97 / 165
第10章︰エーリ学院〜上級クラス〜
第90話
しおりを挟む
「皆さんおはようございます!えー…早速ですがー…リオート祭に向けて準備を始めたいと思います。集まった皆で一丸となって頑張りましょう!」
翌朝、祭りの手伝いをするために広場へやって来た。周りにはお年寄りから子供まで、沢山のコルトの住民達が集まっている。アルブムさんの挨拶を終え、住民達が四方八方に散らばり始めた。
「昨日も話しましたが、僕達は雪や氷を積み上げる作業を手伝います。」
「依頼を受ける前にも少しだけ聞いたけど…かなりの重労働だよね。」
「何も手でやれとは言っていません。“ミシク”を使えばあっという間ですよ。」
「そっか!魔法で動かせばいいんだ!」
「ツヴェル頭いい。」
「昔からそうしていただけですよ。周りにいた同じ年頃の子供には、気味が悪いと言われてしまいましたが。…昔の話はともかく、僕達も始めましょう。」
「うん!」
わからない所を彼に教えてもらいながら、日が暮れる夕方まで作業は行われた。
1日目の作業を終えた私達は、ツヴェルの家に戻ってそれぞれの部屋で休息をとる事にした。屋敷の廊下を歩いていると、母親の部屋に入っていくツヴェルを見つけ、私は後を追いかけた。部屋の扉に手をかけた瞬間、中から彼の声が聞こえてきた。
「母上…。今日、リオート祭の準備を手伝ってきました。母上と初めて祭りを見に行った時の事…今でもよく覚えています。……っ…母上は……覚えていますか…?迷子になった僕を…っ…懸命に…探してくれましたよね…。」
「ツヴェル…。」
「…っ!」
私の姿を見て、目から溢れた涙を慌てて拭った。
「ご、ごめん…。入って行くのが見えたから…気になって…。」
「…そうですか。何か僕に話したい事でも?」
「泣くの…我慢する事ないと思う。」
「何故そう思うんですか?僕は昔、父に言われました。男は泣くものじゃないと。どれだけ悲しくても辛くても、涙を流すのは子供と女だけだと。」
「そんな事ないよ…!泣いたら駄目なんて…」
「泣いたら何か変わりますか?涙を流せば母は目覚めるんですか!?」
声を荒らげて椅子から立ち上がった彼を、私は力一杯抱きしめた。
「な、何す…」
「泣いたからって、どうにかなる訳じゃないのはわかってる。でも、悲しかったら泣いていいんだよ?悲しいって誰かに打ち明けて、甘えたっていいと思う…!ツヴェルは機械じゃなくて…感情のある生き物なんだから。」
「…っ。」
彼は私の背中に腕を回して、強く抱き返した。身体を震わせ、声を押し殺して涙を流している彼を、私は黙って抱きしめていた。
「…すみませんでした。」
「え?何が?」
「あなたに泣きついた事です。みっともない恥を晒しました。」
「私はちょっと嬉しかったよ?ツヴェルの役に立てて。」
「何故僕の役に立つのが嬉しいんですか?意味がわかりません。」
「そんな事言わないでよ~。涙を見せあった仲でしょ~?」
「あ、あなたにだけは知られたくなかったです///!!!」
「え、ちょっと!どこ行くの!?」
「部屋に戻ります!ついて来ないで下さい!」
「そんな事言われても…部屋隣だし…。ま、待ってよ~!」
「ルナさん。もっと沢山並べないと上に積めなくなりますよ?」
「わ、わかってるよぉ…。」
翌日、彼は何事も無かったように振舞っていた。むしろ、私に対する当たりが普段よりも強くなっているように思える。
「ルナさん。もう少し優しく扱って下さい。ヒビが入ったらどうするんですか。」
「う…。」
「ツヴェル、張り切ってるね。」
「ねぇユノ…。ツヴェル、私に対して厳しいと思わない?」
「そう?」
「そうだよ~。なんか、八つ当たりしてるように感じて…」
「ルナさん。ちょっと来てください。」
「何!?今度は何なの!?」
「な…何を怒ってるんですか?」
「な、なんでもない…。」
「これ、使ってください。」
彼は、毛がついてモコモコしているヘッドバンドの様な形状の物を私に差し出した。
「何これ?カチューシャ?」
「耳あてと言うものです。両側のこの部分を耳に当てて使います。」
「こう?」
「違いますよ。…ちょっと貸してください。」
私の手から耳あてを奪い取ると、頭の上に手を伸ばして正しい位置に取り付けた。耳がモコモコした部分に覆われ、暖かくなるのを感じる。
「何これすごいね!耳があったかい!」
「今日は風がありますから、風邪を引かないように気をつけて下さい。」
「あ、ありがとうツヴェル。」
「これ、ユノさんの分です。彼女にも付けてあげて下さい。」
「わかった!」
「ニール殿。作業の方はどうですか?」
「順調だと思いますよ。」
「それは良かったです。お2人も無理のなさらないようにしてくださいね?」
「あ、はい!」
「領主様~!」
アルブムさんと共に作業を一休みしていた私達の元に、1人の青年が駆け足でやって来た。
「どうかしましたか?」
「大変なんです…!積み上げるための氷が足りなくて…!」
「湖の氷では足りなかったのですか?」
「今年は、あまり寒くなかったせいか、氷の厚みが少ないみくて…。その分、切り出した時に氷の数が減ったようです。」
「それは困りましたね…。」
「魔法で氷、作る?」
「それだと、魔力が無くなったら消えてしまいませんか?ずっと維持するのは無理ですよ。」
「そっか…。」
「水を固めれば氷になるよね?魔法で湖の水を凍らせられないかな?」
「それしかなさそうですね…。試しにやってみましょう。」
青年の案内で湖にやって来ると、私は水面に手を触れて魔法を唱え始めた。
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。スティーリア”」
触れたものを凍らせる事が出来る、氷属性の魔法を発動した。手の周りの水が凍り始め、次第に横に広がって行った。冷たい氷に触れ続けていると、刺すような痛みが手の平から伝わってくる。
「…っ。」
「ルナさん…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!冷たいけどこれくらいなら我慢できるし…。」
「ルナ。無理しない方が…」
「平気平気!ほら、だいぶ凍って…」
横から手を伸ばしたツヴェルに腕を掴まれ、水面から引き離されてしまった。
「あー!せっかく凍ってたのに!」
「その前に凍傷になったらどうするんですか!手首から下を切り落とされたいんですか!?」
「な、なんでそんなに怒ってるの…?」
「こんなに冷たくなって…。腫れてるじゃないですか…。」
手袋を外した彼の手が、冷たくなった私の右手を包み込んだ。
「ツヴェルの方が冷たくなっちゃうよ!手袋すれば大丈夫だから…」
「痛くなってからでは遅いんですよ!ユノさん。彼女を連れて、一旦家に戻ります。ここで待っていてもらえますか?」
「ん。わかった。」
「行きましょう。」
「え!?だ、大丈夫だよ!ちょっと待っ…待ってよツヴェル~!」
強引に腕を引かれ、ツヴェルの家に向かった。
部屋のソファーに座らされ、使用人のお姉さんが用意してくれたぬるま湯に両手を浸した。
「このまま30分程浸しておいてください。」
「えー。30分も?もう冷たくないし大丈…」
「ミグさん!」
「な、なんだ?どうした?」
私ではなくツヴェルに呼び出されたミグは、慌てて身体の外に出てくると驚いた表現をしていた。
「きっちり30分、彼女を監視していて下さい。」
「わ、わかった…。」
「ユノさんが心配なので僕は戻ります。あとはお願いします。」
彼はそう言い残すと、部屋から出ていってしまった。
「ねーミグー。まだー?」
「あと3分だ。」
「いいじゃん3分くらい!」
「だめだ。きっちり30分って言われたからな。」
「むー…。」
「子供みたいに駄々をこねるな。お前1人が居なくなった所で、準備が進まない訳じゃないんだろ?」
「そうだけどー…。氷が足りなくて困ってる所なんだよ?何か他の方法を探さなきゃ…。」
「湖じゃ凍るまでに時間がかかるんだろ?なら…バケツに水を汲んで凍らせるのはどうだ?小さいかもしれないが、休み休みやれば何個も作れるだろ。」
「それいいかも!時間はかかるけどユノと2人でやれば間に合うかもしれないし…!」
「3分経ったぞ。」
「早く行かなきゃ!」
「おいちょっと待て!走るな!」
湖に戻って来ると、氷の塊を運んでいる2人の姿を見つけた。
「あれ?その氷、どうしたの?」
「僕も戻って来た時、驚きました。ユノさんが湖を全て凍らせてしまったんです。」
「え!?どうやって?」
「ルナと同じ方法で。」
「やっぱりユノには敵わないなぁ…。」
「ルナ、もう手は大丈夫?」
「うん。もう大丈夫!」
「それならルナさんも運ぶの手伝って下さい。作業の続きをしましょう。」
その日の夜、ベッドの上でくつろいでいると隣の部屋からツヴェルがやって来た。
「どうしたの?」
「薬を持ってきました。」
「え?何の薬?」
「凍傷に効く塗り薬です。」
「必要ないよ~。もう大丈夫だって。」
「薬を塗って悪い事はありません。いいからそこに座ってください。」
「わ、わかったよぉ…。」
言われた通りにソファーに腰を下ろすと、その隣に彼も腰を下ろした。彼は薬の蓋を開けると少量を手に取って、両手に馴染ませた。そして私の右手を掴むと、両手で包み込むようにして薬を塗り始めた。
「ふふ…っ…なんか、くすぐったい…。」
「いいからじっとしていて下さい。」
「これくらい自分で塗れるのに。」
「…こうやって、母が塗ってくれたのを思い出したんです。」
「そう…なんだ…。」
「…ところでユノさんはどこへ?」
「なんか、その辺見て回るって言ってた。」
「彼女、結構アウトドアですよね。見かけより体力もあるし、行動力もユイさん並みです。」
「やっぱり双子って事だろうね…。…そういうツヴェルも、意外と心配性で世話焼きだよね。」
「あなたに言われたくありません。」
「う…。」
「…心配なのはあなただからです。ララの様に無茶をするし、ララみたいにドジもするし、ララと同じくらいお人好しなんですから…。」
「基準がララなんだね…。」
「しょうがないじゃないですか。ララしか友人が居ないんですから。」
「あれ?でも、アルブムさんに紹介する時、私達の事を友人ですって言わなかった?」
「…そんな事言いましたっけ?覚えていません。」
「あー!はぐらかしたー!」
「気のせいでしょう?はい。終わりましたよ。」
「むぅ…。」
「明日は準備の最終日です。明後日には祭りがあるんですから、最後の追い込み頑張ってくださいよ?」
「わ、わかってるよ!」
「おやすみなさいルナさん。」
「うん。おやすみツヴェル。」
翌朝、祭りの手伝いをするために広場へやって来た。周りにはお年寄りから子供まで、沢山のコルトの住民達が集まっている。アルブムさんの挨拶を終え、住民達が四方八方に散らばり始めた。
「昨日も話しましたが、僕達は雪や氷を積み上げる作業を手伝います。」
「依頼を受ける前にも少しだけ聞いたけど…かなりの重労働だよね。」
「何も手でやれとは言っていません。“ミシク”を使えばあっという間ですよ。」
「そっか!魔法で動かせばいいんだ!」
「ツヴェル頭いい。」
「昔からそうしていただけですよ。周りにいた同じ年頃の子供には、気味が悪いと言われてしまいましたが。…昔の話はともかく、僕達も始めましょう。」
「うん!」
わからない所を彼に教えてもらいながら、日が暮れる夕方まで作業は行われた。
1日目の作業を終えた私達は、ツヴェルの家に戻ってそれぞれの部屋で休息をとる事にした。屋敷の廊下を歩いていると、母親の部屋に入っていくツヴェルを見つけ、私は後を追いかけた。部屋の扉に手をかけた瞬間、中から彼の声が聞こえてきた。
「母上…。今日、リオート祭の準備を手伝ってきました。母上と初めて祭りを見に行った時の事…今でもよく覚えています。……っ…母上は……覚えていますか…?迷子になった僕を…っ…懸命に…探してくれましたよね…。」
「ツヴェル…。」
「…っ!」
私の姿を見て、目から溢れた涙を慌てて拭った。
「ご、ごめん…。入って行くのが見えたから…気になって…。」
「…そうですか。何か僕に話したい事でも?」
「泣くの…我慢する事ないと思う。」
「何故そう思うんですか?僕は昔、父に言われました。男は泣くものじゃないと。どれだけ悲しくても辛くても、涙を流すのは子供と女だけだと。」
「そんな事ないよ…!泣いたら駄目なんて…」
「泣いたら何か変わりますか?涙を流せば母は目覚めるんですか!?」
声を荒らげて椅子から立ち上がった彼を、私は力一杯抱きしめた。
「な、何す…」
「泣いたからって、どうにかなる訳じゃないのはわかってる。でも、悲しかったら泣いていいんだよ?悲しいって誰かに打ち明けて、甘えたっていいと思う…!ツヴェルは機械じゃなくて…感情のある生き物なんだから。」
「…っ。」
彼は私の背中に腕を回して、強く抱き返した。身体を震わせ、声を押し殺して涙を流している彼を、私は黙って抱きしめていた。
「…すみませんでした。」
「え?何が?」
「あなたに泣きついた事です。みっともない恥を晒しました。」
「私はちょっと嬉しかったよ?ツヴェルの役に立てて。」
「何故僕の役に立つのが嬉しいんですか?意味がわかりません。」
「そんな事言わないでよ~。涙を見せあった仲でしょ~?」
「あ、あなたにだけは知られたくなかったです///!!!」
「え、ちょっと!どこ行くの!?」
「部屋に戻ります!ついて来ないで下さい!」
「そんな事言われても…部屋隣だし…。ま、待ってよ~!」
「ルナさん。もっと沢山並べないと上に積めなくなりますよ?」
「わ、わかってるよぉ…。」
翌日、彼は何事も無かったように振舞っていた。むしろ、私に対する当たりが普段よりも強くなっているように思える。
「ルナさん。もう少し優しく扱って下さい。ヒビが入ったらどうするんですか。」
「う…。」
「ツヴェル、張り切ってるね。」
「ねぇユノ…。ツヴェル、私に対して厳しいと思わない?」
「そう?」
「そうだよ~。なんか、八つ当たりしてるように感じて…」
「ルナさん。ちょっと来てください。」
「何!?今度は何なの!?」
「な…何を怒ってるんですか?」
「な、なんでもない…。」
「これ、使ってください。」
彼は、毛がついてモコモコしているヘッドバンドの様な形状の物を私に差し出した。
「何これ?カチューシャ?」
「耳あてと言うものです。両側のこの部分を耳に当てて使います。」
「こう?」
「違いますよ。…ちょっと貸してください。」
私の手から耳あてを奪い取ると、頭の上に手を伸ばして正しい位置に取り付けた。耳がモコモコした部分に覆われ、暖かくなるのを感じる。
「何これすごいね!耳があったかい!」
「今日は風がありますから、風邪を引かないように気をつけて下さい。」
「あ、ありがとうツヴェル。」
「これ、ユノさんの分です。彼女にも付けてあげて下さい。」
「わかった!」
「ニール殿。作業の方はどうですか?」
「順調だと思いますよ。」
「それは良かったです。お2人も無理のなさらないようにしてくださいね?」
「あ、はい!」
「領主様~!」
アルブムさんと共に作業を一休みしていた私達の元に、1人の青年が駆け足でやって来た。
「どうかしましたか?」
「大変なんです…!積み上げるための氷が足りなくて…!」
「湖の氷では足りなかったのですか?」
「今年は、あまり寒くなかったせいか、氷の厚みが少ないみくて…。その分、切り出した時に氷の数が減ったようです。」
「それは困りましたね…。」
「魔法で氷、作る?」
「それだと、魔力が無くなったら消えてしまいませんか?ずっと維持するのは無理ですよ。」
「そっか…。」
「水を固めれば氷になるよね?魔法で湖の水を凍らせられないかな?」
「それしかなさそうですね…。試しにやってみましょう。」
青年の案内で湖にやって来ると、私は水面に手を触れて魔法を唱え始めた。
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。スティーリア”」
触れたものを凍らせる事が出来る、氷属性の魔法を発動した。手の周りの水が凍り始め、次第に横に広がって行った。冷たい氷に触れ続けていると、刺すような痛みが手の平から伝わってくる。
「…っ。」
「ルナさん…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!冷たいけどこれくらいなら我慢できるし…。」
「ルナ。無理しない方が…」
「平気平気!ほら、だいぶ凍って…」
横から手を伸ばしたツヴェルに腕を掴まれ、水面から引き離されてしまった。
「あー!せっかく凍ってたのに!」
「その前に凍傷になったらどうするんですか!手首から下を切り落とされたいんですか!?」
「な、なんでそんなに怒ってるの…?」
「こんなに冷たくなって…。腫れてるじゃないですか…。」
手袋を外した彼の手が、冷たくなった私の右手を包み込んだ。
「ツヴェルの方が冷たくなっちゃうよ!手袋すれば大丈夫だから…」
「痛くなってからでは遅いんですよ!ユノさん。彼女を連れて、一旦家に戻ります。ここで待っていてもらえますか?」
「ん。わかった。」
「行きましょう。」
「え!?だ、大丈夫だよ!ちょっと待っ…待ってよツヴェル~!」
強引に腕を引かれ、ツヴェルの家に向かった。
部屋のソファーに座らされ、使用人のお姉さんが用意してくれたぬるま湯に両手を浸した。
「このまま30分程浸しておいてください。」
「えー。30分も?もう冷たくないし大丈…」
「ミグさん!」
「な、なんだ?どうした?」
私ではなくツヴェルに呼び出されたミグは、慌てて身体の外に出てくると驚いた表現をしていた。
「きっちり30分、彼女を監視していて下さい。」
「わ、わかった…。」
「ユノさんが心配なので僕は戻ります。あとはお願いします。」
彼はそう言い残すと、部屋から出ていってしまった。
「ねーミグー。まだー?」
「あと3分だ。」
「いいじゃん3分くらい!」
「だめだ。きっちり30分って言われたからな。」
「むー…。」
「子供みたいに駄々をこねるな。お前1人が居なくなった所で、準備が進まない訳じゃないんだろ?」
「そうだけどー…。氷が足りなくて困ってる所なんだよ?何か他の方法を探さなきゃ…。」
「湖じゃ凍るまでに時間がかかるんだろ?なら…バケツに水を汲んで凍らせるのはどうだ?小さいかもしれないが、休み休みやれば何個も作れるだろ。」
「それいいかも!時間はかかるけどユノと2人でやれば間に合うかもしれないし…!」
「3分経ったぞ。」
「早く行かなきゃ!」
「おいちょっと待て!走るな!」
湖に戻って来ると、氷の塊を運んでいる2人の姿を見つけた。
「あれ?その氷、どうしたの?」
「僕も戻って来た時、驚きました。ユノさんが湖を全て凍らせてしまったんです。」
「え!?どうやって?」
「ルナと同じ方法で。」
「やっぱりユノには敵わないなぁ…。」
「ルナ、もう手は大丈夫?」
「うん。もう大丈夫!」
「それならルナさんも運ぶの手伝って下さい。作業の続きをしましょう。」
その日の夜、ベッドの上でくつろいでいると隣の部屋からツヴェルがやって来た。
「どうしたの?」
「薬を持ってきました。」
「え?何の薬?」
「凍傷に効く塗り薬です。」
「必要ないよ~。もう大丈夫だって。」
「薬を塗って悪い事はありません。いいからそこに座ってください。」
「わ、わかったよぉ…。」
言われた通りにソファーに腰を下ろすと、その隣に彼も腰を下ろした。彼は薬の蓋を開けると少量を手に取って、両手に馴染ませた。そして私の右手を掴むと、両手で包み込むようにして薬を塗り始めた。
「ふふ…っ…なんか、くすぐったい…。」
「いいからじっとしていて下さい。」
「これくらい自分で塗れるのに。」
「…こうやって、母が塗ってくれたのを思い出したんです。」
「そう…なんだ…。」
「…ところでユノさんはどこへ?」
「なんか、その辺見て回るって言ってた。」
「彼女、結構アウトドアですよね。見かけより体力もあるし、行動力もユイさん並みです。」
「やっぱり双子って事だろうね…。…そういうツヴェルも、意外と心配性で世話焼きだよね。」
「あなたに言われたくありません。」
「う…。」
「…心配なのはあなただからです。ララの様に無茶をするし、ララみたいにドジもするし、ララと同じくらいお人好しなんですから…。」
「基準がララなんだね…。」
「しょうがないじゃないですか。ララしか友人が居ないんですから。」
「あれ?でも、アルブムさんに紹介する時、私達の事を友人ですって言わなかった?」
「…そんな事言いましたっけ?覚えていません。」
「あー!はぐらかしたー!」
「気のせいでしょう?はい。終わりましたよ。」
「むぅ…。」
「明日は準備の最終日です。明後日には祭りがあるんですから、最後の追い込み頑張ってくださいよ?」
「わ、わかってるよ!」
「おやすみなさいルナさん。」
「うん。おやすみツヴェル。」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる