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第10章︰エーリ学院〜上級クラス〜
第86話
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上級クラスに昇級してから数日が経った。以前、レジデンスで依頼をしていた事もあり、私は次々と依頼をこなせるようになっていた。
上級クラスは他のクラスと違い、授業もなければ実習もなく、決まった休みもない為、生徒1人1人が自由気ままに生活している。
「あ、ルナさんおかえりなさい。今戻ってきたんですか?」
「うん!ツヴェルは?」
「僕はこれから、本を返しに行きます。」
「なら、私も一緒に行こうかな!」
彼の後に続いて図書室に足を踏み入れると、本棚に視線を向けた。
「ツヴェルは何の本を読んでたの?」
「魔導書ですよ。それ以外に何を読むというのですか?」
「そこまで断言しなくても…。魔導書しかない訳じゃないんだから、他のも読んでみたらいいのに。」
「ララみたいに薬草の本を読めというのですか?」
「えっと…ほら!これなんかどう?」
本棚から本を1冊抜き取ると、彼に差し出した。
「童話ですか?興味ありません。」
「いいからいいから!息抜きだと思って読んでみなよ~。ね?」
「…わかりましたよ。もし、面白くなかったらあなたに突き返しますからね。」
彼は渋々本を手に取ると、図書室から出ていってしまった。
「おいルナ。今日は依頼やらないのか?」
「せっかく本を借りたから、読もうかなって思って!」
「まあ、たまにはそういう日があってもいいか…。」
ーコンコン
「ん?誰だろう?はーい。」
扉を開くと、そこにはララとユイの姿があった。
「あ!ララー!ユイー!久しぶりだね~!今日は中級クラスも休み?」
「ええ。だから、遊びに来たわ。」
「入って入って~。」
クラスが変わって会う機会が少なくなってしまった彼女達だが、相変わらず元気に頑張っている様子を聞き、安心した。
「ルナちゃんの方はどう?慣れてきた?」
「うん。やるもやらないも自由だし、結構楽しいよ!」
「フランくんは…どうしてる?」
「え?フランも楽しそうにやってるみたいだけど…ララ、会ってないの?」
「中々会えなくって…。ツーくんとはこの間話したんだけど、フランくんは顔すら見てないんだよね…。」
「そういえばあたしも見てないわね。忙しいのかしら?」
「が、頑張ってるんじゃないかな?無理はしてないと思うけど…。」
ーコンコン
再び扉を叩く音が聞こえ、私はその場に立ち上がった。
「はーい?どちら様…」
「ルナ!」
「わぁ!?」
扉を開けた途端、黒いローブを身にまとった人物が私に抱きついてきた。背丈は私の肩程しかなく、声の高さから少女だと思われる。
「だ、誰?」
「わ、私です…。フィーです。」
「え!?フィー!?」
フィーと名乗った彼女が顔をあげると、被っていたフードを脱いだ。目元が隠れる程長い前髪の隙間から彼女の灰色の瞳が見え、正体を隠す為なのか普段の髪色と違い、真っ黒に染められていた。
「フィーって…もしかして、レム様!?」
「はわわ…どうしてレム様がここに…!」
「ふ、2人共落ち着いて!レム様、とりあえず中にどうぞ…!」
「は、はい…。」
フィーがクッションの上に腰を下ろすと、テーブルの向こう側に座っているララとユイの2人は、姿勢を正して固まっていた。
「レム様。えと…どうしてここに?」
「じ、実は…ルナ達が上級クラスに昇級した話を聞いたレーガが、お祝いをしようと言い出して…。レジデンスに連れてくるように言われたんです…。これ、ライガからの手紙…です。」
「手紙?」
封筒の中から1枚の紙を取り出すと、書いてある文字に目を通した。
「な、なんて書いてあるの?」
「レジデンスに来いって事と、友達も連れて来いって書いてあるね…。」
「と、友達って事は、あたし達も…!?」
「ルナのお友達…沢山いるんですよね?だから、ライガは私に連れてくるように言ったんだと思います…。」
「すごい数になるけど大丈夫なのかしら…。」
「で、でも、全員行けるかわかんないし…。まずは聞いてみたらどうかな?」
「そうだね!他のみんなに話をしてくるので、レム様はここで待っててもらえますか?」
「わかりました…。」
みんなに話をする為、私達3人は寮の中を歩き回った。フランとユノさんには会う事が出来ず、最終的にララ、ユイ、アレク、タック、レミリー、ツヴェル、ユーリの7人を連れて行く事になった。
部屋で待っていたフィーと共に、イリスシティアの東に伸びている街道を目指した。街を出た所で彼女は使い魔を呼び出し、作り出した馬車の中に私達は乗り込んだ。
「着きました…。」
長い長い橋を渡りきり、レジデンスの前に停車した馬車から地面に降り立った。
「ライガに話をしてくるので、中庭で待っててもらえますか…?」
「うん!なら、私がみんなを案内するね。」
「お願いしますね…。」
フィーは私達の側から離れ、一足先に建物の中に入って行った。
「ま、まじでレジデンスや…。どないしよう…俺、初めてなんやけど…。」
「私も初めて…。緊張してきた…。」
「も~。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~。」
「ルナはここで生まれたからそうだろうけど…。俺は何回来ても慣れないよ…。」
「と、とにかく中庭に行こうよ!」
私は先頭に立ち、みんなを引き連れて中庭を目指した。
「ユ、ユイ。さっきから黙り込んでるけど…大丈夫?」
「だ、大丈夫よ…。ちょっと緊張してるだけ…。」
中庭でライガとフィーがやってくるのを待っていると、ベンチに座ったユイの顔色が良くないように見えた。それに気づいたレミリーは、彼女の手をとって握りしめた。
「ユイ。こういう時は手を握ると落ち着くわよ~?」
「そんなの初めて聞いたけど…。…確かに落ち着くわね。」
「な、なら、私も握って!」
「はいどうぞ~。」
「な、なぁツヴェル。手、握ってもええ…?」
「何言ってるんですか。嫌ですよ。」
「そんな事言わへんで~!な?」
「ちょ…!勝手に掴まないで下さいよ!離してください!」
「お、俺も手繋ごうかな…。」
「なら僕と繋ぐ~?」
「いいの?じゃあ………ぅわあ!?」
タックは差し出された手を握ると、驚きの声をあげた。
「ラ、ラギト様!?」
「みんないらっしゃ~い。」
「レー…ラ、ラギト様!いつからそこに…。」
「さっきだよ?…それとルナ。ここにいる間は、その呼び方と敬語は無しね。いい?」
「えっ…でも…。」
「僕がいいって言うんだからいいの…!さっきフィーに会ったけど、ルナと距離が出来ちゃったみたいで悲しい~って言ってたよ?」
「そ、そんな事はない…けど…。」
「あれ?なんでユーリもいるの?」
「もちろん、ルナのお誘いです。僕も彼女の友人の1人ですから。」
「ふーん。」
「レーガ。そこで何をしている。」
「ヴァ、ヴァン様…!」
レーガと話をしていると、ライガとフィーが私達の元にやって来た。
「見かけたから話をしてたんだよ~。別にいいでしょ?それくらい。」
「お前はエレナの手伝いをするんじゃなかったのか?」
「えーあー…。そうだった…っけ?」
「…後でボコボコにされても俺は知らないからな。」
「レーガ…最低です…。」
「えー!そんな事言わないでよフィー!」
「そ、それなら…!私達がお手伝いします…!」
「それはありがたいが…。こっちから招待しのに悪いな…。」
「そんな風に言わないでください!呼んで頂けただけで光栄ですから!」
「タクトはいい子だね~。」
「もー!レーガも一緒に、エレナの手伝いするんだからね!?」
「は、はぁ~い…。」
私達はエレナがいる食堂へ向かい、全員でパーティの準備をする事になった。出来上がった料理をテーブルに並べ、席につくとグラスを片手に乾杯した。
「ルナ。改めて昇級おめでとう。」
「ありがとうライガ…じゃなかった…ヴァン様…。」
「いつも通りで構わない。お前に他人行儀な喋り方をされるのは変な気分だ。」
「そ、そうかな?」
「兄妹なら当然だろう?忘れたのか?」
「忘れてないよ…!けど…私は、フランと違って子供の頃からいた訳じゃ…」
「あ、あの…ヴァン様!」
「ん?タクトか。どうした?」
「お取り込み中…だった?」
「あーううん!そんな事ないよ。」
「ちょっとお聞きしたい事があって…。今、お時間大丈夫でしょうか?」
「ああ。構わないぞ。」
「じゃあ…私はエレナの所に行ってくるね。」
エレナの隣にフィーが座り、その周りにはララ、ユイ、ツヴェルの姿があった。
「あら!久しぶりですわね、ルナ。どうぞ、ここに座ってくださいな。」
隣に座るように促され、私は言われた通りに彼女の隣に腰を下ろした。
「お、お久しぶりです…!リーシア様…。」
「…随分、他人行儀な喋り方ですのね。これではフィーが落ち込むのも無理ありませんわ。」
「そう言われましても…。」
「レーガには…普通に喋ってましたよね…?私とレーガでは何が違うんですか…?」
「レ、レーガには、敬語は無しでって言われたからで…。」
「でしたら、私達にもそうして下さい!レーガだけなんてずるいですわ!」
「そうですよ…!ずるいです…!」
「えー!で、でも…」
「お2人がここまで言っているのに、何を躊躇っているんですか?」
「そうよ。本人がいいと言ってるんだから、従いなさいよ。」
「わ、わかったよ~…。」
「少々取り乱してしまいましたが…。…ルナ、ツヴェル。上級クラスへの昇級、おめでとうございますわ。」
「あ、ありがとうございます!」
「ルナは…レジデンスで依頼をしてた事ありますから…大丈夫ですよね…?」
「うん!だいぶ慣れたよ。」
「ツヴェルは大丈夫ですの?」
「まだ、簡単なものしかした事がありません…。まだまだ勉強不足だと思う部分が沢山あって…。」
「あら。実習の様子を見ていた限りでは、随分優秀だと思いましたわよ?」
「ほ、本当でしょうか?」
「ええ。身のこなしや武器の扱いは申し分ないですし、魔法の才能も持ち合わせていると思いますし。」
「ありがとうございます。褒めていただけて光栄です…。」
「ねーねールナ~。」
話をしていると、私の後ろからレーガの声が聞こえてきた。彼は私の首元に腕を回し、身体を寄せてきた。
「わ!?な、何?どうしたの?」
「なんでフランは来てないの~?フランにもおめでとうって言いたかったのに~。」
「そういえばそうですわね…。フランはどうしたのです?」
「声をかけようと思ったんですが…外に出かけていたみたいで、私達も会えなかったんです…。」
「昇級してから忙しそうにしてるみたいで…。」
「そんな~。…なら、今日はルナと寝る~。」
「ええ!?だ、駄目だよそんなの!」
「なんで?ここに住んでた頃は、毎日のように一緒に寝…」
「うわぁぁぁー!わかったから!わかったから、とりあえずあっちに行こう!」
私は強引に彼の言葉を遮ると、腕を掴んでその場から離れた。
「お~いルナ~。どこ行くん~?」
少し離れた場所で、アレクがこちらに向かって手を振っている。側にはユーリとレミリーが座り、料理を食べている様子だった。
「助けてアレク~。ルナにいじめられる~。」
「ち、違うからね!?」
「ルナ!ラギト様をどこへ連れて行く気なんだ!」
「誤解だよユーリ…!どこかに連れて行こうとした訳じゃなくて…み、みんなと話をしたいなーと思って!ね?レーガ。」
「ラギト様、さっきまでここにおったけど?」
「え?そうなの?」
「ええ~。昇級した事褒めてくださったわ。」
「そうなんだ…。」
「あ。まだ言ってなかったよね?ルナも昇級おめでとう。」
レーガは手を伸ばし、私の頭を撫で始めた。
「あ、ありがとう…。」
「ええな~。俺も早く昇級して褒められたいわぁ~。」
「昇級は闘技大会が全てじゃないからね~。普段から頑張る努力が大事だよ。」
「は、はい!頑張ります!」
「ルナ。料理は食べたかい?」
「あ、まだ食べてないや…。みんなと話をしてたから…。」
「これ、すごく美味しいで!」
「これも美味しかったわよ~。」
私はレミリーの隣に腰を下ろすと、目の前に料理をよそった皿が次々と並べられた。
「そんなに沢山食べれないよ!」
「いっぱい食べないと大きくなれないよ~?」
「こ、個人的には充分だけど…!」
「はいこれ。ちゃんと飲み物も飲んで、ゆっくり食べるんだよ?」
レーガは私の手元に飲み物の入ったグラスを置くと、私達に背を向けて歩き出した。
「レーガはどこか行くの?」
「タクトの所に行ってくるよ~。」
「なら僕も一緒に行きます!」
「あ!なら俺も…!」
「あの2人、かなりラギト様に執着してるわね~。」
「ラギトファンクラブの会長と会員だからね…。」
3人の背中を見送ると、レミリーと話をしながら用意された料理を楽しんだ。
上級クラスは他のクラスと違い、授業もなければ実習もなく、決まった休みもない為、生徒1人1人が自由気ままに生活している。
「あ、ルナさんおかえりなさい。今戻ってきたんですか?」
「うん!ツヴェルは?」
「僕はこれから、本を返しに行きます。」
「なら、私も一緒に行こうかな!」
彼の後に続いて図書室に足を踏み入れると、本棚に視線を向けた。
「ツヴェルは何の本を読んでたの?」
「魔導書ですよ。それ以外に何を読むというのですか?」
「そこまで断言しなくても…。魔導書しかない訳じゃないんだから、他のも読んでみたらいいのに。」
「ララみたいに薬草の本を読めというのですか?」
「えっと…ほら!これなんかどう?」
本棚から本を1冊抜き取ると、彼に差し出した。
「童話ですか?興味ありません。」
「いいからいいから!息抜きだと思って読んでみなよ~。ね?」
「…わかりましたよ。もし、面白くなかったらあなたに突き返しますからね。」
彼は渋々本を手に取ると、図書室から出ていってしまった。
「おいルナ。今日は依頼やらないのか?」
「せっかく本を借りたから、読もうかなって思って!」
「まあ、たまにはそういう日があってもいいか…。」
ーコンコン
「ん?誰だろう?はーい。」
扉を開くと、そこにはララとユイの姿があった。
「あ!ララー!ユイー!久しぶりだね~!今日は中級クラスも休み?」
「ええ。だから、遊びに来たわ。」
「入って入って~。」
クラスが変わって会う機会が少なくなってしまった彼女達だが、相変わらず元気に頑張っている様子を聞き、安心した。
「ルナちゃんの方はどう?慣れてきた?」
「うん。やるもやらないも自由だし、結構楽しいよ!」
「フランくんは…どうしてる?」
「え?フランも楽しそうにやってるみたいだけど…ララ、会ってないの?」
「中々会えなくって…。ツーくんとはこの間話したんだけど、フランくんは顔すら見てないんだよね…。」
「そういえばあたしも見てないわね。忙しいのかしら?」
「が、頑張ってるんじゃないかな?無理はしてないと思うけど…。」
ーコンコン
再び扉を叩く音が聞こえ、私はその場に立ち上がった。
「はーい?どちら様…」
「ルナ!」
「わぁ!?」
扉を開けた途端、黒いローブを身にまとった人物が私に抱きついてきた。背丈は私の肩程しかなく、声の高さから少女だと思われる。
「だ、誰?」
「わ、私です…。フィーです。」
「え!?フィー!?」
フィーと名乗った彼女が顔をあげると、被っていたフードを脱いだ。目元が隠れる程長い前髪の隙間から彼女の灰色の瞳が見え、正体を隠す為なのか普段の髪色と違い、真っ黒に染められていた。
「フィーって…もしかして、レム様!?」
「はわわ…どうしてレム様がここに…!」
「ふ、2人共落ち着いて!レム様、とりあえず中にどうぞ…!」
「は、はい…。」
フィーがクッションの上に腰を下ろすと、テーブルの向こう側に座っているララとユイの2人は、姿勢を正して固まっていた。
「レム様。えと…どうしてここに?」
「じ、実は…ルナ達が上級クラスに昇級した話を聞いたレーガが、お祝いをしようと言い出して…。レジデンスに連れてくるように言われたんです…。これ、ライガからの手紙…です。」
「手紙?」
封筒の中から1枚の紙を取り出すと、書いてある文字に目を通した。
「な、なんて書いてあるの?」
「レジデンスに来いって事と、友達も連れて来いって書いてあるね…。」
「と、友達って事は、あたし達も…!?」
「ルナのお友達…沢山いるんですよね?だから、ライガは私に連れてくるように言ったんだと思います…。」
「すごい数になるけど大丈夫なのかしら…。」
「で、でも、全員行けるかわかんないし…。まずは聞いてみたらどうかな?」
「そうだね!他のみんなに話をしてくるので、レム様はここで待っててもらえますか?」
「わかりました…。」
みんなに話をする為、私達3人は寮の中を歩き回った。フランとユノさんには会う事が出来ず、最終的にララ、ユイ、アレク、タック、レミリー、ツヴェル、ユーリの7人を連れて行く事になった。
部屋で待っていたフィーと共に、イリスシティアの東に伸びている街道を目指した。街を出た所で彼女は使い魔を呼び出し、作り出した馬車の中に私達は乗り込んだ。
「着きました…。」
長い長い橋を渡りきり、レジデンスの前に停車した馬車から地面に降り立った。
「ライガに話をしてくるので、中庭で待っててもらえますか…?」
「うん!なら、私がみんなを案内するね。」
「お願いしますね…。」
フィーは私達の側から離れ、一足先に建物の中に入って行った。
「ま、まじでレジデンスや…。どないしよう…俺、初めてなんやけど…。」
「私も初めて…。緊張してきた…。」
「も~。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~。」
「ルナはここで生まれたからそうだろうけど…。俺は何回来ても慣れないよ…。」
「と、とにかく中庭に行こうよ!」
私は先頭に立ち、みんなを引き連れて中庭を目指した。
「ユ、ユイ。さっきから黙り込んでるけど…大丈夫?」
「だ、大丈夫よ…。ちょっと緊張してるだけ…。」
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「ユイ。こういう時は手を握ると落ち着くわよ~?」
「そんなの初めて聞いたけど…。…確かに落ち着くわね。」
「な、なら、私も握って!」
「はいどうぞ~。」
「な、なぁツヴェル。手、握ってもええ…?」
「何言ってるんですか。嫌ですよ。」
「そんな事言わへんで~!な?」
「ちょ…!勝手に掴まないで下さいよ!離してください!」
「お、俺も手繋ごうかな…。」
「なら僕と繋ぐ~?」
「いいの?じゃあ………ぅわあ!?」
タックは差し出された手を握ると、驚きの声をあげた。
「ラ、ラギト様!?」
「みんないらっしゃ~い。」
「レー…ラ、ラギト様!いつからそこに…。」
「さっきだよ?…それとルナ。ここにいる間は、その呼び方と敬語は無しね。いい?」
「えっ…でも…。」
「僕がいいって言うんだからいいの…!さっきフィーに会ったけど、ルナと距離が出来ちゃったみたいで悲しい~って言ってたよ?」
「そ、そんな事はない…けど…。」
「あれ?なんでユーリもいるの?」
「もちろん、ルナのお誘いです。僕も彼女の友人の1人ですから。」
「ふーん。」
「レーガ。そこで何をしている。」
「ヴァ、ヴァン様…!」
レーガと話をしていると、ライガとフィーが私達の元にやって来た。
「見かけたから話をしてたんだよ~。別にいいでしょ?それくらい。」
「お前はエレナの手伝いをするんじゃなかったのか?」
「えーあー…。そうだった…っけ?」
「…後でボコボコにされても俺は知らないからな。」
「レーガ…最低です…。」
「えー!そんな事言わないでよフィー!」
「そ、それなら…!私達がお手伝いします…!」
「それはありがたいが…。こっちから招待しのに悪いな…。」
「そんな風に言わないでください!呼んで頂けただけで光栄ですから!」
「タクトはいい子だね~。」
「もー!レーガも一緒に、エレナの手伝いするんだからね!?」
「は、はぁ~い…。」
私達はエレナがいる食堂へ向かい、全員でパーティの準備をする事になった。出来上がった料理をテーブルに並べ、席につくとグラスを片手に乾杯した。
「ルナ。改めて昇級おめでとう。」
「ありがとうライガ…じゃなかった…ヴァン様…。」
「いつも通りで構わない。お前に他人行儀な喋り方をされるのは変な気分だ。」
「そ、そうかな?」
「兄妹なら当然だろう?忘れたのか?」
「忘れてないよ…!けど…私は、フランと違って子供の頃からいた訳じゃ…」
「あ、あの…ヴァン様!」
「ん?タクトか。どうした?」
「お取り込み中…だった?」
「あーううん!そんな事ないよ。」
「ちょっとお聞きしたい事があって…。今、お時間大丈夫でしょうか?」
「ああ。構わないぞ。」
「じゃあ…私はエレナの所に行ってくるね。」
エレナの隣にフィーが座り、その周りにはララ、ユイ、ツヴェルの姿があった。
「あら!久しぶりですわね、ルナ。どうぞ、ここに座ってくださいな。」
隣に座るように促され、私は言われた通りに彼女の隣に腰を下ろした。
「お、お久しぶりです…!リーシア様…。」
「…随分、他人行儀な喋り方ですのね。これではフィーが落ち込むのも無理ありませんわ。」
「そう言われましても…。」
「レーガには…普通に喋ってましたよね…?私とレーガでは何が違うんですか…?」
「レ、レーガには、敬語は無しでって言われたからで…。」
「でしたら、私達にもそうして下さい!レーガだけなんてずるいですわ!」
「そうですよ…!ずるいです…!」
「えー!で、でも…」
「お2人がここまで言っているのに、何を躊躇っているんですか?」
「そうよ。本人がいいと言ってるんだから、従いなさいよ。」
「わ、わかったよ~…。」
「少々取り乱してしまいましたが…。…ルナ、ツヴェル。上級クラスへの昇級、おめでとうございますわ。」
「あ、ありがとうございます!」
「ルナは…レジデンスで依頼をしてた事ありますから…大丈夫ですよね…?」
「うん!だいぶ慣れたよ。」
「ツヴェルは大丈夫ですの?」
「まだ、簡単なものしかした事がありません…。まだまだ勉強不足だと思う部分が沢山あって…。」
「あら。実習の様子を見ていた限りでは、随分優秀だと思いましたわよ?」
「ほ、本当でしょうか?」
「ええ。身のこなしや武器の扱いは申し分ないですし、魔法の才能も持ち合わせていると思いますし。」
「ありがとうございます。褒めていただけて光栄です…。」
「ねーねールナ~。」
話をしていると、私の後ろからレーガの声が聞こえてきた。彼は私の首元に腕を回し、身体を寄せてきた。
「わ!?な、何?どうしたの?」
「なんでフランは来てないの~?フランにもおめでとうって言いたかったのに~。」
「そういえばそうですわね…。フランはどうしたのです?」
「声をかけようと思ったんですが…外に出かけていたみたいで、私達も会えなかったんです…。」
「昇級してから忙しそうにしてるみたいで…。」
「そんな~。…なら、今日はルナと寝る~。」
「ええ!?だ、駄目だよそんなの!」
「なんで?ここに住んでた頃は、毎日のように一緒に寝…」
「うわぁぁぁー!わかったから!わかったから、とりあえずあっちに行こう!」
私は強引に彼の言葉を遮ると、腕を掴んでその場から離れた。
「お~いルナ~。どこ行くん~?」
少し離れた場所で、アレクがこちらに向かって手を振っている。側にはユーリとレミリーが座り、料理を食べている様子だった。
「助けてアレク~。ルナにいじめられる~。」
「ち、違うからね!?」
「ルナ!ラギト様をどこへ連れて行く気なんだ!」
「誤解だよユーリ…!どこかに連れて行こうとした訳じゃなくて…み、みんなと話をしたいなーと思って!ね?レーガ。」
「ラギト様、さっきまでここにおったけど?」
「え?そうなの?」
「ええ~。昇級した事褒めてくださったわ。」
「そうなんだ…。」
「あ。まだ言ってなかったよね?ルナも昇級おめでとう。」
レーガは手を伸ばし、私の頭を撫で始めた。
「あ、ありがとう…。」
「ええな~。俺も早く昇級して褒められたいわぁ~。」
「昇級は闘技大会が全てじゃないからね~。普段から頑張る努力が大事だよ。」
「は、はい!頑張ります!」
「ルナ。料理は食べたかい?」
「あ、まだ食べてないや…。みんなと話をしてたから…。」
「これ、すごく美味しいで!」
「これも美味しかったわよ~。」
私はレミリーの隣に腰を下ろすと、目の前に料理をよそった皿が次々と並べられた。
「そんなに沢山食べれないよ!」
「いっぱい食べないと大きくなれないよ~?」
「こ、個人的には充分だけど…!」
「はいこれ。ちゃんと飲み物も飲んで、ゆっくり食べるんだよ?」
レーガは私の手元に飲み物の入ったグラスを置くと、私達に背を向けて歩き出した。
「レーガはどこか行くの?」
「タクトの所に行ってくるよ~。」
「なら僕も一緒に行きます!」
「あ!なら俺も…!」
「あの2人、かなりラギト様に執着してるわね~。」
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アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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