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第12章︰出会いと別れの先
第111話
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「ルナ!?」
勢いよく身体を起こすと、そこはギルドにある自分の部屋だった。カーテンの隙間から朝日が漏れ、既に夜が明けていた。
「朝から騒がしいな…。一体どんな夢を見たらそうなるんだか…。」
「ヴェラ…。」
布団の上で丸くなって寝ていた黒猫のヴェラが、机に飛び乗って身体を伸ばした。
「私からのプレゼントはどうだった?」
「へ?プレゼントって?」
「ルナが出てくる夢を見させてやったんだ。血を貰った礼にな。」
「…全然嬉しくなかったよ。」
「…そう。まぁ、ルナを出すことは出来ても、内容まで良いとは限らない。お前の心次第だ。」
「僕の心?」
「ルナに対する考え方、お前がルナをどう思っているか…そういった事が夢になりやすい。」
「………。」
ルナが街に出かけたいといったのは、彼女がしたかった事ではなく、僕がしたかった事なのかもしれない。彼女の死を否定していても、心のどこかで感じていた彼女の死への不安が、夢として現れてしまったのだろうか。
「私は先に北門に向かっている。朝食を食べたらクラーレと来なさい。」
「うん…。」
「さて。じゃあ、レジデンスの方に向かって…」
北門から街を出て、クラーレさんが地図を開き出した。
「あの…クラーレさん。実は昨日、思い付いたことがあるんですけど…試してみてもいいですか?」
「え?うん…いいけど…。」
「“血の盟約は…”」
僕は自身の血を使って魔法を発動し、空に浮び上がる為の風船を作り上げた。
「これで高く飛んで、辺りを見てみます。クラーレさんは、この紐を持っててもらえませんか?」
「うん。わかった。」
「そんな風船で身体が持ち上がるのか?」
「持ち上げてみせるよ。その為に作ったんだから!」
紐に取り付けた木の板に足を乗せて、風船を膨らませた。すると身体が浮かび上がり、ゆっくりと上昇していった。しばらくすると紐がピンと伸び、それ以上風船が上昇する事はなかった。
「ルカー!大丈夫そうー?」
「大丈夫ですー!紐を持ったまま、歩いて貰えますかー?」
「わかったー!」
地上で紐を持っているクラーレさんが歩みを進めると、それに合わせて風船も前へ進み出した。
アリサを連れ去った犯人を探すべく、目を凝らして辺りを見回した。サトラテールの北には森が多く、隠れながら進むには最適なルートと言える。しばらく辺りを眺めていると、森の中に入っていく人影を見つけた。
「クラーレさーん!降ろして貰えますかー?」
「うんー!わかったー!」
地上に降りた僕は、黒いコートを着た2人組が森の中へ入っていくを見かけた事を彼等に伝えた。
「1人は背中に背負われてて、どちらも黒いコートを着てました。レジデンスの方に向かっているような気がします!」
「それだけじゃ犯人かどうかはわからないけど、確認してみた方がいいね。」
「こっちの森です!」
犯人と思われる怪しい人物のあとに続き、森の中へ入っていった。木に囲まれた道を進みながら辺りを見回すが、人の姿はどこにも見当たらなかった。
「確かにここに入っていったはずだけど…どこに行っちゃったんだろう…。」
「アリサを背負って移動してるなら、そんなに早くは動けないと思うけど…。」
「む?あれじゃないか?」
ヴェラが指をさした先で、木と木の間を黒い物が横切るのが見えた。草木をかき分けて先回りすると、黒いコートを着た人物の前に立ちはだかった。
「待ってください…!」
「わ!な、なんですか?」
突然現れた僕達を見て、彼は驚いた表情を浮かべた。目の前に立っている青年の顔に見覚えはなかったが、その背中には彼と同じコートを身にまとった人が背負われている。頭にフードが被せてあり、その顔を確認する事は出来なかった。
「ご、ごめんなさい…!僕達、人を探してるんですけど…黒くて長い髪の女の子を見ませんでしたか?」
「いえ…見てませんけど…。」
「背中に背負ってるのは誰だ?」
「あぁ…私の娘です。風邪をひいたみたいで、街へ行ってお医者様に見てもらおうと思って。」
「風邪か。なら私が見てやろう。」
彼女が青年の側に近寄ると、彼は後ずさりをして彼女から距離をとった。
「あ、あなたはお医者様なんですか?どこの誰だかわからない人に、頼みたくはありません…!急いでいるので私はこれで…」
彼は僕達の間に割って入り、強引にその場から立ち去ろうとした。
「それで誤魔化せると思ったのか?…フランドルフルク。」
「え…?」
ヴェラの言葉に彼は足を止め、こちらを振り返った。
「誰ですか?私はそんな人、知りませ…」
「背中に背負ってるそいつは、お前の娘にしては大きすぎる。見た目を変えるのなら、もっと老け顔にするべきだったな。」
「………これはまた、面倒なものに見つかってしまったな。」
彼の髪や顔が溶け始め、見覚えのある顔に変化していった。ふわふわとしたクリーム色の髪に赤い瞳の彼は、上級吸血鬼のフランドルフルクだった。
「ル、ルドルフ!?なんで君がこんな事…!」
「俺様をそんな変な名前で呼ぶな!俺様の名前はフランだ。」
「そんな事より…アリサを返して!」
「ふん。そう簡単に返せるものか。断る。」
「アリサを持っていって、一体どうするつもりだ?そいつも吸血鬼にするのか?」
「わかっているのなら何故止めた。同じ吸血鬼だというのに、訳の分からない事をするものだ。」
「訳が分からない事をしてるのはルドルフの方だよ!アリサを吸血鬼にしたって、何の得があるっていうの!?お願いルドルフ…こんな事はやめて…!」
「そうやって泣きつけば、俺様の気が変わるとでも思ったのか?随分、甘ったれた小僧だな!」
「っ…!」
「“…レイ!”」
僕の後ろから光魔法が放たれた。それに反応したルドルフは、後ろに大きく跳躍してそれを回避した。
「クラーレさん!?…待ってください!彼はフランの中にいる、もう1人のフランで…」
「フランだろうとルドルフだろうと、僕の家族を傷つけようとするなら容赦しないよ。アリサを渡してくれないなら、力づくで奪ってみせる。」
「やはりお前はそうでなくてはな。しかし残念だ…俺様に光は通用しないぞ?」
「知ってるよ。フランは僕の弟だからね。」
「何を馬鹿な事を…」
「“…二ルッタ”」
2人が話をしている隙にルドルフの背後に移動していた彼女は、その場にしゃがみこんで地面に手を触れた。
彼女の唱えた念力魔法は、相手の影に触れる事でその動きを止めることが出来る。手を離した時点で効果がなくなってしまう為、本人もその場から動けなくなるのが大きな欠点だ。
「馬鹿なのはお前だ。私に負けた事があるのを忘れたのか?」
「…くっ。」
「ルカ。今のうちにアリサを…!」
「は、はい!」
動けなくなった彼の背後に周り、背負われた人を抱きかかえてその場を離れた。被せてあったフードをとると、目を閉じて眠っているアリサの顔が現れた。
「よかった…。眠っているだけみたいだね。」
「2人で先に戻って。私がこいつを片付けておくわ。」
「ヴェ、ヴェラ…!あんまり手荒な事は…」
「…わかってるわ。」
「行こうルカ。」
「は、はい…。」
どうしてルドルフがこんな事をしているのか、何故フランが身体の外に出てきて彼を止めなかったのか、アリサを吸血鬼に変えることで彼等にどんなメリットがあるのか、多くの疑問を胸の中に抱えつつ、アリサをギルドに連れて帰った。
「あ、クラーレさん!アリサの様子は…どうですか?」
彼女と共に部屋に入っていったクラーレさんを扉の前で待っていると、部屋の外に出てきた彼の元に駆け寄った。
「大丈夫。目立った外傷もないし、目を覚ますまでゆっくり寝かせてあげよう。」
「よかった…。ありがとうございます…クラーレさん。」
「それは僕の台詞だよ。アリサを見つけたのはルカだからね。ありがとうルカ。」
「い、いえ…そんな…。」
「僕はギルドのみんなに連絡しなきゃ。ルカは少し部屋で休んで。何かあったら、いつでも僕の部屋に来てね。」
「わかりました。」
僕は部屋に戻ると、ベッドの上に腰を下ろした。そのまま身体を後ろに倒し、天井を見上げた。
「アリサが見つかって安心したけど…わからない事が多くてモヤモヤするなぁ。こんな時、ルナが居てくれたら…。」
僕は、指輪をはめた手を顔の前にかざした。身体が元に戻ってからも、ルナがくれたこの指輪を外せずにいた。これを外す事で、彼女との唯一の繋がりを無くしてしまうような、そんな気がしていた。
「はぁ…。ディオース島に戻った方が…いいのかな…。でもなぁ…。アリサも…ギルドのみんなも…心配…だし…。」
様々な考えを巡らせながら、徐々に重くなる瞼をゆっくりと閉じた。
「…。」
目を開けると、見慣れた天井が視界に映った。そこは何度も夢に見た、ルナとミグと共に過ごした家の中だった。
「あれ…いつの間に寝ちゃったんだろう…。」
身体を起こして辺りを見回すが、いつも居るはずのルナの姿はなかった。名前を呼びながら家のあちこちを探し回ったが、彼女を見つける事は出来なかった。
「あ、そっか…!ギルドに戻って来たのは、お昼くらいだったから…外に出かけてるのかも…。」
普段夢の中に来る時間帯よりも、早く来てしまった事に気付き、胸をなで下ろした。
1階で扉の開く音が聞こえ、僕は慌てて階段を下りた。
「ルナ…!おかえ…」
「悪いな。ルナじゃなくて。」
「なんだぁ…ヴェラかぁ…。」
「話がある。座りなさい。」
言われた通り、彼女の向かいに腰を下ろした。彼女がこうして、夢の中に無理矢理入ってくる事は何度もあった。しかし、今日の彼女はいつもと雰囲気が違って見えた。
「どうしたのヴェラ…。そんなに改まって…。話ってなんなの?」
「昨日言ったでしょう?問題が片付き次第、話をするって。」
「あぁ…そういえばそんな事も言ってたね…。」
「お前に関する重要な話よ。まずは、そうね…あの馬鹿から聞いた話からしよう。」
「あの馬鹿?」
「フランドルフルクよ。」
「ぁ…。…僕も、気になってたんだ。どうしてフランとルドルフがあんな事したのかって。」
「あいつは、幹部専用のローブとネックレスを身につけていた。恐らく…お前の身体を戻した時に囮として捕まった後、幹部に昇格したんだろうな。」
「え!な、なんで!?」
「私とお前、一気に2人の幹部を失ったんだ。穴埋めをするのに丁度良かったのね。まぁ、それはどうでもいいけど…あいつは幹部の誰かに指示されて、アリサを誘拐したのよ。」
「フィーやエレナは違うよね…。ライガかレーガなのかな?」
「どっちにしても、目的はアリサを吸血鬼にする為だった。問題は、何故アリサなのか…。」
「そうだね…。アリサは僕より年下だから、子供と言えば子供かもしれないけど…。国家騎士を誘拐するなんて、リスクが高すぎるよね?」
「私もそれは疑問に思っていた。しかし、お前が島に行っている間に私が調べていた情報が、ここでようやく役に立つわけだ。」
「え、本当!?」
「今回は冗談じゃないぞ?」
彼女は、その調べた情報について話し始めた。
アリサは、吸血鬼の中で最も力を持っていたと言われているステラの妹が転生した姿だという。にわかに信じがたい話だが、ステラの妹には特徴的なホクロがあり、耳の裏に3つのホクロが1列に並んでいるそうだ。実際に見た事がないのでよくわからないが、ルドルフが言うにはそうらしい。
「それ…本当に冗談じゃないよね…?」
「あぁ。嘘がつけぬよう、ルドルフに魔法をかけて吐かせた話だからな。間違いない。」
「ヴェラの事が信用出来ない訳じゃないけど…本当かどうか怪しいよね…。」
「ちゃんと根拠もある。レジデンスでは、吸血鬼の王であるステラを復活させる計画を立てていた。しかし、ステラが居なくなってしまい、その代わりにステラの妹だったアリサを、吸血鬼に変える事にしたんだ。」
「そうなの!?そ、その情報は一体どこから…」
「レジデンスの地下に侵入して、文献を読み漁った。」
「ヴェラってなんでもありだよね…。普通そんな所に侵入したら捕まってるよ…。」
「細かい事は気にするな。」
「ところで、ステラが居なくなったって言ってたけど…ステラっておとぎ話に出てくる女の子の事だよね?それって、かなり昔の話じゃなかった?」
「なら次は、ステラについてわかった事を話すとしよう。」
ステラは女性ではなく、女性のような美しい見た目をした青年らしい。おとぎ話で少女と書かれていたのは、その本を書いた人物が女性と勘違いしたせいだった。
彼は吸血鬼の弱点と言える光に対して耐性があり、全ての属性魔法を扱う事が出来ていた。その他の能力も周りの吸血鬼とは比べ物にならない程に優れていて、その力で吸血鬼の頂点である総裁にまで上り詰めた。
「その後、ステラは人間のクローンを生み出して、様々な実験を行っていた。」
「あ、それってもしかして、ミラ様から聞いた話?」
「そうだ。ミラが封印した、実験を指揮していた吸血鬼というのがステラらしい。」
「なるほど…。それでステラは居なくなったんだね…。」
「いいや。封印されたのはステラの分身だった。本物のステラはどこかで生き延びているらしいが…本当かどうかはわからない。」
「ふぅん…。」
「これは私の憶測だけど…恐らくルナがステラなのかもしれない。」
「えぇ!?」
「ルナがお前に身体を返した事で死に、ステラが居なくなったとしたら…ステラの妹であるアリサを、代わりに利用しようとした事の辻褄が合う。前にも話したでしょう?ブレスレットで位置がわかるように細工がしてあったのは、幹部の奴らがルナを何かに利用しようとしてるからだって。」
「た、確かにそうだけど…。」
「ステラの特徴を知った時点で、私はルナじゃないかと思ったわ。光に対して耐性があって、全属性の魔法を扱える…そんな吸血鬼は中々いないもの。」
「…ルナがステラ…かぁ。」
彼女の力が他の吸血鬼より優れている事は、側で見てきた僕にはわかる。しかし、ステラが女性ではなく男性だと言う事が、イマイチ腑に落ちなかった。
「長く話し過ぎたわね。そろそろ夕飯に呼ばれるかもしれないから、起きなさい。」
「あ、うん…わかった。」
「最後にもう1つ…これは私の憶測の話しよ。」
「え、何?」
「お前とルナ…2人でステラなんじゃないかと思う。」
「ふ、2人でって…どういう事…?」
「お前達は似すぎてる。見た目や性格、話し方や何気ない仕草…。それから…血を吸われた時の反応と血の味、生成量もほぼ同じ…同一人物としか思えないのよ。」
「そんなの…。」
「とりあえず、幹部の出方には今後も注意しなさい。アリサも離島に隔離する必要があるかもしれないわね。その辺はクラーレと話し合いなさい。私は帰るわ。」
「ぅ…うん…。」
1人になった家の中は、驚く程に静かなものだった。
勢いよく身体を起こすと、そこはギルドにある自分の部屋だった。カーテンの隙間から朝日が漏れ、既に夜が明けていた。
「朝から騒がしいな…。一体どんな夢を見たらそうなるんだか…。」
「ヴェラ…。」
布団の上で丸くなって寝ていた黒猫のヴェラが、机に飛び乗って身体を伸ばした。
「私からのプレゼントはどうだった?」
「へ?プレゼントって?」
「ルナが出てくる夢を見させてやったんだ。血を貰った礼にな。」
「…全然嬉しくなかったよ。」
「…そう。まぁ、ルナを出すことは出来ても、内容まで良いとは限らない。お前の心次第だ。」
「僕の心?」
「ルナに対する考え方、お前がルナをどう思っているか…そういった事が夢になりやすい。」
「………。」
ルナが街に出かけたいといったのは、彼女がしたかった事ではなく、僕がしたかった事なのかもしれない。彼女の死を否定していても、心のどこかで感じていた彼女の死への不安が、夢として現れてしまったのだろうか。
「私は先に北門に向かっている。朝食を食べたらクラーレと来なさい。」
「うん…。」
「さて。じゃあ、レジデンスの方に向かって…」
北門から街を出て、クラーレさんが地図を開き出した。
「あの…クラーレさん。実は昨日、思い付いたことがあるんですけど…試してみてもいいですか?」
「え?うん…いいけど…。」
「“血の盟約は…”」
僕は自身の血を使って魔法を発動し、空に浮び上がる為の風船を作り上げた。
「これで高く飛んで、辺りを見てみます。クラーレさんは、この紐を持っててもらえませんか?」
「うん。わかった。」
「そんな風船で身体が持ち上がるのか?」
「持ち上げてみせるよ。その為に作ったんだから!」
紐に取り付けた木の板に足を乗せて、風船を膨らませた。すると身体が浮かび上がり、ゆっくりと上昇していった。しばらくすると紐がピンと伸び、それ以上風船が上昇する事はなかった。
「ルカー!大丈夫そうー?」
「大丈夫ですー!紐を持ったまま、歩いて貰えますかー?」
「わかったー!」
地上で紐を持っているクラーレさんが歩みを進めると、それに合わせて風船も前へ進み出した。
アリサを連れ去った犯人を探すべく、目を凝らして辺りを見回した。サトラテールの北には森が多く、隠れながら進むには最適なルートと言える。しばらく辺りを眺めていると、森の中に入っていく人影を見つけた。
「クラーレさーん!降ろして貰えますかー?」
「うんー!わかったー!」
地上に降りた僕は、黒いコートを着た2人組が森の中へ入っていくを見かけた事を彼等に伝えた。
「1人は背中に背負われてて、どちらも黒いコートを着てました。レジデンスの方に向かっているような気がします!」
「それだけじゃ犯人かどうかはわからないけど、確認してみた方がいいね。」
「こっちの森です!」
犯人と思われる怪しい人物のあとに続き、森の中へ入っていった。木に囲まれた道を進みながら辺りを見回すが、人の姿はどこにも見当たらなかった。
「確かにここに入っていったはずだけど…どこに行っちゃったんだろう…。」
「アリサを背負って移動してるなら、そんなに早くは動けないと思うけど…。」
「む?あれじゃないか?」
ヴェラが指をさした先で、木と木の間を黒い物が横切るのが見えた。草木をかき分けて先回りすると、黒いコートを着た人物の前に立ちはだかった。
「待ってください…!」
「わ!な、なんですか?」
突然現れた僕達を見て、彼は驚いた表情を浮かべた。目の前に立っている青年の顔に見覚えはなかったが、その背中には彼と同じコートを身にまとった人が背負われている。頭にフードが被せてあり、その顔を確認する事は出来なかった。
「ご、ごめんなさい…!僕達、人を探してるんですけど…黒くて長い髪の女の子を見ませんでしたか?」
「いえ…見てませんけど…。」
「背中に背負ってるのは誰だ?」
「あぁ…私の娘です。風邪をひいたみたいで、街へ行ってお医者様に見てもらおうと思って。」
「風邪か。なら私が見てやろう。」
彼女が青年の側に近寄ると、彼は後ずさりをして彼女から距離をとった。
「あ、あなたはお医者様なんですか?どこの誰だかわからない人に、頼みたくはありません…!急いでいるので私はこれで…」
彼は僕達の間に割って入り、強引にその場から立ち去ろうとした。
「それで誤魔化せると思ったのか?…フランドルフルク。」
「え…?」
ヴェラの言葉に彼は足を止め、こちらを振り返った。
「誰ですか?私はそんな人、知りませ…」
「背中に背負ってるそいつは、お前の娘にしては大きすぎる。見た目を変えるのなら、もっと老け顔にするべきだったな。」
「………これはまた、面倒なものに見つかってしまったな。」
彼の髪や顔が溶け始め、見覚えのある顔に変化していった。ふわふわとしたクリーム色の髪に赤い瞳の彼は、上級吸血鬼のフランドルフルクだった。
「ル、ルドルフ!?なんで君がこんな事…!」
「俺様をそんな変な名前で呼ぶな!俺様の名前はフランだ。」
「そんな事より…アリサを返して!」
「ふん。そう簡単に返せるものか。断る。」
「アリサを持っていって、一体どうするつもりだ?そいつも吸血鬼にするのか?」
「わかっているのなら何故止めた。同じ吸血鬼だというのに、訳の分からない事をするものだ。」
「訳が分からない事をしてるのはルドルフの方だよ!アリサを吸血鬼にしたって、何の得があるっていうの!?お願いルドルフ…こんな事はやめて…!」
「そうやって泣きつけば、俺様の気が変わるとでも思ったのか?随分、甘ったれた小僧だな!」
「っ…!」
「“…レイ!”」
僕の後ろから光魔法が放たれた。それに反応したルドルフは、後ろに大きく跳躍してそれを回避した。
「クラーレさん!?…待ってください!彼はフランの中にいる、もう1人のフランで…」
「フランだろうとルドルフだろうと、僕の家族を傷つけようとするなら容赦しないよ。アリサを渡してくれないなら、力づくで奪ってみせる。」
「やはりお前はそうでなくてはな。しかし残念だ…俺様に光は通用しないぞ?」
「知ってるよ。フランは僕の弟だからね。」
「何を馬鹿な事を…」
「“…二ルッタ”」
2人が話をしている隙にルドルフの背後に移動していた彼女は、その場にしゃがみこんで地面に手を触れた。
彼女の唱えた念力魔法は、相手の影に触れる事でその動きを止めることが出来る。手を離した時点で効果がなくなってしまう為、本人もその場から動けなくなるのが大きな欠点だ。
「馬鹿なのはお前だ。私に負けた事があるのを忘れたのか?」
「…くっ。」
「ルカ。今のうちにアリサを…!」
「は、はい!」
動けなくなった彼の背後に周り、背負われた人を抱きかかえてその場を離れた。被せてあったフードをとると、目を閉じて眠っているアリサの顔が現れた。
「よかった…。眠っているだけみたいだね。」
「2人で先に戻って。私がこいつを片付けておくわ。」
「ヴェ、ヴェラ…!あんまり手荒な事は…」
「…わかってるわ。」
「行こうルカ。」
「は、はい…。」
どうしてルドルフがこんな事をしているのか、何故フランが身体の外に出てきて彼を止めなかったのか、アリサを吸血鬼に変えることで彼等にどんなメリットがあるのか、多くの疑問を胸の中に抱えつつ、アリサをギルドに連れて帰った。
「あ、クラーレさん!アリサの様子は…どうですか?」
彼女と共に部屋に入っていったクラーレさんを扉の前で待っていると、部屋の外に出てきた彼の元に駆け寄った。
「大丈夫。目立った外傷もないし、目を覚ますまでゆっくり寝かせてあげよう。」
「よかった…。ありがとうございます…クラーレさん。」
「それは僕の台詞だよ。アリサを見つけたのはルカだからね。ありがとうルカ。」
「い、いえ…そんな…。」
「僕はギルドのみんなに連絡しなきゃ。ルカは少し部屋で休んで。何かあったら、いつでも僕の部屋に来てね。」
「わかりました。」
僕は部屋に戻ると、ベッドの上に腰を下ろした。そのまま身体を後ろに倒し、天井を見上げた。
「アリサが見つかって安心したけど…わからない事が多くてモヤモヤするなぁ。こんな時、ルナが居てくれたら…。」
僕は、指輪をはめた手を顔の前にかざした。身体が元に戻ってからも、ルナがくれたこの指輪を外せずにいた。これを外す事で、彼女との唯一の繋がりを無くしてしまうような、そんな気がしていた。
「はぁ…。ディオース島に戻った方が…いいのかな…。でもなぁ…。アリサも…ギルドのみんなも…心配…だし…。」
様々な考えを巡らせながら、徐々に重くなる瞼をゆっくりと閉じた。
「…。」
目を開けると、見慣れた天井が視界に映った。そこは何度も夢に見た、ルナとミグと共に過ごした家の中だった。
「あれ…いつの間に寝ちゃったんだろう…。」
身体を起こして辺りを見回すが、いつも居るはずのルナの姿はなかった。名前を呼びながら家のあちこちを探し回ったが、彼女を見つける事は出来なかった。
「あ、そっか…!ギルドに戻って来たのは、お昼くらいだったから…外に出かけてるのかも…。」
普段夢の中に来る時間帯よりも、早く来てしまった事に気付き、胸をなで下ろした。
1階で扉の開く音が聞こえ、僕は慌てて階段を下りた。
「ルナ…!おかえ…」
「悪いな。ルナじゃなくて。」
「なんだぁ…ヴェラかぁ…。」
「話がある。座りなさい。」
言われた通り、彼女の向かいに腰を下ろした。彼女がこうして、夢の中に無理矢理入ってくる事は何度もあった。しかし、今日の彼女はいつもと雰囲気が違って見えた。
「どうしたのヴェラ…。そんなに改まって…。話ってなんなの?」
「昨日言ったでしょう?問題が片付き次第、話をするって。」
「あぁ…そういえばそんな事も言ってたね…。」
「お前に関する重要な話よ。まずは、そうね…あの馬鹿から聞いた話からしよう。」
「あの馬鹿?」
「フランドルフルクよ。」
「ぁ…。…僕も、気になってたんだ。どうしてフランとルドルフがあんな事したのかって。」
「あいつは、幹部専用のローブとネックレスを身につけていた。恐らく…お前の身体を戻した時に囮として捕まった後、幹部に昇格したんだろうな。」
「え!な、なんで!?」
「私とお前、一気に2人の幹部を失ったんだ。穴埋めをするのに丁度良かったのね。まぁ、それはどうでもいいけど…あいつは幹部の誰かに指示されて、アリサを誘拐したのよ。」
「フィーやエレナは違うよね…。ライガかレーガなのかな?」
「どっちにしても、目的はアリサを吸血鬼にする為だった。問題は、何故アリサなのか…。」
「そうだね…。アリサは僕より年下だから、子供と言えば子供かもしれないけど…。国家騎士を誘拐するなんて、リスクが高すぎるよね?」
「私もそれは疑問に思っていた。しかし、お前が島に行っている間に私が調べていた情報が、ここでようやく役に立つわけだ。」
「え、本当!?」
「今回は冗談じゃないぞ?」
彼女は、その調べた情報について話し始めた。
アリサは、吸血鬼の中で最も力を持っていたと言われているステラの妹が転生した姿だという。にわかに信じがたい話だが、ステラの妹には特徴的なホクロがあり、耳の裏に3つのホクロが1列に並んでいるそうだ。実際に見た事がないのでよくわからないが、ルドルフが言うにはそうらしい。
「それ…本当に冗談じゃないよね…?」
「あぁ。嘘がつけぬよう、ルドルフに魔法をかけて吐かせた話だからな。間違いない。」
「ヴェラの事が信用出来ない訳じゃないけど…本当かどうか怪しいよね…。」
「ちゃんと根拠もある。レジデンスでは、吸血鬼の王であるステラを復活させる計画を立てていた。しかし、ステラが居なくなってしまい、その代わりにステラの妹だったアリサを、吸血鬼に変える事にしたんだ。」
「そうなの!?そ、その情報は一体どこから…」
「レジデンスの地下に侵入して、文献を読み漁った。」
「ヴェラってなんでもありだよね…。普通そんな所に侵入したら捕まってるよ…。」
「細かい事は気にするな。」
「ところで、ステラが居なくなったって言ってたけど…ステラっておとぎ話に出てくる女の子の事だよね?それって、かなり昔の話じゃなかった?」
「なら次は、ステラについてわかった事を話すとしよう。」
ステラは女性ではなく、女性のような美しい見た目をした青年らしい。おとぎ話で少女と書かれていたのは、その本を書いた人物が女性と勘違いしたせいだった。
彼は吸血鬼の弱点と言える光に対して耐性があり、全ての属性魔法を扱う事が出来ていた。その他の能力も周りの吸血鬼とは比べ物にならない程に優れていて、その力で吸血鬼の頂点である総裁にまで上り詰めた。
「その後、ステラは人間のクローンを生み出して、様々な実験を行っていた。」
「あ、それってもしかして、ミラ様から聞いた話?」
「そうだ。ミラが封印した、実験を指揮していた吸血鬼というのがステラらしい。」
「なるほど…。それでステラは居なくなったんだね…。」
「いいや。封印されたのはステラの分身だった。本物のステラはどこかで生き延びているらしいが…本当かどうかはわからない。」
「ふぅん…。」
「これは私の憶測だけど…恐らくルナがステラなのかもしれない。」
「えぇ!?」
「ルナがお前に身体を返した事で死に、ステラが居なくなったとしたら…ステラの妹であるアリサを、代わりに利用しようとした事の辻褄が合う。前にも話したでしょう?ブレスレットで位置がわかるように細工がしてあったのは、幹部の奴らがルナを何かに利用しようとしてるからだって。」
「た、確かにそうだけど…。」
「ステラの特徴を知った時点で、私はルナじゃないかと思ったわ。光に対して耐性があって、全属性の魔法を扱える…そんな吸血鬼は中々いないもの。」
「…ルナがステラ…かぁ。」
彼女の力が他の吸血鬼より優れている事は、側で見てきた僕にはわかる。しかし、ステラが女性ではなく男性だと言う事が、イマイチ腑に落ちなかった。
「長く話し過ぎたわね。そろそろ夕飯に呼ばれるかもしれないから、起きなさい。」
「あ、うん…わかった。」
「最後にもう1つ…これは私の憶測の話しよ。」
「え、何?」
「お前とルナ…2人でステラなんじゃないかと思う。」
「ふ、2人でって…どういう事…?」
「お前達は似すぎてる。見た目や性格、話し方や何気ない仕草…。それから…血を吸われた時の反応と血の味、生成量もほぼ同じ…同一人物としか思えないのよ。」
「そんなの…。」
「とりあえず、幹部の出方には今後も注意しなさい。アリサも離島に隔離する必要があるかもしれないわね。その辺はクラーレと話し合いなさい。私は帰るわ。」
「ぅ…うん…。」
1人になった家の中は、驚く程に静かなものだった。
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ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
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5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜
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勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
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