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第9章︰エーリ学院〜中級クラス〜【後編】
第83話
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「へぇ~。そんな遊びがあったのね。」
「私、こんな遊びをやるの初めてだわ~。楽しみね。」
「ねえねえ。その場で命令するんじゃなくて、命令する事を事前に紙に書いておくのはどうかな?」
「あ、それいいかも!誰がその命令を書いたのかわからないのも、面白そうだよね。」
タックの提案により、当たりを引いた人が命令の書かれた紙を引いて、その内容を命令する事にした。それぞれ思い思いの命令を紙に書くと、用意した箱の中に次々と入れた。
「くじは作っておいたから、ここからみんな引いて!」
1人ずつ棒を手に取ると、私の手に2本の棒が残った。
「あれ?1本余っちゃった…。」
「全員引いたよね?」
「なら、ミグも参加させたら?人数多い方が楽しそうだし。」
「そうだね!」
残りの2本の内1本をミグに渡すと、全員がそれぞれの棒を確認した。
「あー…違った。」
「私も~。」
「あ、私だ!」
最初に当たりを引いたララが、棒を上に掲げた。
「お!最初のレジェはララやな~。」
「じゃあはい!ここから1枚引いて。」
「読む前に命令する人の番号を言ってくださいね?」
「う、うん!」
ララは箱に手を入れると、紙を1枚取り出して内容を読み上げた。
「えっと…じゃあー…。6番の人が2番の人を…デコピン。」
「デ、デコピン…!?」
「俺6だけど。2は誰だ?」
「え…ミグ?」
「あ、ルナちゃんが2番?」
「うん…。」
「相手がルナでよかった。これなら手加減しなくていいな。」
「えぇ!?ちょっと!思いっきりはやめてよ!?」
「やったれーミグー!」
彼は私の前に膝をつくと、私の前髪を手でかきあげた。親指と中指をくっつけて私の額の前に移動させるのを見て、痛みを覚悟して目をつぶった。パーン!といい音を立てて、私の額に彼の中指が直撃した。
「痛っ…たぁ~!」
「うわぁ…痛そう…。」
「容赦ないわね…ミグ。」
「さ、次やろうぜ。」
「うぅ…。」
「あ、俺が当たりだ。」
続いて当たりを引いたタックは、箱から紙を取り出した。
「じゃあ~…。4番と8番が…。10秒間…抱き…合う…。」
「だ、抱き合う!?」
「これ書いたん誰や!?」
「書いた人を探るような事はしたら駄目ですよ。何の為に箱にいれたんですか。」
「せ、せやな…。俺、8番なんやけど…4番は誰?」
「私が4よ~。」
「レ、レミリーか…!男同士じゃなくてよかったわ!」
「確かにそうね…。」
「10秒だったわよね~?」
「あ、うん。」
レミリーがその場に立ち上がり、アレクの前に座ると彼に抱きついた。
「あら…アレクって結構鍛えてるのね~。思ったよりしっかりしてるわ~。」
「そ、そうか~?こ、こんなもんやろ…!」
「私も鍛えてるつもりだったけどまだまだね~。」
「これさ…見てる方が恥ずかしくなって来ない…?」
「う、うん…///」
「もうええやろ!?10秒経ったやろ///!?」
「あら、もう?案外早いのね10秒って。」
「っしゃー!今度は俺が当たりやー!」
当たりの棒を持ったまま、アレクは箱から紙を取り出した。
「あ、これ、1人でするやつやな。じゃあ…3番が腹筋10回!」
「誰よ!身体を休めに来たのに腹筋って書いた奴は!?」
「ユ、ユイ…落ち着いて…。」
「3?僕だね。」
フランはその場に仰向けに寝転がると、数を数えながら腹筋を始めた。
「いーち…。にーい…。」
「…ねぇ。これ終わるまで見てなきゃいけないの?」
「そう…なるね…。」
「ごー…。なんか…!見られてると…!やる気出るね!」
「普通、見られていたらやりずらいものでは…?」
「次の準備…しとこっか…。」
彼が腹筋をしている間に棒を回収し、再び1本ずつ引いた。
「じゅう!…腹筋したら僕が当たったよ!」
「そんな訳ないじゃないですか…!腹筋のおかげみたいに言わないでください!」
腹筋を終えるのと同時に当たりを引いたフランは、その場から起き上がって紙を手に取った。
「えーっと。じゃあ…7番と1番が…10秒間見つめ合う。ロマンチックだねぇ…。」
「え…!」
「ツーくん…どうしたの?」
「い、いえ…。なんでも…」
「あたし1だけど…7は誰?」
「ユ、ユイさんでしたか…。」
「嘘!ツヴェルと!?」
「ええ機会やから仲直りしたらええやん?」
「そうね~。この機会に仲良くなりましょう?」
「仲良くなる気はないけど…ルールはルールよね…。」
「そう…ですね。」
2人は向かい合って座り、互いに見つめ合い始めた。
「な、何かいいなさいよ。」
「何かというと…?」
「い、いつもみたいに本の内容を述べればいいのよ!あんた…そういうの得意でしょう?」
「その手がありましたね…!えっと…ええと……。」
「なんでこういう時に限って何も出て来ないのよ!」
「そ、そんな事言われても困りますよ!そういうあなたは、何か話題を見つける事も出来ないのですか!?」
「あんたに言われたくないわよ!」
「ちょっとちょっと!2人共喧嘩しないでよー!」
2人の間にあった大きな溝は、さらに深まる一方となった。
「お、当たりだ。」
当たりを引き当てたミグは、箱から紙を1枚取り出した。
「誰だよこれ書いたの…。」
「な、なんて書いてあるの?」
「1人でするやつみたいだな。なら…6番が、スキップで部屋の中を1周する。」
「ぶは…!なんやそれ!おもろいな~。」
「1人でスキップしなきゃいけないの、めちゃくちゃ恥ずかしくない…?」
「6番やって!誰や~?」
私達の輪の中から弱々しく手があがった。
「わ、私…。」
「…だ、大丈夫!ララなら出来るよ!」
「こういう時はあれや!フランみたいにさっさとやってまう方がええで!」
「そ、そうだね…わかった!」
彼女は勢いよく立ち上がると、部屋の周りをスキップし始めた。彼女の中で何かが吹っ切れたのか、まるで踊りを踊るように軽やかな足取りで、途中で回転を取り入れながらスキップをして戻って来た。
「素敵よ~ララ!絵本に出てくる妖精みたいだったわ~。」
「そ、そうかな…///?」
「とっても可愛かったよ!ララちゃん。」
「え、あ、ありがとう…///」
「これ、アレクがやってたら地獄絵図だったね。」
「確かにそうですね。」
「ちょいちょい!地獄絵図ってなんやねん!」
「さ、次いくぞー次。」
「また当たり引きたいな~。」
「無視せんといてー!」
「あ、ようやく当たりを引けたわ~。」
レミリーが当たりの棒を私達に見せると、箱の中に手を入れた。
「じゃあ…5番と6番の人が~手を繋ぐ…ですって~。」
「手を…繋ぐ?」
「うわぁ…めちゃくちゃ恥ずかしいやつきたわぁ…。」
「これ…男同士だったらそれこそ地獄絵図よ…。」
「僕5番だよ。」
「え、フランが5?」
「もしかしてルナちゃんが6?」
「丁度隣だから、移動する手間が省けたわね~。」
「そうだね。じゃあ、はい。」
フランは私に向けて手を差しだした。ゲームのルールだから仕方ないと自分に言い聞かせ、彼の手にそっと自分の手を乗せた。すると彼は指を動かし、互いの指を絡ませあって手のひらを密着させた状態で自分の膝の上に置いた。
「ルナちゃんって冷え性?手、冷たいね。」
「そ、そうかな?あんまり気にした事ないけど…。」
「僕があったかいせいかなぁ?」
「ね、ねえ…これって、いつまで繋げばいいの?」
「手を繋ぐ以外書いてないから…ずっとじゃないかしら~。」
「ずっと!?」
「今後の命令次第やないか?どっちかが別の事せなあかん時までにするとか。」
「じゃ、じゃあそうする…!」
「なら次をしましょうか~。」
「そ、そうね。」
「やったー!ついに当たりを引けたよ~!」
ララの気持ちを知っている私は、彼と手を繋いだ事で沈痛な思いをしていた。いち早く離れる事を祈りつつ、空いている方の手で紙を掴み取った。
「んー…。2番の人が…8番の人をマッサージする…!」
「マッサージ?」
「はぁ~。よかったぁ…私、マッサージなんてした事ないからする方にならなくてよかったよ~。」
「される方は羨ましいわね…。」
「はいはーい!俺、される方の8番やでー!」
アレクが、嬉しそうに高々と手をあげた。
「する人は?」
「2は…俺だな。」
「おおー!ミグにマッサージしてもらえるん?最高やん!」
「やるからには本気でやるからな?」
「お、おう…。なんかちょっと怖いんやけど…。」
「ミグのマッサージで寝ちゃわないでね?」
「時間がかかりそうだし、7番と8番の棒を抜いて俺達だけでやらない?」
「そうしましょうか~。」
「…当たりでした。」
「当たった割にはテンション低くない…?」
「別に喜ぶことではないでしょう。なんとなく、制裁を下すような気分になりませんか?」
「それは命令次第じゃない?」
「まあ…そうですね…。」
彼はそう言うと、箱の中に手を入れて紙を取り出した。
「それでは…。1番と4番の人が…柔軟運動をする…。」
「柔軟運動って何?」
「身体を伸ばしたり、解したりして疲れを取る為の運動ですね。」
「私1番だったわ~。」
「わ、私が4番だよ…!」
「なら、レミリーとララで柔軟運動…っぽいものしてくるといいわ。」
「疲れも取れるみたいだし、ちょっと楽しそうだね。」
「じゃあ、向こうの方でやりましょうか~。」
「う、うん!」
ミグ、アレクの2人に続いてララとレミリーも離れていき、9人でスタートしたはずのレジェゲームだったが、今では5人まで人数が減っていた。
「ミグとアレク…まだやってるよ。」
「あれはもう戻ってこなそうね…。」
「僕達だけで…進めましょうか。」
「あっ…!また当たりが引けた~。」
「あたしまだ1回も当たってないんだけど~。」
「この幸せを分けてあげたい所だけど…。当たりは譲れないんだ…ごめんねユイちゃん…。」
「そこまでしんみりして言う事でしょうか…?」
「え?何事も当たりが引けたら嬉しくなるものでしょ?」
「もー。いいから早く紙取ってよ~。」
「あはは。ごめんごめん。」
彼は空いている方の手で、私が差し出した箱から紙を掴み取った。
「んーっと…2番と3番の人が…10秒間、おでこをくっつける。」
「お、おでこを…!?」
「もしかしてユイちゃんだった?」
「え、えぇ…。」
「もう1人は?」
「お、俺…。」
「タックとユイかぁ~。」
「これも…あれですね。同性同士じゃなくてよかったです。」
「確かにね~。」
「じゃ、じゃあ…やろっか…ユイ。」
「う、うん…。」
2人は向かい合うと、しばらく無言で固まっていた。
「だ、大丈夫?2人共…生きてる…?」
「へ、平気よ…!ちゃんと…息…してるわ…///」
「あ、あのさ…ユイ。」
「な、何?」
「出来れば…目をつぶっててくれると…やりやすいかな…。そのままじっとしててくれれば、こっちから…おでこ付けるから。」
「わ、わかったわ。」
ユイはその場でそっと目を閉じた。するとタックが距離を詰め、彼女の身体の脇に手をついた。
「じゃあ…いくね?」
「えぇ…。」
彼の顔が少しづつ近づいていき、やがて2人の額が触れ合った。見ているこちらにも緊張が伝わり、思わず息を止めた。あまりの距離の近さに会話が出来ない2人に対し、私達3人も言葉が出ないまま時間が過ぎていった。
10秒を過ぎた所でタックがユイから離れ、前髪を整え始めた。
「じゅ、10秒…経ったよね?」
「え、えぇ。経ちましたね。」
「ちょっと…なんであんた達まで黙るのよ…。」
「ご、ごめん…!なんか、見てるこっちまで緊張しちゃって…。」
「そうそう。」
「ツヴェルと同じ10秒だったはずなのに…なんか長く感じたね…。」
「そ、そうね…。次、やりましょ…!」
「はぁ~。ようやく当たりを引けたわね~。」
「やったねユイちゃん!これでやっと誰かに命令出来るね。」
「ちょっと…普段からあたしが誰かに命令をしてるように言わないでよ。」
「そんな風に言ってないよ~?気のせい気のせい。」
「…あれ?残り1枚みたいね。」
「なら、次で最後だね。」
「これでやっと終わりますね~。」
「最後はなんだろうね?」
「えーっと…。じゃあ…1番が3番を…お姫様抱っこして部屋を1周する…。」
「ちょ、ちょっと待ってください…!これは、力がない人には無理ではないですか!?」
「どうしたのよツヴェル。妙に焦ってるわね。」
「あ、もしかしてツヴェルが3番?」
「それなら…ルナが1番だったら無理ね。」
「私違うよ?」
「僕だよ?1番。」
「あ、じゃあ大丈夫だね。」
「何が大丈夫なんですか!?流石にフランさんでも僕を持ち上げるなんて事…」
「やってみようよツーくん。」
「嫌ですよ!」
「1周出来なくても、お姫様抱っこするくらいはしないと~。それがルールでしょ?」
「そ、そういわれても…!」
「ほら、いくよ!」
「って…ぅわあ!?」
フランはツヴェルの膝の裏と背中に腕を当て、彼を持ち上げた。
「あ、結構軽いんだねツーくん。」
「いちいちそういう報告は要りません!降ろしてください!」
「せっかくだから1周しようよ。ほら、向こうにいるアレクくんに見せに…」
「はぁ!?ちょっ…やめ…!」
フランはツヴェルを抱えたまま、部屋の端を歩き始めた。
「いいオチだと思うわ。これ。」
「あはは…そうだね。」
「あははー!なんやツヴェル!フランにお姫様抱っこされとるん?おもろいなー!」
「ふっ…。中々…絵になってるんじゃないか?」
「ミグさん!明らかに笑ってますよね!?」
「ツ、ツーくん…!?」
「あらあら~。微笑ましいわね~。」
「結構ツーくん軽いんだよー?」
「全員に言いふらすのやめてくださいよー!」
こうして私達のレジェゲームは幕を閉じたのだった。
外はすっかり暗くなり、私達は部屋に人数分の布団を敷き詰めて、寝る準備を整えた。ミグのマッサージを受けていたアレクはそのまま眠りにつき、ツヴェルとレミリーは部屋でくつろぎながら話をしていた。
なんとなく落ち着かず、眠れずにいた私は、建物から抜け出して橋の上から下を流れる川をぼんやりと眺めていた。
「ねぇ…ミグ。」
「どうした?」
「フラン…何か隠してるような気がしない?」
「あいつは元々胡散臭いだろ。」
「そ、そんな事はないけど…。心から楽しんでるように見えるのに、時々寂しそうな顔をするし…。普段は優しいのに、大会の時は様子がおかしいように見えたし…。」
「生きていれば、楽しい時もあれば悲しい時もあるだろ?なんとなく寂しさを感じる事だってあるさ。」
「ミグは…テトに会えなくて寂しい?」
「…寂しくないと言ったら嘘になるな。」
「そうだよね…。」
「けど、戻る気はない。あいつは俺が居なくても真っ直ぐ進んで行ける、強い奴だって知ってるからな。」
「そっか。」
「それで、大会の時様子がおかしいって言うのは、具体的にどんな感じなんだ?」
「えーっと…なんて言うか…。フランらしくない感じ?実習の時は、剣を振ってても楽しそうでしょ?」
「俺にはそっちの方が問題だと思うんだがな。」
「ま、まぁ…そうだけどさ…。け、けど、大会の時は一切顔色を変えてなかったでしょ?タック相手でも容赦なかったし…。」
「武士道ってやつじゃないか?剣を扱う奴が心得てる考え方…みたいな。俺にはよくわからないけど。」
「武士道?そう…なのかなぁ…。」
「実践的な戦いを強いられた試合だったしな。大会の趣旨自体が、私情を挟んだ戦いを克服させる為なのかもしれないし。」
「そっか…。そうかもね。」
「少しは整理がついたか?」
「うん!ありがとうミグ。」
「なら部屋に戻ってマッサージしてやるよ。そのまま寝れるように準備してな。」
「わかった!なんか、ミグのマッサージ久しぶりかも。」
「言われてみると…確かにそうだな。」
私達は話をしながら部屋に戻り、彼のマッサージを受けた後眠りについた。
「私、こんな遊びをやるの初めてだわ~。楽しみね。」
「ねえねえ。その場で命令するんじゃなくて、命令する事を事前に紙に書いておくのはどうかな?」
「あ、それいいかも!誰がその命令を書いたのかわからないのも、面白そうだよね。」
タックの提案により、当たりを引いた人が命令の書かれた紙を引いて、その内容を命令する事にした。それぞれ思い思いの命令を紙に書くと、用意した箱の中に次々と入れた。
「くじは作っておいたから、ここからみんな引いて!」
1人ずつ棒を手に取ると、私の手に2本の棒が残った。
「あれ?1本余っちゃった…。」
「全員引いたよね?」
「なら、ミグも参加させたら?人数多い方が楽しそうだし。」
「そうだね!」
残りの2本の内1本をミグに渡すと、全員がそれぞれの棒を確認した。
「あー…違った。」
「私も~。」
「あ、私だ!」
最初に当たりを引いたララが、棒を上に掲げた。
「お!最初のレジェはララやな~。」
「じゃあはい!ここから1枚引いて。」
「読む前に命令する人の番号を言ってくださいね?」
「う、うん!」
ララは箱に手を入れると、紙を1枚取り出して内容を読み上げた。
「えっと…じゃあー…。6番の人が2番の人を…デコピン。」
「デ、デコピン…!?」
「俺6だけど。2は誰だ?」
「え…ミグ?」
「あ、ルナちゃんが2番?」
「うん…。」
「相手がルナでよかった。これなら手加減しなくていいな。」
「えぇ!?ちょっと!思いっきりはやめてよ!?」
「やったれーミグー!」
彼は私の前に膝をつくと、私の前髪を手でかきあげた。親指と中指をくっつけて私の額の前に移動させるのを見て、痛みを覚悟して目をつぶった。パーン!といい音を立てて、私の額に彼の中指が直撃した。
「痛っ…たぁ~!」
「うわぁ…痛そう…。」
「容赦ないわね…ミグ。」
「さ、次やろうぜ。」
「うぅ…。」
「あ、俺が当たりだ。」
続いて当たりを引いたタックは、箱から紙を取り出した。
「じゃあ~…。4番と8番が…。10秒間…抱き…合う…。」
「だ、抱き合う!?」
「これ書いたん誰や!?」
「書いた人を探るような事はしたら駄目ですよ。何の為に箱にいれたんですか。」
「せ、せやな…。俺、8番なんやけど…4番は誰?」
「私が4よ~。」
「レ、レミリーか…!男同士じゃなくてよかったわ!」
「確かにそうね…。」
「10秒だったわよね~?」
「あ、うん。」
レミリーがその場に立ち上がり、アレクの前に座ると彼に抱きついた。
「あら…アレクって結構鍛えてるのね~。思ったよりしっかりしてるわ~。」
「そ、そうか~?こ、こんなもんやろ…!」
「私も鍛えてるつもりだったけどまだまだね~。」
「これさ…見てる方が恥ずかしくなって来ない…?」
「う、うん…///」
「もうええやろ!?10秒経ったやろ///!?」
「あら、もう?案外早いのね10秒って。」
「っしゃー!今度は俺が当たりやー!」
当たりの棒を持ったまま、アレクは箱から紙を取り出した。
「あ、これ、1人でするやつやな。じゃあ…3番が腹筋10回!」
「誰よ!身体を休めに来たのに腹筋って書いた奴は!?」
「ユ、ユイ…落ち着いて…。」
「3?僕だね。」
フランはその場に仰向けに寝転がると、数を数えながら腹筋を始めた。
「いーち…。にーい…。」
「…ねぇ。これ終わるまで見てなきゃいけないの?」
「そう…なるね…。」
「ごー…。なんか…!見られてると…!やる気出るね!」
「普通、見られていたらやりずらいものでは…?」
「次の準備…しとこっか…。」
彼が腹筋をしている間に棒を回収し、再び1本ずつ引いた。
「じゅう!…腹筋したら僕が当たったよ!」
「そんな訳ないじゃないですか…!腹筋のおかげみたいに言わないでください!」
腹筋を終えるのと同時に当たりを引いたフランは、その場から起き上がって紙を手に取った。
「えーっと。じゃあ…7番と1番が…10秒間見つめ合う。ロマンチックだねぇ…。」
「え…!」
「ツーくん…どうしたの?」
「い、いえ…。なんでも…」
「あたし1だけど…7は誰?」
「ユ、ユイさんでしたか…。」
「嘘!ツヴェルと!?」
「ええ機会やから仲直りしたらええやん?」
「そうね~。この機会に仲良くなりましょう?」
「仲良くなる気はないけど…ルールはルールよね…。」
「そう…ですね。」
2人は向かい合って座り、互いに見つめ合い始めた。
「な、何かいいなさいよ。」
「何かというと…?」
「い、いつもみたいに本の内容を述べればいいのよ!あんた…そういうの得意でしょう?」
「その手がありましたね…!えっと…ええと……。」
「なんでこういう時に限って何も出て来ないのよ!」
「そ、そんな事言われても困りますよ!そういうあなたは、何か話題を見つける事も出来ないのですか!?」
「あんたに言われたくないわよ!」
「ちょっとちょっと!2人共喧嘩しないでよー!」
2人の間にあった大きな溝は、さらに深まる一方となった。
「お、当たりだ。」
当たりを引き当てたミグは、箱から紙を1枚取り出した。
「誰だよこれ書いたの…。」
「な、なんて書いてあるの?」
「1人でするやつみたいだな。なら…6番が、スキップで部屋の中を1周する。」
「ぶは…!なんやそれ!おもろいな~。」
「1人でスキップしなきゃいけないの、めちゃくちゃ恥ずかしくない…?」
「6番やって!誰や~?」
私達の輪の中から弱々しく手があがった。
「わ、私…。」
「…だ、大丈夫!ララなら出来るよ!」
「こういう時はあれや!フランみたいにさっさとやってまう方がええで!」
「そ、そうだね…わかった!」
彼女は勢いよく立ち上がると、部屋の周りをスキップし始めた。彼女の中で何かが吹っ切れたのか、まるで踊りを踊るように軽やかな足取りで、途中で回転を取り入れながらスキップをして戻って来た。
「素敵よ~ララ!絵本に出てくる妖精みたいだったわ~。」
「そ、そうかな…///?」
「とっても可愛かったよ!ララちゃん。」
「え、あ、ありがとう…///」
「これ、アレクがやってたら地獄絵図だったね。」
「確かにそうですね。」
「ちょいちょい!地獄絵図ってなんやねん!」
「さ、次いくぞー次。」
「また当たり引きたいな~。」
「無視せんといてー!」
「あ、ようやく当たりを引けたわ~。」
レミリーが当たりの棒を私達に見せると、箱の中に手を入れた。
「じゃあ…5番と6番の人が~手を繋ぐ…ですって~。」
「手を…繋ぐ?」
「うわぁ…めちゃくちゃ恥ずかしいやつきたわぁ…。」
「これ…男同士だったらそれこそ地獄絵図よ…。」
「僕5番だよ。」
「え、フランが5?」
「もしかしてルナちゃんが6?」
「丁度隣だから、移動する手間が省けたわね~。」
「そうだね。じゃあ、はい。」
フランは私に向けて手を差しだした。ゲームのルールだから仕方ないと自分に言い聞かせ、彼の手にそっと自分の手を乗せた。すると彼は指を動かし、互いの指を絡ませあって手のひらを密着させた状態で自分の膝の上に置いた。
「ルナちゃんって冷え性?手、冷たいね。」
「そ、そうかな?あんまり気にした事ないけど…。」
「僕があったかいせいかなぁ?」
「ね、ねえ…これって、いつまで繋げばいいの?」
「手を繋ぐ以外書いてないから…ずっとじゃないかしら~。」
「ずっと!?」
「今後の命令次第やないか?どっちかが別の事せなあかん時までにするとか。」
「じゃ、じゃあそうする…!」
「なら次をしましょうか~。」
「そ、そうね。」
「やったー!ついに当たりを引けたよ~!」
ララの気持ちを知っている私は、彼と手を繋いだ事で沈痛な思いをしていた。いち早く離れる事を祈りつつ、空いている方の手で紙を掴み取った。
「んー…。2番の人が…8番の人をマッサージする…!」
「マッサージ?」
「はぁ~。よかったぁ…私、マッサージなんてした事ないからする方にならなくてよかったよ~。」
「される方は羨ましいわね…。」
「はいはーい!俺、される方の8番やでー!」
アレクが、嬉しそうに高々と手をあげた。
「する人は?」
「2は…俺だな。」
「おおー!ミグにマッサージしてもらえるん?最高やん!」
「やるからには本気でやるからな?」
「お、おう…。なんかちょっと怖いんやけど…。」
「ミグのマッサージで寝ちゃわないでね?」
「時間がかかりそうだし、7番と8番の棒を抜いて俺達だけでやらない?」
「そうしましょうか~。」
「…当たりでした。」
「当たった割にはテンション低くない…?」
「別に喜ぶことではないでしょう。なんとなく、制裁を下すような気分になりませんか?」
「それは命令次第じゃない?」
「まあ…そうですね…。」
彼はそう言うと、箱の中に手を入れて紙を取り出した。
「それでは…。1番と4番の人が…柔軟運動をする…。」
「柔軟運動って何?」
「身体を伸ばしたり、解したりして疲れを取る為の運動ですね。」
「私1番だったわ~。」
「わ、私が4番だよ…!」
「なら、レミリーとララで柔軟運動…っぽいものしてくるといいわ。」
「疲れも取れるみたいだし、ちょっと楽しそうだね。」
「じゃあ、向こうの方でやりましょうか~。」
「う、うん!」
ミグ、アレクの2人に続いてララとレミリーも離れていき、9人でスタートしたはずのレジェゲームだったが、今では5人まで人数が減っていた。
「ミグとアレク…まだやってるよ。」
「あれはもう戻ってこなそうね…。」
「僕達だけで…進めましょうか。」
「あっ…!また当たりが引けた~。」
「あたしまだ1回も当たってないんだけど~。」
「この幸せを分けてあげたい所だけど…。当たりは譲れないんだ…ごめんねユイちゃん…。」
「そこまでしんみりして言う事でしょうか…?」
「え?何事も当たりが引けたら嬉しくなるものでしょ?」
「もー。いいから早く紙取ってよ~。」
「あはは。ごめんごめん。」
彼は空いている方の手で、私が差し出した箱から紙を掴み取った。
「んーっと…2番と3番の人が…10秒間、おでこをくっつける。」
「お、おでこを…!?」
「もしかしてユイちゃんだった?」
「え、えぇ…。」
「もう1人は?」
「お、俺…。」
「タックとユイかぁ~。」
「これも…あれですね。同性同士じゃなくてよかったです。」
「確かにね~。」
「じゃ、じゃあ…やろっか…ユイ。」
「う、うん…。」
2人は向かい合うと、しばらく無言で固まっていた。
「だ、大丈夫?2人共…生きてる…?」
「へ、平気よ…!ちゃんと…息…してるわ…///」
「あ、あのさ…ユイ。」
「な、何?」
「出来れば…目をつぶっててくれると…やりやすいかな…。そのままじっとしててくれれば、こっちから…おでこ付けるから。」
「わ、わかったわ。」
ユイはその場でそっと目を閉じた。するとタックが距離を詰め、彼女の身体の脇に手をついた。
「じゃあ…いくね?」
「えぇ…。」
彼の顔が少しづつ近づいていき、やがて2人の額が触れ合った。見ているこちらにも緊張が伝わり、思わず息を止めた。あまりの距離の近さに会話が出来ない2人に対し、私達3人も言葉が出ないまま時間が過ぎていった。
10秒を過ぎた所でタックがユイから離れ、前髪を整え始めた。
「じゅ、10秒…経ったよね?」
「え、えぇ。経ちましたね。」
「ちょっと…なんであんた達まで黙るのよ…。」
「ご、ごめん…!なんか、見てるこっちまで緊張しちゃって…。」
「そうそう。」
「ツヴェルと同じ10秒だったはずなのに…なんか長く感じたね…。」
「そ、そうね…。次、やりましょ…!」
「はぁ~。ようやく当たりを引けたわね~。」
「やったねユイちゃん!これでやっと誰かに命令出来るね。」
「ちょっと…普段からあたしが誰かに命令をしてるように言わないでよ。」
「そんな風に言ってないよ~?気のせい気のせい。」
「…あれ?残り1枚みたいね。」
「なら、次で最後だね。」
「これでやっと終わりますね~。」
「最後はなんだろうね?」
「えーっと…。じゃあ…1番が3番を…お姫様抱っこして部屋を1周する…。」
「ちょ、ちょっと待ってください…!これは、力がない人には無理ではないですか!?」
「どうしたのよツヴェル。妙に焦ってるわね。」
「あ、もしかしてツヴェルが3番?」
「それなら…ルナが1番だったら無理ね。」
「私違うよ?」
「僕だよ?1番。」
「あ、じゃあ大丈夫だね。」
「何が大丈夫なんですか!?流石にフランさんでも僕を持ち上げるなんて事…」
「やってみようよツーくん。」
「嫌ですよ!」
「1周出来なくても、お姫様抱っこするくらいはしないと~。それがルールでしょ?」
「そ、そういわれても…!」
「ほら、いくよ!」
「って…ぅわあ!?」
フランはツヴェルの膝の裏と背中に腕を当て、彼を持ち上げた。
「あ、結構軽いんだねツーくん。」
「いちいちそういう報告は要りません!降ろしてください!」
「せっかくだから1周しようよ。ほら、向こうにいるアレクくんに見せに…」
「はぁ!?ちょっ…やめ…!」
フランはツヴェルを抱えたまま、部屋の端を歩き始めた。
「いいオチだと思うわ。これ。」
「あはは…そうだね。」
「あははー!なんやツヴェル!フランにお姫様抱っこされとるん?おもろいなー!」
「ふっ…。中々…絵になってるんじゃないか?」
「ミグさん!明らかに笑ってますよね!?」
「ツ、ツーくん…!?」
「あらあら~。微笑ましいわね~。」
「結構ツーくん軽いんだよー?」
「全員に言いふらすのやめてくださいよー!」
こうして私達のレジェゲームは幕を閉じたのだった。
外はすっかり暗くなり、私達は部屋に人数分の布団を敷き詰めて、寝る準備を整えた。ミグのマッサージを受けていたアレクはそのまま眠りにつき、ツヴェルとレミリーは部屋でくつろぎながら話をしていた。
なんとなく落ち着かず、眠れずにいた私は、建物から抜け出して橋の上から下を流れる川をぼんやりと眺めていた。
「ねぇ…ミグ。」
「どうした?」
「フラン…何か隠してるような気がしない?」
「あいつは元々胡散臭いだろ。」
「そ、そんな事はないけど…。心から楽しんでるように見えるのに、時々寂しそうな顔をするし…。普段は優しいのに、大会の時は様子がおかしいように見えたし…。」
「生きていれば、楽しい時もあれば悲しい時もあるだろ?なんとなく寂しさを感じる事だってあるさ。」
「ミグは…テトに会えなくて寂しい?」
「…寂しくないと言ったら嘘になるな。」
「そうだよね…。」
「けど、戻る気はない。あいつは俺が居なくても真っ直ぐ進んで行ける、強い奴だって知ってるからな。」
「そっか。」
「それで、大会の時様子がおかしいって言うのは、具体的にどんな感じなんだ?」
「えーっと…なんて言うか…。フランらしくない感じ?実習の時は、剣を振ってても楽しそうでしょ?」
「俺にはそっちの方が問題だと思うんだがな。」
「ま、まぁ…そうだけどさ…。け、けど、大会の時は一切顔色を変えてなかったでしょ?タック相手でも容赦なかったし…。」
「武士道ってやつじゃないか?剣を扱う奴が心得てる考え方…みたいな。俺にはよくわからないけど。」
「武士道?そう…なのかなぁ…。」
「実践的な戦いを強いられた試合だったしな。大会の趣旨自体が、私情を挟んだ戦いを克服させる為なのかもしれないし。」
「そっか…。そうかもね。」
「少しは整理がついたか?」
「うん!ありがとうミグ。」
「なら部屋に戻ってマッサージしてやるよ。そのまま寝れるように準備してな。」
「わかった!なんか、ミグのマッサージ久しぶりかも。」
「言われてみると…確かにそうだな。」
私達は話をしながら部屋に戻り、彼のマッサージを受けた後眠りについた。
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