エテルノ・レガーメ

りくあ

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第13章︰吸血鬼の道

第112話

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「…ん。……カく…。…ルカくん!」
「…え?」

アリサを探しに行っていたメンバーがギルドに戻り、全員で夕食を食べていた。ヴェラに言われた話を思い返していたせいで、向かいに座っていたリアーナが、僕の名前を呼んでいた事に気付かなかった。

「どうかした?」
「どうかしたって…スープこぼしてるよ!」
「え?うわぁ!?」
「大丈夫?はい…これ!」

右手に持っていたスプーンからこぼれ落ちたスープが、胸元に染みを作っていた。隣に座っていたイルムが、布巾を僕に差し出した。

「ご、ごめんねイルム…。」
「どうしたの~ルカくん。何か悩み事でもあるのかしら?」
「えと…。ア、アリサが心配で…!まだ目を覚ましてないんですよね?」
「そうだな。けど、大きな怪我をした訳じゃないんだろ?」
「うん。眠ってるだけだから心配いらないよ。」
「大丈夫よ~ルカくん。お腹が空いたら起きてくるわよきっと。」
「あはは…!そうですね!」

夕食を終えた後、僕はクラーレさんの部屋に呼び出された。

「ルカ。ヴェラとどんな話をしたの?」
「あー…えっと…。」

アリサが狙われた理由やルナがステラかもしれないという事、ヴェラの憶測で聞いた話などを彼に伝えた。

「んー…。話の流れとしては信憑性があるけど…。そうかもしれないっていう憶測もあるから、何とも言えないね…。」
「その話を聞いて、記憶が戻った感じもしないですし…。自分の事なのかどうかすら、よくわからないんです。」
「さっきはその事を考えてたんだね。」
「はい…。クラーレさん。僕が吸血鬼だって事…みんなに話した方がいいと思うんです。それで…」

ーバン!

部屋の扉が、大きな音を立てて開いた。そこに立っていたアリサが、僕の顔を真っ直ぐ見つめていた。

「何よ今の話…。」
「アリサ!もう平気なの?身体の方は…」
「何の話をしてたかって聞いてるの!!!」

ソファーから立ち上がって彼女に向かって歩み寄ると、彼女は声を荒らげた。その声に驚き、その場で歩みを止めた。

「ア、アリサ…?」
「まずは落ち着いて話をしよう。扉を閉めて、こっちに座ってくれる?」
「…。」

彼女はクラーレさんに言われた通り、大人しく指示に従った。僕も彼女と同じように、先程まで座っていた場所に戻って腰を下ろした。

「ルカ。本当にみんなに話す?」
「…はい。いつまでも隠していられないですし…今後の事を考えると、話すべきだと思います。」
「…アリサ。体調はもう大丈夫そう?」
「…えぇ。」
「アリサには今ここで話そう。他のメンバーには僕から話すよ。その方が、みんなも混乱しないだろうし…それでいいかな?」
「はい。」
「落ち着いて聞いてねアリサ。実は…」

彼は、僕がヴェラに連れ去られた時の事を話し始めた。



「だからルカは、自分から吸血鬼になった訳じゃないんだ。今まで話をしなかったのは、みんなを混乱させない為に僕がそうするように言ったからだよ。彼を責めないでほしい。」
「話しはわかったわ…。…でも、吸血鬼に対する私の気持ちは変わらない。吸血鬼に家族を殺されたあげく、その後自殺した女性…吸血鬼に拐われ、近くの森で遺体となって見つかった子供…国家騎士として、いろんな人達を見てきたわ。」
「っ…。」

彼女の言葉の1つ1つが、自分の胸に突き刺さるような気がした。吸血鬼には吸血鬼なりの事情があるはずだが、そのように残酷な事をしていたのかと思うと、何も言い返す事が出来なかった。

「私は吸血鬼を許せないし、今後も許すつもりは無い。人の命を奪う吸血鬼を、見逃す訳にはいかないわ。」
「うん…それでいいよ。ルカの話はこんな所かな…。あとは今後の事だけど、アリサはルカとディオース島に行って欲しい。テト様には、僕からお願いしてみるから。」
「そうね…。また今回みたいに、他のメンバーを巻き込んでいられないし…大人しく従うわ。」
「…僕は行けません。」
「え?どうして?ルカだって、吸血鬼達に見つかったら捕まる可能性が…」
「僕、やりたい事…いや、やらなきゃいけない事があるんです。ディオース島でミラ様から託された本を、エアフォルシェンに届けないといけないんです。」
「それならリアーナとか…別の人にお願いすれば…。」
「それだけじゃないんです!エアフォルシェンに行けば、人間に戻る方法を見つけられるかもしれない…その可能性に賭けてみたいんです。」
「…わかった。ルカのしたいようにしていいよ。ただ…1人で行かせるのは危険だから…誰か連れて行ければいいんだけど…。ひとまずルカの話をしてみてからだね。後はみんなの反応次第かな…。」
「そうですよね…。わかりました。」
「話はまた明日だね。…アリサはお腹空いてない?夕飯がまだだよね?」
「後で適当に食べるわ。」
「適当じゃだめだよ!僕がお粥作るから、アリサは部屋で待ってて。」
「いいわよ別に…」
「いいから!」
「わ、わかったわよ…。」



「おいルカ。いるか?」

アリサの部屋にお粥を届けた後、自室に戻って休んでいると、扉の向こうからガゼルの声が聞こえてきた。

「うん…いるよ。何か用事でも…」
「ちょっと表出ろ。」
「え?…う、うん。」

彼は部屋に入るでもなく、それだけを言い残してその場から立ち去ってしまった。慌てて彼の後をついて行くと、ギルドの裏手にある木の側で立ち止まった。

「一体どうしたの?こんな所まで来て…」
「子供の頃、お袋は俺をかばって吸血鬼に殺された。親父はフェリを助けようとして、鍛治職人の命とも言える利き手が動かせなくなった。」
「えっ…。」

彼は僕に背を向けたまま、話し始めた。

「俺は親父の跡を継いで鍛治職人に、フェリはお袋の代わりにシスターになった。俺は長男だから、親父の跡を継ぐだろうなと思ってたけど…フェリはシスターなんかじゃなくて、もっとやりたい事があったはずなのにな。」
「………ごめん。」

僕は彼の背中から目を背けた。自分と同じ吸血鬼が、彼等の人生を狂わせてしまった。その事に罪悪感を感じ、自然と謝罪の言葉を口にしていた。
しばらく俯いていると、視界の端に彼の靴が映り込んだ。顔を上げると、彼の拳が僕の頬に直撃した。その勢いで後ろに倒れ込み、地面に手をついて身体を起こした。

「痛…っ!いきなり何す…」
「なんでお前が謝んだよ!お前が悪い事したのか!?」
「ぼ、僕はしてない!けど…同じ吸血鬼がガゼルのお母さんを…。それだけじゃなく、お父さんの手も、フェリの人生もめちゃくちゃにした…。」
「そうだ。だから俺は吸血鬼を許さない。けど、吸血鬼を嫌うのとお前を嫌うのは違う!」
「え…?」

彼は僕の元に歩み寄り、その場にしゃがみ込んだ。

「島にいれば吸血鬼の力が無くなって、人間として生きられるんだろ?なら、俺達と一緒に島で暮らそう。他の奴らに狙われてるのに、わざわざ危険をおかしてまでどこかに行く必要ない…!」
「ううん…危険でも行かなきゃ。人間に戻る方法を探さないと…。」
「どうしてそこまで、人間に戻る事にこだわるんだ?吸血鬼のままでもお前に変わりはないだろ!」
「自分の為だけじゃないよ。僕と同じように、吸血鬼にされちゃった人間を助ける為でもあるんだ。吸血鬼に変えられて、苦しんでる人達を側で見てきたから…。これは、僕じゃなきゃ出来ない事なんだ!」
「お前はいつもそうやって…。何でもかんでも1人で背負って…。」
「ごめんねガゼル…。でも、無理をしてでも必ずやり遂げなきゃいけない事なんだ。…こういう所が僕らしさだと思わない?」
「はぁ…。わかったよ…俺もお前と一緒に行く。」
「え!?ガゼルは島に戻らなくていいの?ウナが待ってると思うけど…。」
「それはお前だって同じだろ?家の増築も途中で投げ出しちまったし…。もし怒られたらお前も同罪だからな。」
「そ、そんなぁ!」
「ははは!冗談だよ。…殴って悪かったな。」

彼はそっと右手を差し出した。僕はそれを掴むと、2人でその場に立ち上がった。

「ううん。ありがとう。」
「殴られたのに礼を言うのか?」
「ガゼルが一緒に来てくれるなら、心強いな~と思って!」
「弟子の成長を見届けるのも、師匠の役目だからな~。」
「ちょっと待ってよ!いつからガゼルの弟子になったの!?」
「お前に銃を教えたのは俺だろ?なら俺が師匠だろ。」
「教わったのは事実だけど…弟子になったつもりはないよ!」
「細かい事は気にすんなって。もう部屋に戻ろうぜ。」
「ま、待ってよ~!」
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