9 / 165
第1章︰ルカ・クラーレ
第8話
しおりを挟む
「あら、ルカくん。早起きなのね?」
「あ、シェリアさん。おはようございます。」
「ルカーおはよぉー!」
シェリアさんと話をしていると、後ろから寝間着姿のウナが庭へやってきた。彼女は最近アリサの部屋で寝泊まりしていて、僕の部屋で寝る機会は徐々に少なくなっていた。喧嘩している訳ではなく、単純にウナがそうしたいと希望しているからだった。
「おはようウナ。アリサは起きた?」
「ウナ起こした!けど寝ちゃった。」
「そっか…。じゃあ、後でご飯持っていこうか。」
「うん!」
「おはようルカくん。」
「おはようございます!」
「そうだ。この間、ギルドに来たい子がいるって言ってたよね?ルカくんの向かいの物置部屋、片付けておいてくれないかな?」
「ヴェ…ルの事ですね。大丈夫なんですか?」
「住む所がなくて困ってる子なんでしょ?放っておけないよ。」
「ありがとうございます!片付けしたら、早速呼びに行ってきますね!」
ご飯を済ませた後、ウナと一緒に物置を片付けると、1人で森へ向かった。
「前はこの辺りで会ったんだけど…。どこにいるんだろう…。」
「ルカみっけ!」
「うわ!?ヴェル!なんでここに?」
木の枝にぶら下がり、逆さまになった彼女の顔が突然目の前に現れた。彼女は軽い身のこなしで地面に着地すると、僕の前まで歩み寄った。
「なんでって、ルカが来るのわかったから。」
「わかるの?」
「指輪!ヴェラが渡したんでしょ?それでルカの居場所がわかるの!」
「すごい!そんな機能あるんだね!」
「ところで、あたしに何か用事?」
「そうだった。ヴェル、ギルドに住んでもいいって。許可貰えたから呼びに来たんだ。」
「本当!?やった!すぐ行こう!」
「わっ!?引っ張らないでよー!」
ギルドの門の前までやってくると、ルルが目の前に現れた。
「ルカ様。この度は誠にありがとうございます。」
「あ、ルル。ううん。気にしないで。」
「いくつかルカ様にお願いがあります。」
「お願いって…何?」
「まず、ヴェル様が吸血鬼である事は誰にも話さないようにしてください。吸血鬼は人間から恐れられているので、内密にお願いします。」
「わかった…。他には?」
「日が暮れるとヴェラ様に変わるのですが、姿が変わると他の方が驚かれるので、ヴェラ様のお姿を見られないようにしなければなりません。」
「そっか…急に大きくなったらびっくりするよね…。わかった。」
「一応ヴェル様にもお伝えしていますし、私も常にそばにいるようにしますので大丈夫かと。」
「喋る猫は大丈夫なの…?」
「他の方には、にゃーとしか聞こえませんのでご安心を。」
「そ、そうなんだ?」
「ルカー!こっちー?あっちー?どっちー!」
既に門をくぐり抜け、中に入っていた彼女は敷地内をあちこち走り回っていた。
「待ってヴェルー!そっちじゃないよー!戻って来てー!」
「ここが二人の部屋だよ。」
「おおー!」
元々物置になっていた部屋は、要らない物を処分したものの、まだ残っている物も多く、お世辞にも綺麗だとは言えない状態だった。
「一応、掃除はしたんだけどあんまり片付けられなくて…。手伝うからこれから片付けを…」
「ううん。大丈夫!」
彼女が部屋の中央に向かって歩きだすと、親指に口をつけた。指から滴る血を床に垂らし、何やらぶつぶつと喋り始めた。
「っと…。…盟約は……証。我が血を…とし……変え、………に従…」
足元に溜まった血が浮き始め、部屋に飛び散った。
「うわ…!? 」
飛び散った血が壁や床に染み込み、部屋にあった物がすべて全く別の物に変わってしまった。
「すごい…。こんなことも出来るんだ…。」
「成功してよかった~。ルカの血は美味しいだけじゃなくて力もすごいや!」
「ですが、少々やりすぎてしまいましたね…。窓やドアまで変えるつもりはなかったのでしょうが、変わってしまいました。」
「ほ、ほんとだ…。まあ…大丈夫…だと思うけど…。」
「力が大きすぎると扱いが難しくなります。ヴェル様には少々厳しかったようですね。」
「うーん…ちょっと血を使い過ぎちゃった…。」
ふらふらとベッドに倒れ込むと、ルルが側に歩み寄った。
「ルカ様。大変恐縮なのですが…。」
「あ、うん。わかったよ。腕でいいよね?」
「よろしくお願い致します…。」
彼女に血を分け与えたが、以前のようにすぐに起きる事はなく、しばらくルルが様子を見ることになった。
「ルルー?ルカだけど…部屋に入っても大丈夫ー?」
「大丈夫ですよ。どうぞ。」
夕日が差し込み部屋の中が赤く染まっていた。
「ヴェルは…あれからずっと眠ったまま?」
「はい。まもなく交代の時間ですから、ヴェラ様とお話でもされているのでしょう。」
「ヴェルとヴェラが話を…?そんなことが出来るの?」
「身体の中にお二人の世界を作っています。一つの身体にお二人で住んでいる…と言った感じでしょうか。」
「ごめん…よく分からないや…。」
「契約者であるルカ様でしたらお見せしてもよろしいでしょう。見に行きますか?」
「見れるの!?すごい!見てみたい!」
「では、やってみましょう。まずは、ヴェル様の額にルカ様の額をくっつけてください。」
「えっ…額?…こ、こう?」
「はい。そのまま、目を閉じてお待ちください。」
「う、うん。」
「ルカ様。目を開けてください。」
「…ん?……あれ?」
目の前には青い海が広がり、心地よい波の音が聞こえる。さっきまで彼女の部屋にいたはずなのに、気がつくと海辺の砂浜の真ん中で横になっていた。
「ここはどこ?」
「ヴェル様、ヴェラ様の身体の中です。」
「え?海があるよ?」
「これはただの風景です。」
「いきなり過ぎて頭が追いついていけないよ…。」
「あれー?!ルカがいる!」
陸の方から少女の声が聞こえ振り返ると、黒いワンピースを身にまとったヴェルの姿があった。
「ヴェル!」
「ルルが連れてきたの?そんなことも出来たんだね!」
「ヴェルは知らなかったの?」
「うん!全く!」
「ヴェル。話の途中で居なくなるな!まだ終わってな…」
彼女の後ろから、同じ髪色で同じ髪型、同じ瞳の色をしている背の高い女性がやってきた。まるで、ヴェルの子供時代と大人時代を同時に見ているような、不思議な気分だった。
「本当だ…2人が同時に存在してる…。」
「ルル。お前が勝手に入れたのか?」
「いけなかったでしょうか?契約者であれば立ち入れるはずですが…。」
「いいじゃんヴェラ~。せっかくだし、ルカにここを案内しようよ!」
「あまり長居するのはよくない。さっさと済ませて。」
「はーい!よし行こうー!」
「え!?どこいくの!?」
ヴェルに手を引かれ、砂浜を走り出した。
海で囲まれた離島のような場所で、山があり、森があり、川があり、草花が生い茂っている自然豊かな環境だった。
「森とかもあるけど、生き物が全く居ないね?海にも川にも何もいないの?」
「ヴェラが魔法で作った場所だから、生き物は居ないよ。」
「魔法ってすごいなぁ…なんでも出来ちゃうんだ…。」
「2人で同じ身体を使ってるはずのに、あたしは出来ないことがヴェラには出来ちゃうからすごいよね!」
「お前が勉強しないから。だから私がこうして教えてやってるんだ。」
「身体が寝てる間、2人はここで過ごしてるんだ?」
「そう!あっちに家もあるよ!」
彼女は、海辺から山がある方角に指をさした。
「そういえば、外では夕方のはずなのに、ここは夜なんだね。」
「ここに朝と昼は存在しない。程よい月明かりがあって、うす暗い方が丁度いい。」
「あんまり太陽がピカピカーな場所は好きじゃないんだよね。吸血鬼は。」
「あれ?でも昼間、ヴェルは外に出てるよね?」
「昼間は私が魔法をかけて太陽の光を軽減していますので。」
「あ、そうなんだ…。」
「いろいろ知りたい事もあるだろうが、そろそろ戻るぞ。」
「えー!もうー?」
「ヴェル様。本日もお疲れ様でした。ゆっくりお休みになってください。」
「はぁーい。また来てねールカ!」
「あはは…来れたらね。」
「こちらに出口があります。参りましょう。」
森の中を進んで行くと大きな谷にやってきた。
谷底はかなり深いようで、底が見えない程だった。
「かなり深そうだね…落ちたら死ぬかも…。」
「落ちるぞ?ここから。」
「えぇ!?」
「ここから飛び降りることで元の場所に戻ることが出来ます。」
「こ、怖すぎるよ!他の方法は無いの?」
「ない。」
「えぇ…。」
「では、私が肩に乗りましょう。これで少しは恐怖が軽減されるはずです。」
「た、確かに少し安心するけど…。いくらなんでもこの高さは…。」
「じれったい奴だ。ほら、行くぞ。」
彼女が僕の腕を掴み、2人同時に谷に身を投げた。
「わ!?ちょっ…まっ…!うわぁぁぁ!!!」
「ぅ…。」
目を開くと、月明かりに照らされたヴェルの顔が目の前に現れた。ベッドの上で、彼女を押し倒しているかのような体勢になっている。ハッと我に返ると素早くその場から離れた。
「ルカ様。どうかされましたか?」
「え!?あ、いや!なんでもないよ!」
「ふわぁ…よく寝た。」
「あれ?ヴェラだよね?その姿ってヴェルのままじゃ…」
「魔法で昼間と同じ大きさにした。急に姿が変わったら、他のやつに見られた時にまずい。」
「その手もあったね…。」
「ヴェルには出来ないし、私がこっちの姿になるしかないだろうと思って。」
「ヴェラも結構大変だね…。」
ーコンコン
「ヴェル、いる?」
お風呂上がりなのか、髪が濡れたままになっているウナが、扉から顔を覗かせた。
「あれ、ウナ?どうしたの?」
「なんでここいるの?ルカ。」
「あーえっと…。ヴェ…ルに話があったから。」
「ウナだっけ?あたしに何の用?」
「お風呂!みんな終わったから、ヴェル次。」
「わかった!わざわざありがとう!」
「じゃあウナ、アリサの部屋戻るね。おやすみルカ。」
「うん!おやすみウナ。」
扉が閉まると、彼女は再びベッドの方に戻っていった。
「喋り方まで変わっててびっくりしたよ。」
「あー…。ちょっとだけ寄せてみた。でも疲れるんだよなぁ…ヴェルの喋り方。」
「ところでお風呂は入らないの?」
「………らい…。」
「え?なんて言った?よく聞こえなかったんだけど…。」
「ヴェラ様は水が嫌いなのです。お風呂は入りません。」
「え!?お風呂入らないの!?疲れも汚れもとれないよ?」
「ヴェルが朝一で入るからいいの!嫌いなものは嫌いなの!」
「ヴェル様の嫌いなものはヴェラ様が、ヴェラ様の嫌いなものはヴェル様が。お互いに助け合っているわけですね。」
「は、はぁ…。」
「それよりもやる事があるし。」
「やる事?」
彼女は思い出したかのようにベッドから飛び起きると、椅子に座っていた僕の方に歩み寄ってきた。
「もちろんルカも手伝うから。」
「ぼ、僕が手伝える事なら…?」
「大丈夫~ベッドの上で横になっててくれるだけでいいから~。」
「え!?それってまさか…!」
「ルル!確保!」
「うわぁ!?」
ルルの尻尾が伸びたかと思ったら、一瞬の内にロープのように身体に巻き付き、腕を動かせない状態になってしまった。そのまま身体が持ち上がり、ベッドの上に移動させられた。
「すみませんルカ様…。主の命令は絶対ですので…。」
「そ、そんなぁ…。」
「痛くないんだし、むしろ気持ちよくなるならいい事じゃない。」
「な…///!?」
「今日は時間をかけてゆーっくり味わうとするか~。」
「えぇ!?どうせ吸うなら早く済ませてよー!」
血を吸われて、ムズムズする感覚に長時間耐えなければならない、地獄のような一夜を彼女の部屋で過ごす事となった。
「あ、シェリアさん。おはようございます。」
「ルカーおはよぉー!」
シェリアさんと話をしていると、後ろから寝間着姿のウナが庭へやってきた。彼女は最近アリサの部屋で寝泊まりしていて、僕の部屋で寝る機会は徐々に少なくなっていた。喧嘩している訳ではなく、単純にウナがそうしたいと希望しているからだった。
「おはようウナ。アリサは起きた?」
「ウナ起こした!けど寝ちゃった。」
「そっか…。じゃあ、後でご飯持っていこうか。」
「うん!」
「おはようルカくん。」
「おはようございます!」
「そうだ。この間、ギルドに来たい子がいるって言ってたよね?ルカくんの向かいの物置部屋、片付けておいてくれないかな?」
「ヴェ…ルの事ですね。大丈夫なんですか?」
「住む所がなくて困ってる子なんでしょ?放っておけないよ。」
「ありがとうございます!片付けしたら、早速呼びに行ってきますね!」
ご飯を済ませた後、ウナと一緒に物置を片付けると、1人で森へ向かった。
「前はこの辺りで会ったんだけど…。どこにいるんだろう…。」
「ルカみっけ!」
「うわ!?ヴェル!なんでここに?」
木の枝にぶら下がり、逆さまになった彼女の顔が突然目の前に現れた。彼女は軽い身のこなしで地面に着地すると、僕の前まで歩み寄った。
「なんでって、ルカが来るのわかったから。」
「わかるの?」
「指輪!ヴェラが渡したんでしょ?それでルカの居場所がわかるの!」
「すごい!そんな機能あるんだね!」
「ところで、あたしに何か用事?」
「そうだった。ヴェル、ギルドに住んでもいいって。許可貰えたから呼びに来たんだ。」
「本当!?やった!すぐ行こう!」
「わっ!?引っ張らないでよー!」
ギルドの門の前までやってくると、ルルが目の前に現れた。
「ルカ様。この度は誠にありがとうございます。」
「あ、ルル。ううん。気にしないで。」
「いくつかルカ様にお願いがあります。」
「お願いって…何?」
「まず、ヴェル様が吸血鬼である事は誰にも話さないようにしてください。吸血鬼は人間から恐れられているので、内密にお願いします。」
「わかった…。他には?」
「日が暮れるとヴェラ様に変わるのですが、姿が変わると他の方が驚かれるので、ヴェラ様のお姿を見られないようにしなければなりません。」
「そっか…急に大きくなったらびっくりするよね…。わかった。」
「一応ヴェル様にもお伝えしていますし、私も常にそばにいるようにしますので大丈夫かと。」
「喋る猫は大丈夫なの…?」
「他の方には、にゃーとしか聞こえませんのでご安心を。」
「そ、そうなんだ?」
「ルカー!こっちー?あっちー?どっちー!」
既に門をくぐり抜け、中に入っていた彼女は敷地内をあちこち走り回っていた。
「待ってヴェルー!そっちじゃないよー!戻って来てー!」
「ここが二人の部屋だよ。」
「おおー!」
元々物置になっていた部屋は、要らない物を処分したものの、まだ残っている物も多く、お世辞にも綺麗だとは言えない状態だった。
「一応、掃除はしたんだけどあんまり片付けられなくて…。手伝うからこれから片付けを…」
「ううん。大丈夫!」
彼女が部屋の中央に向かって歩きだすと、親指に口をつけた。指から滴る血を床に垂らし、何やらぶつぶつと喋り始めた。
「っと…。…盟約は……証。我が血を…とし……変え、………に従…」
足元に溜まった血が浮き始め、部屋に飛び散った。
「うわ…!? 」
飛び散った血が壁や床に染み込み、部屋にあった物がすべて全く別の物に変わってしまった。
「すごい…。こんなことも出来るんだ…。」
「成功してよかった~。ルカの血は美味しいだけじゃなくて力もすごいや!」
「ですが、少々やりすぎてしまいましたね…。窓やドアまで変えるつもりはなかったのでしょうが、変わってしまいました。」
「ほ、ほんとだ…。まあ…大丈夫…だと思うけど…。」
「力が大きすぎると扱いが難しくなります。ヴェル様には少々厳しかったようですね。」
「うーん…ちょっと血を使い過ぎちゃった…。」
ふらふらとベッドに倒れ込むと、ルルが側に歩み寄った。
「ルカ様。大変恐縮なのですが…。」
「あ、うん。わかったよ。腕でいいよね?」
「よろしくお願い致します…。」
彼女に血を分け与えたが、以前のようにすぐに起きる事はなく、しばらくルルが様子を見ることになった。
「ルルー?ルカだけど…部屋に入っても大丈夫ー?」
「大丈夫ですよ。どうぞ。」
夕日が差し込み部屋の中が赤く染まっていた。
「ヴェルは…あれからずっと眠ったまま?」
「はい。まもなく交代の時間ですから、ヴェラ様とお話でもされているのでしょう。」
「ヴェルとヴェラが話を…?そんなことが出来るの?」
「身体の中にお二人の世界を作っています。一つの身体にお二人で住んでいる…と言った感じでしょうか。」
「ごめん…よく分からないや…。」
「契約者であるルカ様でしたらお見せしてもよろしいでしょう。見に行きますか?」
「見れるの!?すごい!見てみたい!」
「では、やってみましょう。まずは、ヴェル様の額にルカ様の額をくっつけてください。」
「えっ…額?…こ、こう?」
「はい。そのまま、目を閉じてお待ちください。」
「う、うん。」
「ルカ様。目を開けてください。」
「…ん?……あれ?」
目の前には青い海が広がり、心地よい波の音が聞こえる。さっきまで彼女の部屋にいたはずなのに、気がつくと海辺の砂浜の真ん中で横になっていた。
「ここはどこ?」
「ヴェル様、ヴェラ様の身体の中です。」
「え?海があるよ?」
「これはただの風景です。」
「いきなり過ぎて頭が追いついていけないよ…。」
「あれー?!ルカがいる!」
陸の方から少女の声が聞こえ振り返ると、黒いワンピースを身にまとったヴェルの姿があった。
「ヴェル!」
「ルルが連れてきたの?そんなことも出来たんだね!」
「ヴェルは知らなかったの?」
「うん!全く!」
「ヴェル。話の途中で居なくなるな!まだ終わってな…」
彼女の後ろから、同じ髪色で同じ髪型、同じ瞳の色をしている背の高い女性がやってきた。まるで、ヴェルの子供時代と大人時代を同時に見ているような、不思議な気分だった。
「本当だ…2人が同時に存在してる…。」
「ルル。お前が勝手に入れたのか?」
「いけなかったでしょうか?契約者であれば立ち入れるはずですが…。」
「いいじゃんヴェラ~。せっかくだし、ルカにここを案内しようよ!」
「あまり長居するのはよくない。さっさと済ませて。」
「はーい!よし行こうー!」
「え!?どこいくの!?」
ヴェルに手を引かれ、砂浜を走り出した。
海で囲まれた離島のような場所で、山があり、森があり、川があり、草花が生い茂っている自然豊かな環境だった。
「森とかもあるけど、生き物が全く居ないね?海にも川にも何もいないの?」
「ヴェラが魔法で作った場所だから、生き物は居ないよ。」
「魔法ってすごいなぁ…なんでも出来ちゃうんだ…。」
「2人で同じ身体を使ってるはずのに、あたしは出来ないことがヴェラには出来ちゃうからすごいよね!」
「お前が勉強しないから。だから私がこうして教えてやってるんだ。」
「身体が寝てる間、2人はここで過ごしてるんだ?」
「そう!あっちに家もあるよ!」
彼女は、海辺から山がある方角に指をさした。
「そういえば、外では夕方のはずなのに、ここは夜なんだね。」
「ここに朝と昼は存在しない。程よい月明かりがあって、うす暗い方が丁度いい。」
「あんまり太陽がピカピカーな場所は好きじゃないんだよね。吸血鬼は。」
「あれ?でも昼間、ヴェルは外に出てるよね?」
「昼間は私が魔法をかけて太陽の光を軽減していますので。」
「あ、そうなんだ…。」
「いろいろ知りたい事もあるだろうが、そろそろ戻るぞ。」
「えー!もうー?」
「ヴェル様。本日もお疲れ様でした。ゆっくりお休みになってください。」
「はぁーい。また来てねールカ!」
「あはは…来れたらね。」
「こちらに出口があります。参りましょう。」
森の中を進んで行くと大きな谷にやってきた。
谷底はかなり深いようで、底が見えない程だった。
「かなり深そうだね…落ちたら死ぬかも…。」
「落ちるぞ?ここから。」
「えぇ!?」
「ここから飛び降りることで元の場所に戻ることが出来ます。」
「こ、怖すぎるよ!他の方法は無いの?」
「ない。」
「えぇ…。」
「では、私が肩に乗りましょう。これで少しは恐怖が軽減されるはずです。」
「た、確かに少し安心するけど…。いくらなんでもこの高さは…。」
「じれったい奴だ。ほら、行くぞ。」
彼女が僕の腕を掴み、2人同時に谷に身を投げた。
「わ!?ちょっ…まっ…!うわぁぁぁ!!!」
「ぅ…。」
目を開くと、月明かりに照らされたヴェルの顔が目の前に現れた。ベッドの上で、彼女を押し倒しているかのような体勢になっている。ハッと我に返ると素早くその場から離れた。
「ルカ様。どうかされましたか?」
「え!?あ、いや!なんでもないよ!」
「ふわぁ…よく寝た。」
「あれ?ヴェラだよね?その姿ってヴェルのままじゃ…」
「魔法で昼間と同じ大きさにした。急に姿が変わったら、他のやつに見られた時にまずい。」
「その手もあったね…。」
「ヴェルには出来ないし、私がこっちの姿になるしかないだろうと思って。」
「ヴェラも結構大変だね…。」
ーコンコン
「ヴェル、いる?」
お風呂上がりなのか、髪が濡れたままになっているウナが、扉から顔を覗かせた。
「あれ、ウナ?どうしたの?」
「なんでここいるの?ルカ。」
「あーえっと…。ヴェ…ルに話があったから。」
「ウナだっけ?あたしに何の用?」
「お風呂!みんな終わったから、ヴェル次。」
「わかった!わざわざありがとう!」
「じゃあウナ、アリサの部屋戻るね。おやすみルカ。」
「うん!おやすみウナ。」
扉が閉まると、彼女は再びベッドの方に戻っていった。
「喋り方まで変わっててびっくりしたよ。」
「あー…。ちょっとだけ寄せてみた。でも疲れるんだよなぁ…ヴェルの喋り方。」
「ところでお風呂は入らないの?」
「………らい…。」
「え?なんて言った?よく聞こえなかったんだけど…。」
「ヴェラ様は水が嫌いなのです。お風呂は入りません。」
「え!?お風呂入らないの!?疲れも汚れもとれないよ?」
「ヴェルが朝一で入るからいいの!嫌いなものは嫌いなの!」
「ヴェル様の嫌いなものはヴェラ様が、ヴェラ様の嫌いなものはヴェル様が。お互いに助け合っているわけですね。」
「は、はぁ…。」
「それよりもやる事があるし。」
「やる事?」
彼女は思い出したかのようにベッドから飛び起きると、椅子に座っていた僕の方に歩み寄ってきた。
「もちろんルカも手伝うから。」
「ぼ、僕が手伝える事なら…?」
「大丈夫~ベッドの上で横になっててくれるだけでいいから~。」
「え!?それってまさか…!」
「ルル!確保!」
「うわぁ!?」
ルルの尻尾が伸びたかと思ったら、一瞬の内にロープのように身体に巻き付き、腕を動かせない状態になってしまった。そのまま身体が持ち上がり、ベッドの上に移動させられた。
「すみませんルカ様…。主の命令は絶対ですので…。」
「そ、そんなぁ…。」
「痛くないんだし、むしろ気持ちよくなるならいい事じゃない。」
「な…///!?」
「今日は時間をかけてゆーっくり味わうとするか~。」
「えぇ!?どうせ吸うなら早く済ませてよー!」
血を吸われて、ムズムズする感覚に長時間耐えなければならない、地獄のような一夜を彼女の部屋で過ごす事となった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる