだな…。本当に使えるのか?」
「試し撃ちしてみたら?あ、人が居ないのちゃんと確認してよ?」
「こんな所に人なんかいねーって。どれどれ…」

彼は銃を構えると、道の向かいにある木を目掛けて発射した。放たれた弾は彼の狙い通り、木の幹の中央に命中した。めり込んだ弾の周囲は皮が剥がれ、破片が地面にこぼれ落ちている。

「すげー威力…。見た目はおもちゃみてーなのに。」
「お、おもちゃだなんて失礼な!ガゼルが作った銃と同じくらいの威力が…」

ードサッ!

試し撃ちをした木の方向から、何かが地面に落ちたような音がした。

「あれ?今、木から何か落ちてこなかった?」
「そんなに上は狙ってないぞ?気のせいだろ。」
「ちょっと見て来るよ。」

音の正体を確認するべく、道を横切って木の元へ駆け寄った。木の裏を覗き込むと、そこには白い服を着た少女が倒れていた。彼女の若草色の長い髪が、青々とした草の上に広がっている。

「うわぁ!?大変だよガゼルー!人が倒れてる!」
「なっ…!俺が撃った訳じゃねーよな!?」
「血は出てないから、それは無いと思う…。気絶してるみたいだけど…どうしよう…。」
「とりあえず、街の近くまで行ってみた方がいいんじゃないか?中に入れなくても誰かに頼めるかもしれない。」
「そうだね…そうしよう!」

少女を背負い、街道を進んで街の方向へ向かった。石が積み上げられた高い壁が街を取り囲み、入口と思われる場所がアーチ状にくり抜かれている。

「なんだよ…ガラ空きじゃないか。」
「見張ってる人がいる訳でも無いし、普通に通れそうだね…。」
「入っちまうか。」
「だ、駄目だよ!待っててって言われたんだし…」
「なら俺が人を呼んでくる。お前はそこで待ってろ。」
「ま、待ってよガゼ…」
「ストーーーップ!!!」

彼が街へ入ろうとした瞬間、後ろから物凄いスピードで人が走ってきた。彼はガゼルを追い抜き、両手を大きく広げて入口の前に立ちはだかった。木のような髪色をした青年は、走ったせいで髪型が乱れ、様々な方向に寝癖が跳ねているように見える。瑠璃色の瞳が、僕達の方を睨みつけた。

「誰だお前…。」
「あんたこそ誰ッスか!ここは研究関係者のみが出入りできる街ッス!旅人は今すぐ立ち去るッス!」
「あの…僕達旅人じゃ…」
「とにかく!身元の分からないあんた達を街には入れられないッスよ!」
「んな事言っても、入口はガラ空きじゃねーか。そんなに入られたくないなら、もっとちゃんと警備しろよ。」
「そんな時間ないッス!俺達みんな、研究で忙しいッスからね。でも、ミンダヴィエルちゃんがいれば安心ッス。」
「ミンダヴィエルちゃん…?」
「ミンダヴィエルちゃんは、ここの天井に取り付けてある装置の事ッス。不審者がここに足を踏み入れた瞬間、手足を拘束して生け捕りにするッス!あ、この装置を作ったのは俺ッスよ。どうッスか~こう見えて機械には詳しいんッスよ~。」
「変な奴に捕まっちまったな…。俺達…。」

彼は広げた両手を腰にあて、自慢げに鼻を鳴らした。彼の来ていた白い服を見て、背中に背負った少女の存在を思い出した。

「そ、それなら…この子を助けて貰えませんか!さっき街道の近くで倒れてて…」
「マコ!マコじゃないッスか!?」
「知り合いか?」
「俺のいとこッス!大丈夫ッスか?どこか怪我して…」

彼は心配そうに僕の後ろに駆け寄ると、彼女の安否を確認し始めた。

「…マコ。なんでお前は寝たフリをしてるッスか。」
「え!?」
「…え~?今、丁度起きた所だよぉ?」
「どうでもいいから下りるッス!人様に迷惑をかけるもんじゃないッスよ!」

彼は、僕から引き剥がすように少女の腕を引っ張ると、僕達の前に並んで立った。

「本当にすんませんッス!うちのいとこが迷惑を…」
「いえそんな…迷惑だなんて!何事もなくてよかったです。」
「ごめんねぇ。ここ最近眠ってなかったから、つい気持ちよくなって寝ちゃったぁ~。」
「あんたも研究者なのか?」
「えぇそうよ。あたしは、マコティメリア・ジャンメルカって言うのぉ。よろしくねぇ。」
「マ、マコティ…?」
「長いからマコって呼んでぇ。君の名前は?なんて言うのぉ?」
「え、僕?ルカだよ。」
「ありがとぉルカくんっ。ここまで運んでくれてぇ。」
「ううん…!こっちこそごめん…驚かせちゃったよね…。」
「ちょっとビックリしたけどぉ…ルカくんにおぶってもらえたからよかったかなぁ~?」
「え?」
「こら、マコ!いいからさっさと帰るッスよ!」
「え~!ルカくんは?一緒に連れて行かないのぉ~?」
「彼等は部外者ッス!いくら俺達が研究者だからって、勝手には入れられないッスよ!」
「あ、僕達なら大丈夫です。ここで待つようにオズモ…」
「あれー?2人共何してるの?」
「オズモール先生!」
「え?先生?」
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