エテルノ・レガーメ

りくあ

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第9章︰エーリ学院〜中級クラス〜【後編】

第84話

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「ん…。」

朝になり、目を覚ました私はゆっくりと身体を起こした。隣に寝ていたララが、私の服の裾を掴んだまま気持ちよさそうに寝息を立てている。ユイとレミリーは、それぞれが向かい合うようにして横になって眠っていた。 
斜め後ろを振り返ると、布団にくるまって寝ているフランと大の字になって寝ているアレクの姿があった。タックとツヴェルは既に起きているのか、彼等の布団は畳まれて壁際に寄せられている。
ララを起こさないようにそっと彼女の腕を引き剥がすと、布団を片付けて建物の外に出た。朝日が差し込み、川の水が光を反射してキラキラと輝いている。

「ふっ…!はっ…!」

建物の裏の方から声が聞こえ、そっと顔を覗かせた。

「あ、ルナさん。おはようございます。」
「おはようルナ。」

タックとツヴェルの2人が武器を手に、向かい合っていた。

「2人共…こんな所で何してるの?」
「朝稽古だよ。」
「僕はたまたま早く起きたので、彼に付き合っていました。」
「せっかく休みに来たのに、朝早くから稽古をしてたの?」
「毎朝の日課なんだ。朝出来ない時は夜やるんだけど、昨日は出来なかったから。」
「ま、毎日やってるの?すごいなぁ。」
「タックさんは努力家ですね。僕も見習いたいです。」
「そ、そんな事ないよ。親父がよく言ってたんだ。毎日の積み重ねが大事だぞって。」
「ルナさんもやりますか?最近、剣を扱い始めたんですよね?」
「あ、うん!そうなんだよね。イマイチ使い方がわからなくって…。」
「俺で良かったら教えるよ。種類が違うから上手く教えられるかわかんないけど…。」
「ありがとうタック!」



タックとの稽古が終わって部屋に戻ると、ララ、ユイ、フランが起きて話をしていた。

「あ!おはようルナちゃん。」
「おはようみんな。」
「あんた達、どこに行ってたの?」
「タックに剣を教えてもらってたの。」
「そうなの?起こしてくれたら僕も一緒に教えたのに~。」
「気持ちよさそうに寝てたから悪いと思って…。」
「レミリーとアレクはまだ気持ちよさそうに寝てるけどね。」
「2人はこのまま寝かせておこっか…。」
「なら、みんなで街を歩いてみない?」
「いいね!楽しそう!行こ行こ!」

寝ている2人を部屋に残し、私達は街に向かって歩き出した。

「あそこ、ボートがいっぱい集まってるけど何をする所なんだろ?」
「ボート乗り場だって。これに乗って街中を観光出来るみたい。」
「乗ってみたい!ね、これ、借りようよ~。」
「5人までしか乗れないみたいですね…。2手に別れますか?」
「そうね。」
「私、ユイと一緒がいいから、タックに漕いでもらおっかな!疲れたらミグと交代出来るし!」
「じゃあそうしよっか。」

フラン、ララ、ツヴェルの3人と私、ユイ、タックの2手に別れ、それぞれボートに乗り込んだ。

「ご、ごめんねタック。疲れる事押し付けちゃって…。」

2手に別れる提案が出た段階で、私はどちらに乗るのがいいか頭をフル回転させていた。
ララとフランを引き離す訳にもいかず、かといってツヴェルをユイ達の中に入れようと思うと、ツヴェルが取り残されてしまう様な気がした。結果的に、私がユイ達の中に入るのが1番いいだろうと考え、半ば強引にユイとタックを誘う形となった。

「いいよいいよ。ユイやルナに漕がせる方が心が痛いし。」
「疲れたらいつでも言ってね!いくらでもミグに漕がせるから!」
「あはは。わかったよ。」
「さすが水の都ね~。水の上に家が立ってるみたいだわ。」
「ほんとだね~。水も綺麗だし、街並みも綺麗!」
「ねえちょっと…!何あれ!」

ユイが指をさした先には、白い仮面を被り青のローブを身にまとった人が、通路を歩いている姿があった。全く表情を持たない仮面は、冷たい印象と共に恐怖さえも感じさせるものだった。

「何あれ!あ、あんな人が歩いてるなんて怖いね…。」
「もしかしたら、舞踏会に参加する人かもしれないね。」
「え?舞踏会?」
「昨日レミリーから聞いたんだけど、今日はお祭りの日なんだって。夜になるとあんな風に仮装した人達が広場に集まって、踊りを踊って夜を明かすらしいよ。」
「へぇ~。楽しそう!」
「けど、あんなのが大量に集まってたら…なんだか怖いわね…。」
「そ、それはそうかも…。」
「でも楽しそうだよね。ちょっと参加してみたいかも。」
「じゃあ、後でみんなにも聞いてみよっか。」



部屋に戻ると、既に戻ってきていたララ達と部屋に残されていた2人が話をしていた。

「あ、おかえり~。」
「ただいま!」
「あんた達、やっと起きたのね。」
「酷いわぁ~。俺等置いて街の観光してくるなんて~。」
「しょうがないわよ~。遅くまで寝ていた私達が悪いもの~。」
「そういえばレミリー。今日、お祭りがあるんだってね!」
「そうなのよ~。今日は建国記念日なの。」
「あ、だから街中に仮装をした人達がいたんですね。」
「ツーくん知ってるの?」
「本で読んだ事があります。この地域で信仰されている水の神の姿に仮装をして、建国記念をお祝いするそうです。」
「じゃあ…あの白い仮面に全身青の服装がそうなんだね。」
「とにかく踊ったり歌ったりして騒がしくするだけのお祭りなのだけど、それが結構楽しいのよね~。顔もわからないから、多少下手でも大目に見てもらえるし~。」
「楽しそうだから、俺達も参加してみない?」
「確かに楽しそうやけど~…。俺、踊りなんてした事ないわぁ。」
「私達はよくやってたよね?ツーくん。」
「ま、まぁ…教育の一環としてですが。」
「どういう教育受けてたのよ…。」
「なら、私とツーくんが教えるからみんなで参加しようよ…!」
「え、ぼ、僕も教えるんですか?」
「男女ペアで踊るものだもの~。相手がいなかったら教えられないでしょう?」
「そ、それもそうですね…。わかりました。」

こうして私達は、ララとツヴェルに踊りを教わる事になった。



「わー!人が沢山いるね…!」

すっかり日が落ち、宿屋で用意してもらった衣装を身につけ、お揃いの仮面を被って広場へやって来た。大きな噴水を囲むように、仮装した街の人達が踊りを楽しむ様子が見られる。

「うわぁ…。やっぱりこれだけ集まると不気味ね…。」
「ちょ、ちょっとね…。」
「これじゃあ男か女かもわからへんなぁ。」
「女性は胸元にこれを付けてるわよ~?」

レミリーは自身の胸元についている、青色のブローチを指さした。

「私達もつけてるよ。」
「あ、ほんまや!気づかんかったわ~。」
「間違えて男を踊りに誘わないようにしなさいよ?」
「せやな…それだけは嫌やわ…。」
「とりあえずみんなで踊ってみようよ!」
「そうだね。」

噴水の近くで仮想をした人達が、楽器を持って音楽を奏でている。そのゆったりとした音に合わせ、私達も踊り始めた。

「はぁ~…緊張したぁ…。」
「この祭りは初めてですか?」
「え、あ、はい…!この街に来たのも初めてで…。」

1曲を踊り終えてホッと一息ついていると、似たような格好をした人から声をかけられた。胸元にブローチは無く、声の高さで男の人だという事がわかる。

「そうなのですね。踊りには慣れましたか?」
「友達に教えて貰ったんですが…。まだ上手く出来なくて…。」
「もしよろしかったら、1曲いかがですか?」
「え!?で、でも…」
「大丈夫ですよ。エスコートは任せてください。」
「は、はい…じゃあ…。」

顔も名前も知らない彼の手を握り、私達は踊りの輪の中に入っていった。

「相手の手を握る時は、卵を握っているつもりで握るといいですよ。」
「卵…ですか?」
「始めのうちは相手を支えにしようとしてしまいがちですから、力を入れ過ぎる傾向があるんです。ですが、それでは上手く踊れません。逆にしっかり握れずにいると不安定になってしまうので、それくらいの力加減が丁度いいのですよ。」
「そ、そうなんですね…。勉強になります!」
「後は…そうですね。緊張で動きが固くなっていますから、リラックスしましょう。」
「リ、リラックス…ですか…。」
「私の事を、あなたが想いを寄せている人物だと思うのはどうですか?」
「お、想いを寄せている人物…ですか!?」
「ええ。」
「そ、それは…逆に意識してしまいませんか…?」
「そうでしょうか?私は、愛おしい人と共に踊っていると思うと落ち着きますよ?」
「そう…ですか?」
「愛おしいと感じる相手と、一緒に居られる時間がどれほど幸せなものか。あなたにもいずれ、わかるかもしれませんね。」

彼がサラリと言った言葉が、深く胸に突き刺さった。まるで私とルカの事を言われているようで、胸の奥が締め付けられる思いがした。

「そう…ですね…。」

音楽が終わるのと同時に彼は私から身体を離すと、胸に手を当てて深く一礼した。

「お相手ありがとうございました。」
「い、いえ…こちらこそ…!とても楽しかったです。」
「それはよかったです。次にお会いする時は是非、一緒にお茶でも。」

その場にひざまずいた彼は、私の手をとり口をつけた。

「へ…///!?」
「まじないです。またあなたとお会い出来るように。それでは私はこれで。」

彼は私に背を向けると、人混みの中に消えて行ってしまった。



「楽しかったわね~。」
「私も久しぶりに踊れて楽しかったなぁ~。」
「こっちは上手く踊れるか不安でドキドキやったわ~。」
「俺もかなり緊張したよ…。」

部屋に戻ってきた私達は、布団を敷きながら先程のお祭りについて語り合っていた。

「ルナちゃんはどうだった?」
「…。」
「おーい?ルナちゃん?」
「…え?な、何?」
「どうしたんですか?ぼーっとして。」
「あ、ううん!なんでも…。」
「布団を敷き終わったら、またみんなで温泉入りましょ~。」
「そうね。さすがに明日には帰らないといけないし。」
「もう帰らなきゃいけないなんて名残惜しいなぁ。」
「俺等も、一緒にはいろーな!」
「わ、わかりましたから、くっつかないでください!」

私達は温泉を心ゆくまで堪能すると、早めに布団に入って寝る事にした。翌朝、お世話になったモルに別れを告げ、来た道を引き返してイリスシティアへ帰って行った。



寮に着いた私達はそれぞれの部屋に戻り、明日から再開する授業に備えて自由な時間を過ごす事にした。
部屋の中に入ると、机の上に1枚の手紙が置いてある事に気づいた。

「なんだろこれ…。」

手紙の封を切った途端、紙はドロドロに溶けて床にこぼれ落ち、床に広がった液体の中から1人の青年が姿を現した。

「久しぶりだな。ルナ。」
「え、ライガ!?」
「手紙を開くのが随分遅かったじゃないか。どこか出かけていたのか?」
「あ、うん…。みんなと旅行に行ってて…。」
「そうか。仲良くやっているようで安心した。」
「えと…この手紙は一体…?」
「では本題に移ろう。まずは、闘技大会お疲れ様だったな。」
「あ、うん…。優勝は出来なかったけど…。」
「優勝は出来なかったが、お前の成長ぶりはしっかり見届けた。随分腕を上げたじゃないか。」
「そ、そうかな?ありがとう…!」
「そこで今回、お前を上級吸血鬼に推薦する事が決まった。」
「えー!?わ、私を!?」
「急な話だが、ちゃんと明日から上級クラスに行くんだぞ?」
「う、うん!ありがとうライガ!」
「お前を推薦したのは俺だけじゃない。俺は代表として、お前に伝えに来ただけだ。」
「そ、そっか…そうだよね。」
「上級吸血鬼になったからと言って、勉学をサボるんじゃないぞ?」
「わ、わかってるよ…!」
「話は以上だ。これからも頑張れよ。」

話を終えた彼は液体の中に沈んで行き、姿を消した。床に広がった液体が再び手紙の姿に戻り、拾い上げて中を開くと“上級クラス昇級証明書”と書かれた紙が入っていた。私はその紙を握りしめると、すぐさまフランの部屋へ向かった。

「どうしたの?ルナちゃん。」
「これみて!私…上級に昇級したよ!」
「え!?本当!?」
「うん!これで私も上級吸血鬼に…」

フランは前方に腕を伸ばし、私を抱き寄せた。彼の顔が肩に触れ、包み込まれた身体が徐々に熱を帯びていく。

「え、フ、フラン…///!?どうしたの!?」
「よかったぁ…。僕も昇級出来ないかと思った…。」
「え?なんで?」
「忘れちゃった?ルナちゃんの結果次第で、昇級するの辞退するかもって話したの。」
「あぁ~…。そうだったね…。」
「でもよかった~。これで一緒に昇級出来るね…。」
「そ、それは嬉しいけど、離してよ…!髪の毛がくすぐったい…!」
「ごめん…ルナちゃん…。ちょっと…抑えらんない…。」
「え?」

開けたままになっていた部屋の扉を閉め、彼は私の身体を持ち上げた。

「きゃ…!?」

ベッドの上に投げ出され、両手を押さえつけられた。彼の目は両方共、真っ赤に染まっている。

「ルナ…どうしてお前は美味そうな匂いがするんだ?」
「な!?私は食べ物じゃないよ!」
「お前の血が美味そうだと言ってるんだ。」
「と、とりあえず…落ち着こう?ね?ルドルフ…。」
「そうだな。血を吸ったら落ち着こう。」
「え?や…ちょっと…!?」

彼の顔が近づき、私の首元に息がかかる距離で動きを止めた。

「っ………く…ぅ……。」
「フ、フラン…?」

突然苦しみ出した彼は、腕を突っ張って身体を起こした。私から距離をとり、背を向ける様にしてベッドの端に座ると、長く息を吐いた。

「はぁ~…。」
「だ、大丈夫…?フラン…。」
「ごめんルナちゃん…。ルドルフ…抑えきれなくて…。」

両手で顔を多い、項垂れる彼の背中にそっと手を触れた。

「血が足りてないんじゃないの?」
「…多分。」
「なら、私のあげるよ。腕からなら大丈夫だから…」
「いや…それは嫌だ…。」
「丁度余ってるし、さっきみたいにルドルフが暴走したら困るでしょ?」
「…。」

服を捲った腕をフランの前に差し出すと、浮かない表情をした彼はそっと腕に噛み付いた。
吸血鬼は血を吸わなければ生きていくことが出来ない。その事を彼も分かっているはずなのに、血を吸う事を頑なに拒んでいた。彼の中にもタックのような過去があり、同じように苦しんでいるのかもしれないと思うと、胸が締め付けられた。
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