エテルノ・レガーメ

りくあ

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第5章︰エーリ学院【前編】

第39話

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目を開けると、見慣れない部屋のベッドの上で横になっていた。体を起こすと、窓の外に大きな建物が立っているのが見える。そういえば昨日から、エーリ学院で勉強をする事になり、寮で寝泊まりしていた事を思い出し我に返った。机の上に置いてあった教科書を、何も入っていない本棚に並べた。そのうち5冊を手に取り用意された鞄に詰める。顔を洗い、支度を済ませると、クローゼットの中に入っていた制服に着替えて、部屋を出た。

「おはよー!」
「よー!」
「おはよ!ねーねー昨日の見た?」
「おー。おはよ。」
「うっす。」
「お前さ、あの後どうした?どうなったんだよー?」
「なんでもいいだろほっとけ!」

廊下を歩くと、生徒達が和気あいあいと話をしていた。その様子を横目で見つつ、教室の扉を開けた。その音に振り向いた生徒と、一瞬目が合った。

「あ…おは…!」
「あー…。で、なんだっけ?」
「だから、昨日何したかって話!」
「そうだったね!私は…」
「…。」

目を合わせて挨拶をしたはずが、それを無視されてしまい、仕方ないので自分の席へと向かった。隣の…ララの席に彼女の姿はなく、鞄もないのを見るとまだ来ていないようだった。

「おはよう。えっと…ルナだっけ?」

少し離れた席から1人の女子生徒が声をかけてきた。金色の髪の毛を左右に分けて、それらを赤のリボンでまとめている。背が低く、小柄な彼女が私の元に駆け寄ってくる。

「う、うん。そうだけど…あなたは?」
「あたしは、ユイ! 」
「おはようユイ!急だったからびっくりしちゃった。」
「え、そう?ごめんごめん。気になって声かけたのよ。」
「気になるって?」
「昨日、使い魔出してたでしょ?今出して見せてくれない?」
「えっとそれは…。」

昨日、突然ミグが出てきた事で、生徒達が騒ぎ出し、ちょっとしたパニックになってしまった。授業後、ニム先生からその事で注意されてしまい、極力出さないように気をつけろと言われたばかりだった。

「ごめん…出さないようにって先生に言われちゃったから…。」
「え~…そうなの?つまらないわねぇ…。」
「はーい。みなさん座ってくださーい。出席とりますよ~。」
「しょうがない…ルナまたね!」
「う、うん!また!」

隣の席が空席のまま、授業は進められた。以前、ライガやヴェラから聞いた事のある話を繰り返し聞かされ、退屈な1日が過ぎていった。今日の授業を全て終えて、自分の部屋に帰ろうと廊下を歩いていると、何人かまとまって空き教室に入っていく姿が目に入った。その中に見覚えのある姿を見つけ、気になって空き教室の前にやってきた。

「ねぇ。どうして今日来なかったの?」
「…そ…れは…。ちょっと…体調が悪かった…から…。」

ハキハキと喋る声と弱々しく答える声は、どちらも聞き覚えがあった。おそらく、前者はユイで後者はララのものだ。その他にも誰かいるようで、くすくすと笑う声も聞こえてくる。
扉を開けようと手を伸ばすと、横から現れた別の手に遮られた。

「…おいルナ。ちょっと待て。」
「え!?わ!ミ…」
「しっ!静かにしろ…。」
「…な、なんで?どうしたの?」
「もう少し様子を見た方がいい。」
「え?でも…。」
「いいから。」

彼の真剣な表情に、少々疑問を抱きつつ伸ばした手を戻した。

「昨日あんたがしくじったせいで、あたしがやるハメになったじゃない。」
「ご…ごめ…」
「ごめん?謝るなら最初から失敗しないでよ!」

バチッ!っと何かを叩く音が聞こえ、床に何かが叩きつけられたようだった。

「痛っ…!」
「立ちなさい。…ほら!立って!」
「ごめ…ごめんなさい…!ごめん…なさい!」
「ねぇララ?あんただって嫌でしょ?あんなのの相手するなんて。」
「嫌…だよ…。」
「あたしは、もーっと嫌なのよ!!!来て早々、使い魔なんて出しちゃって…調子に乗りすぎだわ。」

「来て早々、使い魔を出した。」その言葉に、彼女達が話している“相手にするのが嫌な奴”が誰なのかがわかり、身体が強ばるのを感じた。

「…それで、あたし嫌だからまたあんたがしなさいよ。」
「え…」
「え?嫌なの?あたしがやってって言ってるのに?」
「や、やる!やります!だから…お願いします…叩か…ないで…。」
「ありがとうララ。…じゃ、みんな行きましょ。」

扉の向こうから複数の足音が近づいてくるのが聞こえると、ミグに手を引かれ、隣の空き教室に隠れた。廊下の足音が遠ざかってしばらくすると、パタパタと弱々しい足音が教室の前を通り過ぎて行った。

「さっきのって…ユイとララだよね…?」
「だろうな。」
「昨日、私が閉じ込められたのは、ユイがララにさせた…って事…?」
「話を聞いた感じおそらくそうだろうな。ユイがララを従えているんだろ。」
「…。」
「だからって、ララを注意しろって言ったのは変わらないからな?今後はますます気をつけないと…もちろんユイの事もだ。」
「う、うん…。」



「お…おはようルナちゃん…!」
「あ…ララ…。」

翌日、すでに席に着いていた彼女が何事も無かったように声をかけてきた。

「その…この間はごめんね?部屋、間違えちゃってたみたい…。私知らなくて、そのまま帰っちゃって…。ほんとにごめん…!」

彼女がユイの命令で、私を空き部屋に閉じ込めた事はすでに知っていた。しかし、昨日ルカとミグの3人で話し合い、知らないふりをしてしばらく様子を見てみようと決めたのだった。

「大丈夫だよ!あの後なんとか出られたし…気にしないで!」
「そっか…よかった!」

自分の席に座ると、彼女も同じように自分の席についた。

「それよりララ…昨日は大丈夫?体調悪かったの?」
「あ…うん。ちょっとね…。もう大丈夫だけど…!」

彼女は、自分の肩に垂れている髪を指ですくい取り、指に巻き付けてその場でくるくると髪をいじる仕草をした。

「みなさんおはようございます~。今日は実習日なので、着替えてホールに集まって下さーい。」

教室に入ってきたニム先生が一言言い残して出ていくと、生徒達も席を立ち移動し始めた。

「ね、ねぇララ。実習って?」
「あぁ…えっと、教室とは別の広い場所に移動して、習った事を実際にやってみる授業だよ。」
「そうなんだ…。着替えっていうのは?」
「男女それぞれ、更衣室に行って運動着に着替えるの。ルナちゃんの服は…更衣室のロッカーに入ってあるんじゃないかな?」
「その…更衣室がどこかわからないから一緒に行ってもいい?」
「もちろん。いこっ。」

ララは満面の作り笑いをしてみせた。



更衣室に入ると、ロッカーがズラりと並んでいる。その中から自分の名前が書いてあるロッカーを見つけて扉を開くと、他の生徒と同じ服が2着用意されていた。

「はーい。みんな揃ったかな?出席をとりますよ~。」

着替えを済ませた後、ララと共にホールにやって来た。そこではニム先生が待っていて、そこにいる全員が同じ運動着を着ている。

「それでは授業を始めますよぉ。今日は、魔法の実習です。」
「やった!魔法だ!」
「俺、魔法苦手~。」
「楽しみ!何の魔法かな?」
「魔法か~。他のがよかったなぁ。」

生徒からは賛否両論、様々な意見が飛び交っている。それらを無視し、ニム先生が話を続けた。

「魔法の授業といっても、今日はみなさんの魔力と適正属性を調べてみたいと思いまーす。みなさんは属性魔法って、どんなのだったか覚えていますか?じゃあ…ララさん!」
「は、はい…。」
「属性魔法について習った事を覚えている範囲で説明してみて下さい~。」
「えっと…属性魔法は、火、水、風、光、闇の5つの属性を持つ魔法の事…です。」
「はい。そうですね!どの属性を扱えるのか、どのくらい魔法を扱う力があるかと言うのは、それぞれ違います。それを調べで、自分の長所と短所を知りましょう~。では、名前を呼ばれた生徒から順番に、この水晶の玉に触れてみてください。」

ニム先生の隣に置かれている水晶は、両手で包める程の大きさで、透き通っている。名前を呼ばれた生徒がそれに触れると、水晶の中に赤や青の色のついた煙が現れた。

「その煙の濃さで魔力の量がわかり、色で属性が分かりますよ~。赤は火、青は水、風は緑、光は白、闇は黒です。」
「俺、赤と黒だったんだけど!」
「お前何色だった?」
「俺、青!」
「あたし黒だけだった~。」
「私も黒~。」 
「え、ねぇ、黒多くない?」
「はい。では次…ルナさん。どうぞ~?」
「あ、はい。」

あれこれ話をしている生徒達の前に出ると、水晶に指を触れた。中で黒っぽい煙が充満し、指先に熱が帯びて行くのを感じた。

「こ、これは…!ルナさん手を離…」

ニム先生が何か言いかけた直後、水晶にヒビが入り砕け散った。

「えっ…。」

突然の事に言葉が出ないでいると、その音を聞いた後ろの生徒達も言葉を失っていた。

「…え、何?」
「何今の?」
「あれ?水晶は?」
「嘘…壊したの?」

次第に状況を把握した生徒達が、ざわめき始める。まさか壊してしまうとは思っていなかった私は、ニム先生の方を見た。

「ご、ごめんなさい先生…壊そうとした訳じゃ…。」
「いえ…壊したのは仕方ないですから構わないです…。でも初めて見ました…この水晶が壊れる所を…。」
「え?それってどういう…。」
「と、とりあえず、元に戻ってくださいルナさん。」
「は、はい…。」
「この結果は後日、紙にまとめて皆さんにお渡しします~。それでは手始めに、物を移動させる魔法をやってみましょう!」
「移動?」
「移動ってあれでしょ?離れた所にある物を移動させる…念力みたいなやつ!」
「いきなり動かすのはちょっとまだ難しいと思うので、まずは浮かせる所からやってみましょう。では、ここからボールを1人1個持っていってください。」

柔らかいボールを1つ手に取ると、それで物を浮かせる授業が始まった。あまり目立たないように周りの生徒と同じく苦戦するふりをして、その場をなんとかやり過ごした。



「はぁ~…疲れた…。」

ぐったりとソファーに倒れ込むと、頭の上から声をかけられた。

「お疲れ様ルナ。随分疲れてるね?」

声の主は、優しく労いの言葉をかけてくれた。ソファーに突っ伏している為、顔は見えないが声の高さでルカだとわかった。

「魔法の実習授業があって…わざと力を抑えるようにしろってミグに言われてたから、余計に疲れちゃった…。あ、それより…ミグはどこに行ったの?マッサージしてもらおうと思ったんだけど…。」
「ミグは今、外に出てるよ。マッサージなら僕がしてあげる。」
「じゃあ…お願いしよっかな…。」

ミグ以外の人にマッサージをされるのは初めてで、他の人はどのようにマッサージをするのか少し興味があった。しかし、彼の手つきはミグのものとほぼ同じで、実はミグがマッサージしているのではないかと疑う程だった。

「…ん。」
「あ、おはようルナ。」

目を開けると、こちらを見下ろしているルカと目が合った。頭の下に彼の膝があり、身体には毛布がかけられている。

「え?あれ?私、どうしたんだっけ?」

身体を起こしてソファーに座り直し、手で軽く髪の毛を整えた。

「マッサージしてって言われたから僕がしたんだよ?そしたら、ルナが寝ちゃって…。」
「そうだった…あまりにミグのと同じだったから…つい。」
「そりゃそうだよ!ミグに教えて貰ったからね。」
「どうして教わったの?」
「え?そ、それは…。」

彼が合わせていた目を逸らし、俯きがちに口を開いた。

「……ルナにしてあげる為に…。」
「私に?」
「僕が出来る事、少ないから…。少しでも役に立ちたいなって。」
「私、ルカの事を役に立たないだなんて思ってな…」
「それは…わかってるよ!…僕がそうしたいだけ。」
「そ、そう…?」

なんとなく気まずくなり、部屋の中が静まり返る。いつもならあっという間に覚めてしまう夢が、今回は中々覚めずにいた。

「ただいまー。」
「お、おかえりっ…ミグ!」

隣に座っていたルカが驚いたようにその場に立ち上がると、ミグの元へ駆け寄って行った。

「薬草取りに行ってたんだよね?僕、持つよ!」
「いや別に重くないし…」
「いいからいいから!疲れたでしょ?座ってて!」

薬草の入った籠を奪い取るようにして、部屋の奥の方へ消えていった。

「どうしたんだ?ルカの奴。」
「え?いや…なんだろうね?…それより、どうして薬草を?」
「ルカの部屋に本があったから、面白そうだなって思って。色々、勉強しようかなと。」
「ふーん…。」
「それよりルナ、まだ時間平気なのか?」
「え?ええっと…。…わかんない。」
「おーいルカー!今どのくらいの時間だー?」
「…えー?…わぁ!?もう日が昇ってる時間だよー!寝坊寝坊!」

彼が慌てて奥の方から走って戻ってきた。

「ど、どうしよう!」
「俺も一緒に戻って支度手伝うから、急ぐぞルナ!」
「う、うん!あ、ルカ!」
「え?何…?」
「マッサージありがとう!いってきます!」
「うん…!いってらっしゃいルナ。」
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