エテルノ・レガーメ

りくあ

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第3章︰人間と吸血鬼

第27話

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「おはようございます!リーガルさん。」
「あぁ…。おはよう…。」

翌日、訓練場でリーガルさんを待っていると、目を擦りながら眠そうにしている彼がやって来た。

「随分眠そうですね。」
「朝は苦手なんだ…。ふわぁ…。」
「私も苦手です…あはは。」
「魔法の練習だったな…。まずは、火、水、風の魔法どれが適正属性なのかやってみるか。」
「その、適正属性って言うのを昨日、クラーレさんも言ってたんですけど…なんですか?」
「魔法には様々な属性があって、人によって扱う事が出来る適正な属性と、扱う事が出来ない不適正な属性があるんだ。」
「なるほど…個人差があるんですね…。」
「それぞれの属性の魔法詠唱が記されている本を持ってきた。好きな物を試してみてくれ。」
「はい!」

床に本を広げると、書いてある詠唱を次々と試していった。
火の魔法は威力の調節が難しく、彼の服の裾を少し焦がしてしまった。水の魔法は思い切りやり過ぎた様で、全身びしょ濡れになってしまった。風の魔法は周りの空気を巻き込み、暴風を起こしてしまった。

「な、中々難しいですね…。」
「いや、しかし驚いた。記憶を無くしている状態でも、全ての属性魔法が出来てしまうとは…。」 
「あれ?でも、この本まだ続きあるんですね。」
「この先は…俺の専門外なんだ…すまない。」
「そうなんですね!わかりました!」
「そうだ、ルナ。上級の魔法も試してみないか?」
「上級…ですか?」
「それぞれの属性に、上級属性魔法と言われるものが存在するんだ。火の上級属性は爆破。水の上級属性は氷。風の上級属性は地だ。」
「そんなに沢山種類があるんですね!やってみたいです!」
「俺もまだ、地属性しか扱えた事がないんだが…。こっちの本を見て試してみてくれ。」
「はい!」

爆破魔法は威力がとてつもなく、魔法によって起きた爆風で身体が飛ばされてしまう程だった。氷魔法は発生位置を定めるのが難しく、危うく彼を氷の壁で覆ってしまう所だった。地魔法は魔法を起こした後、地面を元に戻せず周りが岩だらけになってしまった。

「訓練場が岩場になってしまったな…。」
「す、すいません!掃除します…!」
「いや、それは後で俺も手伝おう…。ひとまず少し休憩しよう。疲れただろう?」「あ、はい…!」

訓練場の端の方に腰を下ろすと、今朝シェリアさんが用意してくれていたクッキーと紅茶をもらった。

「すごいなルナ。上級属性魔法を全て扱える奴は見たことがなかった。」
「わ、本当ですか?」
「威力のコントロールは出来ていないようだが…。」
「う…。」
「しかし、上級魔法は魔力をかなり使う高度なものだからな。中々出来るものじゃない。」
「えへへ…。」
「やはりルナは魔法使いで間違いないだろう。これ程までの実力を持っているのだから。」 
「あ、そうだ…。私、リアーナさんと会った時に、見た目を変える魔法を使ってたかもしれないって言われたんですけど…。そんな魔法はあるんですか?」
「見た目を変える魔法か…。俺は聞いた事がないが…。今度、どこかの書物に書かれていないか探してみよう。」
「ありがとうございます!」
「2人共休憩?」
「兄さん…。」

訓練場の扉が開き、クラーレさんが様子を見に来た。

「はい!シェリアさんがクッキーを作ってくれて!」
「それはよかったね。魔法の方はどうだった?」
「3属性全て、しかも上級属性も3つ全て出来てしまった。」
「すごいな…。まさかそこまでとは…。ルナちゃん、魔力は残ってる?」
「えっ…と…。残ってるかどうかって、どうやったらわかりますか…?」
「そうだなぁ…。頭が痛くなったり、目眩がしたりする?」
「いえ…全然…。」
「なら大丈夫…かな?ごめんね、午後から急用が入っちゃって、僕が教えるのこれからでもいいかな?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「あれだけ魔法を使ったからな…疲れたらすぐ言うんだぞ?」
「わかりました!リーガルさん、ありがとうございました…!」
「構わないさ。むしろこっちが勉強になったよ。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。…それじゃあ、兄さん後は…。」
「うん。任せて。」

彼の背中を見送った後、訓練場の方を向くとそこは岩山だった。

「よく見ると…凄い事になってるね…。」
「そ、そうだった…。ごめんなさい今掃除し…」
「いや。ルナちゃんには、この後の魔法に魔力取っておいて欲しいから…。僕がするよ。」
「へ?」
「“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を交わし、我に力を与えよ。レイ”」

岩山に向けてかざした彼の手から、光線が発射されて岩を貫き、粉々に砕いていった。

「うわぁ…すごい…。岩が砂になっちゃった…。」
「うーん…バラしたのはいいけど、砂が多くなっちゃったな…。あとでイルムにお願いしよう…。」
「ごめんなさい…。」
「気にしないで。その為の訓練場なんだから。さてと…。じゃあ、始めようかな。」
「は、はい。」
「昨日の魔法を見る限り、力をコントロール出来きなくてああなったんじゃないかな…と思う。」
「そうですね…。さっき魔法を練習した時も、加減が難しくて…。」
「大きな魔力を使いこなせてない感じだね。コントロールは経験を積むしかないから…時間がかかりそうだね…。ひとまず、光魔法は他の属性で慣れてきたら…かな。」
「わかりました…。」
「せっかくだから、光の上級属性の治癒魔法やってみようか。」
「で、出来る自信が無い…。」
「大丈夫大丈夫。治癒魔法は他の魔法と違って、魔力は大きければ大きいほど効果があるんだ。」
「え!そうなんですか!?」
「じゃあちょっと…やってみようか…。」

彼はポケットから小さなナイフを取り出すと、自身の指を少しだけ切った。親指から少しづつ鮮やかな血が溢れだしている。

「…!」
「魔法の名前は、キカートリックス。傷に手を向けてやってみて。」
「え…えっ…と…。」

血の流れている指に手を伸ばした。そのまま何気なく彼の指を掴むと、口をつけた。

「え!?ルナちゃ…」
「…へ?」
「どうして…舐め…」
「わ///!?ご、ごめんなさい…!」

慌てて彼の手を離し、熱くなった頬に手を当てた。自分でも何をしてしまったのか訳が分からず、頭の中が混乱していた。

「…あれ?傷…無くなってる…!」
「えっ?」
「今、舐めただけだったよね!?」
「え、えっと…止血は…こうするといいって…誰かに教えて貰った…様な…気が…。」
「誰かに…か。」
「ごめんなさい!キカート……キカート…リックスでしたね!」
「いや…まぁ…。やっぱり、治癒魔法も光魔法の後でいいかな…。後回しになっちゃうけど。」
「そうですか…。わかりました!ありがとうございました、クラーレさん。」
「ううん。結局何も出来なかったし…。また今度改めて教えるね。」
「はい!」

誰も居なくなり、1人になった所でミグの事が気になり始めた。

「ミグは…どうしてるかな…。」

訓練場は1階と2階にあり、私は1階で彼は2階でそれぞれ教わる事になっていた。階段を上って2階へ向かうと、刃物がぶつかり合う音が聞こえ、そっと扉を開いた。

「な、何これ…。」

床に大量のナイフと針が散乱していた。
離れた所で、2人が武器を投げ合うのが見える。

「はぁ…はぁ…。」
「ちょっと休憩しましょうか。…あらルナちゃん。あなたの方は終わったの?」
「あ、はい…!それにしてもすごい量落ちてますね…。」
「私も彼も、数で勝負しなきゃいけないからね。ミグさんはルナちゃんとお話してて~。私はお掃除するわね。」
「すいません…。」
「大丈夫?ミグ…。」
「ちょっと疲れただけだ…。そっちは?」
「私も沢山魔法使ったからヘトヘト…。」 
「でも、使えたって事は上手くいったんだな。」
「うん!すごいってリーガルさんに褒められちゃった!」
「そうか…。」
「まぁ!もうこんな時間になってたのね…。ごめんなさい、夢中になってて気が付かなかったわ。」
「とんでもない。…お付き合いありがとうございます。」
「お昼ご飯の準備しなくちゃ…。でも掃除もしないといけないし…。」
「ここの掃除なら俺がしますよ。」
「私もミグの手伝いします!」
「それは助かるわ~。じゃあ、お願いしようかしら。」
「はい!」


「はぁ…昨日よりも疲れたなぁ…。」

昼食を食べ終えて部屋に戻ると、すぐさまベッドに横になった。ミグは、シェリアさんにナイフを返す為、彼女の部屋に行っている。
窓から心地よい風が吹き込み、ひらひらとカーテンが揺れていた。それをぼんやり眺めていると、カーテンの端に黒い影が映りこんだ。

「ん?なんだろ?」
「にゃ~。」
「あ、かわいい!黒猫だ~。 」

猫は部屋の中に入ってくると、私に擦り寄り同じように横になった。

「すごく人に懐く猫だなぁ~。よしよし。」

猫を撫でていると、ちょっと油断した隙に手を噛まれてしまった。

「痛っ…!?」
「にゃー!」

入ってきた窓から勢いよく出ていくと、それと入れ替わるようにミグが部屋に戻ってきた。

「ん?何し…って、なんで血が…!?」
「だ、大丈夫だよ。猫が入ってきて、撫でてたら噛まれちゃって…。」
「貸せ。消毒するぞ。」
「う、うん…。」
「全く…。次入ってきたらとっちめてやる…。」
「そんな大袈裟な…。」

すっかり日が暮れ、私達はシェリアさんの手伝いをする為に調理場にやって来た。

「ミグさんすごいわ!こんなに豪華に…しかも手早く作っちゃうなんて…。」
「そんなことないですよ。親父に叩き込まれたんで…。」
「男の人が料理出来るなんて、かっこいいわね~。うち(ギルド内)の男性陣じゃ絶対無理ね…。」
「…。…いっ!?」
「おい…大丈夫か?」
「だ、大丈夫!ちょっと切っただけ…舐めとけば治るから!」
「結構血出てるじゃん…。ほら、絆創膏つけるから指出す!」
「はぁい…。」
「料理が出来て面倒見もいいのね…。ミグさん一体何者なのかしら…。まさか…!」
「な、なんですか…?」

彼女の鋭い感が何かに気づいたようで、ドキリとした。
『もしかして、兄妹じゃなくて執事だってバレた…!?』と思っていると…

「お母様が居ない…とか?」
「…。」
「そ、そうなんです~。私が産まれてすぐに死んじゃって…。」
「そうなのね…。ごめんなさい余計な事を…。」
「気にしないでください。さ、出来たのから運びましょう。」
「そうね。ルナちゃん、イルムに声かけてみんなを呼んで来てくれない?」
「わかりました!」

後ろを振り返ると、丁度外から帰ってきたリアーナが調理場にやって来た。

「ただいま~。」
「リアーナおかえり!」
「ありがとうルナ。あ、今は青なんだね。」
「え?…あ、ムードリングね!本当だ~青なったの初めて見た。」

真っ赤だったブレスレットの宝石は、海の色に似た青色をしていた。

「青だと…悲しい事があったから…とか?何かあった?」
「え?うーん…。」
「俺らの母親が、死んだって話をしたからじゃないか?」
「そうだったんだね…。ご、ごめん…。」
「大丈夫…!気にしないでっ!」
「もうご飯になるから、着替えていらっしゃい。」
「はーい。着替えてくるね!」

少しづつギルドの人達とも慣れ始め、沢山の人と食卓を囲むのも楽しくなってきた。
記憶の方はまだ曖昧だが、ここに居ればきっといつか思い出せると、そう思った。
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