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第3章︰人間と吸血鬼
第22話
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「ルナー!朝だよー!起きてー!」
「うーん…。」
あれから、毎日同じことを繰り返すように生活していた。
朝起きて朝食を食べると、水汲み、掃除、洗濯、薪割り、食事の準備、お風呂の湯沸かし…とソルティが1人でこなしていた家事の手伝いをする毎日。
「ルナー!ちょっとルナー!早くー!起きて下りてきてー!」
「なんだろ…?今日はやけにしつこく起こしてくるなぁ…ふわぁ…。」
身体を起こし、2段ベッドの梯子を降りようとすると、下からテトがこちらを見上げていた。
「あ、おはようルナ。結構寝坊助さんなんだね。」
「え!?テト!?」
「先に行って下で待ってるよ。顔洗って、着替えておいで。」
「あ、うん…!」
支度を済ませ1階に向かうと、既に席に着いている彼の前に座った。目の前には朝食が置いてあり、テーブルの向こうでは彼が紅茶をすすっている。
ソルティは水を汲みに外へ出て行ってしまい、2人の間で沈黙の時間が流れていた。
「えっと…。」
「あ、僕の事は気にしないでご飯食べてもらって構わないよ。」
「う…ん…。」
黙々とご飯を食べ始めると、彼は黙ってその様子を見ていた。
「あの…テト。」
「何?」
「見られてると…食べづらいよ…。」
「そう?じゃあ…本題に移ろうかな。」
「うん。」
彼が手に持っていたカップを置くのと同時に、目の前にある自分のカップを手に取り紅茶をすすった。
「君が欲しくて、もらいに来たんだ。」
「んん!?…っ!…げほっ!げほっ!」
紅茶が気管に入り、思わずむせてしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫…。えっと…今、なんて?」
「君が欲しいって言ったよ?」
「ごめん…ちょっと状況が飲み込めな…」
「シグ。」
「詳しくは私からお話致します。」
「え!?どこから出てき…」
どこからともなく現れた執事のシグルズは、彼の隣に立って話を始めた。
「テト様は貴方様に命を救っていただきました。この恩をどのようにして返すべきか、テト様はお考えになりました。物や金銭を送るのは貴方様が謙遜なさると考え、没となりました。」
「は、はぁ…。」
「物は駄目だとなったら、地位を授けようとなさいましたが…。何しろ生まれも育ちもわからないとおっしゃいましたので、身元の分からない者に地位を授けるというのは、例えテト様でも難しい事でございます。」
「…はぁ。」
「まあ、つまりは結婚すればいいだろうとそういった結論にたどり着きまして…」
「なんでそうなるの!?」
「わからない?」
「何が…。」
彼は私の手を握ると、軽く口をつけた。
「っ…///!?」
「あれからずっと…君の事ばかり考えていた。急な話で混乱するかもしれないけど…一緒に来てくれないかな?」
「わ…私は…記憶を取り戻したくて…。だからテトと一緒には…」
「もちろん、僕が君の記憶を取り戻す手伝いをするよ。結婚…とは言ったけど、無理やりさせる気は無いし。とりあえず、婚約って形になるかな。」
「テト…。」
「最初は友達からって言うでしょ?友達の家に泊まりに行く感覚で、一緒に来てくれたら嬉しいんだけど…。」
「…わかった!それなら一緒に行く。」
「ほんと!?じゃあ、早速これから…」
「あ!その前に…ちょっといいかな?」
ここを発つ前に、お世話になった人達の元に挨拶に行く事にした。
「ん?ルナちゃーん。久しぶりだねー。あれから身体はどう?」
「全然平気です!沢山お世話になって…ありがとうございました!」
「あれ?どうして過去形なの?」
「実は…王城に行くことになって…。多分戻ってこないから…挨拶にと思って…。」
「そっか…。せっかく知り合えたのに寂しくなるね。」
「はい…。」
「記憶、取り戻せるといいね。応援してるよ。」
「ありがとうございます!」
診療所を出て家に戻ると、3人も丁度家に戻って来ていたようで、彼等にもここから発つ事を話した。
「えー!?王城!?」
「テト王子に誘われて行くってこと?」
「うん…。記憶を取り戻すためには色んな事してみるのが1番かなって…。」
「そう…だよね…。寂しくなるなぁ…。」
「おいレヴィ…こんな事で泣くなよ。」
「な、泣いてないよ!」
「辛くなったらいつでも帰ってきてね?もうルナは家族なんだから!」
「ありがと…ソル…ティ…。」
「ルナまで泣くなよー!会えなくなるんじゃないしさ!今度は俺らが王都に行くから!」
「…ん!待ってる!」
「身体に気をつけてね。」
「うん。ありがとう!」
「行ってらっしゃい。ルナ!」
「行ってきます!」
こうして、お世話になった人達に別れを告げて馬車で王都へ向かった。
「ルナ…起きて。」
「ん…?」
馬車に揺られてつい眠っていたようで、腕を伸ばして固まった身体をほぐした。
「ほんと君はよく寝るね。」
「うーん…何故か眠くなっちゃうんだよね…。あはは。」
「窓の外、見てご覧。あれが、サトラテールだよ。」
「わぁ…!おっきい!」
「あの1番高い建物が王城で…南の方には海もあって…」
「あの青い旗は何?」
「ああ。あれはギルドだよ。」
「ギルドって?」
「困っている人達の依頼を、代わりにやってくれる所だよ。僕も知り合いがいるから、そのうち紹介してあげるね。」
「うん!」
「これから、城門をくぐって街中にはいるけど…ルナは中で待っててくれる?」
「え?うん…わかった…。」
「僕はちょっと顔を出してくるよ。何かあったらシグに言って。」
「うん…。」
彼が馬車の後ろの扉を開け、外へ出て行くと周りがざわつき始めた。
「おい。あれ、テト王子じゃないか?」
「あ!テト王子!」
「王子がこんな所に来てくれるなんて!」
「きゃー!テト王子、こっち向いてー!」
「ほらあそこ!あの馬車、王家のよ!」
「テト様だわ!テト様~!」
「すごい沢山の人…。どうしてわざわざ顔を出すの?」
「テト様は、ご自分の事より先に民の事を案じておられます。こうして街中へ赴く事で、民の声を聞き、政治に反映出来るようにとしているのでございます。」
「うーん…。難しくてよく分からないや…。」
「そうですね…簡単に言いますと…。」
「僕の元気な顔を見せて、みんなを安心させるんだ。」
「安心かぁ…。」
「街中に歩いていくこともあるよ。そのうちルナも一緒に来ようね。」
「うん…!」
「さ、着いたよ。」
「わぁ…。ここが…王城…。」
彼に手を引かれて馬車を降り、歩きながら右に左に首を動かして景色を眺めた。入り口までの道のりには、草木が生い茂っており、花壇には沢山の花が咲いていた。
「すごいきれ…ぅわ!?」
「っと…!大丈夫?」
足元の石につまずき、前に倒れかかった私の手を隣で歩いていた彼が掴んだ。
「ご、ごめん…ありがとう。」
「ふふ。色々気になって見たい気持ちは分かるけど、気をつけようね。」
「う、うん。」
「そうだ!このまま手を繋いでれば、転ばないよね。」
「ええ///!?さすがにちょっと…恥ずかしいよ…。」
「じゃあ、入り口までの間だけ。」
「それなら…うん…。」
大きな扉を開けて中に入ると、何人もの黒い服の人達が出迎えてくれた。
「「お帰りなさいませ。テト様。」」
「みんな出迎えありがとう。ただいま。ルナ、君の部屋に案内するよ。」
「う、うん。」
待っていてくれた人達に、ペコッと軽くお辞儀をすると、足早に部屋へと向かった。彼の後ろをついて行き、右に曲がったり左に曲がったりと長い廊下をひたすら進んだ。
「どこ歩いてきたか分からなくなりそう…。」
「そう?わかりやすい場所にしたつもりなんだけどな…。さ、入って。ここがルナの部屋だよ。」
「わー!広いね!」
「そうかな?」
「ベッドもクローゼットも大きいし…家具がこんなに沢山…。」
「家具は僕が勝手に決めちゃったんだけど…気に入って貰えるといいな。服は、寝間着が数着あるだけで、最低限のものしか用意してないから…明日一緒に見に行こうか。ルナの好みもあるだろうし。他に欲しいものがあったらなんでもいって。」
「いいのかな…そんなにしてもらっちゃって…。」
「僕がしたくてしてるんだけど…だめかな?」
「じゃあ…お言葉に甘えて…!ありがとうテト!」
「どういたしまして。夕飯の時間になったら呼びに来るから、それまでっくり休んでて。」
「うん。わかった!」
彼が部屋を出ていくと、緊張がほぐれたのか、ベッドに倒れ込んだ。
「なんだか夢みたいだなぁ…。ベッドも、ふっかふかだし…きっと…こんなの…初めて…だ…よ…。」
「…ルナ…ねぇ、起きて…ルナ…。」
「ん…。」
誰かに呼ばれたような気がして、目を開いた。天井は、木で出来ていて周りの壁も同じように丸太が組まれて出来ている。
「…ルナ?ルナ!よかった…!目が覚めたんだね…!」
「あ…れ…?部屋…こんな感じだったっけ…?」
「ルナ?ねぇ、ルナってば…。」
頭の中を整理していると、ベッドの隣には白髪の少年が椅子に座っていた。
「だっ…誰…!?」
「え…。僕、ルカ…だよ?」
「ル……ルカ…?」
「どうしちゃったの…ルナ…。もしかして、ショックで忘れちゃったの!?」
「えっ…と…。ごめんなさい…。あなたの事…思い出せない…です。」
「そんな…。」
「あの…私の事…知ってるんですよね?」
「もちろん!一緒にかけっこしたり…ご飯食べたりしたもん…!」
「かけっこ…。ご飯…。」
「無理しなくていいよ?またゆっくり思い出せばいいんだし!」
「確かに…そうかもしれないですね…。そうします。」
「そうだ!お腹すいたよね。ずっと寝っぱなしだったし…お粥作ってくるね!」
彼が走っていく背中を見て、何となく誰かと影が重なった。目に焼き付けられたこの背中は、一体誰なのか。この時はまだ思い出せなかった。
「…ナ。ルナ…!」
「…!」
目を覚ますと、大きなベッドの上で横になっていた。身体を起こすと、隣にテトが立っている。
「大丈夫?」
「…あ、うん…大丈夫…。ちょっと夢見てたみたい…。」
「夕飯の準備が出来たって。一緒に食堂に行こう。」
「うん。」
大きなテーブルの上には、沢山の料理が並んでいて、どれも食べたことがないくらいに美味しいものばかりだった。食べ終えた後、彼と部屋でしばらく話をした。
「名前以外に、何か思い出せたことはあった?」
「うーん…特には…。」
「そっか。中々記憶を取り戻すって難しいね。」
「あ、でも、今日の料理、どれもすごく美味しかった!多分、今まで食べた事なかったと思うなぁ。」
「だとすると…貧しい暮らしをしてたのかな…?」
「貧しいかはわからないけど…。沢山の料理を沢山の人で食べてたような…気がする…。こんなに部屋も広くなかったと思うし…。」
「じゃあ、ここの暮らしとは真逆って感じなのかな…。」
「わからないけどね!曖昧な感じだからはっきりとはしないかな。」
「でも、少しでも進展があって良かったよ。」
「ありがとうテト。」
「そろそろ寝よっか。あ、明日、服を買いに行くからね。朝食の時間にメイドが呼びに来ると思うから、その後行こう。」
「うん!じゃあ、おやすみなさい!」
「おやすみルナ。」
朝はいつもより遅く起き、馬車での移動中にも眠り、夕飯前にもベッドで夢を見ていた。今日1日中寝てばかりだったが、それでも疲れからか目を閉じるとすぐに眠りについていた。
「うーん…。」
あれから、毎日同じことを繰り返すように生活していた。
朝起きて朝食を食べると、水汲み、掃除、洗濯、薪割り、食事の準備、お風呂の湯沸かし…とソルティが1人でこなしていた家事の手伝いをする毎日。
「ルナー!ちょっとルナー!早くー!起きて下りてきてー!」
「なんだろ…?今日はやけにしつこく起こしてくるなぁ…ふわぁ…。」
身体を起こし、2段ベッドの梯子を降りようとすると、下からテトがこちらを見上げていた。
「あ、おはようルナ。結構寝坊助さんなんだね。」
「え!?テト!?」
「先に行って下で待ってるよ。顔洗って、着替えておいで。」
「あ、うん…!」
支度を済ませ1階に向かうと、既に席に着いている彼の前に座った。目の前には朝食が置いてあり、テーブルの向こうでは彼が紅茶をすすっている。
ソルティは水を汲みに外へ出て行ってしまい、2人の間で沈黙の時間が流れていた。
「えっと…。」
「あ、僕の事は気にしないでご飯食べてもらって構わないよ。」
「う…ん…。」
黙々とご飯を食べ始めると、彼は黙ってその様子を見ていた。
「あの…テト。」
「何?」
「見られてると…食べづらいよ…。」
「そう?じゃあ…本題に移ろうかな。」
「うん。」
彼が手に持っていたカップを置くのと同時に、目の前にある自分のカップを手に取り紅茶をすすった。
「君が欲しくて、もらいに来たんだ。」
「んん!?…っ!…げほっ!げほっ!」
紅茶が気管に入り、思わずむせてしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫…。えっと…今、なんて?」
「君が欲しいって言ったよ?」
「ごめん…ちょっと状況が飲み込めな…」
「シグ。」
「詳しくは私からお話致します。」
「え!?どこから出てき…」
どこからともなく現れた執事のシグルズは、彼の隣に立って話を始めた。
「テト様は貴方様に命を救っていただきました。この恩をどのようにして返すべきか、テト様はお考えになりました。物や金銭を送るのは貴方様が謙遜なさると考え、没となりました。」
「は、はぁ…。」
「物は駄目だとなったら、地位を授けようとなさいましたが…。何しろ生まれも育ちもわからないとおっしゃいましたので、身元の分からない者に地位を授けるというのは、例えテト様でも難しい事でございます。」
「…はぁ。」
「まあ、つまりは結婚すればいいだろうとそういった結論にたどり着きまして…」
「なんでそうなるの!?」
「わからない?」
「何が…。」
彼は私の手を握ると、軽く口をつけた。
「っ…///!?」
「あれからずっと…君の事ばかり考えていた。急な話で混乱するかもしれないけど…一緒に来てくれないかな?」
「わ…私は…記憶を取り戻したくて…。だからテトと一緒には…」
「もちろん、僕が君の記憶を取り戻す手伝いをするよ。結婚…とは言ったけど、無理やりさせる気は無いし。とりあえず、婚約って形になるかな。」
「テト…。」
「最初は友達からって言うでしょ?友達の家に泊まりに行く感覚で、一緒に来てくれたら嬉しいんだけど…。」
「…わかった!それなら一緒に行く。」
「ほんと!?じゃあ、早速これから…」
「あ!その前に…ちょっといいかな?」
ここを発つ前に、お世話になった人達の元に挨拶に行く事にした。
「ん?ルナちゃーん。久しぶりだねー。あれから身体はどう?」
「全然平気です!沢山お世話になって…ありがとうございました!」
「あれ?どうして過去形なの?」
「実は…王城に行くことになって…。多分戻ってこないから…挨拶にと思って…。」
「そっか…。せっかく知り合えたのに寂しくなるね。」
「はい…。」
「記憶、取り戻せるといいね。応援してるよ。」
「ありがとうございます!」
診療所を出て家に戻ると、3人も丁度家に戻って来ていたようで、彼等にもここから発つ事を話した。
「えー!?王城!?」
「テト王子に誘われて行くってこと?」
「うん…。記憶を取り戻すためには色んな事してみるのが1番かなって…。」
「そう…だよね…。寂しくなるなぁ…。」
「おいレヴィ…こんな事で泣くなよ。」
「な、泣いてないよ!」
「辛くなったらいつでも帰ってきてね?もうルナは家族なんだから!」
「ありがと…ソル…ティ…。」
「ルナまで泣くなよー!会えなくなるんじゃないしさ!今度は俺らが王都に行くから!」
「…ん!待ってる!」
「身体に気をつけてね。」
「うん。ありがとう!」
「行ってらっしゃい。ルナ!」
「行ってきます!」
こうして、お世話になった人達に別れを告げて馬車で王都へ向かった。
「ルナ…起きて。」
「ん…?」
馬車に揺られてつい眠っていたようで、腕を伸ばして固まった身体をほぐした。
「ほんと君はよく寝るね。」
「うーん…何故か眠くなっちゃうんだよね…。あはは。」
「窓の外、見てご覧。あれが、サトラテールだよ。」
「わぁ…!おっきい!」
「あの1番高い建物が王城で…南の方には海もあって…」
「あの青い旗は何?」
「ああ。あれはギルドだよ。」
「ギルドって?」
「困っている人達の依頼を、代わりにやってくれる所だよ。僕も知り合いがいるから、そのうち紹介してあげるね。」
「うん!」
「これから、城門をくぐって街中にはいるけど…ルナは中で待っててくれる?」
「え?うん…わかった…。」
「僕はちょっと顔を出してくるよ。何かあったらシグに言って。」
「うん…。」
彼が馬車の後ろの扉を開け、外へ出て行くと周りがざわつき始めた。
「おい。あれ、テト王子じゃないか?」
「あ!テト王子!」
「王子がこんな所に来てくれるなんて!」
「きゃー!テト王子、こっち向いてー!」
「ほらあそこ!あの馬車、王家のよ!」
「テト様だわ!テト様~!」
「すごい沢山の人…。どうしてわざわざ顔を出すの?」
「テト様は、ご自分の事より先に民の事を案じておられます。こうして街中へ赴く事で、民の声を聞き、政治に反映出来るようにとしているのでございます。」
「うーん…。難しくてよく分からないや…。」
「そうですね…簡単に言いますと…。」
「僕の元気な顔を見せて、みんなを安心させるんだ。」
「安心かぁ…。」
「街中に歩いていくこともあるよ。そのうちルナも一緒に来ようね。」
「うん…!」
「さ、着いたよ。」
「わぁ…。ここが…王城…。」
彼に手を引かれて馬車を降り、歩きながら右に左に首を動かして景色を眺めた。入り口までの道のりには、草木が生い茂っており、花壇には沢山の花が咲いていた。
「すごいきれ…ぅわ!?」
「っと…!大丈夫?」
足元の石につまずき、前に倒れかかった私の手を隣で歩いていた彼が掴んだ。
「ご、ごめん…ありがとう。」
「ふふ。色々気になって見たい気持ちは分かるけど、気をつけようね。」
「う、うん。」
「そうだ!このまま手を繋いでれば、転ばないよね。」
「ええ///!?さすがにちょっと…恥ずかしいよ…。」
「じゃあ、入り口までの間だけ。」
「それなら…うん…。」
大きな扉を開けて中に入ると、何人もの黒い服の人達が出迎えてくれた。
「「お帰りなさいませ。テト様。」」
「みんな出迎えありがとう。ただいま。ルナ、君の部屋に案内するよ。」
「う、うん。」
待っていてくれた人達に、ペコッと軽くお辞儀をすると、足早に部屋へと向かった。彼の後ろをついて行き、右に曲がったり左に曲がったりと長い廊下をひたすら進んだ。
「どこ歩いてきたか分からなくなりそう…。」
「そう?わかりやすい場所にしたつもりなんだけどな…。さ、入って。ここがルナの部屋だよ。」
「わー!広いね!」
「そうかな?」
「ベッドもクローゼットも大きいし…家具がこんなに沢山…。」
「家具は僕が勝手に決めちゃったんだけど…気に入って貰えるといいな。服は、寝間着が数着あるだけで、最低限のものしか用意してないから…明日一緒に見に行こうか。ルナの好みもあるだろうし。他に欲しいものがあったらなんでもいって。」
「いいのかな…そんなにしてもらっちゃって…。」
「僕がしたくてしてるんだけど…だめかな?」
「じゃあ…お言葉に甘えて…!ありがとうテト!」
「どういたしまして。夕飯の時間になったら呼びに来るから、それまでっくり休んでて。」
「うん。わかった!」
彼が部屋を出ていくと、緊張がほぐれたのか、ベッドに倒れ込んだ。
「なんだか夢みたいだなぁ…。ベッドも、ふっかふかだし…きっと…こんなの…初めて…だ…よ…。」
「…ルナ…ねぇ、起きて…ルナ…。」
「ん…。」
誰かに呼ばれたような気がして、目を開いた。天井は、木で出来ていて周りの壁も同じように丸太が組まれて出来ている。
「…ルナ?ルナ!よかった…!目が覚めたんだね…!」
「あ…れ…?部屋…こんな感じだったっけ…?」
「ルナ?ねぇ、ルナってば…。」
頭の中を整理していると、ベッドの隣には白髪の少年が椅子に座っていた。
「だっ…誰…!?」
「え…。僕、ルカ…だよ?」
「ル……ルカ…?」
「どうしちゃったの…ルナ…。もしかして、ショックで忘れちゃったの!?」
「えっ…と…。ごめんなさい…。あなたの事…思い出せない…です。」
「そんな…。」
「あの…私の事…知ってるんですよね?」
「もちろん!一緒にかけっこしたり…ご飯食べたりしたもん…!」
「かけっこ…。ご飯…。」
「無理しなくていいよ?またゆっくり思い出せばいいんだし!」
「確かに…そうかもしれないですね…。そうします。」
「そうだ!お腹すいたよね。ずっと寝っぱなしだったし…お粥作ってくるね!」
彼が走っていく背中を見て、何となく誰かと影が重なった。目に焼き付けられたこの背中は、一体誰なのか。この時はまだ思い出せなかった。
「…ナ。ルナ…!」
「…!」
目を覚ますと、大きなベッドの上で横になっていた。身体を起こすと、隣にテトが立っている。
「大丈夫?」
「…あ、うん…大丈夫…。ちょっと夢見てたみたい…。」
「夕飯の準備が出来たって。一緒に食堂に行こう。」
「うん。」
大きなテーブルの上には、沢山の料理が並んでいて、どれも食べたことがないくらいに美味しいものばかりだった。食べ終えた後、彼と部屋でしばらく話をした。
「名前以外に、何か思い出せたことはあった?」
「うーん…特には…。」
「そっか。中々記憶を取り戻すって難しいね。」
「あ、でも、今日の料理、どれもすごく美味しかった!多分、今まで食べた事なかったと思うなぁ。」
「だとすると…貧しい暮らしをしてたのかな…?」
「貧しいかはわからないけど…。沢山の料理を沢山の人で食べてたような…気がする…。こんなに部屋も広くなかったと思うし…。」
「じゃあ、ここの暮らしとは真逆って感じなのかな…。」
「わからないけどね!曖昧な感じだからはっきりとはしないかな。」
「でも、少しでも進展があって良かったよ。」
「ありがとうテト。」
「そろそろ寝よっか。あ、明日、服を買いに行くからね。朝食の時間にメイドが呼びに来ると思うから、その後行こう。」
「うん!じゃあ、おやすみなさい!」
「おやすみルナ。」
朝はいつもより遅く起き、馬車での移動中にも眠り、夕飯前にもベッドで夢を見ていた。今日1日中寝てばかりだったが、それでも疲れからか目を閉じるとすぐに眠りについていた。
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それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
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