エテルノ・レガーメ

りくあ

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第6章︰エーリ学院【後編】

第50話

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「みんな大変だったね…。」

無事にエーリに戻る事が出来た僕達はニム先生に事情を話すと、1日だけ授業を休みにする事が決定した。朝の鐘が街の方から聞こえた頃、いつものメンバーでルナの部屋に集まり、僕はベッド、フランは机の椅子に座り、テーブルを囲んで話し始めた。

「ごめんねララちゃん。1人にしちゃって…。」
「ううん!大丈夫だよ!あ、ユイちゃん。ユノちゃんならもう良くなったみたいだから、安心してね。」
「う、うん…。」

彼女は目を逸らして俯いた。

「ユイは体調どう?」
「あ、うん。もう良くなったわ。ミグが止血してくれたのよね?ありがとうって伝えておいて。」
「うん。わかった。」
「ところでルナちゃん…。今日はベッドとか机とかしまわないんだね。」
「え?あぁ…その…。」 

ルナの姿をしたルカでは魔法を使うという概念がなく、成功するかもわからない魔法をみんなの前で出来ずにいた。

「フラン君。ルナちゃんもかなり魔力を消耗したんだし、血が足りなくなると悪いから魔法を控えてるんだよ。ね、ルナちゃん?」
「うん…!そうなの!」
「そっか。そうだよね。」

ララの機転の利かせた言い訳を利用し、なんとか誤魔化す事が出来た。

「それより、あたし達が勝てなかった上級吸血鬼相手に、フランは勝ったのよね?どうやって打ち負かしたのよ。」
「んー?どうやってって…剣で戦っただけだよ?」
「そ、そう…。」

あれほど苦戦した相手をいとも簡単に倒してしまったのだから、おそらく僕達に見せていない強さが彼の中に隠されているのだろう。ユイもなんだか納得出来ないような、そんな表情をしていた。

「あ、ユイちゃん。あの時助けてくれた人って、どんな人なの?」
「どんな?えっと…タクトワイライネって名前だそうよ。中級吸血鬼で…両手剣を武器にしてるみたい。」
「両手剣かぁ…なんだか、ヴァン様みたいでかっこいいね。」
「ヴァン様?」
「ライガヴィヴァン様。幹部の1人よ?」
「あ、あぁ…。」

聞き慣れない名前に困惑しつつも、ヴァン様とはルナの言っていたライガだという事を理解し、心の中でほっとしていた。

「ねぇルナちゃん。ちょっと飲み物を買いに行かない?」
「え?なんで急に…」
「喉乾いちゃったからだけど…どう?」

彼の急な申し出にララの方を見ると、にっこりと笑顔が返ってきた。彼女に悪い気がしつつも、2人で飲み物を買いに行く事になった。
しばらく無言で廊下を歩いていると、角を曲がってすぐに彼は後ろを振り向き、こちらに身体を向けた。

「ど、どうかした?フラン…。」
「君は誰?」
「え?ルナ…だけど…」
「僕、昔から嘘を見抜くのは得意なんだ。君は嘘をつくのが下手だね。ルナちゃんもだけど。」

その台詞をどこかで聞いた事があるような気がしつつ、必死に弁解を試みた。

「嘘じゃ…」
「どうして隠す必要が?君の正体がなんであろうと、僕は変わらない。」
「誰にも…言わない…?」
「もちろん。約束するよ。」

彼の真っ直ぐな瞳に圧倒され、ルカという名前であることを明かした。普段は彼女の身体の中に眠っている事、頭を打った衝撃で入れ替わってしまっている事、自分が人間である事を打ち明けると、彼はそれらをなんの疑いもせずに聞いていた。

「なるほど。」
「ほ、本当に誰にも言わないでね!?あと…ルナとして変わらず接して貰えるとありがたいんだけど…。」
「そりゃあもちろん。それを含めて僕達だけの秘密として、胸の中に閉まっておくよ。僕はずっと、ルナちゃんの味方で居たいからね。」
「よかった…ありがとうフラン。」
「僕とミグ君以外は知らないんだね?幹部の人も?」
「あ、ヴェ…じゃなかったルシュ様だけは知ってるよ。」
「ふぅん…ルシュ様かぁ…。」
「あ…長話しちゃったね…。早く飲み物買って戻ろっか。」
「そうだね。そうしよう。」

部屋に戻ると、何をしていたのかユイに疑われたが、フランが調子のいい事を言ってなんとか誤魔化した。嘘を見抜くのが得意な彼だが、嘘をつくのも得意だという事が明らかとなった。



「みんなおはよう~。今日は僕が武器の扱い方教えるからね。」

レーガ(ラギト様)がホールの中央に立ち、その周りを僕達生徒が囲むようにして座っている。

「まだ武器を作れない子もいると思うから、2手に別れて授業を進めるね。って事で…こっち側に作れる子。こっち側に作れない子で別れてくれる?」

僕とフラン、ユイは彼の右側に。まだ武器を作れないララは、彼の左側に移動した。およそ4分の1が右側、残りの生徒が左側に集まっている様に見える。

「君達は、武器を作って待っててね。」

彼は右側に集まった生徒達にそう言い残すと、左側に向かって歩き出した。

「ルナちゃん。」
「あ、フラン…。」

彼は、今のルナが魔法を使えない事を知っている。その事を気にしたのか、隣に立つと小声で話し始めた。

「呪文…わかる?」
「た、多分…あんまり自信ないけど…。」
「ルナちゃんの武器は銃だったから…それをちゃんとイメージすれば大丈夫だと思うよ。僕が今してみるから見てて。」
「う、うん。」
「“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。”」

彼は親指を噛んで血をだすと、呪文を唱えた。すると、2本の剣が彼の近くに突き刺さった。

「やってみるね…。“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。”」

彼と同じようにやってみると、両手、両腕、腰周り、両脚に計10丁もの大量の銃が姿を現した。

「す、凄い…一体いくつ出したの?」
「ええっと…10かな?」
「10…」
「わぁ…!凄いねルナ。もうそんなに沢山出せるようになったんだ。」

ホールの反対側にいたレーガが戻ってくると、身につけた銃を見て驚いた表情をした。

「た、たまたまですよ…!」
「どれ程成長したか、見るのが楽しみだね。…さてと、それじゃあ早速だけど、2人でペアを組んで、僕と勝負しよう。」
「え!?ラギト様と勝負!?」
「2対1つっても勝てる気がしねー…。」
「ペア…かぁ…。」
「ルナちゃん。僕と組も?」
「えー!あたしがルナと組もうと思ってたのに!」

後ろに立っていたユイが、身体を乗り出して顔を近づけた。

「僕が先に誘ったよ?」
「あんたはずっと隣に張り付いてたんだから、ずるいわよ!ね、ルナ。あたしと組むでしょ!?」
「え、えっと…。」

ぐいぐい迫ってくるユイに戸惑っていると、フランが彼女の腕を掴み、引き剥がした。

「ルナちゃんが決めてくれれば、恨みっこなしだよね?」
「そ、そうね。ルナはどっちとする?」
「えっと…フランかな…。」

今、僕がルカだとわかっている相手の方がやりやすいと判断し、彼を選んだ。もちろん他にも理由はいくつかある。

「ええー!」
「わ、私の武器は銃だから中距離だし…ユイの魔法だと遠距離でしょ?剣の方が相性がいいかなって思って…。ごめんユイ…。」
「仕方ないわね…ルナがそう思うなら従うわ。他の人誘いに行ってくるわね。」
「いってらっしゃい。お互い頑張ろうね。」

彼は満足そうに、手を振りながら彼女を見送った。



「さて、次は誰にする?」

全部で5組のペアを作った生徒達の内、すでに2組は彼の剣に圧倒され、あっさりと負けてしまった。僕が彼の剣技を見るのは初めてだったが、とにかく速さが桁違いだった。生徒達は、目で追う事が精一杯で手も足も出ない様な状態だ。

「はい。では次は僕達が。」

隣に座る彼が、真っ直ぐと手を上に伸ばした。

「お、フラン。ようやくやる気出してくれた?」
「本当は最後まで待とうと思ったんですが…早くあなたと手合わせがしたくてしょうがないんです。」

立ち上がり、歩き始めた彼の後を追いかけるように小走りでついていくと、レーガは口角をあげて嬉しそうにこちらを見た。

「僕も君達と、早くやりたかったんだ。嬉しいよルナ。」
「…お、お手柔らかにお願いします…。」
「あはは。それは…君達次第かなぁ。」

フランが剣を僕が銃を、それぞれの武器を構えると、彼は手に持っているレイピアを上から下に振り下ろした。

「来なよフラン。君達の成長ぶり、見せてもらおう。」
「はい。ラギト様…。」

フランは言葉を言い終えると、彼の向かって走り出した。
あっという間に間合いを詰めると、剣がぶつかり合う音が響き渡った。フランも剣の手練だと思っていたが、その速さはラギト様にも劣らないものだった。彼の2本の剣が、細いレイピアと激しく交差している。
僕は銃を構えると、フランの剣が振り下ろされるタイミングに合わせて引き金を引いた。右手の銃で彼の胸元を狙い、続けて左手の銃で足元を狙った。しかしそれ等はレイピアに阻まれ、ぽとりと床に落ちた。すかさず3発、4発と打ち込んでいくが、彼は全て1本のレイピアでそれをしのぎきった。
右手でフランの猛攻を防ぎながら、彼は左手から小さなナイフを3本作り出すと、こちら目がけてそれを投げた。

「ぅわ…!?」

まさかナイフを飛ばしてくるとは思わず、危機一髪の所で避けたが、頬がちくりと痛み、赤い液体が頬を伝った。

「フラン。随分成長したね…驚いたよ。」
「…っ…それは…うれ…しい…ですっ!」
「でもまだまだ甘い。…はっ!」

フランの剣が交わった瞬間、彼はものすごい速さでレイピアを上に振ると、2本の剣は彼の手から離れて宙を舞い、床に投げ飛ばされた。床に叩きつけられた衝撃で彼の剣は粉々に砕けて消えていった。

「驚いた…。これ程までに成長してたなんてね。」

剣を投げ飛ばした瞬間、僕は彼が振り上げたレイピアに狙いを定め、数発まとめて弾を打ち出していた。それは見事に命中して弾き飛ばした事で、レイピアは床に叩きつけられて破壊された。
僕は腰から抜き取った銃を、丸腰になったレーガに向けると、彼は両手をあげてため息をついた。その瞬間、ホール内の生徒達からどっと歓声がわいた。

「す、すげー!勝ったのか!?」
「なんだ今のかっけー!」
「まさか勝っちゃうなんて…嘘でしょ!?」
「やったなフランー!」
「お前達すげーよ!」
「お見事ー!」

別行動をしていたはずの生徒達も見ていたらしく、たくさんの生徒達に注目されて恥ずかしくなり、そっと銃をしまった。

「な、なんか凄いことになっちゃった…?」
「あーあ…せっかくルナちゃん力を抑えて、出来ないフリをしてたのに。」
「え、嘘!?」

近くに寄ってきたフランがポツリと呟くと、血の気が引いていくのを感じた。

「さてと…あと2組残ってるけど、やりたいかい?」
「や、やめておきます…。」
「あたし達も…またの機会にします…。」
「ならそうしよう。残り時間は武器を作る方に集中しようか。出来る子達は出来ない子達にアドバイスしてあげてね。」
「「はーい。」」

こうしてその日の授業は幕を閉じた。
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