エテルノ・レガーメ

りくあ

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第3章︰人間と吸血鬼

第29話

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「結構色んな依頼やってもらったけど、どうかな?慣れてきた?」
「こいつがほぼ毎回、怪我するのをどうにかしたいです。」
「そ、それは…。」
「あはは。怪我したら僕が治してあげるよ。いつでもおいで。」

ーコンコン
クラーレさんの部屋で話をしていると、扉がノックされる音が聞こえてきた。

「誰かな…どうぞー?」
「やあマスター。ご無沙汰だね。」

見覚えのある女性が、片手を上げて陽気にやって来た。

「オズモール…!そういえば、今日だったね。おかえり。」
「ただいま戻りま…あ、あれ!?ルナちゃん!?」
「オズモールさん!」

彼女は、カナ村の丘の上にある診療所で何度かお世話になった、オズモールさんだった。

「あれ?知り合いだったの?」
「そっちのお兄さんは初めましてだよね?」
「どうも。」
「王城に行くって聞いてたのに、まさかここに居るなんてね。」
「あ、それは…その…。」
「ここか?」
「ちょっと兄さん…!扉が開いてるからって勝手に入ったら…」
「そうよ、スレイ…」

オズモールさんの後ろから、3人の少年少女も続くようにやって来た。

「あ、きたきた。この部屋で合ってるから入っておいで。」
「あれー!?ルナがいる!」
「嘘!?ルナ!久しぶりー!」
「ソルティ、久しぶりー!」
「どうしてここに!?王城に居るんじゃないの?」

一気に人が増えた室内は賑やかになり、あちこちで会話が飛び交っている。

「なんか僕達、話についていけなくて置いてかれてるような感じだね。」
「…ですね。」

ひとまず全員ソファーに座ると、彼等と出会った時の事を話した。

「なるほどね。この街に来る前は、カナ村にいたんだ。」
「カナ村って、テトが見つかった所だったな…。そこでルナに会ったってことか。」
「俺がルナが倒れてるのを見つけて、オズモールの所に連れて行ったんだ。記憶がないって言われた時はびっくりしたけど…。」
「そっか~王城に行ったあとに、ここに住むようになったんだね。」
「ルナはテト王子の婚約者になってたなんて…すごくロマンチックね…!」
「ミグさんは、ルナちゃんの執事なのかー…。いやぁ…身の回りの事をしてくれる人がいるなんて羨ましいねぇ…。」
「みんな。2人の事は、他の人に話したら駄目だからね?」
「そうよ?スレイ。」
「なんで俺を名指しにするんだよ。」
「2人共悪いけど…これから彼等と色々と話があるから、部屋に戻っててくれるかな?」
「わかりました。」
「落ち着いたら、部屋に遊びにいくね!」

私とミグは彼の部屋を出ると、自分達の部屋に向かって歩き出した。

「また賑やかになりそうだな。」
「うん!今でも結構賑やかだと思うけどね~。」
「あ、ルナ~。」

廊下の前方から、イルムが声をかけてきた。

「ん?どうしたの?」
「これからリアーナと買い物に行くんだけど、ルナもいかない?あと…重いものを買わなきゃいけなくて…。よかったらミグくんにも手伝って貰えないかなーって…。」
「もちろんいいよ!バンバン使って!」
「おいルナ…。」
「ありがとう助かる!じゃー行こっか!」

玄関先でリアーナと合流し、4人で街中にくりだした。

「ルナ!これ、きっと似合うよ!試着してみて!」
「あ、可愛い!でもちょっとスカートの丈が短くない…?」 
「これくらい平気だよ!私もこういうの着てるよ?」
「ルナ!これはどうかな?」
「うーん…。これだと、サイズが大きくてダボダボになっちゃうよ…。」
「そこが可愛いと思うんだけどなぁ~。うーん…やっぱり好みはそれぞれ違うもんだねぇ…。」
「ミグはどっちがいいと思う?」
「どっちもいいと思うけど?」
「えーなんかそれ適当に答えてない?」
「どっちでもいいとは言ってないだろ?どっちも似合ってるよ。」
「そ、そう?じゃあ買おうかな…。」

しばらく服を見て回った後、カフェのテラスでケーキを食べる事にした。

「ん~!美味しい!」
「うん。あんまり甘過ぎないね。」
「2人のケーキも…美味しそうだなぁ…。私もそっちにすれば良かったかなぁ。」
「一口食べる?」
「食べる!こっちも食べてみて!甘くて美味しいよ~。」
「ミグは食べなくていいの?」
「甘いの苦手だし…俺はいいよ。」
「そっかー。お菓子作るのに自分では食べないんだね。」
「え!ミグくんお菓子作るの!?」
「そういえば、料理も上手いよね?男の人なのにすごいなぁ。」
「いや…それほどじゃ…。」

彼がこちらを睨んでいる様な視線を感じ、余計な事を喋り過ぎた事を悟って、黙り込んだ。



「ミグくんありがとう~。荷物持ちさせちゃって…。」
「その為に来たんだし、これくらい大丈夫。」
「でも持ちづらいでしょ?私、こっちの袋持つよ!」
「あ、じゃあ…。」

ミグの手からイルムの手に渡される瞬間、2人の手から袋が離れ、地面に落ちそうになった。

「あ!」

無意識の内にに親指を噛み、手を袋の方に広げると、地面につく前に袋が宙に浮いた。中から出てきたリンゴも同じように宙に浮いている。

「えっ…。」
「わ!なにこれ!?浮いてる!」
「お前の魔法か?」
「え、た、多分…?」
「ありがとうルナ~。落ちてたら砕けちゃってたかも…。よかった~。」
「もー。イルムはドジなんだから気をつけないと…。」
「えー!さっきはちょっと手が滑っただけで…。」
「おいルナ…お前なんで指から血が…。」
「え?あれ…本当だ…なんでだろ?」
「とりあえず絆創膏貼っとけ。」
「う、うん…。」



「でね?その後ケーキも食べたんだ~。」
「いいな~。今度私も行きたい!」

夕飯を食べながら、今日街に出かけた時の事をソルティに話していた。

「うん!いこいこ!…なんか、今日みたいに買い物した事、前にもあった気がするんだよね…。」
「女子ならよくあることじゃないか?服見て、お茶してーって、よくあるパターンだろ。」
「そういえば、私もオズモールと隣街まで行って買い物した事あったわ。あの時は…ちょうどお昼だったからご飯も食べたんだったかな…。」
「へ~。そうだったんだね。」
「俺は買い物より、森で虫取りの方がいいなー。」
「それは男子の場合ね…。」
「ほんと、スレイは女心がわからないわよねぇ…。」
「そりゃそうだろ!俺は男なんだから。」
「あはは!そうだね。」
「ご馳走様でした!」
「ねぇルナ。もっと色々お話したいから、私達の部屋に来ない?」
「いくいく!」
「じゃあ、俺は先に部屋に戻ってる。」
「うん。また後でね。」

彼女達の部屋で、服の好みの話をしたり、カナ村であった事を聞いたり、夜遅くまで話が盛り上がっていた。結局彼女の部屋で寝てしまった私を、ミグが部屋に連れて帰った事を翌日になって知った。


 
「ルナ、そろそろ休憩しよう。」
「はーい。」

訓練場で魔法の訓練をしていると、扉を開けてぞろぞろと人が入ってきた。

「お!ルナじゃん~。」
「2人共これから訓練?」
「う、うん…。」
「なんか、レヴィ緊張してる?」
「うん…まだ、剣に慣れてなくて…ちょっと怖いんだよね。」
「レヴィは、アリサに剣術を習ってるんだったな。あいつはちょっと怖い所があるからな…。」
「誰が怖いって?」

レヴィとスレイの後ろから、アリサ本人がやって来た。

「あ、アリサ…帰ってきてたのか…。いや、今のは気にしなくていい…。」
「?」
「アリサさん久しぶりです!」
「お久しぶりです。」
「あ、アリサ…いたんだね。」

更に彼女の後ろからリアーナもやって来て、訓練場の扉の周りが混みあっていた。

「…ええ。始めましょうレヴィ。」
「リアーナー!俺らも早くやろうー!」
「あーはいはい!ちょっと待ってね~。」
「スレイはリアーナさんに教えて貰ってるんですね。」
「ああ。スレイは体力があるからな。体術が適していると判断して、ファイターを目指す事にしたらしい。」
「レヴィは剣術かぁ…。2人共すごいなぁ。」
「俺は、お前の方がすごいと思うがな。魔法は魔力がなければ、どう頑張っても発動出来ないものだ。お前はもっと胸を張っていいと思うぞ。」
「そ、そんなに褒められると照れちゃいますね…。」
「彼等に負けていられないな。もうひと頑張りするか。」
「はい!」

訓練を終えて部屋に戻ると、ベッドの上で力尽きた。

「訓練を頑張りすぎたせいで、こんなにぐったりしてるのか。」
「2人に負けていられないと思って~…。」
「勝つも負けるもないだろ。何張り合ってるんだよ…。」
「痛い痛い!そこ痛いよミグー!」
「黙ってマッサージされてろ。」
「うぅ…。ミグも訓練してきたんでしょ?疲れてないの?」
「お前とは鍛え方がちがう。」
「うっ…。」
「俺は子供の頃からやってたんだから当たり前だろ。魔法とも違うしな。」
「そっか…。」
「この後依頼あるだろ?それまで寝てたらどうだ?」
「そうする~…。」

しばらく寝た後、街を出た先にある森にやってきた。

「んーと。今日必要なのは…アニスか。」
「アニスって、どんな植物なの?」
「アニスは、甘い香りがするハーブの一種だ。ハーブティーにすると風邪予防になるし、消化促進作用もある。」
「へ~。」
「ハーブティー以外にも、お菓子に使ったり、サラダに入れたり、ワインの香りづけにも使われる。」
「ミグって時々頭良くなるよね。」
「元々だ。」
「えー…普段はそんなに頭良く見えな…」
「あ?」
「さー探そうー!どこかなーアニス!」

彼から少し離れた所で、目的のハーブを摘んでいた。

ーガサガサ…

近くの茂みが揺れ、しばらく見つめていると、草の間からリスの尻尾が出てきた。

「なんだ…。リスかぁ…。びっくりした…。」
「…お前、人間だな?」
「!?」

背後から声をかけられ、振り返ろうとした瞬間、首を掴まれ近くの木に押さえつけられた。

「っ…!?だ…れ……?」
「吸血鬼だ。悪いが血を貰うぞ。」
「…や……。やめ…。」
「ルナ!?」

息が出来ず、少しずつ意識が薄れていく中で、首元に顔が近づいてきた。血を吸われるのを覚悟し、ぎゅっと目をつぶると、首を絞めている手がパッと離れた。

「げほっ…げほっ…!」
「ちっ…!」
「っ…待て!」
「ミグ…っ…追いかけない方がいいよ…!」
「そ、そうだな…。アニスは十分集まったし、早くギルドに戻ろう。」
「うん…。」

ギルドに戻り、クラーレさんに森であった事を話した。

「森に吸血鬼が…。」
「黒いローブを着ていたから、顔はわからなかった…。」
「怪我しなくてよかったよ…ありがとうミグくん。」
「いえ…。」
「深追いもしなくてよかった。しばらく森に居座るかもしれないから、早いうちに処理しておくよ。」
「えっ!処理って…殺すんですか…?」
「2人には言ってなかったけど…。このギルドは、吸血鬼を殺す事が1番の目的なんだよ。」
「そんな…。吸血鬼だって、同じ人間なんじゃ…。」
「彼等は人間じゃない。人間と似たような見た目をしてるだけだ。」
「…。」
「吸血鬼は昔から人間を殺すって言われてる。危ないから関わるなって、親によく聞かされてた。」 
「ルカにも…もっと早く吸血鬼の事を話しておけば…。あんな事には…。」
「あんな事って?」
「ヴェルという少女に連れていかれたっていうのは、アリサから聞いたよね?」
「は、はい…。それから行方不明になったって…。」
「ヴェルは吸血鬼だったんだ。吸血鬼の事をよく知らなかったルカは、彼女と仲良くなって、ギルドに一緒に暮らすようになった。でも、吸血鬼だって事が僕にバレた途端、ルカを連れてどこかに消えてしまった。」
「吸血鬼が…ルカを…。」
「僕の両親も吸血鬼に殺されたよ。僕達の目の前でね。」
「っ…。」
「ルナも気をつけような。」
「う、うん…。」
「報告ありがとう。次の依頼もよろしくね。」



「ルナ、どうしたの?なんだか元気ないね?」
「え?そうかな?」

夕飯の時間、向かいの席で食事をしているイルムが心配そうな表情をしていた。

「ほら、これも食べな。食べないと大きくなれないよー?」

彼女の隣に座るラヴィが、私にお肉を取ってくれた。

「う、うん…。…ねぇイルム。」
「何ー?」
「イルムは、吸血鬼の事どう思ってるの?」
「え?吸血鬼?うーん…。親に吸血鬼は怖いよって聞いた事がある…くらいかな?見た事もないし…。」
「そっか…。ラヴィは?」
「あたしは父親を殺されたよ。」
「えっ…!」
「母は私を産んですぐに死んでね。父も死んで、行く所が無くなってここに来たのさ。」
「ご、ごめんラヴィ…。」
「いいよいいよ。結果的に今は幸せに暮らせてるし。」
「吸血鬼の事…憎んでる?」
「そりゃそうさ。昔程じゃないけどね。」
「そっか…。」
「ここにいる奴らは、ほとんどが吸血鬼を憎んでる。イルムとオズモールくらいじゃないかな?憎むほど関わりがないっていうのは。」
「そんなに吸血鬼は人を殺してるんだ…。」
「あたしは構わないけどさ、他の奴らに吸血鬼の話はやめた方がいい。」
「うん。ありがとうラヴィ。」 
「いえいえ~。ちょっとはルナの元気取り戻せたみたいでよかったよ。」
「…うん。」



「失礼…します…。」
「ん?ルナか。何か用か?」

夕飯を終えて、私はリーガルさんの部屋に足を運んだ。

「あの…吸血鬼について知りたいんですけど…。書いてある本がないかなー…と思って。」
「あるぞ。これを貸してやろう。」
「あ、ありがとうございます!」
「本を読む時は、明るくして読むんだぞ?あと、折ったりせずに出来る限り綺麗な状態で戻すようにしてくれ。あ、あと、読みながら飲み食いはしな…」
「は、はーい!わかりましたー!」

借りた本を部屋に持ち帰ると、早速ページをめくった。

「本を借りてきたのか。何の本だ?」
「吸血鬼の本。吸血鬼の事、知っておきたくて。」
「なら、口に出して読んでくれないか?俺も知りたいと思ってたんだ。」
「うん!いいよ。」

本の始めの方には、吸血鬼の誕生の歴史が書かれていた。

「えっと…。吸血鬼が初めて発見されたのは、ウレルナで起きた殺人事件。村人約200人が一夜にして1人となった。残った1人が吸血鬼では無いかという説が最も有力だが、はっきりとした証拠は残されていない。」
「はっきりしてないのに吸血鬼だって決めつけたんだな…。」
「あはは…そうだね…。次は吸血鬼の身体の造りだって。容姿は人間と変わらないが、背中に翼を持っている為、飛ぶことが出来る。性別は人間と同じく、男女の区別がされている。人間のように歳で老いることは無く、成人すると見た目は何百年もの間ほぼ変わらない。」
「すげー…。ちょっと羨ましいな。」
「しかし、血の生成量は人間よりも劣っている。その為、血を体内に取り込むことで栄養を取り込み、長生きする。血を体外に出し尽くすと、死ぬと言われている。」
「血のある限り生き続けるって事か…。」
「吸血鬼が苦手とする食べ物は未だ解明されていないが、匂いの強いものは好まない傾向にある。人間と同じように食べ物を体内に取り込む事が出来るが、栄養にはならず、時間が経つと体外に排出される。」
「普通に食事されてたら、パッと見ただけじゃ人間と区別がつかないな…。」
「結構、人間と同じ所が多いね。違いは長生きだけなのかな?」

隣から本の中を覗いていたミグが、指をさした。

「あ、ここ。腕力、瞬発力などの身体能力は人間より勝っている。また、自身の血を使って魔法を扱う事も出来る…。似ているようで違う部分もあるみたいだな。」
「この辺りは、吸血鬼の弱点が書いてあるみたい。吸血鬼は闇の力を持つと言われ、それに相対する光の力に弱い。」
「光の力…クラーレさんみたいな人の事だろうか…。」
「多分?参考に出来そうなのはこのくらいかなぁ…。」
「ありがとうルナ。勉強になったよ。」
「ううん!一緒に読んで良かったかも…なんか途中、読んでるの怖くなってきて…。」
「大丈夫か?」
「吸血鬼はどうして人間を殺すんだろう…。」
「血を吸って自分達が長く生きていけるように…じゃないか?」
「そう…なのかな…。」
「ルナ。今日は一緒に寝るか。」
「え、なんで?」
「怖くて寝れないんじゃないかなって。遠慮しなくていいんだぞ?」
「遠慮してる訳じゃ…。」
「何恥ずかしがってんだよ…。ほら。」
「う、うん…。」

彼の布団に潜り込むと、こちらに背を向けている彼の背中にそっと触れた。

「ん?なんだ?」
「え?あ、いや…なんとなく…。」
「なんとなくで背中触るのか?変な奴だな。」
「なんか…背中を触ってると落ち着く気がする。」
「ふーん。まあ好きに触っていいけど…ふわぁ…俺はもう寝る…。」
「うん。おやすみミグ…。」

彼の温かさが、手を通して伝わってくる。それになぜか懐かしさを感じ、目を閉じるとすぐに眠りについてしまっていた。
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