エテルノ・レガーメ

りくあ

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第10章︰エーリ学院〜上級クラス〜

第90話

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「皆さんおはようございます!えー…早速ですがー…リオート祭に向けて準備を始めたいと思います。集まった皆で一丸となって頑張りましょう!」

翌朝、祭りの手伝いをするために広場へやって来た。周りにはお年寄りから子供まで、沢山のコルトの住民達が集まっている。アルブムさんの挨拶を終え、住民達が四方八方に散らばり始めた。

「昨日も話しましたが、僕達は雪や氷を積み上げる作業を手伝います。」
「依頼を受ける前にも少しだけ聞いたけど…かなりの重労働だよね。」
「何も手でやれとは言っていません。“ミシク”を使えばあっという間ですよ。」
「そっか!魔法で動かせばいいんだ!」
「ツヴェル頭いい。」
「昔からそうしていただけですよ。周りにいた同じ年頃の子供には、気味が悪いと言われてしまいましたが。…昔の話はともかく、僕達も始めましょう。」
「うん!」

わからない所を彼に教えてもらいながら、日が暮れる夕方まで作業は行われた。
1日目の作業を終えた私達は、ツヴェルの家に戻ってそれぞれの部屋で休息をとる事にした。屋敷の廊下を歩いていると、母親の部屋に入っていくツヴェルを見つけ、私は後を追いかけた。部屋の扉に手をかけた瞬間、中から彼の声が聞こえてきた。

「母上…。今日、リオート祭の準備を手伝ってきました。母上と初めて祭りを見に行った時の事…今でもよく覚えています。……っ…母上は……覚えていますか…?迷子になった僕を…っ…懸命に…探してくれましたよね…。」
「ツヴェル…。」
「…っ!」

私の姿を見て、目から溢れた涙を慌てて拭った。

「ご、ごめん…。入って行くのが見えたから…気になって…。」
「…そうですか。何か僕に話したい事でも?」
「泣くの…我慢する事ないと思う。」
「何故そう思うんですか?僕は昔、父に言われました。男は泣くものじゃないと。どれだけ悲しくても辛くても、涙を流すのは子供と女だけだと。」
「そんな事ないよ…!泣いたら駄目なんて…」
「泣いたら何か変わりますか?涙を流せば母は目覚めるんですか!?」

声を荒らげて椅子から立ち上がった彼を、私は力一杯抱きしめた。

「な、何す…」
「泣いたからって、どうにかなる訳じゃないのはわかってる。でも、悲しかったら泣いていいんだよ?悲しいって誰かに打ち明けて、甘えたっていいと思う…!ツヴェルは機械じゃなくて…感情のある生き物なんだから。」
「…っ。」

彼は私の背中に腕を回して、強く抱き返した。身体を震わせ、声を押し殺して涙を流している彼を、私は黙って抱きしめていた。



「…すみませんでした。」
「え?何が?」
「あなたに泣きついた事です。みっともない恥を晒しました。」
「私はちょっと嬉しかったよ?ツヴェルの役に立てて。」
「何故僕の役に立つのが嬉しいんですか?意味がわかりません。」
「そんな事言わないでよ~。涙を見せあった仲でしょ~?」
「あ、あなたにだけは知られたくなかったです///!!!」
「え、ちょっと!どこ行くの!?」
「部屋に戻ります!ついて来ないで下さい!」
「そんな事言われても…部屋隣だし…。ま、待ってよ~!」



「ルナさん。もっと沢山並べないと上に積めなくなりますよ?」
「わ、わかってるよぉ…。」

翌日、彼は何事も無かったように振舞っていた。むしろ、私に対する当たりが普段よりも強くなっているように思える。

「ルナさん。もう少し優しく扱って下さい。ヒビが入ったらどうするんですか。」
「う…。」
「ツヴェル、張り切ってるね。」
「ねぇユノ…。ツヴェル、私に対して厳しいと思わない?」
「そう?」
「そうだよ~。なんか、八つ当たりしてるように感じて…」
「ルナさん。ちょっと来てください。」
「何!?今度は何なの!?」
「な…何を怒ってるんですか?」
「な、なんでもない…。」
「これ、使ってください。」

彼は、毛がついてモコモコしているヘッドバンドの様な形状の物を私に差し出した。

「何これ?カチューシャ?」
「耳あてと言うものです。両側のこの部分を耳に当てて使います。」
「こう?」
「違いますよ。…ちょっと貸してください。」

私の手から耳あてを奪い取ると、頭の上に手を伸ばして正しい位置に取り付けた。耳がモコモコした部分に覆われ、暖かくなるのを感じる。

「何これすごいね!耳があったかい!」
「今日は風がありますから、風邪を引かないように気をつけて下さい。」
「あ、ありがとうツヴェル。」
「これ、ユノさんの分です。彼女にも付けてあげて下さい。」
「わかった!」



「ニール殿。作業の方はどうですか?」
「順調だと思いますよ。」
「それは良かったです。お2人も無理のなさらないようにしてくださいね?」
「あ、はい!」
「領主様~!」

アルブムさんと共に作業を一休みしていた私達の元に、1人の青年が駆け足でやって来た。

「どうかしましたか?」
「大変なんです…!積み上げるための氷が足りなくて…!」
「湖の氷では足りなかったのですか?」
「今年は、あまり寒くなかったせいか、氷の厚みが少ないみくて…。その分、切り出した時に氷の数が減ったようです。」
「それは困りましたね…。」
「魔法で氷、作る?」
「それだと、魔力が無くなったら消えてしまいませんか?ずっと維持するのは無理ですよ。」
「そっか…。」
「水を固めれば氷になるよね?魔法で湖の水を凍らせられないかな?」
「それしかなさそうですね…。試しにやってみましょう。」

青年の案内で湖にやって来ると、私は水面に手を触れて魔法を唱え始めた。

「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。スティーリア”」

触れたものを凍らせる事が出来る、氷属性の魔法を発動した。手の周りの水が凍り始め、次第に横に広がって行った。冷たい氷に触れ続けていると、刺すような痛みが手の平から伝わってくる。

「…っ。」
「ルナさん…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!冷たいけどこれくらいなら我慢できるし…。」
「ルナ。無理しない方が…」
「平気平気!ほら、だいぶ凍って…」

横から手を伸ばしたツヴェルに腕を掴まれ、水面から引き離されてしまった。

「あー!せっかく凍ってたのに!」
「その前に凍傷になったらどうするんですか!手首から下を切り落とされたいんですか!?」
「な、なんでそんなに怒ってるの…?」
「こんなに冷たくなって…。腫れてるじゃないですか…。」

手袋を外した彼の手が、冷たくなった私の右手を包み込んだ。

「ツヴェルの方が冷たくなっちゃうよ!手袋すれば大丈夫だから…」
「痛くなってからでは遅いんですよ!ユノさん。彼女を連れて、一旦家に戻ります。ここで待っていてもらえますか?」
「ん。わかった。」
「行きましょう。」
「え!?だ、大丈夫だよ!ちょっと待っ…待ってよツヴェル~!」 

強引に腕を引かれ、ツヴェルの家に向かった。
部屋のソファーに座らされ、使用人のお姉さんが用意してくれたぬるま湯に両手を浸した。

「このまま30分程浸しておいてください。」
「えー。30分も?もう冷たくないし大丈…」
「ミグさん!」
「な、なんだ?どうした?」

私ではなくツヴェルに呼び出されたミグは、慌てて身体の外に出てくると驚いた表現をしていた。

「きっちり30分、彼女を監視していて下さい。」
「わ、わかった…。」
「ユノさんが心配なので僕は戻ります。あとはお願いします。」

彼はそう言い残すと、部屋から出ていってしまった。



「ねーミグー。まだー?」
「あと3分だ。」
「いいじゃん3分くらい!」
「だめだ。きっちり30分って言われたからな。」
「むー…。」
「子供みたいに駄々をこねるな。お前1人が居なくなった所で、準備が進まない訳じゃないんだろ?」
「そうだけどー…。氷が足りなくて困ってる所なんだよ?何か他の方法を探さなきゃ…。」
「湖じゃ凍るまでに時間がかかるんだろ?なら…バケツに水を汲んで凍らせるのはどうだ?小さいかもしれないが、休み休みやれば何個も作れるだろ。」
「それいいかも!時間はかかるけどユノと2人でやれば間に合うかもしれないし…!」
「3分経ったぞ。」
「早く行かなきゃ!」
「おいちょっと待て!走るな!」

湖に戻って来ると、氷の塊を運んでいる2人の姿を見つけた。

「あれ?その氷、どうしたの?」
「僕も戻って来た時、驚きました。ユノさんが湖を全て凍らせてしまったんです。」
「え!?どうやって?」
「ルナと同じ方法で。」
「やっぱりユノには敵わないなぁ…。」
「ルナ、もう手は大丈夫?」
「うん。もう大丈夫!」
「それならルナさんも運ぶの手伝って下さい。作業の続きをしましょう。」



その日の夜、ベッドの上でくつろいでいると隣の部屋からツヴェルがやって来た。

「どうしたの?」
「薬を持ってきました。」
「え?何の薬?」
「凍傷に効く塗り薬です。」
「必要ないよ~。もう大丈夫だって。」
「薬を塗って悪い事はありません。いいからそこに座ってください。」
「わ、わかったよぉ…。」
 
言われた通りにソファーに腰を下ろすと、その隣に彼も腰を下ろした。彼は薬の蓋を開けると少量を手に取って、両手に馴染ませた。そして私の右手を掴むと、両手で包み込むようにして薬を塗り始めた。

「ふふ…っ…なんか、くすぐったい…。」
「いいからじっとしていて下さい。」
「これくらい自分で塗れるのに。」
「…こうやって、母が塗ってくれたのを思い出したんです。」
「そう…なんだ…。」
「…ところでユノさんはどこへ?」
「なんか、その辺見て回るって言ってた。」
「彼女、結構アウトドアですよね。見かけより体力もあるし、行動力もユイさん並みです。」
「やっぱり双子って事だろうね…。…そういうツヴェルも、意外と心配性で世話焼きだよね。」
「あなたに言われたくありません。」
「う…。」
「…心配なのはあなただからです。ララの様に無茶をするし、ララみたいにドジもするし、ララと同じくらいお人好しなんですから…。」
「基準がララなんだね…。」
「しょうがないじゃないですか。ララしか友人が居ないんですから。」
「あれ?でも、アルブムさんに紹介する時、私達の事を友人ですって言わなかった?」
「…そんな事言いましたっけ?覚えていません。」
「あー!はぐらかしたー!」
「気のせいでしょう?はい。終わりましたよ。」
「むぅ…。」
「明日は準備の最終日です。明後日には祭りがあるんですから、最後の追い込み頑張ってくださいよ?」
「わ、わかってるよ!」
「おやすみなさいルナさん。」
「うん。おやすみツヴェル。」
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