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第8章︰エーリ学院〜中級クラス〜【前編】
第69話
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中級クラスに昇級してから数日が経ち、新しい授業にも徐々に慣れていった。初級クラスに比べて実習の回数が多く、体力的に少し厳しい時もあったが、その分以前より成長したと思える。
「あ、ルナ。今帰り?」
「タック…!うん。図書室に行って、本借りてきたの。」
部屋に戻る途中の廊下で、前から歩いてきた彼と挨拶を交わした。
「ルナは本を読むんだね。面白い?」
「うん!色んなお話を読むのが好きなんだよね。」
「へー…そう…なんだ。」
話をしていると、彼が頭を抱えるような仕草をし始めた。
「だ、大丈夫?顔色悪いみたいだけど…。」
「大丈夫大丈夫。休めば治…」
彼は電池の切れたおもちゃのように、会話の途中でその場に倒れてしまった。
「タック!?大丈夫!?だ、誰かいませんか!」
左右を見渡したが、廊下に人の姿は見当たらなかった。
「ルナ。」
「ミグ…!」
慌てている私を見かねて、影から現れたミグがタックを背負った。
「医務室行くぞ。」
「う、うん…。」
「ふむふむ…。」
医務室のベッドに寝かされた彼の枕元で、ニム先生が診察を行い始めた。彼をここに連れてきたミグは、ベッドに寝かせて直ぐに身体の中へ戻って行ってしまった。
「どうですか?ニム先生…。」
「貧血ですね~。タクトくんは度々あるんですよ~。」
「貧血…ですか?」
「彼はルシュ様から、定期的に薬を貰ってるんです。貧血になりやすい体質なんですよ~。」
「ルシュ様から薬を…。」
「ひとまず今日は…医務室に保管してある、ルシュ様の薬を使いますね~。彼が目を覚ましたら、ルシュ様から薬を貰うように伝えて下さい。」
「あ、はい!わかりました…。」
「では僕はこれで。お大事に~。」
ニム先生が居なくなった後、近くの椅子に座って彼の様子を見守る事にした。
「んぁ…れ…?ここ…。」
「あ…!起きた?」
「ルナ…。ここ医務室だよね?俺、なんでここで寝て…。」
「ニム先生に見てもらったら、貧血だって。私と話してる時に、突然倒れたんだよ?」
「貧血…。そっか…薬が切れたから…。」
「その…薬の事ちょっと聞いたんだけど…。ルシュ様から薬を定期的に貰ってるんだってね…。」
「あ、うん。そうなんだよね。貧血になりやすいみたいでさ。…ちゃんと今日の内に、ルシュ様に話しておくよ。」
「わ…私でよかったら、いつでも力になるからね!」
「ありがとうルナ。その気持ちだけで充分だよ。…さてと、寮に戻ろっか。」
「うん!」
「ねぇヴェラ。タックの事なんだけど…。」
またしても夢の中にやって来た彼女に、タックの薬の話を聞いてみる事にした。彼女はいつものようにソファーに座り、優雅に紅茶を啜っている。ルカとミグはそれぞれ出かけているようで、ここで彼女と2人きりになるのは初めてだった。
「タック?誰だそれは。」
「あーえっと…。タクトの事だよ!」
「あぁ。タクトか。あいつがどうかしたか?」
「ヴェラから薬を貰ってるって聞いたんだけど、どうして?」
「奴には必要だからだ。言っていなかったか?度々貧血を起こして倒れる奴だと。」
「確かに言われたけど…。どうして薬なの?貧血なら、血を吸えばいいんじゃないの?」
「…あいつは何があっても血を吸わないからだ。」
「え?それって…」
「あいつは吸血鬼のくせに、何からも血を吸おうとしない。動物でも、人間でも、吸血鬼でもだ。」
「それって何か理由があるの?」
「知らないわよそんな事。」
「そ、そうだよね…。それよりも、そんな便利な薬があるなら私にも教えてくれたら良かったのに…。」
「あれは劇薬だ。効果は抜群だが、副作用が大きい。そして、大量に服用すれば命を落とす可能性がある。」
「どうしてそんな危険な薬をわざわざ!?」
「副作用があったとしても、タクトにとっては必要な薬だからだ。本人に強く希望されたから、私はあいつに薬を渡している。理由が知りたいなら本人に聞きなさい。」
「う、うん…。わかった。」
「あ、タック!おはよう!」
「おはようルナ。今日も元気そうだね。」
教室にやって来た彼に声をかけると、爽やかな笑顔を浮かべた。
「う、うん!タックは…調子どう?」
「調子?別になんともないけど…どうして?」
「あーううん!何となく聞いただけ!今日も実習頑張ろうね。」
「うん。また後でね。」
自分の席に向かう彼の背中を見送っていると、後ろからララが不思議そうな顔をしてやって来た。
「ルナちゃんどうしたの?」
「な、なんでもないよ!着替えなきゃね…。更衣室行こ!」
準備を済ませてホールへ向かうと、特別講師のレーガが生徒達に囲まれて話をしている様子だった。
「あ、あれ…ラギト様じゃない?」
「本当だ…中級クラスでも授業するんだね。」
「むしろ、こっちの方がメインだと思うよ?」
後ろからフランが私達の会話に混ざるように声をかけてきた。その隣にはタックの姿もある。
「フランくん…!お、おはよ!」
「おはようララちゃん。」
「ラギト様の授業は武器関係だから、昇級試験で最低条件の武器生成が出来る、中級クラスの生徒達が1番適してる授業なんだよね。」
「そっか…確かにそうかも!」
「俺もラギト様のおかげで凄く成長出来たと思…」
「あー!タクトー!」
離れた場所にいたはずのレーガが、ものすごい速さで私達の元にやって来ると、タックの身体を包み込むように抱きしめた。
「ラ、ラギト様…!?」
「タクト~。会いたかったよ~。最近全然こっち来てくれないから寂しくて…。」
「す、すみません…。忙しかったものですから…。」
2人は私達の目の前で両手を握り合いながら、恋人のようなやり取りをしている。その様子を見て固まっていると、ユイとアレク、レミリーの3人がホールへやって来た。
「何やってるの?」
「あ!ラギト様やー!」
「な、なんか今取り込み中みたいで…。」
「僕達の事、見えてない感じだよね。」
「うん…。2人の世界…って感じ…。」
「は?何よそれ…。」
「ねぇタクト。今度うちにおいでよ~。また一緒に食事でもしよう?」
「お、お言葉はとてもありがたいのですが…。俺のような中級の吸血鬼が、レジデンスに踏み込むなど恐れ多い事です…!」
「いいからいいから~。ルナとかフランとかと一緒に来たら、問題ないでしょ?ね~そうしなよ~。」
「え?…ええと…その…。」
「何よこれ…。」
「ええな~タックが羨ましいわ~。」
「はぁ!?あれのどこが羨ま…」
「ユ、ユイちゃん…!ラギト様に聞こえるから…!」
大きな声を出したユイの口元を、ララが慌てて手で塞いだ。
「レミリーは、あんまりビックリしてないね?」
「そうねぇ~…。毎回の事だから、慣れちゃったわ~。」
「ま、毎回これやってるの!?」
「えぇ。」
「僕は知らなかったなぁ…こんなラギト様…。」
「私は知りたくなかったなぁ…こんなラギト様…。」
「あの…ラギト様!そろそろ授業の方を始めた方が、いいのではないでしょうか!」
「え、そう?しょうがないなぁ…。また後でお話しようねタクト~。」
レーガは笑顔で手を振りながら、ステージ上へ向かって走っていった。
「さて!今日の実習は、ペアを組んで実戦をしてみよう!」
「じ、実戦!?」
「実際に…戦うって事?」
「そうね~。戦うといっても、殺し合うわけじゃないわよ~?」
「俺達は何回かやった事あるんだ。ラギト様が勝ち負けを判断するから、負けだと判断された時点で勝敗がつくんだよ。」
「へ~。なるほどなぁ~。ほんなら安心やわ…。」
その後レーガは実戦について詳しく説明を始めた。
ペアの決め方は、くじ引きによって決める事となった。チームのバランスを均等にする為、近距離の武器を扱う生徒は赤い箱から、その他の生徒は青い箱からそれぞれ番号の書かれたくじを引いた。
「あたし、6だったわ。」
「え!ほんま!?俺も6だったわ!」
「え、嘘…アレクと…?」
「ユ、ユイ…。そんなに露骨に嫌がられると…さすがにへこむわ…。」
ユイは少々嫌そうな顔をしながらも、アレクとチームを組む事になった。
「私は…10…。」
「あら。ララは私とね~。」
「え!レミリー!?」
「私とするのは嫌かしら?」
「全然そんな事ないよ…!私…弱いけど、一緒に頑張ろうね…。」
「ええ。頑張りましょう~。」
気弱なララと武器を持つと気が強くなるレミリーの、でこぼこチームが出来上がった。
「僕、3だったけど…ルナちゃんは?」
「私は…8だなぁ。」
「え、ルナは8なの?俺も8だよ。」
「やった!頑張ろうねタック。」
「うん。頑張ろう。」
私はタックとチームを組み、フランだけが他の人とチームを組む事になった。
「僕だけ仲間外れにされた気分だなぁ~…。」
「だ、大丈夫だよフランくん…!フランくんなら誰と組んでも勝てるよ!」
「ありがとうララちゃん。お互い頑張ろうね。」
「それじゃあ、どのチーム同士が戦うか決めるくじを引くね。えーっと…」
ステージ上に立っているレーガが、目の前にある箱の中から2枚の紙を手に取った。
「まずは、3番と6番のチーム!4人はコートの中に、他の生徒は壁際に移動してね。」
「あれ?3と6って…。」
「フランくんのチームと…ユイちゃんのチームだね…。」
「フランとなんて勝てる気がせーへん!」
「何弱気なこと言ってんのよ!が、頑張るしかないでしょ…!」
弱腰になっているアレクの背中を押して、2人は指定された場所へ移動していった。白いラインが引かれたコートの中には、すでにフランが立って待っていた。
「どうしたの?アレクくん。顔色良くないけど…。」
「な、なんでもないで!」
「あれ?フラン1人?」
フランの隣にペアの相手がいないのを見て、レーガがコートの中へやってきた。
「体調が悪いから見学したいとの事でした。」
「そっか。それなら仕方ないね…。」
「え、じゃあ実戦は無しに…」
「僕は1人でも構いません。」
「え!?」
「フランなら2人相手でも問題ないよね。ユイ、アレク。彼1人でも構わない?」
「え、あ、はい…!」
「は、はい…。」
フラン1人に対して、ユイとアレクの2人がそれぞれ武器を構えた。
「フ、フラン…。なんかこう…ハンデとかあらへん?」
「2対1の時点で充分ハンデだと思うけど?」
「言われてみればそうね…。」
「じゃあ…ユイちゃんには刃を向けないよ。それでいい?」
「あたしは普通に魔法ぶっぱなすわよ?」
「うん。本気でやってくれて構わないよ。」
「言うわね…。やってやりましょうアレク!」
「お、おう!」
「改めて勝敗のルールを説明するね。一応、制限時間は10分。その前に僕が中断するか、10分経った時点で打ち切りね。ちなみに、どちらか1人でも白い線の外に出たらその時点で負け。出ないように気をつけてね。」
「はい。」
「わ、わかりました!」
「じゃあ…始め!」
両チームの間に立っているレーガが手を挙げた瞬間、フランは右腕を大きく振りかぶり、アレク目掛けて持っていた剣を投げた。
「ふっ…!」
「ぉわ!?」
アレクの足元に剣が突き刺さり、彼が驚いてよろめいているうちにフランが距離をつめた。すかさず刺さった剣を引き抜いて、2本の剣がアレクに斬りかかった。間一髪でアレクの斧がそれを受け止めると、斧を振り払ってフランを吹き飛ばした。
「わ…!」
「力なら負けへんで!」
「“……我が意思に従え!アナイアレイション!”」
吹き飛ばされてバランスを崩した彼をめがけて、ユイの爆破魔法が発動した。あまりの勢いに爆風が起き、近くにいたアレクが床に手をついた。
「あっぶなー…。これ、フラン…大丈夫なんかな…?」
「え、やりすぎた…?」
「いやぁ…すごい威力だよね…。ほんと巻き込まれたらひとたまりもないよ。」
「せやなぁ…ってフラン!?」
「あんたいつの間に…!」
「ごめんユイちゃん!後でいくらでも謝るから!」
「へ?」
ユイの後ろに回り込んでいた彼は、彼女の腕を両手で掴むと、足を大きく広げて腰を落とした。
「ちゃんと受け身…とって…ね!!!」
「え、な、ちょっと!きゃー!?」
その場で身体を回転させて、フランがユイを投げ飛ばした。彼女は立っていたアレクに受け止められたが、2人まとめて白いラインの外へ放り出されてしまった。
「痛ー!」
「痛ったぁ…。」
「はい、そこまで!ラインの外に出たからユイ達の負けね。」
「こんなんありなんか…。」
「フランの奴…後で思いっきり文句言ってやるわ…。」
「ごめんねユイちゃん。後でいくらでも謝るからって、言ったじゃないか。」
「まさか投げ飛ばされるなんて思わなかったわよ馬鹿!」
「ご、ごめんって~…。」
私達は彼等の元に近寄ると、アレクは後頭部を気にしている様子だった。
「アレク大丈夫?頭ぶつけてなかった?」
「あー…。こぶ…出来たっぽいわ…。」
「なら僕が一緒に医務室に行くよ。ユイちゃんは、どこか痛い所ない?」
「あたしは大丈夫…。…アレクのおかげでなんともないわ。」
「じゃあ行こっか。後でみんなの結果も教えてね。」
こうしてフランとアレクは医務室へと歩いていった。
その後行われたララとレミリーのチームも、見ていてハラハラするような壮絶な戦いだった。
「あ、ルナ。今帰り?」
「タック…!うん。図書室に行って、本借りてきたの。」
部屋に戻る途中の廊下で、前から歩いてきた彼と挨拶を交わした。
「ルナは本を読むんだね。面白い?」
「うん!色んなお話を読むのが好きなんだよね。」
「へー…そう…なんだ。」
話をしていると、彼が頭を抱えるような仕草をし始めた。
「だ、大丈夫?顔色悪いみたいだけど…。」
「大丈夫大丈夫。休めば治…」
彼は電池の切れたおもちゃのように、会話の途中でその場に倒れてしまった。
「タック!?大丈夫!?だ、誰かいませんか!」
左右を見渡したが、廊下に人の姿は見当たらなかった。
「ルナ。」
「ミグ…!」
慌てている私を見かねて、影から現れたミグがタックを背負った。
「医務室行くぞ。」
「う、うん…。」
「ふむふむ…。」
医務室のベッドに寝かされた彼の枕元で、ニム先生が診察を行い始めた。彼をここに連れてきたミグは、ベッドに寝かせて直ぐに身体の中へ戻って行ってしまった。
「どうですか?ニム先生…。」
「貧血ですね~。タクトくんは度々あるんですよ~。」
「貧血…ですか?」
「彼はルシュ様から、定期的に薬を貰ってるんです。貧血になりやすい体質なんですよ~。」
「ルシュ様から薬を…。」
「ひとまず今日は…医務室に保管してある、ルシュ様の薬を使いますね~。彼が目を覚ましたら、ルシュ様から薬を貰うように伝えて下さい。」
「あ、はい!わかりました…。」
「では僕はこれで。お大事に~。」
ニム先生が居なくなった後、近くの椅子に座って彼の様子を見守る事にした。
「んぁ…れ…?ここ…。」
「あ…!起きた?」
「ルナ…。ここ医務室だよね?俺、なんでここで寝て…。」
「ニム先生に見てもらったら、貧血だって。私と話してる時に、突然倒れたんだよ?」
「貧血…。そっか…薬が切れたから…。」
「その…薬の事ちょっと聞いたんだけど…。ルシュ様から薬を定期的に貰ってるんだってね…。」
「あ、うん。そうなんだよね。貧血になりやすいみたいでさ。…ちゃんと今日の内に、ルシュ様に話しておくよ。」
「わ…私でよかったら、いつでも力になるからね!」
「ありがとうルナ。その気持ちだけで充分だよ。…さてと、寮に戻ろっか。」
「うん!」
「ねぇヴェラ。タックの事なんだけど…。」
またしても夢の中にやって来た彼女に、タックの薬の話を聞いてみる事にした。彼女はいつものようにソファーに座り、優雅に紅茶を啜っている。ルカとミグはそれぞれ出かけているようで、ここで彼女と2人きりになるのは初めてだった。
「タック?誰だそれは。」
「あーえっと…。タクトの事だよ!」
「あぁ。タクトか。あいつがどうかしたか?」
「ヴェラから薬を貰ってるって聞いたんだけど、どうして?」
「奴には必要だからだ。言っていなかったか?度々貧血を起こして倒れる奴だと。」
「確かに言われたけど…。どうして薬なの?貧血なら、血を吸えばいいんじゃないの?」
「…あいつは何があっても血を吸わないからだ。」
「え?それって…」
「あいつは吸血鬼のくせに、何からも血を吸おうとしない。動物でも、人間でも、吸血鬼でもだ。」
「それって何か理由があるの?」
「知らないわよそんな事。」
「そ、そうだよね…。それよりも、そんな便利な薬があるなら私にも教えてくれたら良かったのに…。」
「あれは劇薬だ。効果は抜群だが、副作用が大きい。そして、大量に服用すれば命を落とす可能性がある。」
「どうしてそんな危険な薬をわざわざ!?」
「副作用があったとしても、タクトにとっては必要な薬だからだ。本人に強く希望されたから、私はあいつに薬を渡している。理由が知りたいなら本人に聞きなさい。」
「う、うん…。わかった。」
「あ、タック!おはよう!」
「おはようルナ。今日も元気そうだね。」
教室にやって来た彼に声をかけると、爽やかな笑顔を浮かべた。
「う、うん!タックは…調子どう?」
「調子?別になんともないけど…どうして?」
「あーううん!何となく聞いただけ!今日も実習頑張ろうね。」
「うん。また後でね。」
自分の席に向かう彼の背中を見送っていると、後ろからララが不思議そうな顔をしてやって来た。
「ルナちゃんどうしたの?」
「な、なんでもないよ!着替えなきゃね…。更衣室行こ!」
準備を済ませてホールへ向かうと、特別講師のレーガが生徒達に囲まれて話をしている様子だった。
「あ、あれ…ラギト様じゃない?」
「本当だ…中級クラスでも授業するんだね。」
「むしろ、こっちの方がメインだと思うよ?」
後ろからフランが私達の会話に混ざるように声をかけてきた。その隣にはタックの姿もある。
「フランくん…!お、おはよ!」
「おはようララちゃん。」
「ラギト様の授業は武器関係だから、昇級試験で最低条件の武器生成が出来る、中級クラスの生徒達が1番適してる授業なんだよね。」
「そっか…確かにそうかも!」
「俺もラギト様のおかげで凄く成長出来たと思…」
「あー!タクトー!」
離れた場所にいたはずのレーガが、ものすごい速さで私達の元にやって来ると、タックの身体を包み込むように抱きしめた。
「ラ、ラギト様…!?」
「タクト~。会いたかったよ~。最近全然こっち来てくれないから寂しくて…。」
「す、すみません…。忙しかったものですから…。」
2人は私達の目の前で両手を握り合いながら、恋人のようなやり取りをしている。その様子を見て固まっていると、ユイとアレク、レミリーの3人がホールへやって来た。
「何やってるの?」
「あ!ラギト様やー!」
「な、なんか今取り込み中みたいで…。」
「僕達の事、見えてない感じだよね。」
「うん…。2人の世界…って感じ…。」
「は?何よそれ…。」
「ねぇタクト。今度うちにおいでよ~。また一緒に食事でもしよう?」
「お、お言葉はとてもありがたいのですが…。俺のような中級の吸血鬼が、レジデンスに踏み込むなど恐れ多い事です…!」
「いいからいいから~。ルナとかフランとかと一緒に来たら、問題ないでしょ?ね~そうしなよ~。」
「え?…ええと…その…。」
「何よこれ…。」
「ええな~タックが羨ましいわ~。」
「はぁ!?あれのどこが羨ま…」
「ユ、ユイちゃん…!ラギト様に聞こえるから…!」
大きな声を出したユイの口元を、ララが慌てて手で塞いだ。
「レミリーは、あんまりビックリしてないね?」
「そうねぇ~…。毎回の事だから、慣れちゃったわ~。」
「ま、毎回これやってるの!?」
「えぇ。」
「僕は知らなかったなぁ…こんなラギト様…。」
「私は知りたくなかったなぁ…こんなラギト様…。」
「あの…ラギト様!そろそろ授業の方を始めた方が、いいのではないでしょうか!」
「え、そう?しょうがないなぁ…。また後でお話しようねタクト~。」
レーガは笑顔で手を振りながら、ステージ上へ向かって走っていった。
「さて!今日の実習は、ペアを組んで実戦をしてみよう!」
「じ、実戦!?」
「実際に…戦うって事?」
「そうね~。戦うといっても、殺し合うわけじゃないわよ~?」
「俺達は何回かやった事あるんだ。ラギト様が勝ち負けを判断するから、負けだと判断された時点で勝敗がつくんだよ。」
「へ~。なるほどなぁ~。ほんなら安心やわ…。」
その後レーガは実戦について詳しく説明を始めた。
ペアの決め方は、くじ引きによって決める事となった。チームのバランスを均等にする為、近距離の武器を扱う生徒は赤い箱から、その他の生徒は青い箱からそれぞれ番号の書かれたくじを引いた。
「あたし、6だったわ。」
「え!ほんま!?俺も6だったわ!」
「え、嘘…アレクと…?」
「ユ、ユイ…。そんなに露骨に嫌がられると…さすがにへこむわ…。」
ユイは少々嫌そうな顔をしながらも、アレクとチームを組む事になった。
「私は…10…。」
「あら。ララは私とね~。」
「え!レミリー!?」
「私とするのは嫌かしら?」
「全然そんな事ないよ…!私…弱いけど、一緒に頑張ろうね…。」
「ええ。頑張りましょう~。」
気弱なララと武器を持つと気が強くなるレミリーの、でこぼこチームが出来上がった。
「僕、3だったけど…ルナちゃんは?」
「私は…8だなぁ。」
「え、ルナは8なの?俺も8だよ。」
「やった!頑張ろうねタック。」
「うん。頑張ろう。」
私はタックとチームを組み、フランだけが他の人とチームを組む事になった。
「僕だけ仲間外れにされた気分だなぁ~…。」
「だ、大丈夫だよフランくん…!フランくんなら誰と組んでも勝てるよ!」
「ありがとうララちゃん。お互い頑張ろうね。」
「それじゃあ、どのチーム同士が戦うか決めるくじを引くね。えーっと…」
ステージ上に立っているレーガが、目の前にある箱の中から2枚の紙を手に取った。
「まずは、3番と6番のチーム!4人はコートの中に、他の生徒は壁際に移動してね。」
「あれ?3と6って…。」
「フランくんのチームと…ユイちゃんのチームだね…。」
「フランとなんて勝てる気がせーへん!」
「何弱気なこと言ってんのよ!が、頑張るしかないでしょ…!」
弱腰になっているアレクの背中を押して、2人は指定された場所へ移動していった。白いラインが引かれたコートの中には、すでにフランが立って待っていた。
「どうしたの?アレクくん。顔色良くないけど…。」
「な、なんでもないで!」
「あれ?フラン1人?」
フランの隣にペアの相手がいないのを見て、レーガがコートの中へやってきた。
「体調が悪いから見学したいとの事でした。」
「そっか。それなら仕方ないね…。」
「え、じゃあ実戦は無しに…」
「僕は1人でも構いません。」
「え!?」
「フランなら2人相手でも問題ないよね。ユイ、アレク。彼1人でも構わない?」
「え、あ、はい…!」
「は、はい…。」
フラン1人に対して、ユイとアレクの2人がそれぞれ武器を構えた。
「フ、フラン…。なんかこう…ハンデとかあらへん?」
「2対1の時点で充分ハンデだと思うけど?」
「言われてみればそうね…。」
「じゃあ…ユイちゃんには刃を向けないよ。それでいい?」
「あたしは普通に魔法ぶっぱなすわよ?」
「うん。本気でやってくれて構わないよ。」
「言うわね…。やってやりましょうアレク!」
「お、おう!」
「改めて勝敗のルールを説明するね。一応、制限時間は10分。その前に僕が中断するか、10分経った時点で打ち切りね。ちなみに、どちらか1人でも白い線の外に出たらその時点で負け。出ないように気をつけてね。」
「はい。」
「わ、わかりました!」
「じゃあ…始め!」
両チームの間に立っているレーガが手を挙げた瞬間、フランは右腕を大きく振りかぶり、アレク目掛けて持っていた剣を投げた。
「ふっ…!」
「ぉわ!?」
アレクの足元に剣が突き刺さり、彼が驚いてよろめいているうちにフランが距離をつめた。すかさず刺さった剣を引き抜いて、2本の剣がアレクに斬りかかった。間一髪でアレクの斧がそれを受け止めると、斧を振り払ってフランを吹き飛ばした。
「わ…!」
「力なら負けへんで!」
「“……我が意思に従え!アナイアレイション!”」
吹き飛ばされてバランスを崩した彼をめがけて、ユイの爆破魔法が発動した。あまりの勢いに爆風が起き、近くにいたアレクが床に手をついた。
「あっぶなー…。これ、フラン…大丈夫なんかな…?」
「え、やりすぎた…?」
「いやぁ…すごい威力だよね…。ほんと巻き込まれたらひとたまりもないよ。」
「せやなぁ…ってフラン!?」
「あんたいつの間に…!」
「ごめんユイちゃん!後でいくらでも謝るから!」
「へ?」
ユイの後ろに回り込んでいた彼は、彼女の腕を両手で掴むと、足を大きく広げて腰を落とした。
「ちゃんと受け身…とって…ね!!!」
「え、な、ちょっと!きゃー!?」
その場で身体を回転させて、フランがユイを投げ飛ばした。彼女は立っていたアレクに受け止められたが、2人まとめて白いラインの外へ放り出されてしまった。
「痛ー!」
「痛ったぁ…。」
「はい、そこまで!ラインの外に出たからユイ達の負けね。」
「こんなんありなんか…。」
「フランの奴…後で思いっきり文句言ってやるわ…。」
「ごめんねユイちゃん。後でいくらでも謝るからって、言ったじゃないか。」
「まさか投げ飛ばされるなんて思わなかったわよ馬鹿!」
「ご、ごめんって~…。」
私達は彼等の元に近寄ると、アレクは後頭部を気にしている様子だった。
「アレク大丈夫?頭ぶつけてなかった?」
「あー…。こぶ…出来たっぽいわ…。」
「なら僕が一緒に医務室に行くよ。ユイちゃんは、どこか痛い所ない?」
「あたしは大丈夫…。…アレクのおかげでなんともないわ。」
「じゃあ行こっか。後でみんなの結果も教えてね。」
こうしてフランとアレクは医務室へと歩いていった。
その後行われたララとレミリーのチームも、見ていてハラハラするような壮絶な戦いだった。
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