30 / 165
第3章︰人間と吸血鬼
第27話
しおりを挟む
「おはようございます!リーガルさん。」
「あぁ…。おはよう…。」
翌日、訓練場でリーガルさんを待っていると、目を擦りながら眠そうにしている彼がやって来た。
「随分眠そうですね。」
「朝は苦手なんだ…。ふわぁ…。」
「私も苦手です…あはは。」
「魔法の練習だったな…。まずは、火、水、風の魔法どれが適正属性なのかやってみるか。」
「その、適正属性って言うのを昨日、クラーレさんも言ってたんですけど…なんですか?」
「魔法には様々な属性があって、人によって扱う事が出来る適正な属性と、扱う事が出来ない不適正な属性があるんだ。」
「なるほど…個人差があるんですね…。」
「それぞれの属性の魔法詠唱が記されている本を持ってきた。好きな物を試してみてくれ。」
「はい!」
床に本を広げると、書いてある詠唱を次々と試していった。
火の魔法は威力の調節が難しく、彼の服の裾を少し焦がしてしまった。水の魔法は思い切りやり過ぎた様で、全身びしょ濡れになってしまった。風の魔法は周りの空気を巻き込み、暴風を起こしてしまった。
「な、中々難しいですね…。」
「いや、しかし驚いた。記憶を無くしている状態でも、全ての属性魔法が出来てしまうとは…。」
「あれ?でも、この本まだ続きあるんですね。」
「この先は…俺の専門外なんだ…すまない。」
「そうなんですね!わかりました!」
「そうだ、ルナ。上級の魔法も試してみないか?」
「上級…ですか?」
「それぞれの属性に、上級属性魔法と言われるものが存在するんだ。火の上級属性は爆破。水の上級属性は氷。風の上級属性は地だ。」
「そんなに沢山種類があるんですね!やってみたいです!」
「俺もまだ、地属性しか扱えた事がないんだが…。こっちの本を見て試してみてくれ。」
「はい!」
爆破魔法は威力がとてつもなく、魔法によって起きた爆風で身体が飛ばされてしまう程だった。氷魔法は発生位置を定めるのが難しく、危うく彼を氷の壁で覆ってしまう所だった。地魔法は魔法を起こした後、地面を元に戻せず周りが岩だらけになってしまった。
「訓練場が岩場になってしまったな…。」
「す、すいません!掃除します…!」
「いや、それは後で俺も手伝おう…。ひとまず少し休憩しよう。疲れただろう?」「あ、はい…!」
訓練場の端の方に腰を下ろすと、今朝シェリアさんが用意してくれていたクッキーと紅茶をもらった。
「すごいなルナ。上級属性魔法を全て扱える奴は見たことがなかった。」
「わ、本当ですか?」
「威力のコントロールは出来ていないようだが…。」
「う…。」
「しかし、上級魔法は魔力をかなり使う高度なものだからな。中々出来るものじゃない。」
「えへへ…。」
「やはりルナは魔法使いで間違いないだろう。これ程までの実力を持っているのだから。」
「あ、そうだ…。私、リアーナさんと会った時に、見た目を変える魔法を使ってたかもしれないって言われたんですけど…。そんな魔法はあるんですか?」
「見た目を変える魔法か…。俺は聞いた事がないが…。今度、どこかの書物に書かれていないか探してみよう。」
「ありがとうございます!」
「2人共休憩?」
「兄さん…。」
訓練場の扉が開き、クラーレさんが様子を見に来た。
「はい!シェリアさんがクッキーを作ってくれて!」
「それはよかったね。魔法の方はどうだった?」
「3属性全て、しかも上級属性も3つ全て出来てしまった。」
「すごいな…。まさかそこまでとは…。ルナちゃん、魔力は残ってる?」
「えっ…と…。残ってるかどうかって、どうやったらわかりますか…?」
「そうだなぁ…。頭が痛くなったり、目眩がしたりする?」
「いえ…全然…。」
「なら大丈夫…かな?ごめんね、午後から急用が入っちゃって、僕が教えるのこれからでもいいかな?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「あれだけ魔法を使ったからな…疲れたらすぐ言うんだぞ?」
「わかりました!リーガルさん、ありがとうございました…!」
「構わないさ。むしろこっちが勉強になったよ。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。…それじゃあ、兄さん後は…。」
「うん。任せて。」
彼の背中を見送った後、訓練場の方を向くとそこは岩山だった。
「よく見ると…凄い事になってるね…。」
「そ、そうだった…。ごめんなさい今掃除し…」
「いや。ルナちゃんには、この後の魔法に魔力取っておいて欲しいから…。僕がするよ。」
「へ?」
「“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を交わし、我に力を与えよ。レイ”」
岩山に向けてかざした彼の手から、光線が発射されて岩を貫き、粉々に砕いていった。
「うわぁ…すごい…。岩が砂になっちゃった…。」
「うーん…バラしたのはいいけど、砂が多くなっちゃったな…。あとでイルムにお願いしよう…。」
「ごめんなさい…。」
「気にしないで。その為の訓練場なんだから。さてと…。じゃあ、始めようかな。」
「は、はい。」
「昨日の魔法を見る限り、力をコントロール出来きなくてああなったんじゃないかな…と思う。」
「そうですね…。さっき魔法を練習した時も、加減が難しくて…。」
「大きな魔力を使いこなせてない感じだね。コントロールは経験を積むしかないから…時間がかかりそうだね…。ひとまず、光魔法は他の属性で慣れてきたら…かな。」
「わかりました…。」
「せっかくだから、光の上級属性の治癒魔法やってみようか。」
「で、出来る自信が無い…。」
「大丈夫大丈夫。治癒魔法は他の魔法と違って、魔力は大きければ大きいほど効果があるんだ。」
「え!そうなんですか!?」
「じゃあちょっと…やってみようか…。」
彼はポケットから小さなナイフを取り出すと、自身の指を少しだけ切った。親指から少しづつ鮮やかな血が溢れだしている。
「…!」
「魔法の名前は、キカートリックス。傷に手を向けてやってみて。」
「え…えっ…と…。」
血の流れている指に手を伸ばした。そのまま何気なく彼の指を掴むと、口をつけた。
「え!?ルナちゃ…」
「…へ?」
「どうして…舐め…」
「わ///!?ご、ごめんなさい…!」
慌てて彼の手を離し、熱くなった頬に手を当てた。自分でも何をしてしまったのか訳が分からず、頭の中が混乱していた。
「…あれ?傷…無くなってる…!」
「えっ?」
「今、舐めただけだったよね!?」
「え、えっと…止血は…こうするといいって…誰かに教えて貰った…様な…気が…。」
「誰かに…か。」
「ごめんなさい!キカート……キカート…リックスでしたね!」
「いや…まぁ…。やっぱり、治癒魔法も光魔法の後でいいかな…。後回しになっちゃうけど。」
「そうですか…。わかりました!ありがとうございました、クラーレさん。」
「ううん。結局何も出来なかったし…。また今度改めて教えるね。」
「はい!」
誰も居なくなり、1人になった所でミグの事が気になり始めた。
「ミグは…どうしてるかな…。」
訓練場は1階と2階にあり、私は1階で彼は2階でそれぞれ教わる事になっていた。階段を上って2階へ向かうと、刃物がぶつかり合う音が聞こえ、そっと扉を開いた。
「な、何これ…。」
床に大量のナイフと針が散乱していた。
離れた所で、2人が武器を投げ合うのが見える。
「はぁ…はぁ…。」
「ちょっと休憩しましょうか。…あらルナちゃん。あなたの方は終わったの?」
「あ、はい…!それにしてもすごい量落ちてますね…。」
「私も彼も、数で勝負しなきゃいけないからね。ミグさんはルナちゃんとお話してて~。私はお掃除するわね。」
「すいません…。」
「大丈夫?ミグ…。」
「ちょっと疲れただけだ…。そっちは?」
「私も沢山魔法使ったからヘトヘト…。」
「でも、使えたって事は上手くいったんだな。」
「うん!すごいってリーガルさんに褒められちゃった!」
「そうか…。」
「まぁ!もうこんな時間になってたのね…。ごめんなさい、夢中になってて気が付かなかったわ。」
「とんでもない。…お付き合いありがとうございます。」
「お昼ご飯の準備しなくちゃ…。でも掃除もしないといけないし…。」
「ここの掃除なら俺がしますよ。」
「私もミグの手伝いします!」
「それは助かるわ~。じゃあ、お願いしようかしら。」
「はい!」
「はぁ…昨日よりも疲れたなぁ…。」
昼食を食べ終えて部屋に戻ると、すぐさまベッドに横になった。ミグは、シェリアさんにナイフを返す為、彼女の部屋に行っている。
窓から心地よい風が吹き込み、ひらひらとカーテンが揺れていた。それをぼんやり眺めていると、カーテンの端に黒い影が映りこんだ。
「ん?なんだろ?」
「にゃ~。」
「あ、かわいい!黒猫だ~。 」
猫は部屋の中に入ってくると、私に擦り寄り同じように横になった。
「すごく人に懐く猫だなぁ~。よしよし。」
猫を撫でていると、ちょっと油断した隙に手を噛まれてしまった。
「痛っ…!?」
「にゃー!」
入ってきた窓から勢いよく出ていくと、それと入れ替わるようにミグが部屋に戻ってきた。
「ん?何し…って、なんで血が…!?」
「だ、大丈夫だよ。猫が入ってきて、撫でてたら噛まれちゃって…。」
「貸せ。消毒するぞ。」
「う、うん…。」
「全く…。次入ってきたらとっちめてやる…。」
「そんな大袈裟な…。」
すっかり日が暮れ、私達はシェリアさんの手伝いをする為に調理場にやって来た。
「ミグさんすごいわ!こんなに豪華に…しかも手早く作っちゃうなんて…。」
「そんなことないですよ。親父に叩き込まれたんで…。」
「男の人が料理出来るなんて、かっこいいわね~。うち(ギルド内)の男性陣じゃ絶対無理ね…。」
「…。…いっ!?」
「おい…大丈夫か?」
「だ、大丈夫!ちょっと切っただけ…舐めとけば治るから!」
「結構血出てるじゃん…。ほら、絆創膏つけるから指出す!」
「はぁい…。」
「料理が出来て面倒見もいいのね…。ミグさん一体何者なのかしら…。まさか…!」
「な、なんですか…?」
彼女の鋭い感が何かに気づいたようで、ドキリとした。
『もしかして、兄妹じゃなくて執事だってバレた…!?』と思っていると…
「お母様が居ない…とか?」
「…。」
「そ、そうなんです~。私が産まれてすぐに死んじゃって…。」
「そうなのね…。ごめんなさい余計な事を…。」
「気にしないでください。さ、出来たのから運びましょう。」
「そうね。ルナちゃん、イルムに声かけてみんなを呼んで来てくれない?」
「わかりました!」
後ろを振り返ると、丁度外から帰ってきたリアーナが調理場にやって来た。
「ただいま~。」
「リアーナおかえり!」
「ありがとうルナ。あ、今は青なんだね。」
「え?…あ、ムードリングね!本当だ~青なったの初めて見た。」
真っ赤だったブレスレットの宝石は、海の色に似た青色をしていた。
「青だと…悲しい事があったから…とか?何かあった?」
「え?うーん…。」
「俺らの母親が、死んだって話をしたからじゃないか?」
「そうだったんだね…。ご、ごめん…。」
「大丈夫…!気にしないでっ!」
「もうご飯になるから、着替えていらっしゃい。」
「はーい。着替えてくるね!」
少しづつギルドの人達とも慣れ始め、沢山の人と食卓を囲むのも楽しくなってきた。
記憶の方はまだ曖昧だが、ここに居ればきっといつか思い出せると、そう思った。
「あぁ…。おはよう…。」
翌日、訓練場でリーガルさんを待っていると、目を擦りながら眠そうにしている彼がやって来た。
「随分眠そうですね。」
「朝は苦手なんだ…。ふわぁ…。」
「私も苦手です…あはは。」
「魔法の練習だったな…。まずは、火、水、風の魔法どれが適正属性なのかやってみるか。」
「その、適正属性って言うのを昨日、クラーレさんも言ってたんですけど…なんですか?」
「魔法には様々な属性があって、人によって扱う事が出来る適正な属性と、扱う事が出来ない不適正な属性があるんだ。」
「なるほど…個人差があるんですね…。」
「それぞれの属性の魔法詠唱が記されている本を持ってきた。好きな物を試してみてくれ。」
「はい!」
床に本を広げると、書いてある詠唱を次々と試していった。
火の魔法は威力の調節が難しく、彼の服の裾を少し焦がしてしまった。水の魔法は思い切りやり過ぎた様で、全身びしょ濡れになってしまった。風の魔法は周りの空気を巻き込み、暴風を起こしてしまった。
「な、中々難しいですね…。」
「いや、しかし驚いた。記憶を無くしている状態でも、全ての属性魔法が出来てしまうとは…。」
「あれ?でも、この本まだ続きあるんですね。」
「この先は…俺の専門外なんだ…すまない。」
「そうなんですね!わかりました!」
「そうだ、ルナ。上級の魔法も試してみないか?」
「上級…ですか?」
「それぞれの属性に、上級属性魔法と言われるものが存在するんだ。火の上級属性は爆破。水の上級属性は氷。風の上級属性は地だ。」
「そんなに沢山種類があるんですね!やってみたいです!」
「俺もまだ、地属性しか扱えた事がないんだが…。こっちの本を見て試してみてくれ。」
「はい!」
爆破魔法は威力がとてつもなく、魔法によって起きた爆風で身体が飛ばされてしまう程だった。氷魔法は発生位置を定めるのが難しく、危うく彼を氷の壁で覆ってしまう所だった。地魔法は魔法を起こした後、地面を元に戻せず周りが岩だらけになってしまった。
「訓練場が岩場になってしまったな…。」
「す、すいません!掃除します…!」
「いや、それは後で俺も手伝おう…。ひとまず少し休憩しよう。疲れただろう?」「あ、はい…!」
訓練場の端の方に腰を下ろすと、今朝シェリアさんが用意してくれていたクッキーと紅茶をもらった。
「すごいなルナ。上級属性魔法を全て扱える奴は見たことがなかった。」
「わ、本当ですか?」
「威力のコントロールは出来ていないようだが…。」
「う…。」
「しかし、上級魔法は魔力をかなり使う高度なものだからな。中々出来るものじゃない。」
「えへへ…。」
「やはりルナは魔法使いで間違いないだろう。これ程までの実力を持っているのだから。」
「あ、そうだ…。私、リアーナさんと会った時に、見た目を変える魔法を使ってたかもしれないって言われたんですけど…。そんな魔法はあるんですか?」
「見た目を変える魔法か…。俺は聞いた事がないが…。今度、どこかの書物に書かれていないか探してみよう。」
「ありがとうございます!」
「2人共休憩?」
「兄さん…。」
訓練場の扉が開き、クラーレさんが様子を見に来た。
「はい!シェリアさんがクッキーを作ってくれて!」
「それはよかったね。魔法の方はどうだった?」
「3属性全て、しかも上級属性も3つ全て出来てしまった。」
「すごいな…。まさかそこまでとは…。ルナちゃん、魔力は残ってる?」
「えっ…と…。残ってるかどうかって、どうやったらわかりますか…?」
「そうだなぁ…。頭が痛くなったり、目眩がしたりする?」
「いえ…全然…。」
「なら大丈夫…かな?ごめんね、午後から急用が入っちゃって、僕が教えるのこれからでもいいかな?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「あれだけ魔法を使ったからな…疲れたらすぐ言うんだぞ?」
「わかりました!リーガルさん、ありがとうございました…!」
「構わないさ。むしろこっちが勉強になったよ。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。…それじゃあ、兄さん後は…。」
「うん。任せて。」
彼の背中を見送った後、訓練場の方を向くとそこは岩山だった。
「よく見ると…凄い事になってるね…。」
「そ、そうだった…。ごめんなさい今掃除し…」
「いや。ルナちゃんには、この後の魔法に魔力取っておいて欲しいから…。僕がするよ。」
「へ?」
「“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を交わし、我に力を与えよ。レイ”」
岩山に向けてかざした彼の手から、光線が発射されて岩を貫き、粉々に砕いていった。
「うわぁ…すごい…。岩が砂になっちゃった…。」
「うーん…バラしたのはいいけど、砂が多くなっちゃったな…。あとでイルムにお願いしよう…。」
「ごめんなさい…。」
「気にしないで。その為の訓練場なんだから。さてと…。じゃあ、始めようかな。」
「は、はい。」
「昨日の魔法を見る限り、力をコントロール出来きなくてああなったんじゃないかな…と思う。」
「そうですね…。さっき魔法を練習した時も、加減が難しくて…。」
「大きな魔力を使いこなせてない感じだね。コントロールは経験を積むしかないから…時間がかかりそうだね…。ひとまず、光魔法は他の属性で慣れてきたら…かな。」
「わかりました…。」
「せっかくだから、光の上級属性の治癒魔法やってみようか。」
「で、出来る自信が無い…。」
「大丈夫大丈夫。治癒魔法は他の魔法と違って、魔力は大きければ大きいほど効果があるんだ。」
「え!そうなんですか!?」
「じゃあちょっと…やってみようか…。」
彼はポケットから小さなナイフを取り出すと、自身の指を少しだけ切った。親指から少しづつ鮮やかな血が溢れだしている。
「…!」
「魔法の名前は、キカートリックス。傷に手を向けてやってみて。」
「え…えっ…と…。」
血の流れている指に手を伸ばした。そのまま何気なく彼の指を掴むと、口をつけた。
「え!?ルナちゃ…」
「…へ?」
「どうして…舐め…」
「わ///!?ご、ごめんなさい…!」
慌てて彼の手を離し、熱くなった頬に手を当てた。自分でも何をしてしまったのか訳が分からず、頭の中が混乱していた。
「…あれ?傷…無くなってる…!」
「えっ?」
「今、舐めただけだったよね!?」
「え、えっと…止血は…こうするといいって…誰かに教えて貰った…様な…気が…。」
「誰かに…か。」
「ごめんなさい!キカート……キカート…リックスでしたね!」
「いや…まぁ…。やっぱり、治癒魔法も光魔法の後でいいかな…。後回しになっちゃうけど。」
「そうですか…。わかりました!ありがとうございました、クラーレさん。」
「ううん。結局何も出来なかったし…。また今度改めて教えるね。」
「はい!」
誰も居なくなり、1人になった所でミグの事が気になり始めた。
「ミグは…どうしてるかな…。」
訓練場は1階と2階にあり、私は1階で彼は2階でそれぞれ教わる事になっていた。階段を上って2階へ向かうと、刃物がぶつかり合う音が聞こえ、そっと扉を開いた。
「な、何これ…。」
床に大量のナイフと針が散乱していた。
離れた所で、2人が武器を投げ合うのが見える。
「はぁ…はぁ…。」
「ちょっと休憩しましょうか。…あらルナちゃん。あなたの方は終わったの?」
「あ、はい…!それにしてもすごい量落ちてますね…。」
「私も彼も、数で勝負しなきゃいけないからね。ミグさんはルナちゃんとお話してて~。私はお掃除するわね。」
「すいません…。」
「大丈夫?ミグ…。」
「ちょっと疲れただけだ…。そっちは?」
「私も沢山魔法使ったからヘトヘト…。」
「でも、使えたって事は上手くいったんだな。」
「うん!すごいってリーガルさんに褒められちゃった!」
「そうか…。」
「まぁ!もうこんな時間になってたのね…。ごめんなさい、夢中になってて気が付かなかったわ。」
「とんでもない。…お付き合いありがとうございます。」
「お昼ご飯の準備しなくちゃ…。でも掃除もしないといけないし…。」
「ここの掃除なら俺がしますよ。」
「私もミグの手伝いします!」
「それは助かるわ~。じゃあ、お願いしようかしら。」
「はい!」
「はぁ…昨日よりも疲れたなぁ…。」
昼食を食べ終えて部屋に戻ると、すぐさまベッドに横になった。ミグは、シェリアさんにナイフを返す為、彼女の部屋に行っている。
窓から心地よい風が吹き込み、ひらひらとカーテンが揺れていた。それをぼんやり眺めていると、カーテンの端に黒い影が映りこんだ。
「ん?なんだろ?」
「にゃ~。」
「あ、かわいい!黒猫だ~。 」
猫は部屋の中に入ってくると、私に擦り寄り同じように横になった。
「すごく人に懐く猫だなぁ~。よしよし。」
猫を撫でていると、ちょっと油断した隙に手を噛まれてしまった。
「痛っ…!?」
「にゃー!」
入ってきた窓から勢いよく出ていくと、それと入れ替わるようにミグが部屋に戻ってきた。
「ん?何し…って、なんで血が…!?」
「だ、大丈夫だよ。猫が入ってきて、撫でてたら噛まれちゃって…。」
「貸せ。消毒するぞ。」
「う、うん…。」
「全く…。次入ってきたらとっちめてやる…。」
「そんな大袈裟な…。」
すっかり日が暮れ、私達はシェリアさんの手伝いをする為に調理場にやって来た。
「ミグさんすごいわ!こんなに豪華に…しかも手早く作っちゃうなんて…。」
「そんなことないですよ。親父に叩き込まれたんで…。」
「男の人が料理出来るなんて、かっこいいわね~。うち(ギルド内)の男性陣じゃ絶対無理ね…。」
「…。…いっ!?」
「おい…大丈夫か?」
「だ、大丈夫!ちょっと切っただけ…舐めとけば治るから!」
「結構血出てるじゃん…。ほら、絆創膏つけるから指出す!」
「はぁい…。」
「料理が出来て面倒見もいいのね…。ミグさん一体何者なのかしら…。まさか…!」
「な、なんですか…?」
彼女の鋭い感が何かに気づいたようで、ドキリとした。
『もしかして、兄妹じゃなくて執事だってバレた…!?』と思っていると…
「お母様が居ない…とか?」
「…。」
「そ、そうなんです~。私が産まれてすぐに死んじゃって…。」
「そうなのね…。ごめんなさい余計な事を…。」
「気にしないでください。さ、出来たのから運びましょう。」
「そうね。ルナちゃん、イルムに声かけてみんなを呼んで来てくれない?」
「わかりました!」
後ろを振り返ると、丁度外から帰ってきたリアーナが調理場にやって来た。
「ただいま~。」
「リアーナおかえり!」
「ありがとうルナ。あ、今は青なんだね。」
「え?…あ、ムードリングね!本当だ~青なったの初めて見た。」
真っ赤だったブレスレットの宝石は、海の色に似た青色をしていた。
「青だと…悲しい事があったから…とか?何かあった?」
「え?うーん…。」
「俺らの母親が、死んだって話をしたからじゃないか?」
「そうだったんだね…。ご、ごめん…。」
「大丈夫…!気にしないでっ!」
「もうご飯になるから、着替えていらっしゃい。」
「はーい。着替えてくるね!」
少しづつギルドの人達とも慣れ始め、沢山の人と食卓を囲むのも楽しくなってきた。
記憶の方はまだ曖昧だが、ここに居ればきっといつか思い出せると、そう思った。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる