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第7章︰それぞれの過去
第60話
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「おーい、ルナ。そろそろおき…」
「っ!?」
閉じていた目を開き、身体を勢いよく起こした。目の前に見覚えのない部屋が広がり、隣に立っていたガゼルが驚いた顔をしていた。
「あ、あれ…ガゼル…?」
「びっくりした…。そんなに強く起こしたつもりなかったんだが…。」
「ご、ごめん!変な夢…見てたみたいで…。」
「そうか。朝食出来たから、着替えたら来いよ?そこのクローゼットの中の服、適当に着ていいから。」
「うん…!」
部屋を出ていく彼の背中を見送ると、ベッドを降りてクローゼットを開けた。女の子が着るであろうワンピースが並んでいるのを見て、今の自分がルナである事を思い出し、白いワンピースを手に取った。恥ずかしさを感じつつ、手早く着替えを済ませると、扉を開けて部屋の外へ出た。
「おはようルナちゃん。」
「おはようフラン!」
「よく寝れたみたいでよかったな。」
「あ、はい…お陰様で…。」
席に着くと、目の前にはパンとサラダが用意された。
「ごめんなさい…お手伝い出来なくて…。」
「お前は謝ってばっかりだな…。こういう時はお礼を言った方が、相手は嬉しいもんだぞ?」
「そ、そう…ですね…。」
「ガゼルくんの考え方ってすごく素敵だよね。説得力があるっていうか、ほんとにその通りだなって思えるよ。」
「まぁ…ほとんどマスターの受け売りなんだが…。」
「マスター?」
「ギルドのマスターだよ。他のメンバー達をまとめてる奴さ。」
「へ~。そうなんだね。」
「ほらルナ。早く食べて仕事するぞ?」
「あ、うん!頂きます…!」
ガゼルの仕事が無かった為、3人で森へ薬草を摘みにやって来た。
「この本に載ってるやつなら、なんでもいいんだよね?」
「あぁ。けど種類が多いから覚えきれ…」
「大丈夫。全部覚えたよ。」
「え、こんな短時間で?」
「フランは記憶力がすごいの。わた…しは、少しなら頭に入ってるけど…全部覚えるのは無理かな…。」
「あ、ちょっと待てフラン。この剣、護身用に使ってくれ。ルナは俺と一緒に行動しよう。」
「わかった。しばらく借りるね。」
「う、うん…。」
「あとは地図を…」
「地形なら昨日頭に入れたから大丈夫だよ。」
「じゃ、じゃあ…もしもの時の為に、発煙筒を持ってってくれ。」
「ガゼルくんは、心配性なんだね。」
「…誰かさんに似たせいかもな。」
「あはは。まぁ…万が一の自体に備えるのは大事だよね。預かっておくよ。」
そしてフランは、1人で森の奥へと進んで行った。僕とガゼルは2人で周囲の茂みを掻き分けながら、別の方向へと向かった。
「ルナ。どうだ?集まったか?」
「うん。結構集まったと思うよ。」
「手際がいいな。前にも集めた事があるのか?」
「あ…うん。薬を作るのが好きで…。」
「へー。なら、協会の仕事も出来るんじゃないか?自信ないって言ってたけど。」
「魔力が安定しないんだよね…!難しいのはまだ作れないし…。」
「そっか…そういう事なんだな。さて…と。そろそろ引き上げて、ウナの迎えに行…」
彼の背後から、身体の大きな猪が迫っているのが見えた。
「ガゼル危ない!」
僕は咄嗟にガゼルを突き飛ばし、彼の腰にあった銃を引き抜くと、猪に向けて弾を発射した。相手の急所を撃ち抜き、猪は彼の側で大きな音を立てて倒れた。
「ふぅ…。」
「ルナ…お前凄いな…。銃を扱えたのか?」
「え、あ…うん。少しだけ…。」
「助かったよルナ。ありがとな。」
「そんな…大した事は…!」
「せっかくだから…こいつを一旦、家に持って帰るか。ルナは猪、食べた事あるか?」
彼と猪の話をしながら、一旦家に戻る事にした。帰り道でフランと合流して家に着いた後、僕達を置いてガゼルは1人でウナの元へ向う事になった。
「これまた凄い量を取ってきたね…フラン…。」
「ついつい手が伸びて…ね。いつの間にか、薬草摘むの好きになっちゃったよ。」
「僕も結構好きなんだよね。ルナが居ない間、それくらいしかやる事がないから。」
「身体の中って…どんな感じ?」
「どんなって言われても…うーん…。草原が広がってて…家があって…森と湖があって…。」
「へぇ~。結構住みやすそうに出来てるんだね。楽しそうだなぁ。」
彼と話をしていると、突然玄関の扉が開き、フェリが家に戻って来た。
「あら、2人共戻ってたのね。」
「あ、フェリ…。」
「…って、凄い量の薬草ね。これ2人で集めたの?」
「ううん。3人でだよ。7割くらいフランがとったけど…。」
「ふんふん…。どれも教会で必要としてる薬草だわ。これだけ取ってきて貰えたら大助かりね。」
「よかった。集めたかいがあったよ。」
「兄さんは?」
「ウナを迎えに行ったよ。そろそろ来ると思うけど…。」
「なら、先にこれ運んじゃいましょ。2人共手伝ってくれる?」
「はーい。」
「う、うん!」
大量の薬草を木箱に詰め込み、車輪のついた荷台に乗せて教会へ向かった。尖った屋根が特徴的な建物の前にやってくると、荷台から木箱を降ろして中に入っていった。
扉を開けてすぐの所に沢山の椅子が並んでいて、色とりどりの窓に光が差し込み、床が鮮やかな色に染まっている。
「綺麗な所だね。僕、教会って初めて来たよ。」
「そうなの?あなたの街にはなかったのね。」
「そ、そうだね…。」
赤い絨毯が敷かれている廊下を進んで行き、奥の部屋に木箱を置いた。
「ひとまずこの辺に置いてくれる?」
「うん。」
「もう兄さんも戻ってる頃だろうから、呼んでくるわ。2人はここで待ってて。」
「はぁい。」
彼女が部屋から出て行くと、僕達は椅子に腰を下ろした。
「はぁ…嘘をつくのってドキドキするね…。」
「僕は嘘をついてるつもりないけどなぁ。あ、でも、言葉は選んで喋ってるつもりだよ?」
「そういうのが疲れない?なんていうか…騙してるような気分になるなぁって。」
「言えないならしょうがないよ。ここで放り出されても困るし、2人でなんとか頑張ろ?ね?」
「うん…。そうだね。フランが居てくれるから心強いかも。」
扉の奥から聞こえてくる声が次第に大きくなり、ガゼル、フェリ、ウナの3人が揃って部屋にやって来た。
「待たせたな。」
「おかえり。」
「さて…と、じゃあ、薬を作れるかどうか、一緒にやってみましょ。」
「うん。わかった。」
「フラン…無理しないでね?」
「大丈夫だよ。程々に頑張るから。」
こうして5人でテーブルを囲み、大量の薬草を薬に変える作業が進められた。
「よし…なんとか今日中に終わったな。」
薬草の山を処理し終えると、フランはテーブルの上に倒れ込んだ。
「はぁ~…終わった~…。」
「お疲れ様…フラン…。」
「自分で集めた薬草が、自分の首を絞める事になるとは思わなかったよ…。」
「これだけの量を作るのは、流石に疲れたわね…。明日からは薬草を摘むのと、薬を作るの、2手に別れた方がいいかしら?」
「なら、俺とフランが摘んで来て、3人で薬を作るのがいいんじゃないか?」
「それが1番効率が良さそうね。ウナは、それでいい?」
「ん。」
「ひとまず今日はお疲れさん。家に帰って夕飯にしよう。」
「あ、手伝います…!」
「私達は、掃除してから戻るわ。」
フェリとウナの2人を残し、先に3人で家に戻って行った。
「ルナは料理の手際もいいんだな。よく作るのか?」
「自分で食べる分を作るくらいかな…。でも、料理するの嫌いじゃないよ。」
「ふぅん…。お前は包丁の扱いだけは、料理人みたいだよな。」
魚を捌いているフランの背中に向かって彼は声をかけた。魚の捌き方を教わったフランは、慣れた手つきで次々と魚を処理していく。
「酷いなぁガゼルくん。もう僕は、立派な料理人だよー?」
「なら、これから毎日フランに作ってもらわないとな?」
「それは…流石にちょっと…。」
「あはは。」
帰ってきた2人と一緒に夕飯を食べ、楽しい時間を過ごした。
みんなが眠りについた頃、こっそり部屋を抜け出して海辺にやって来た。砂浜に腰を下ろして、果てしなく広がっている海を眺めた。
「はぁ…。」
「…どうしたの?ため息なんかついて。」
後ろを振り返ると、フランがこちらに向かって歩いて来た。隣までやってくると、彼もその場に腰を下ろした。
「眠れないの?」
「………うん。」
「なら一緒に寝てあげようか?」
「え!?………男だってわかって言ってる…?」
「もちろん。」
「…フランって変わってるよね。」
「そうかな?よく言われるけど、僕にはわからないや。…好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。ルナちゃんでもルカくんでも、僕は好きだよ。」
「フランみたいな考え方、出来たらいいのにな…。」
「ルナちゃんの事を考えてたの?」
「うん…。昨日、夢の中でルナに突き飛ばされて、湖に落ちたんだ。私はそんなの望んでない…ってそう言ってた。」
「ルナちゃんの望み…かぁ。なんだろうね?」
「…わかんない。」
「僕の望みは、君達が笑顔になる事かな。」
「え…?」
「ん?どうかした?」
「そ、それがフランの望みなの?」
「うん。」
「…変なの。」
「えー?僕と仲良くしてくれる、君達の方が変だと思うけど?」
「あはは。」
「一緒に居てくれる人達を、嫌いになんてなれないよ。もしその人が、僕の事を殺したい程憎んでいたとしても。僕はそれも含めて、全てを受け入れるつもりでいる。」
彼は珍しく真剣な顔をして、そう口にした。
「憎しみも含めて…全てを受け入れる…かぁ。」
「さて…と。身体冷やしちゃう前に、部屋に戻ろう?」
「そうだね。…ありがとうフラン。」
「んー?僕は言いたい事、言っただけだよ?」
「…そっか。」
「っ!?」
閉じていた目を開き、身体を勢いよく起こした。目の前に見覚えのない部屋が広がり、隣に立っていたガゼルが驚いた顔をしていた。
「あ、あれ…ガゼル…?」
「びっくりした…。そんなに強く起こしたつもりなかったんだが…。」
「ご、ごめん!変な夢…見てたみたいで…。」
「そうか。朝食出来たから、着替えたら来いよ?そこのクローゼットの中の服、適当に着ていいから。」
「うん…!」
部屋を出ていく彼の背中を見送ると、ベッドを降りてクローゼットを開けた。女の子が着るであろうワンピースが並んでいるのを見て、今の自分がルナである事を思い出し、白いワンピースを手に取った。恥ずかしさを感じつつ、手早く着替えを済ませると、扉を開けて部屋の外へ出た。
「おはようルナちゃん。」
「おはようフラン!」
「よく寝れたみたいでよかったな。」
「あ、はい…お陰様で…。」
席に着くと、目の前にはパンとサラダが用意された。
「ごめんなさい…お手伝い出来なくて…。」
「お前は謝ってばっかりだな…。こういう時はお礼を言った方が、相手は嬉しいもんだぞ?」
「そ、そう…ですね…。」
「ガゼルくんの考え方ってすごく素敵だよね。説得力があるっていうか、ほんとにその通りだなって思えるよ。」
「まぁ…ほとんどマスターの受け売りなんだが…。」
「マスター?」
「ギルドのマスターだよ。他のメンバー達をまとめてる奴さ。」
「へ~。そうなんだね。」
「ほらルナ。早く食べて仕事するぞ?」
「あ、うん!頂きます…!」
ガゼルの仕事が無かった為、3人で森へ薬草を摘みにやって来た。
「この本に載ってるやつなら、なんでもいいんだよね?」
「あぁ。けど種類が多いから覚えきれ…」
「大丈夫。全部覚えたよ。」
「え、こんな短時間で?」
「フランは記憶力がすごいの。わた…しは、少しなら頭に入ってるけど…全部覚えるのは無理かな…。」
「あ、ちょっと待てフラン。この剣、護身用に使ってくれ。ルナは俺と一緒に行動しよう。」
「わかった。しばらく借りるね。」
「う、うん…。」
「あとは地図を…」
「地形なら昨日頭に入れたから大丈夫だよ。」
「じゃ、じゃあ…もしもの時の為に、発煙筒を持ってってくれ。」
「ガゼルくんは、心配性なんだね。」
「…誰かさんに似たせいかもな。」
「あはは。まぁ…万が一の自体に備えるのは大事だよね。預かっておくよ。」
そしてフランは、1人で森の奥へと進んで行った。僕とガゼルは2人で周囲の茂みを掻き分けながら、別の方向へと向かった。
「ルナ。どうだ?集まったか?」
「うん。結構集まったと思うよ。」
「手際がいいな。前にも集めた事があるのか?」
「あ…うん。薬を作るのが好きで…。」
「へー。なら、協会の仕事も出来るんじゃないか?自信ないって言ってたけど。」
「魔力が安定しないんだよね…!難しいのはまだ作れないし…。」
「そっか…そういう事なんだな。さて…と。そろそろ引き上げて、ウナの迎えに行…」
彼の背後から、身体の大きな猪が迫っているのが見えた。
「ガゼル危ない!」
僕は咄嗟にガゼルを突き飛ばし、彼の腰にあった銃を引き抜くと、猪に向けて弾を発射した。相手の急所を撃ち抜き、猪は彼の側で大きな音を立てて倒れた。
「ふぅ…。」
「ルナ…お前凄いな…。銃を扱えたのか?」
「え、あ…うん。少しだけ…。」
「助かったよルナ。ありがとな。」
「そんな…大した事は…!」
「せっかくだから…こいつを一旦、家に持って帰るか。ルナは猪、食べた事あるか?」
彼と猪の話をしながら、一旦家に戻る事にした。帰り道でフランと合流して家に着いた後、僕達を置いてガゼルは1人でウナの元へ向う事になった。
「これまた凄い量を取ってきたね…フラン…。」
「ついつい手が伸びて…ね。いつの間にか、薬草摘むの好きになっちゃったよ。」
「僕も結構好きなんだよね。ルナが居ない間、それくらいしかやる事がないから。」
「身体の中って…どんな感じ?」
「どんなって言われても…うーん…。草原が広がってて…家があって…森と湖があって…。」
「へぇ~。結構住みやすそうに出来てるんだね。楽しそうだなぁ。」
彼と話をしていると、突然玄関の扉が開き、フェリが家に戻って来た。
「あら、2人共戻ってたのね。」
「あ、フェリ…。」
「…って、凄い量の薬草ね。これ2人で集めたの?」
「ううん。3人でだよ。7割くらいフランがとったけど…。」
「ふんふん…。どれも教会で必要としてる薬草だわ。これだけ取ってきて貰えたら大助かりね。」
「よかった。集めたかいがあったよ。」
「兄さんは?」
「ウナを迎えに行ったよ。そろそろ来ると思うけど…。」
「なら、先にこれ運んじゃいましょ。2人共手伝ってくれる?」
「はーい。」
「う、うん!」
大量の薬草を木箱に詰め込み、車輪のついた荷台に乗せて教会へ向かった。尖った屋根が特徴的な建物の前にやってくると、荷台から木箱を降ろして中に入っていった。
扉を開けてすぐの所に沢山の椅子が並んでいて、色とりどりの窓に光が差し込み、床が鮮やかな色に染まっている。
「綺麗な所だね。僕、教会って初めて来たよ。」
「そうなの?あなたの街にはなかったのね。」
「そ、そうだね…。」
赤い絨毯が敷かれている廊下を進んで行き、奥の部屋に木箱を置いた。
「ひとまずこの辺に置いてくれる?」
「うん。」
「もう兄さんも戻ってる頃だろうから、呼んでくるわ。2人はここで待ってて。」
「はぁい。」
彼女が部屋から出て行くと、僕達は椅子に腰を下ろした。
「はぁ…嘘をつくのってドキドキするね…。」
「僕は嘘をついてるつもりないけどなぁ。あ、でも、言葉は選んで喋ってるつもりだよ?」
「そういうのが疲れない?なんていうか…騙してるような気分になるなぁって。」
「言えないならしょうがないよ。ここで放り出されても困るし、2人でなんとか頑張ろ?ね?」
「うん…。そうだね。フランが居てくれるから心強いかも。」
扉の奥から聞こえてくる声が次第に大きくなり、ガゼル、フェリ、ウナの3人が揃って部屋にやって来た。
「待たせたな。」
「おかえり。」
「さて…と、じゃあ、薬を作れるかどうか、一緒にやってみましょ。」
「うん。わかった。」
「フラン…無理しないでね?」
「大丈夫だよ。程々に頑張るから。」
こうして5人でテーブルを囲み、大量の薬草を薬に変える作業が進められた。
「よし…なんとか今日中に終わったな。」
薬草の山を処理し終えると、フランはテーブルの上に倒れ込んだ。
「はぁ~…終わった~…。」
「お疲れ様…フラン…。」
「自分で集めた薬草が、自分の首を絞める事になるとは思わなかったよ…。」
「これだけの量を作るのは、流石に疲れたわね…。明日からは薬草を摘むのと、薬を作るの、2手に別れた方がいいかしら?」
「なら、俺とフランが摘んで来て、3人で薬を作るのがいいんじゃないか?」
「それが1番効率が良さそうね。ウナは、それでいい?」
「ん。」
「ひとまず今日はお疲れさん。家に帰って夕飯にしよう。」
「あ、手伝います…!」
「私達は、掃除してから戻るわ。」
フェリとウナの2人を残し、先に3人で家に戻って行った。
「ルナは料理の手際もいいんだな。よく作るのか?」
「自分で食べる分を作るくらいかな…。でも、料理するの嫌いじゃないよ。」
「ふぅん…。お前は包丁の扱いだけは、料理人みたいだよな。」
魚を捌いているフランの背中に向かって彼は声をかけた。魚の捌き方を教わったフランは、慣れた手つきで次々と魚を処理していく。
「酷いなぁガゼルくん。もう僕は、立派な料理人だよー?」
「なら、これから毎日フランに作ってもらわないとな?」
「それは…流石にちょっと…。」
「あはは。」
帰ってきた2人と一緒に夕飯を食べ、楽しい時間を過ごした。
みんなが眠りについた頃、こっそり部屋を抜け出して海辺にやって来た。砂浜に腰を下ろして、果てしなく広がっている海を眺めた。
「はぁ…。」
「…どうしたの?ため息なんかついて。」
後ろを振り返ると、フランがこちらに向かって歩いて来た。隣までやってくると、彼もその場に腰を下ろした。
「眠れないの?」
「………うん。」
「なら一緒に寝てあげようか?」
「え!?………男だってわかって言ってる…?」
「もちろん。」
「…フランって変わってるよね。」
「そうかな?よく言われるけど、僕にはわからないや。…好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。ルナちゃんでもルカくんでも、僕は好きだよ。」
「フランみたいな考え方、出来たらいいのにな…。」
「ルナちゃんの事を考えてたの?」
「うん…。昨日、夢の中でルナに突き飛ばされて、湖に落ちたんだ。私はそんなの望んでない…ってそう言ってた。」
「ルナちゃんの望み…かぁ。なんだろうね?」
「…わかんない。」
「僕の望みは、君達が笑顔になる事かな。」
「え…?」
「ん?どうかした?」
「そ、それがフランの望みなの?」
「うん。」
「…変なの。」
「えー?僕と仲良くしてくれる、君達の方が変だと思うけど?」
「あはは。」
「一緒に居てくれる人達を、嫌いになんてなれないよ。もしその人が、僕の事を殺したい程憎んでいたとしても。僕はそれも含めて、全てを受け入れるつもりでいる。」
彼は珍しく真剣な顔をして、そう口にした。
「憎しみも含めて…全てを受け入れる…かぁ。」
「さて…と。身体冷やしちゃう前に、部屋に戻ろう?」
「そうだね。…ありがとうフラン。」
「んー?僕は言いたい事、言っただけだよ?」
「…そっか。」
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