エテルノ・レガーメ

りくあ

文字の大きさ
上 下
3 / 165
第1章︰ルカ・クラーレ

第2話

しおりを挟む
街の中心地にやってくると、買い物をする人や、商売をする人達で賑わっていた。

「あのー…すみません。」
「いらっしゃいませ!今日はどういったものをお探しですか?」
「えっと…ちょっと道をお尋ねしたくて。」
「どちらに行かれるんですか?」
「集会場を探してるんですけど…。」
「集会場でしたら、この道を真っ直ぐ進んで、突き当たりを右に行けば見えると思いますよ。」
「ありがとうございます!助かりました。」
「次はぜひ、お買い物して行ってくださいね?」
「あ、はい…わかりました!」

お店の人に聞いた通りに道を進んでいると、建物に挟まれて薄暗くなっている細い路地から、何やら言い争うが聞こえてきた。

「や、やめてください…!私はそんなつもりは…」
「いいじゃんちょっとくらいさ~。」
「俺達と遊ぼうよ~。ね?」

女性の腕を掴み、男性2人が無理矢理連れて行こうとしている様子だった。

「嫌よ!離して…!」
「て…手を離してあげて下さい…!」

放っておけず、思わず路地に足を踏み入れると男性2人に向けて声をかけた。

「あー?誰だテメェ。」
「え、えっと…。」
「ガキがこんな所でウロウロしてねえで、さっさと家に帰んな。」

男に肩を強く押されバランスを崩し、壁際に身体を打ち付けてその場に倒れてしまった。

ーガシャン!

「痛っ…!」
「だ、大丈夫…!?」
「こんなガキに構ってないで行こうぜ?」
「やっ…ちょっと…!」
「あんた達!あたしの家族に何してくれてんのよ!」
「今度は誰だよ…。」

路地の反対側から、聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

「リアーナ…!」
「あんた達、ただじゃ帰さないわよ。」
「お嬢ちゃん。これは大人の会話なんだよ。そこのガキと一緒にお子様は帰ってもらえねーかな?」

男がゆっくりと彼女の肩に手を触れた瞬間、ものすごい速さで男が蹴り飛ばされた。後ろで1本にまとめられた彼女の赤い髪が、動きに合わせて左右に大きく揺れた。

「な、何すんだテメェ!!!」
「おらぁ!」

もう1人の男が、隠し持っていたナイフで彼女に斬りかかって行った。
しかし、彼女はそれをサラリとかわし、同じように蹴りを食らわせた。

「まだやるの?おじさん。」
「チッ…。覚えてやがれ!」

怖気ずいた男達はそそくさと逃げていった。
絡まれていた女性もお礼を言いながら、大通りの人混みの中へ消えていった。

「ルカくん大丈夫ー?」
「ごめんね、リアーナ…。」

側に駆け寄った彼女の肩を借りて、その場に立ち上がった。壁に身体を打ち付けたせいで少々背中が痛むが、動けない程では無かった。

「あたしは何ともないから平気!それより、ルカくん…手から血がでてるよ…。マスターに見てもらわないと!」

倒れて手をついた場所に硝子の破片があったようで、それで手が切れ血が出てしまったようだった。

「でも、僕集会場に行かないと…。」
「だめだよー!バイ菌が入って大変なことになったらどうするの?…ほら!帰ろ!」
「ま、待ってよ~!」

彼女に強引に連れていかれ、結局集会場に辿り着く前にギルドに戻ることになってしまった。

「ルカくん、今日はたくさん怪我をする日だね。」
「ごめんなさいクラーレさん…。」

再び訪れた彼の部屋で、本日2度目の治療を受けていた。

「マスター…。ルカくんを責めないであげて?女の人が悪い奴らに絡まれてたのを、助けてあげたかっただけなの。」
「怒ってる訳じゃないよ。ただ…ちょっとルカくんは焦りすぎてるんじゃないかな?」
「…え?」
「役に立ちたいとか、強くなって誰かを助けたいって思うのは、素晴らしい事だと思うよ。でも、焦ってもしょうがないんだ。少しづつ出来るようになればいいんだよ。」
「でも…!」
「アリサもリアーナも、もちろん僕だって最初から出来たわけじゃない。いろいろ悩んで、回り道もして、それでようやく出来るようになったんだ。ルカくんは、ここに来てまだ少ししか経ってないでしょ?焦る必要はないし、負い目を感じる事もしなくていいんだよ。」
「…はい。」
「今日は無理せずゆっくり休んで。何かルカくんでも出来そうな依頼探してみるよ。」
「ありがとうございます…。」
「リアーナは話があるから残ってね。」
「はーい!」
「失礼しました…。」



翌日、ようやく日が昇り始めた頃いつも通り庭に足を運ぶと、誰も居ないテーブルの椅子に腰を下ろした。昨日の澄み切った青空とは違い、薄い雲が全体に広がりグレーに染った空を、ぼんやりと眺めた。

「あら、ルカくん。今日はいつもより早起きなのね。」

唐突に声をかけられ後ろを振り向くと、朝食の準備にやってきたシェリアさんが、こちらに歩み寄って来た。

「ちょっと…眠れなくて。」
「あら。大丈夫?顔色もあんまり良くないわね…。ちょっとそこで座って待っててくれる?お茶を入れるわ。」
「そんな!それくらい、自分でや…」
「いいからいいから。私に任せて?」
「は、はい…じゃあ…。」

しばらく座って待っていると、目の前に紅茶のカップが置かれた。

「ハーブティー…ですか?」
「ええ。それ、私のお気に入りなの。飲んでみて?」
「いただきます。」

紅茶をすするとハーブの香りが体中に広がり、もやもやしていた気持ちが少し落ち着いていくような感じがした。

「ふぅ…。」
「気持ちが落ち着くでしょ?私も眠れない時に飲むのよ。」
「シェリアさんも、眠れない時があるんですか?」
「えぇ。色々と考える事があるとね。」
「そうなんですね…。」
「ルカくんは、どんな悩み事を抱えてるの?」
「えっと…強くなりたいなって思って…。」
「あら、どうして?」
「実は…。」

僕は、昨日の出来事を彼女に話した。
リアーナに助けられた事をきっかけに、自分の頼りなさ、情けなさを実感したこと。ギルドの力になりたいのに空回りしてしまっていること。彼女は、僕の話を黙って聞いてくれていた。

「それは大変だったわね…。」
「申し訳ない気持ちにもなりましたし、本当に情けないです…。」
「そんなに自分を責めちゃだめよ。ルカくんにはルカくんのいい所があるんだから。」
「そう…ですか…?」
「指摘された事、ダメだった所を素直に受け入れて、それを直していこうとちゃんと努力をする所が、ルカくんのいい所だと思うわ。」
「あ、ありがとうございます…。」
「飲み込みが早いのも、ルカくんの長所ね。…そうだ!とにかく色んな人に教えてもらうのはどうかしら?」
「教えてもらうって何をですか?」
「戦い方は人それぞれだから、その人に合ったものを探すのがいいって、お兄様に聞いたことがあるわ。まずは、リアーナやリーガルに戦い方を教えてもらうのよ。」
「そっか!1人でどうにかしようとしてもダメだったんだ…。ありがとうございます!シェリアさん!」
「ルカくんの悩みが解消されてよかったわ。それじゃあ、朝ご飯の準備をしましょうか。」
「はい!」



「あ、リアーナ!」
「あれー?ルカくんどうしたの?あたしに用事?」

廊下を歩いていると、前の方から彼女が歩いてくるのが見え、声をかけた。

「実は、戦い方を教えて欲しくて…。」
「戦い方?そうだなぁ…あたしはファイターだから、体術を鍛えてるよ。」
「確か、リアーナは蹴りが得意だったよね?」
「うん!殴るより蹴る方が早いし、痛くないし、便利だからかな?」
「そうなんだ…。ところで、リアーナは誰から体術を教えて貰ったの?」
「街に道場があって、体術の基礎はそこで教えて貰ったよー。ルカくんも体術やってみたいなら、あたしが一緒に行ってあげようか?」
「本当!?そうしてもらえると嬉しいな!」
「よーし!じゃあ、早速行ってみよー!」
「え!?今から!?依頼はいいの!?」
「大丈夫大丈夫~!ほら、いこ!」

街の中心地から少し離れたところにある道場へとやってきた。

「師匠~!」
「おぉ。リアーナか!久しぶりだな!」

白い衣を身にまとったガタイのいい男性が、彼女を見るなり近寄ってきた。彼女と手を取り合うとその手を大きく縦に振った。

「師匠全然変わってなくて良かったよー!」
「がはは!それはよかった!ところで隣の坊主は誰だ?彼氏でも出来たのか?」
「か、彼氏…!?」
「ち、違うよ~。同じギルドに所属してる子!体術を教わりたいんだって。」
「なーんだ。そうだったのか!」
「僕、ルカと言います!今、自分に合った戦い方を探していて…。」
「とにかく色々とやってみたいって事だな!任せておけ!」
「はい!よろしくお願いします!」



「つ…疲れた…。」

部屋の隅にぶら下げられているサンドバッグを相手に、殴る蹴るを繰り返し体力の限界がやって来ると、その場に腰を下ろした。

「もうだめか?よし!ちょっと休憩するか!」
「はいお水!」
「ありがとうリアーナ…ふぅ…。」
「今まで戦ったことがない人がいきなりやろうとするのはやっぱり大変だよねぇ…。」
「ううん!これくらいでへこたれてちゃだめだ!もっと頑張るよ!」
「よし!その意気だぞ!ルカ!次は木刀を振ってみろ!」
「はい!師匠!」

こうして、体術の基礎を一通り教えてもらう事が出来た。次の日、全身筋肉痛で動けなくなる事は、この時はまだ知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...