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第4章︰ルカとルナ
第34話
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「ん…。」
目を開けると、辺りは薄暗く、物がたくさん置いてある埃っぽい場所だった。
広い部屋の中に、ぽつんぽつんと裸の豆電球が天井からぶら下がっている。
「ここは…?」
「…だ…誰か……。」
「だ、誰?」
「………お兄…ちゃ……ん。」
「お兄…ちゃん…?」
か細い少女の声が微かに聞こえて来る。
辺りを見渡すが、暗いせいで少女の姿はどこにも見つからなかった。
「どこにいるの?」
「助け…て…お兄ちゃ……ん…。」
「わ、わかった!待ってて!今行……って…あれ…。」
ーガチャガチャ
金属がぶつかり合う音と共に、動かそうとした足の動きが止まる。足元を見ると、足枷がはめられて動けない状態になっていた。
「な、なにこれ…。」
「……い…や…やだ………やめ…て!」
「大丈夫!?えっと…どこかに鍵は…。」
足だけでなく、手まで拘束されていて、思うように動くことができなかった。体を捩りながら、少しずつ前に進んでいく。
「どこだ…鍵…どこかにあるはずなのに…っ。」
「お前が探しているのはこれか?」
突然、目の前に黒い人影が現れた。その影の中にキラリと光る鍵が握られていた。
「鍵…!そ、それです!」
「これを使ってお前は何をしたい?」
「何って…手足を動かすために鍵を…。」
「手足を自由にして、お前は何をしたい?」
「自由に…したら…。助けを求めている人の所に行きます!」
「自由になれば、お前はここから逃げる事が出来る。そうは思わないか?」
「それは…。」
「その者を助ける義務はないのだろう?」
「義務はないけど…僕がそうしたいんです。」
「それだけでは彼女は救えない。具体的にどうすべきかもう一度考え直しなさい。」
「具体的に…。まずは…この建物の中を把握して…。声のする方に進めばきっと…!」
「現実味のない計画はその者の身を滅ぼす。この暗がりでは、突然穴が空いていても気づかずに落ちてしまうだろう?」
「た、確かに…。」
「元いた場所に戻りなさい。お前にはまだそれを成す為の力と知識がたりない。」
「でも…!」
「今は成長する時だ。まだその時でないだけ…。いずれ来たるその時を待っている。」
「ルナ!」
「っ!?」
「大丈夫か?うなされてたけど…。」
「え、あれ?ミグ…?」
「ん…?お前、ルカか?ルナか?」
「ど、どうして私がルカなの?」
「戻ったのか!?いつ!?どうやって!?」
「な、何?なんなの?ミグ…。」
ルカと入れ替わっていた事を彼の話で知った。私はずっと眠っていたようで、その間の事は全く記憶になかった。
「とにかく戻れてよかった…。生きてるかどうか確認する手段がないから不安で不安で…。」
「ごめんねミグ…。」
「ホッとする一方で、今度はルカが心配だな…ちゃんとお前の中にいればいいが…。」
「えっと…ヴェラが調べてくれてるんだよね?それを待つしかないね…。」
「身体の調子はどうだ?」
「んーと…。青…だね…。」
「じゃあ、吸うか?俺の血。」
「えぇ!?だめだよ!危ないよ!」
「ちょっとだけなら大丈夫だってヴェラに聞いた。手足の先が冷たくなったり、頭痛や目眩がするくらいにならなきゃいいってさ。」
「そうは言っても…。」
「いいからほら。」
差し出された彼の腕を手に取ると、そっと噛み付いた。
「いっ…!」
「ご、ごめ…!」
「大丈夫…だから。気にしなくていい…。」
彼の顔色とリングの色を気にしながら、少しづつ血を吸った。
「ミグくん!起きてま…す……か…。」
「!?」
「イ、イルム…!」
突然部屋にやってきた彼女に吸血している所を見られてしまい、パッと口を離した。
彼もすぐに袖を下ろし、何事も無かったように立ち上がった。
「ごめん…お取り込み中…だった…かな?」
「いや…気にしなくていい…けど…。どうかしたのか?」
「シェリアが…食堂の換気扇の様子が変だから、ミグくんを呼んできて欲しいって…。」
「あ、あぁ。わかった。行くよ。」
「私は…先に戻ってるね…!じゃあ…!」
明らかに動揺している彼女は、そそくさと部屋を出ていった。
「ど…どうしよう…!見られた…よね?」
「落ち着けルナ。イルムの事だから…多分バレてないだろ。」
「そ、そうかな?」
「とにかく、換気扇見てくるからお前はもうちょっと寝てろ。」
「う、うん…。」
心がキュッと締め付けられ、悪い事をしてしまったような気がした。
「そう…。今朝そんな事があったんだね…。」
「イルムなら…吸血鬼に対してそこまで恨みは強くないし…大丈夫だと思うけど…。こいつは気にしてるみたいで。」
「大丈夫だよルナ。そんなに気にしなくても、僕が適当に誤魔化しておくから。」
「は、はい…。」
「ギルドで思い出せる事は無くなった訳だし、これからもこういう事があるかもしれないよな?…王城に戻った方がいいんじゃないか?」
「うーん…。確かにそれもそうなのかなぁ…。」
「えっ…。」
「どうした?ルナ。」
「せっかく…ギルドの人と仲良くなれたのに…吸血鬼じゃなかったら良かったのになぁ…。」
「ルナ…。」
ーコンコン
「誰ー?」
「イルムです…!」
「…どうぞ。入って。」
部屋に足を踏みれた彼女と目が合った。
「あ…2人も来てたんだ…。」
「ちょっとな。」
「話があるんだよね?なら2人は部屋に戻…」
「い、いえ!いいんです!2人にも…一緒に聞いてもらいたいので…。」
「それならいいけど…。何かな?」
彼女はおずおずとソファーに座った。
「今朝…見ちゃったんですけど…。」
「…!」
「ミグくんとルナって、恋人同士なんですか!?」
「え…?」
「…は?」
「えっと…。イルムは、ミグがルナの執事だって事知ってるよね?どうしてそう思ったの…?」
「だって!ルナがミグくんの腕を噛んでたんです!ミグくん…そういうのが好きな人なんだ…と思って…。私…ごめんなさい…知らなくて…。」
「何!?そ、それは…!」
「イルム…。世の中はすごーく広い所だから、そういう人もいるんだよ。」
「ちょっと!クラーレさん!?」
「そっか…そうですよね!」
「そ、そうなの!ごめんね…ビックリさせて。」
「ううん…私の方こそ…ノックもせずに部屋に入っちゃったから…。今度から気をつけるね…!」
「これで…話は解決したかな?」
「はい!失礼しました~。」
彼女が部屋から出ていくのを確認した後、私達は顔を見合わせた。
「…ね?上手く誤魔化せたでしょ?」
「むしろ俺がギルドに居ずらくなりましたよ…。」
「その辺も含めて…今後の事考えなきゃね…。」
「テト様にも、この事手紙で伝えておくよ。」
私達は仕事で薄暗い森の中を歩き回っていた。
「ルナ。そっちの方はどうだ?」
「えっと…まあまあ集まったよ。」
「んー…もう少し必要だな。」
目的の薬草を探して茂みをかき分けた。すると、背中に矢が刺さりぐったりとしている動物の姿があった。
「誰がこんな事…。」
「どうした?」
「矢が刺さって、弱ってるみたい…。可哀想に…。」
「あれ?ルナちゃんとミグくん?」
「ラズ…?どうしてこんな所に?」
「ちょっと仕事でね。そういう君らも…仕事かな?」
「ラズさん…その弓は?」
「俺の仕事道具だけど?」
「もしかして、この子はラズさんが…!?」
「いや…俺じゃないな…。ちょっとそいつ見せてくれるか?」
「は、はい…。」
彼の側に動物を置くと、身体からそっと矢を引き抜き、応急処置をはじめた。
「こうして…止血の粉をかけて、布を巻いておけば、少しはマシだろう。」
「物知りなんだな。」
「マスターに教わったんだ。簡単なやつしか今はしてやれないけどな。」
「ありがとうラズさん…。ごめんなさい疑ったりして…。」
「いやいや~。たまたま似たような武器を持って、タイミング良く現れた俺が疑われるのは無理もないし。…にしてもこの矢、初めて見る素材だな…一体何で出来てるんだろうな?」
「折ってみたら分かるんじゃないか?」
パキッと音を立てて折れた矢は、彼の手の上でドロドロに溶けて赤い液体に変わった。
「なんだ…これ…。」
「これは…血?」
『 まさかこれ…!』
「…!?ルナ!」
突き飛ばされ、草の上に倒れると、その傍に彼が膝をついた。
「ミグ!?」
「くっ…。」
彼の腕に矢が刺さり、血が流れ出していた。
「この矢、さっきの…!」
「…そこか!」
彼の放った矢が木の葉を散らし、木の上から何かが落ちてきた。
「おいおい…どうしてあんたみたいな美人が木の上にいたんだ?」
落ちてきた女性が被っていたローブの帽子を脱ぐと、紫苑色の髪の毛がふわりと広がった。
「は?あんたに答える義務はねーよ。」
「口悪いな~。でもそういう所好きかも。…ギャップ萌えってやつ?」
「ラズさん何呑気なこと言って…!」
「…俺がこいつを引きつける。ルナちゃんはミグくんを連れて、向こうにある小屋に行くんだ。さっきの応急処置。覚えてるよな?」
「で、でも…!」
「何コソコソ話してんだよ!舐めやがって!」
「俺は大丈夫だから早く行け!」
「う、うん…!」
矢を引き抜いた傷口を抑えながら、森の中を走った。
「ミグ…頑張って!もうちょっとだから…!」
「あたしから逃げられると思った?」「わ!?」
「逃がすくらい…簡単よ!」
木と木の間から大きな斧が勢いよく地面に突き刺さった。
「ラヴィ!」
「行きな!後はラズとあたしに任せて!」
「ありがとう!」
「な!待て…!」
ラヴィとラズのおかげで追っ手がいなくなり、彼に言われた通り小屋の中に逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…。」
「えっと…止血は…さっきラズさんに貰った粉で…。あ、あれ?ない…。もしかして落とした!?」
「布で…抑えてたら…大丈夫だろ…。」
「でも、結構血が出てるよ…?」
「そうだ…お前吸血鬼なんだから…せっかくだし舐めとけよ…俺の血…。」
「こんな時に何言って…。」
「ただ流れてくだけなら…いいだろ…。利用できるもんは利用しとけ…。」
「わ…わかった…。」
破けた服の間から見える彼の腕に口をつけると、舌で血をすくった。傷口が痛むのか、時折彼の口から声が漏れていた。
「痛い…よね?」
「ほっといたって痛いもんは痛い…。斬られるよりましだ…跡も…残りにくいし…。あれ?刺さったの…どこだ…?」
「そうだ…!私、傷口を舐めると跡がなくなるんだった!」
「それも吸血鬼の能力…なのか?」
「それはわからないけど…。そういえば…前にクラーレさんの傷も治した事があったなぁ…。」
「舐めたのか!?どこを!?」
「ゆ、指だよ…!治癒魔法の練習した時に…。」
「そ、そうか…指か…。」
「傷口はなくなったけど、一応布巻いておくね。」
「あぁ…そうだな。」
バン!と扉があくと、ラヴィとラズが何やら袋を担いでやってきた。
「ミグ…!大丈夫か?」
「止血出来たみたいなんで…大丈夫そうです。」
「ならよかった。ルナちゃんのおかげだな。」
「そんなことは…。」
「ラズ…その袋はなんだ?」
「ん?さっきの美人なお姉さん。」
「え!?それって誘拐じゃ…」
「これがあたしらの今の仕事なのさ。おそらく…この女は吸血鬼だ。」
「え、吸血鬼…?」
「さっき、こいつが使ってた矢。折れた時、血になっただろ?どうやら吸血鬼は、自身の血を使って武器を作り出すみたいなんだ。」
「これと似たように、血で出来た武器を使う吸血鬼は何体も見てきた。間違いないだろう。」
「吸血鬼を連れていって、どうするんだ?」
「さぁ?これを頼んだのはマスターだ。あいつが何か実験でもするんじゃないか?もしくは拷問…とか?」
「ご、拷…」
「こらラズ!怖がらせてどーすんのさ!…大丈夫だよルナ。マスターがそんな物騒な事、するはずないだろう?多分、情報を聞き出そうとするんじゃないか?」
「そ、そう…なんだ…。」
「っと…起きる前に早いとこギルドに戻らないとな。ミグくんも治療して貰わないとだし。」
「そうだな。」
目を開けると、辺りは薄暗く、物がたくさん置いてある埃っぽい場所だった。
広い部屋の中に、ぽつんぽつんと裸の豆電球が天井からぶら下がっている。
「ここは…?」
「…だ…誰か……。」
「だ、誰?」
「………お兄…ちゃ……ん。」
「お兄…ちゃん…?」
か細い少女の声が微かに聞こえて来る。
辺りを見渡すが、暗いせいで少女の姿はどこにも見つからなかった。
「どこにいるの?」
「助け…て…お兄ちゃ……ん…。」
「わ、わかった!待ってて!今行……って…あれ…。」
ーガチャガチャ
金属がぶつかり合う音と共に、動かそうとした足の動きが止まる。足元を見ると、足枷がはめられて動けない状態になっていた。
「な、なにこれ…。」
「……い…や…やだ………やめ…て!」
「大丈夫!?えっと…どこかに鍵は…。」
足だけでなく、手まで拘束されていて、思うように動くことができなかった。体を捩りながら、少しずつ前に進んでいく。
「どこだ…鍵…どこかにあるはずなのに…っ。」
「お前が探しているのはこれか?」
突然、目の前に黒い人影が現れた。その影の中にキラリと光る鍵が握られていた。
「鍵…!そ、それです!」
「これを使ってお前は何をしたい?」
「何って…手足を動かすために鍵を…。」
「手足を自由にして、お前は何をしたい?」
「自由に…したら…。助けを求めている人の所に行きます!」
「自由になれば、お前はここから逃げる事が出来る。そうは思わないか?」
「それは…。」
「その者を助ける義務はないのだろう?」
「義務はないけど…僕がそうしたいんです。」
「それだけでは彼女は救えない。具体的にどうすべきかもう一度考え直しなさい。」
「具体的に…。まずは…この建物の中を把握して…。声のする方に進めばきっと…!」
「現実味のない計画はその者の身を滅ぼす。この暗がりでは、突然穴が空いていても気づかずに落ちてしまうだろう?」
「た、確かに…。」
「元いた場所に戻りなさい。お前にはまだそれを成す為の力と知識がたりない。」
「でも…!」
「今は成長する時だ。まだその時でないだけ…。いずれ来たるその時を待っている。」
「ルナ!」
「っ!?」
「大丈夫か?うなされてたけど…。」
「え、あれ?ミグ…?」
「ん…?お前、ルカか?ルナか?」
「ど、どうして私がルカなの?」
「戻ったのか!?いつ!?どうやって!?」
「な、何?なんなの?ミグ…。」
ルカと入れ替わっていた事を彼の話で知った。私はずっと眠っていたようで、その間の事は全く記憶になかった。
「とにかく戻れてよかった…。生きてるかどうか確認する手段がないから不安で不安で…。」
「ごめんねミグ…。」
「ホッとする一方で、今度はルカが心配だな…ちゃんとお前の中にいればいいが…。」
「えっと…ヴェラが調べてくれてるんだよね?それを待つしかないね…。」
「身体の調子はどうだ?」
「んーと…。青…だね…。」
「じゃあ、吸うか?俺の血。」
「えぇ!?だめだよ!危ないよ!」
「ちょっとだけなら大丈夫だってヴェラに聞いた。手足の先が冷たくなったり、頭痛や目眩がするくらいにならなきゃいいってさ。」
「そうは言っても…。」
「いいからほら。」
差し出された彼の腕を手に取ると、そっと噛み付いた。
「いっ…!」
「ご、ごめ…!」
「大丈夫…だから。気にしなくていい…。」
彼の顔色とリングの色を気にしながら、少しづつ血を吸った。
「ミグくん!起きてま…す……か…。」
「!?」
「イ、イルム…!」
突然部屋にやってきた彼女に吸血している所を見られてしまい、パッと口を離した。
彼もすぐに袖を下ろし、何事も無かったように立ち上がった。
「ごめん…お取り込み中…だった…かな?」
「いや…気にしなくていい…けど…。どうかしたのか?」
「シェリアが…食堂の換気扇の様子が変だから、ミグくんを呼んできて欲しいって…。」
「あ、あぁ。わかった。行くよ。」
「私は…先に戻ってるね…!じゃあ…!」
明らかに動揺している彼女は、そそくさと部屋を出ていった。
「ど…どうしよう…!見られた…よね?」
「落ち着けルナ。イルムの事だから…多分バレてないだろ。」
「そ、そうかな?」
「とにかく、換気扇見てくるからお前はもうちょっと寝てろ。」
「う、うん…。」
心がキュッと締め付けられ、悪い事をしてしまったような気がした。
「そう…。今朝そんな事があったんだね…。」
「イルムなら…吸血鬼に対してそこまで恨みは強くないし…大丈夫だと思うけど…。こいつは気にしてるみたいで。」
「大丈夫だよルナ。そんなに気にしなくても、僕が適当に誤魔化しておくから。」
「は、はい…。」
「ギルドで思い出せる事は無くなった訳だし、これからもこういう事があるかもしれないよな?…王城に戻った方がいいんじゃないか?」
「うーん…。確かにそれもそうなのかなぁ…。」
「えっ…。」
「どうした?ルナ。」
「せっかく…ギルドの人と仲良くなれたのに…吸血鬼じゃなかったら良かったのになぁ…。」
「ルナ…。」
ーコンコン
「誰ー?」
「イルムです…!」
「…どうぞ。入って。」
部屋に足を踏みれた彼女と目が合った。
「あ…2人も来てたんだ…。」
「ちょっとな。」
「話があるんだよね?なら2人は部屋に戻…」
「い、いえ!いいんです!2人にも…一緒に聞いてもらいたいので…。」
「それならいいけど…。何かな?」
彼女はおずおずとソファーに座った。
「今朝…見ちゃったんですけど…。」
「…!」
「ミグくんとルナって、恋人同士なんですか!?」
「え…?」
「…は?」
「えっと…。イルムは、ミグがルナの執事だって事知ってるよね?どうしてそう思ったの…?」
「だって!ルナがミグくんの腕を噛んでたんです!ミグくん…そういうのが好きな人なんだ…と思って…。私…ごめんなさい…知らなくて…。」
「何!?そ、それは…!」
「イルム…。世の中はすごーく広い所だから、そういう人もいるんだよ。」
「ちょっと!クラーレさん!?」
「そっか…そうですよね!」
「そ、そうなの!ごめんね…ビックリさせて。」
「ううん…私の方こそ…ノックもせずに部屋に入っちゃったから…。今度から気をつけるね…!」
「これで…話は解決したかな?」
「はい!失礼しました~。」
彼女が部屋から出ていくのを確認した後、私達は顔を見合わせた。
「…ね?上手く誤魔化せたでしょ?」
「むしろ俺がギルドに居ずらくなりましたよ…。」
「その辺も含めて…今後の事考えなきゃね…。」
「テト様にも、この事手紙で伝えておくよ。」
私達は仕事で薄暗い森の中を歩き回っていた。
「ルナ。そっちの方はどうだ?」
「えっと…まあまあ集まったよ。」
「んー…もう少し必要だな。」
目的の薬草を探して茂みをかき分けた。すると、背中に矢が刺さりぐったりとしている動物の姿があった。
「誰がこんな事…。」
「どうした?」
「矢が刺さって、弱ってるみたい…。可哀想に…。」
「あれ?ルナちゃんとミグくん?」
「ラズ…?どうしてこんな所に?」
「ちょっと仕事でね。そういう君らも…仕事かな?」
「ラズさん…その弓は?」
「俺の仕事道具だけど?」
「もしかして、この子はラズさんが…!?」
「いや…俺じゃないな…。ちょっとそいつ見せてくれるか?」
「は、はい…。」
彼の側に動物を置くと、身体からそっと矢を引き抜き、応急処置をはじめた。
「こうして…止血の粉をかけて、布を巻いておけば、少しはマシだろう。」
「物知りなんだな。」
「マスターに教わったんだ。簡単なやつしか今はしてやれないけどな。」
「ありがとうラズさん…。ごめんなさい疑ったりして…。」
「いやいや~。たまたま似たような武器を持って、タイミング良く現れた俺が疑われるのは無理もないし。…にしてもこの矢、初めて見る素材だな…一体何で出来てるんだろうな?」
「折ってみたら分かるんじゃないか?」
パキッと音を立てて折れた矢は、彼の手の上でドロドロに溶けて赤い液体に変わった。
「なんだ…これ…。」
「これは…血?」
『 まさかこれ…!』
「…!?ルナ!」
突き飛ばされ、草の上に倒れると、その傍に彼が膝をついた。
「ミグ!?」
「くっ…。」
彼の腕に矢が刺さり、血が流れ出していた。
「この矢、さっきの…!」
「…そこか!」
彼の放った矢が木の葉を散らし、木の上から何かが落ちてきた。
「おいおい…どうしてあんたみたいな美人が木の上にいたんだ?」
落ちてきた女性が被っていたローブの帽子を脱ぐと、紫苑色の髪の毛がふわりと広がった。
「は?あんたに答える義務はねーよ。」
「口悪いな~。でもそういう所好きかも。…ギャップ萌えってやつ?」
「ラズさん何呑気なこと言って…!」
「…俺がこいつを引きつける。ルナちゃんはミグくんを連れて、向こうにある小屋に行くんだ。さっきの応急処置。覚えてるよな?」
「で、でも…!」
「何コソコソ話してんだよ!舐めやがって!」
「俺は大丈夫だから早く行け!」
「う、うん…!」
矢を引き抜いた傷口を抑えながら、森の中を走った。
「ミグ…頑張って!もうちょっとだから…!」
「あたしから逃げられると思った?」「わ!?」
「逃がすくらい…簡単よ!」
木と木の間から大きな斧が勢いよく地面に突き刺さった。
「ラヴィ!」
「行きな!後はラズとあたしに任せて!」
「ありがとう!」
「な!待て…!」
ラヴィとラズのおかげで追っ手がいなくなり、彼に言われた通り小屋の中に逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…。」
「えっと…止血は…さっきラズさんに貰った粉で…。あ、あれ?ない…。もしかして落とした!?」
「布で…抑えてたら…大丈夫だろ…。」
「でも、結構血が出てるよ…?」
「そうだ…お前吸血鬼なんだから…せっかくだし舐めとけよ…俺の血…。」
「こんな時に何言って…。」
「ただ流れてくだけなら…いいだろ…。利用できるもんは利用しとけ…。」
「わ…わかった…。」
破けた服の間から見える彼の腕に口をつけると、舌で血をすくった。傷口が痛むのか、時折彼の口から声が漏れていた。
「痛い…よね?」
「ほっといたって痛いもんは痛い…。斬られるよりましだ…跡も…残りにくいし…。あれ?刺さったの…どこだ…?」
「そうだ…!私、傷口を舐めると跡がなくなるんだった!」
「それも吸血鬼の能力…なのか?」
「それはわからないけど…。そういえば…前にクラーレさんの傷も治した事があったなぁ…。」
「舐めたのか!?どこを!?」
「ゆ、指だよ…!治癒魔法の練習した時に…。」
「そ、そうか…指か…。」
「傷口はなくなったけど、一応布巻いておくね。」
「あぁ…そうだな。」
バン!と扉があくと、ラヴィとラズが何やら袋を担いでやってきた。
「ミグ…!大丈夫か?」
「止血出来たみたいなんで…大丈夫そうです。」
「ならよかった。ルナちゃんのおかげだな。」
「そんなことは…。」
「ラズ…その袋はなんだ?」
「ん?さっきの美人なお姉さん。」
「え!?それって誘拐じゃ…」
「これがあたしらの今の仕事なのさ。おそらく…この女は吸血鬼だ。」
「え、吸血鬼…?」
「さっき、こいつが使ってた矢。折れた時、血になっただろ?どうやら吸血鬼は、自身の血を使って武器を作り出すみたいなんだ。」
「これと似たように、血で出来た武器を使う吸血鬼は何体も見てきた。間違いないだろう。」
「吸血鬼を連れていって、どうするんだ?」
「さぁ?これを頼んだのはマスターだ。あいつが何か実験でもするんじゃないか?もしくは拷問…とか?」
「ご、拷…」
「こらラズ!怖がらせてどーすんのさ!…大丈夫だよルナ。マスターがそんな物騒な事、するはずないだろう?多分、情報を聞き出そうとするんじゃないか?」
「そ、そう…なんだ…。」
「っと…起きる前に早いとこギルドに戻らないとな。ミグくんも治療して貰わないとだし。」
「そうだな。」
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久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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