エテルノ・レガーメ

りくあ

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第4章︰ルカとルナ

第31話

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「お茶なんて飲んでる場合じゃないんだけど…?」
「まぁまぁ…。」

翌日、ルシュをギルドに呼び込み、クラーレさんの部屋で話をする事になった。彼女は用意された紅茶を、渋々口に運んでいる。

「帰る気がないのはなんとなくわかってたわ。あんたが引き止めるのは予想外だったけど。」
「ルナは特別。本当なら、ここに吸血鬼は呼びたくなかったけど、ルナの頼みだからね。」
「随分気に入ったのね。」
「世間話はもういいだろ。本題に入ろうぜ。」
「う、うん…!ヴェラは…どうしてルシュって名乗ってるの?」
「別に深い意味は無い。ヴェラでもヴェルでもルシュでも、どれも私の名前よ。」
「ヴェル…?まさか…君は…!」
「あー…そうね。その時はヴェルって名乗ってたわね。」

ヴェルという名前を聞き、クラーレさんは血相を変えてその場に立ち上がり、彼女に問い詰めた。

「ルカは今どこに…!?」
「ルカという人間はもう居ない。」
「えっ…。」
「殺し…たのか…?」
「殺してはいない。」
「じゃあ居ないって言うのはどういう…!」
「クラーレさん!落ち着いて。」

彼はミグに腕を掴まれて、冷静さを取り戻すと再びソファーに腰を下ろした。

「正直、ここから先の話は吸血鬼の中でも極秘中の極秘。喋れば、私は裏切り者として吸血鬼の仲間では無くなってしまう。」
「私…自分の事も知りたいけど…ルカの事も聞きたい…。」
「…私が自ら話した事にしなければいい。」
「え?それってどういう…。」
「ルナを人質に取られて喋るしかなかった…そういう事にしておけば、喋れない事もない。」
「なるほどな。それはいい案だ。」
「ただし、条件がある。」
「条件?」
「私もここに住む。」
「えぇ!?」
「どうします…?」
「ルナはともかく、どうして君まで暮らす必要がある?」
「なら、ルナが突然倒れたらどうする?」
「ベッドで休ませて…治癒魔法を…」
「原因がわからないのに治癒で治せるのか?」
「それは…。」
「吸血鬼の事は、吸血鬼である私がよくわかってる。血の量を調整する為にも、私の力が必要になるはずだが?」
「確かに…血は多ければいいってものでもないんだよね…。多かったら外に出す必要があるし、逆に足りなかったら足さなきゃいけないし…。人間から血を吸うのは危ないけど、ヴェラがいればお互いに補えるかもしれない…。」

その言葉に、クラーレさんは口元に手を当ててしばらく黙り込んだ。

「なら…仕方ないか…。」
「では、契約をしよう。」
「契約?」
「喋らせるだけ喋らせて、殺されたら私も困るからな。私はありのままを全て話す。ルナの事もルカの事も。」
「その代わりに僕は君を殺さない…そういう事?」
「そう。もちろん私もお前達を殺さない。ルナの為に。」
「それもそうだね…。わかった。そうしよう。」
「吸血鬼にとって契約は絶対。もし破れば殺すからな。覚えておけ。」
「はは…もはや呪いだね…これ。」
「ごめんなさい…クラーレさん…。」
「ううん。これでルナと一緒に居られるし、ルカの事もわかる。このくらいで済んだならいい方だよ。」
「早速話を聞きたい所だけど…あまり話し込むと他のメンバーが変に思うよな…。」
「そうだね…。一緒に住むんだったらゆっくりでもいいよね!」
「部屋はどうしたらいいかな…部屋を用意するのは変だし…。3人であの部屋は狭いよね…?」
「それなら問題ない。絵画が1枚あれば十分だ。」
「絵画?」
「それなら…倉庫あると思うから持ってくるよ。先に部屋に行っててくれる?」



「こんなの部屋に飾って、どうするつもりだ?」
「いいから黙っていろ。…“血の盟約は互いの友好の証。我が血を糧とし力に変え、我が意思に従え。”」

彼女の指から流れる血を絵画に向かって飛ばすと、その血は絵画の中に吸い込まれていった。

「今のが吸血鬼の魔法詠唱…。」
「これで、この絵の中に空間を作った。私はこの中で生活する。」
「え、でも、色々不便じゃ…?」
「絵の中から直接外に移動すれば、誰とも会わずに行動する事も可能だ。」
「この中に俺達も入れるのか?」
「いいや。入れるのは吸血鬼だけだ。」
「こんな魔法もあったんだね~…。まだまだ知らない事だらけだなぁ…。」
「これで、部屋の問題は解決だな。」
「…君の事は他のメンバーに言わないようにするよ。2人も口に出さないように気をつけてね。」
「うん…!」
「っと…僕はこれから外に行く用事があるから…。」
「俺らも依頼があったな。また夜に話をしよう。」
「わかった。私もそれまでには戻ろう。」



あっという間に夜になり、私達は再び部屋に集まった。

「ヴェラ…どうしちゃったの…その格好…。」
「どうって?猫になっただけだけど?」

彼女は真っ黒な猫に姿を変え、ソファーに悠然と座っていた。

「随分雰囲気が変わって見えるね…。でも、これはこれで喋りやすいかも…。」
「黒猫…。もしかして、ルナに怪我させたあの時の猫か!?」
「そう。あれは、血を外に出す為にやったの。」
「そっか…!あの時、リングの色が赤だったから…。」
「そのリングは、気分で色が変わるんじゃなかったのか?」
「それは血の量を色で判別できる物。正常なら紫、多ければ赤、少なければ青に変化する。」 
「おいルナ…ほぼ赤じゃなかったか?」
「う、うん…良くない状態だったみたいだね…。あはは…。」
「血を外に出すって…手を切ったりしたら痛くない?もっといい方法はないの?」
「私が吸うのが1番いい。私の血が増えるし、ルナの血が減るし、痛くなくてむしろ気持ち良…」
「ヴェ、ヴェラ…///」
「そ、そうなのか…。」
「なら…そうしてもらうのが…1番良さそうだね…。」 
「そうだヴェラ。私、人間の食べ物しか食べてないけど、これって栄養とれてる?」
「栄養にはならないが、さほど害にもならない。しかし、普通の吸血鬼なら、血が多い状態にはほぼならない。人間よりも血の生成量が少なくて、それなのに血の魔法を使って血が減るから、血を吸わないと生きてはいけない。」
「私の血の量が多いのはなんでなの?」
「お前のような吸血鬼は珍しい。血の生成量が吸血鬼よりも、むしろ普通の人間よりも多いらしい。」
「なら、血が足りなくなるってことがほとんどないわけか。だったら、血を吸わなくても生きていけるのか?」
「そうだ。大量に血を消費しなければな。」
「なら、普通にご飯を食べてた方が自然だから…その辺は今まで通りで大丈夫そうだね。」


「今の所、私の事で気になったのはこれくらいだけど…。」
「次はルカの事だね。」
「話す前に…これだけは信じてもらいたい。」
「一応聞いておくよ。信じるかどうかは、僕が決めるけどね。」
「私はルカに会って初めて人間が好きになった。人間は吸血鬼を恨み、殺そうとするものだと思っていた。けど、ルカは違った。吸血鬼だと知っても他の人間と同じように接して…血が足りない時には血を分けてくれた…。私が死にかけた時には、身体を張って助けてくれた。」
「ルカ…。」
「だから私は、ルカをここに戻してやりたいという気持ちはある。」
「連れ去った張本人なのに?」
「言い訳に聞こえるかもしれないが、まさかあそこまでするとは思わなかった…。だから私は…。」 
「とりあえず、言いたい事はわかったよ…。それじゃあ、順番に話してくれる?」
「私は、ルカを吸血鬼の幹部の元に連れていった。」
「幹部って、ライガ達の事?じゃあ、あの建物は…。」
「私達が住んでいた建物は、吸血鬼の幹部が住んでいる施設…レジデンスと呼ばれている。それと、あそこは研究所でもある。」
「幹部って事は、吸血鬼の世界にも上下関係があるんだな。」
「吸血鬼のトップに立っているのが総裁。その下に幹部がいて、上級吸血鬼、中級吸血鬼、下級吸血鬼と続いている。」
「幹部以外の吸血鬼はどこに暮らしてるの?」
「上級から下級までの吸血鬼が暮らす建物が別にある。」
「かなりの数がいそうだね…。」
「私は幹部の1人だが、知らない事も多い。数までは…把握していない。」



「それで、幹部の所に連れていった後は?」
「作り替えた。」
「作り…替える?」
「ルカを連れ去った理由は2つ。1つは、ルカに吸血鬼の素質があったから。もう1つは、吸血鬼について詳しく知らない子供だったから。」
「2つともよくわからない理由なんだが…。」
「吸血鬼は、吸血鬼同士で交尾を行う事で産まれる。人間と同じ様にな。ただ、他の方法でも吸血鬼を産むことができる。」
「他の方法って?」
「人間に吸血鬼の血を飲ませることで、人間を吸血鬼に作り替える。」 
「っ…!」

そのようにおぞましい事が、私の住んでいた建物で行われていた事を知り、思わず手で口を覆った。

「作り…替える…そんな事が出来るのか…?」
「ただし、この方法は高確率で失敗し、失敗すれば人間はその場で死ぬ。」
「そんな…恐ろしい事が…起きてるなんて…。」
「ルナ…大丈夫か?」
「う…ん…。」
「作り替える対象は成人前の子供。その理由は、まだ吸血鬼を怖いと思っていないから。子供と仲良くなって連れ去り、吸血鬼に作り替える実験を行う。それが吸血鬼のやってきたことだ。」
「なんてことを…。」
「私もその1人だ。」
「えっ!?」
「人間から作り替えられた吸血鬼。私の様に作られた吸血鬼は、吸血鬼もどきと呼ばれる。」
「吸血鬼…もどき…か。」
「人間の頃の記憶を忘れ、吸血鬼として生きる。でも私は、身体の中にその子供の魂だけを取り入れた。それがヴェル。」
「あの子も…元は人間だったのか…。」
「夢の中でだけだが、あの子に会う度に苦しかった。あの子の変わりに私が生かされている…そう思う時期もあった。」
「夢の…中で…。」



「それで…結局ルカは?」
「作り替えられたよ。吸血鬼に。…実験は成功した。」
「って事は…吸血鬼として生きてる…って事?」
「そう。今お前の目の前にいる。」
「目の…前…。」
「まさか…。」
「わ…たし…?」

体内の血が全て抜け落ちるように、手の先は冷たくなり、全身から血の気が引いていくのを感じた。

「ルカが作り替えられた吸血鬼。それがルナソワレーヴェ。ルナだ。」
「じゃあ…私が…産まれたから…ルカが死ん…」
「ルナ…それは…!」
「でも、私がルカなんでしょ!?私がルカを殺したようなものでしょ!?」
「違う!殺したのは他の吸血鬼だろ!?」
「そうだ。」
「ほら、だからお前は悪く…」
「私…が…ルカを…ルカ…ごめ…ごめんなさい…ルカ…。」

溢れ出す涙がぼろぼろと頬をつたい、流れ落ちていく。そんな私をクラーレさんが、側に来てそっと抱き締めた。

「ルナ…。生きててくれてありがとう。」
「え……っ…?」
「君がここに居るのはきっと、ルカが導いてくれたんだ。ルカがルナを連れて帰ってきてくれた。こんなに嬉しい事は無いよ…ルナ。」
「クラーレ…さん…。」
「この話をする前に、私が話した事を覚えているか?」
「どんな事だ…?」
「ルカを、ここに戻してやりたい気持ちはある…と。」
「うん…言ってたね…それが一体…。」
「ルカの魂は、ルナの身体の中で生きている。」
「え!?」
「どうして!?作り替えられたって言ってたのに…。」
「私がルカの魂をルナの身体の中に封じ込めた。私がヴェルにそうしたように。」
「じゃあ、ルカは死んでないよな!?ルナの中で生きてるって事だ!」
「ルカ…よかった…。」
「ヴェラ…君の事今ままで恨んでいてごめん…。」

彼はそっと身体を離すと、今度はヴェラの元に行き、猫を腕に抱き抱えた。

「や、やめろ!抱きつくな!」
「よかったな…ルナ。」
「うん…!それで、ヴェラ…ルカはどうやったら元に戻れるの?」
「それなんだが…私も方法はわからない…。自分の身体で、色々試してはいるんだが…。」
「そっか…。」
「帰ってきてくれたんだって事がわかっただけでもよかった…。2人共ありがとう。ルカを守ってくれて。」
「そんな…私は何も…。」
「もうこんな時間だし…。今日はそろそろ寝るか。」
「そう…だね。明日も仕事があるし…。また明日もよろしくね。」
「はい…!おやすみなさい。」



「…ルカ。話があるの。」
「どうしたの?急に…。」

私はその日の夜、久しぶりに夢の中でルカと出会っていた。

「あのね…。ルカは…私の…!」
「私から話そう。」
「ヴェラ!」
「ど、どうしてヴェラがここに!?」
「お前の夢の中に入るくらい簡単だ。」
「いや…ちょっと困るんだけどなぁ…それ…。」
「夢の中?夢じゃないよ!だって僕…」 
「お前は死んだんだルカ。」
「えっ…。」
「正確には…私の身体の中で魂だけが生きてる…って感じみたい…。」
「普通にここで生活してたのに…。急に死んだんだって言われても…。」
「状況が飲み込めないのはわかる。ここがルナの身体の中だって事は、私達しかわからないだろうからな。」
「…私、この事をルカに言わなきゃって思って…。」
「…ちょっと1人で考えたい。」
「そうだな。私達も、お前が元の身体に戻る方法が無いか探してみる。」
「…うん。」
「じゃあ…またね…ルカ。」

夢から覚めて身体を起こすと、日が差し込んでいる窓際で猫が伸びをしていた。

「ヴェ…」
「私の名前は口に出さない方がいい。誰かが聞いていたら面倒だ。」 
「そ、そっか…。…ルカ大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。どうせ出る事は出来ないし、死ぬ事もないのだから。」
「そう…だよね…。」
「お、ルナ。起きたか?」
「おはようミグ!」
「私は外に出てくる。」
「いってらっしゃい。…朝食出来たから食べに行こう。」
「うん。」
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