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第2章:シュヴァリエ
第18話
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風呂から出たら調理場へ戻るように言われていた私は、再びグリの元へ向かった。
「…グイ。」
「お?戻って来たか。」
すると、彼の側に立つアルトゥンの姿を見つけた。
「おかえりアスール~。風呂はどやった?」
「…ユオアスとビズ居た。」
「なんや…1人で入ったんちゃうんか…。」
「結果オーライだろ。危ねぇ事は、させねぇに越した事はねぇよ。」
「せやなぁ。あ、でも…今日は、アスール1人で買い出しに行ったんやってな?凄いやんアスール~。」
「…凄い。」
「自分で言うな。お前くらいのガキだったら、買い物くらい1人で出来るもんだぞ普通。」
「俺の妹やったら、無理そうやけどなぁ。あちこち目移りしてもーて、必要ないもんまで買ってきそうや。」
「そういや、お前が貰ってきたオレンジ…食ってみるか?」
「…食べる。」
「即答やな…!」
グリは後ろのテーブルから皿を手に取り、私の前へ差し出した。両手で包み込める程の大きさだった橙色のオレンジが、白い色の小さな粒に変化している。
「…オレンジ、白い…。」
「皮を剥いたからな。中は薄皮があるから白く見える。」
「…皮、剥いたのに皮…?」
「その白い皮はやらかいから、そのまま食べれるで。」
皿の上からオレンジを1粒つまみ上げ、アルトゥンは口の中へ放り込んだ。私も彼の真似をして、口の中へ放り込む。
噛んだ瞬間、オレンジの爽やかな香りが鼻を抜け、口の中が果汁でいっぱいになった。
「このオレンジ、ちょっと酸っぱいなぁ。」
「…すぱい?」
「酸味…は、どう説明したらええんや?」
「人間の舌で感じられる、味覚っていう奴の1つだ。味覚には5種類あって…酸味の他に、塩味、甘味、辛味、苦味がある。」
「…よく分からない。」
「全部食ってみた方がわかりやすいか…。これを舐めてみろ。」
グリは、白い粉が乗った小皿を差し出した。私はそれに舌を伸ばし、舐めてみる。すると、舌がピリピリするような感覚がした。
「それが塩味だ。んで、こっちは甘味。」
全く同じ見た目の白い粉を舐めると、今度は花の香りが鼻を抜けた時のような感覚がした。
「で、さっきのオレンジが酸味で、辛味は…大人になってからの方がいいな。」
「…辛味、食べれない?」
「食べれへん事も無いやろうけど…。ほら、俺等が食っとったカレーあるやろ?あれが辛味や。」
「…苦味は?」
「せやなぁ…苦味も大人の味やし…。」
「言っとくが、俺は何でも食わせるからな?食事は、バランスが大事だ。甘いもんばっかりでもダメだし、辛いもんばっかりでもダメだ。」
「…分からない。」
「グリが色んな料理作ってくれるやろうから、そのうち食べる事になると思うで。」
「…にしても、他の奴等は遅ぇな。あいつら、風呂で沈んでんじゃねぇだろうな?」
「ほんなら、俺が様子見てくるわ。アスールは、ルスケアを探しに行ってくれへん?」
「…分かった。」
「俺はビオレータの所に行ってみっか…。ったく…めんどくせぇな。」
こうして私達は調理場を離れ、騎士達を呼びに行く事になった。
階段を登り、ルスケアの部屋の扉を叩く。
「はーい。どうぞー?」
中から彼の声が聞こえ、扉を開いて中に入った。彼は椅子に座ってテーブルに向かい、何やら作業をしている。
「あれ?アスールくん…どうしたの?」
「…ご飯。」
「え?もうそんな時間?ごめんごめん。つい夢中になっちゃって…。」
「…むちゅー?」
「アロマを作ってたんだ。」
「…アロマ、作れる?」
「うん。蜜蝋っていう材料を溶かして、中に花びらとか香水とかを混ぜて固めるんだ。」
「…作る、見たい。」
「見るのは構わないけど…。まずはご飯を食べてからね?」
彼と共に部屋を出て、食堂へ向かう。すると、テーブルの上にはいつもより沢山の料理が並べられていた。
「お、来た来た!待っとったで~アスール。」
「…料理、沢山。」
「せやで~?今日は、アスールの歓迎会や!」
「…かんげーかい?」
「アスールくんが、私達の仲間になった事のお祝いだよ。」
「…おいわい?」
「細けぇ事はいいからさっさと座れ。」
ルスケアに椅子を引かれ、席に着いた。普段食堂で見かける事の無いビオレータや、いつも調理場にいて食事を共にする事の少ないグリの姿が新鮮に映る。
「…ロゼとジガ居ない。」
「あいつ等は仕事だ。城の警備もあって、全員が集まるのは難しいからな。」
「これでも揃った方だと思うよ?歓迎するには、ちょっと遅かったけどね。」
「話をするなら食べながらにしませんか?俺は忙しいんですよ。」
「では、俺から一言言わせてもらおう。」
ユオダスがその場に立ち上がり、水の入ったガラスを手に取った。
「ビエント騎士団へようこそ。これからも、お前の活躍に期待している。」
「乾杯~!」
ユオダスとヴィーズのガラスがぶつかり合い、甲高い音を立てる。騎士達が各々で食事を始め、隣に座るルスケアが、私に声をかけた。
「アスールくん。どれを食べてみたい?」
「…あれ。」
テーブルを見渡し、少し離れた所にある緑色の塊を指さした。
「いきなりピーマンを選ぶんか…チャレンジャーやな。」
「…ちゃれじゃー?」
「食べてみりゃわかるだろ。好き嫌いがねぇうちに、色んなもん食っとけ。」
ルスケアは私が選んだ料理をお皿に盛り付け、目の前に皿を置いた。
「…ピーマ。」
「ピーマンの肉詰めだね。」
フォークを使って1口の大きさに切り、口に含んだ。噛めば噛むほど渋みが口の中に広がっていき、私は思わず眉間に皺を寄せた。
「アスール…多分、それが苦味や。」
「…苦味、嫌…。」
「やはり子供は子供…という事ですか。」
向かいの席で食事をするビオレータが、私を見て口元を緩めた。
「そう言うビオレータだって、この間ピーマン残しとったやん。」
「に、苦手と言うだけで、食べられ無い訳ではありません!」
「てめぇは偏食過ぎんだよ。食えんなら食え。」
「仕方無いでしょう?食事をする時間が勿体無いんですから。」
「…偏食?」
「さっき、グリが食事はバランスが大事やー言うてたやろ?バランスが悪い、偏った食事の事を偏食っちゅうんや。」
「ビオくん。忙しいのは分かるけど、体調管理も大事な仕事だよ?」
「夜遅くに出かけて、朝方帰ってくるような人に言われたくないですね。」
「うっ…。」
ビオレータに言葉を返され、ヴィーズは短い呻き声をもらした。
「それで体調崩しとるんやから、流石に改めなあかんなぁ?」
「うぅ…。」
アルトゥンの言葉にも反論出来ず、彼は再び呻き声をあげる。
「み、みんな…!ヴィーズ様だって、色々と忙し…」
「色々って例えば?」
「えーっと…。」
アルトゥンの問いに、ルスケアは言葉に詰まった。
「無理に庇わなくて良い。ヴィーズが不真面目なのは、今に始まった事じゃない。」
「それはさっき散々聞かされたよ…。」
「それに懲りたら、もう少し真面目にお願いしますよ。」
ビオレータは手を合わせ、食事を終えて席を立った。そのまま私の後ろを通り過ぎ、食堂の扉を開く。
「相変わらず早食いやなぁ…。ほんまに栄養取れてるんやろか?」
「てめぇは食い過ぎだ。その量…身体のどこに吸収されてんだよ。」
「…早い悪い、多い良い?」
「悪くはねぇけど…度が過ぎるのは良くねぇな。」
「…どがすぎ?」
「いっぱい食べるのは良い事だけど、食べ過ぎるのは良くないって事だよ。」
「…難しい。」
「お前はいっぱい食え。ガキのくせに痩せ過ぎだ。」
「そうだね。これから僕達と色んな所に行く事になるだろうから、沢山食べて体力付けないと。」
「今度、俺と一緒にルームランナーで走り込みでもしよか!いつでも部屋に来てええからな?」
「…分かった。」
「ねぇアーちゃん。これも食べてみない?苦くないから美味しいと思うよ。」
「…食べる。」
賑やかな食事の時間はあっという間に過ぎていき、すっかり暗くなった部屋で1人、眠りについた。
しばらく眠った後、私は目を覚ました。部屋を出て、トイレのある方へ歩みを進める。
トイレを済ませて部屋に戻ろうとした時、窓の外に見える月が、細く鋭く尖っているのが見えた。
いつもよりも軽い足取りで階段を駆け下り、大きな扉を開けて外に出る。冷たい風が吹き付け、髪が大きく広がった。
「う、うわぁぁぁー!お化けぇぇぇー!」
遠くの方から叫び声が聞こえ、辺りを見渡す。
ローゼのような声が聞こえた気がしたが…彼の姿は、どこにも見当たらなかった。
私はそのまま部屋へ戻り、ベッドに横たわって再び瞼を閉じた。
「…グイ。」
「お?戻って来たか。」
すると、彼の側に立つアルトゥンの姿を見つけた。
「おかえりアスール~。風呂はどやった?」
「…ユオアスとビズ居た。」
「なんや…1人で入ったんちゃうんか…。」
「結果オーライだろ。危ねぇ事は、させねぇに越した事はねぇよ。」
「せやなぁ。あ、でも…今日は、アスール1人で買い出しに行ったんやってな?凄いやんアスール~。」
「…凄い。」
「自分で言うな。お前くらいのガキだったら、買い物くらい1人で出来るもんだぞ普通。」
「俺の妹やったら、無理そうやけどなぁ。あちこち目移りしてもーて、必要ないもんまで買ってきそうや。」
「そういや、お前が貰ってきたオレンジ…食ってみるか?」
「…食べる。」
「即答やな…!」
グリは後ろのテーブルから皿を手に取り、私の前へ差し出した。両手で包み込める程の大きさだった橙色のオレンジが、白い色の小さな粒に変化している。
「…オレンジ、白い…。」
「皮を剥いたからな。中は薄皮があるから白く見える。」
「…皮、剥いたのに皮…?」
「その白い皮はやらかいから、そのまま食べれるで。」
皿の上からオレンジを1粒つまみ上げ、アルトゥンは口の中へ放り込んだ。私も彼の真似をして、口の中へ放り込む。
噛んだ瞬間、オレンジの爽やかな香りが鼻を抜け、口の中が果汁でいっぱいになった。
「このオレンジ、ちょっと酸っぱいなぁ。」
「…すぱい?」
「酸味…は、どう説明したらええんや?」
「人間の舌で感じられる、味覚っていう奴の1つだ。味覚には5種類あって…酸味の他に、塩味、甘味、辛味、苦味がある。」
「…よく分からない。」
「全部食ってみた方がわかりやすいか…。これを舐めてみろ。」
グリは、白い粉が乗った小皿を差し出した。私はそれに舌を伸ばし、舐めてみる。すると、舌がピリピリするような感覚がした。
「それが塩味だ。んで、こっちは甘味。」
全く同じ見た目の白い粉を舐めると、今度は花の香りが鼻を抜けた時のような感覚がした。
「で、さっきのオレンジが酸味で、辛味は…大人になってからの方がいいな。」
「…辛味、食べれない?」
「食べれへん事も無いやろうけど…。ほら、俺等が食っとったカレーあるやろ?あれが辛味や。」
「…苦味は?」
「せやなぁ…苦味も大人の味やし…。」
「言っとくが、俺は何でも食わせるからな?食事は、バランスが大事だ。甘いもんばっかりでもダメだし、辛いもんばっかりでもダメだ。」
「…分からない。」
「グリが色んな料理作ってくれるやろうから、そのうち食べる事になると思うで。」
「…にしても、他の奴等は遅ぇな。あいつら、風呂で沈んでんじゃねぇだろうな?」
「ほんなら、俺が様子見てくるわ。アスールは、ルスケアを探しに行ってくれへん?」
「…分かった。」
「俺はビオレータの所に行ってみっか…。ったく…めんどくせぇな。」
こうして私達は調理場を離れ、騎士達を呼びに行く事になった。
階段を登り、ルスケアの部屋の扉を叩く。
「はーい。どうぞー?」
中から彼の声が聞こえ、扉を開いて中に入った。彼は椅子に座ってテーブルに向かい、何やら作業をしている。
「あれ?アスールくん…どうしたの?」
「…ご飯。」
「え?もうそんな時間?ごめんごめん。つい夢中になっちゃって…。」
「…むちゅー?」
「アロマを作ってたんだ。」
「…アロマ、作れる?」
「うん。蜜蝋っていう材料を溶かして、中に花びらとか香水とかを混ぜて固めるんだ。」
「…作る、見たい。」
「見るのは構わないけど…。まずはご飯を食べてからね?」
彼と共に部屋を出て、食堂へ向かう。すると、テーブルの上にはいつもより沢山の料理が並べられていた。
「お、来た来た!待っとったで~アスール。」
「…料理、沢山。」
「せやで~?今日は、アスールの歓迎会や!」
「…かんげーかい?」
「アスールくんが、私達の仲間になった事のお祝いだよ。」
「…おいわい?」
「細けぇ事はいいからさっさと座れ。」
ルスケアに椅子を引かれ、席に着いた。普段食堂で見かける事の無いビオレータや、いつも調理場にいて食事を共にする事の少ないグリの姿が新鮮に映る。
「…ロゼとジガ居ない。」
「あいつ等は仕事だ。城の警備もあって、全員が集まるのは難しいからな。」
「これでも揃った方だと思うよ?歓迎するには、ちょっと遅かったけどね。」
「話をするなら食べながらにしませんか?俺は忙しいんですよ。」
「では、俺から一言言わせてもらおう。」
ユオダスがその場に立ち上がり、水の入ったガラスを手に取った。
「ビエント騎士団へようこそ。これからも、お前の活躍に期待している。」
「乾杯~!」
ユオダスとヴィーズのガラスがぶつかり合い、甲高い音を立てる。騎士達が各々で食事を始め、隣に座るルスケアが、私に声をかけた。
「アスールくん。どれを食べてみたい?」
「…あれ。」
テーブルを見渡し、少し離れた所にある緑色の塊を指さした。
「いきなりピーマンを選ぶんか…チャレンジャーやな。」
「…ちゃれじゃー?」
「食べてみりゃわかるだろ。好き嫌いがねぇうちに、色んなもん食っとけ。」
ルスケアは私が選んだ料理をお皿に盛り付け、目の前に皿を置いた。
「…ピーマ。」
「ピーマンの肉詰めだね。」
フォークを使って1口の大きさに切り、口に含んだ。噛めば噛むほど渋みが口の中に広がっていき、私は思わず眉間に皺を寄せた。
「アスール…多分、それが苦味や。」
「…苦味、嫌…。」
「やはり子供は子供…という事ですか。」
向かいの席で食事をするビオレータが、私を見て口元を緩めた。
「そう言うビオレータだって、この間ピーマン残しとったやん。」
「に、苦手と言うだけで、食べられ無い訳ではありません!」
「てめぇは偏食過ぎんだよ。食えんなら食え。」
「仕方無いでしょう?食事をする時間が勿体無いんですから。」
「…偏食?」
「さっき、グリが食事はバランスが大事やー言うてたやろ?バランスが悪い、偏った食事の事を偏食っちゅうんや。」
「ビオくん。忙しいのは分かるけど、体調管理も大事な仕事だよ?」
「夜遅くに出かけて、朝方帰ってくるような人に言われたくないですね。」
「うっ…。」
ビオレータに言葉を返され、ヴィーズは短い呻き声をもらした。
「それで体調崩しとるんやから、流石に改めなあかんなぁ?」
「うぅ…。」
アルトゥンの言葉にも反論出来ず、彼は再び呻き声をあげる。
「み、みんな…!ヴィーズ様だって、色々と忙し…」
「色々って例えば?」
「えーっと…。」
アルトゥンの問いに、ルスケアは言葉に詰まった。
「無理に庇わなくて良い。ヴィーズが不真面目なのは、今に始まった事じゃない。」
「それはさっき散々聞かされたよ…。」
「それに懲りたら、もう少し真面目にお願いしますよ。」
ビオレータは手を合わせ、食事を終えて席を立った。そのまま私の後ろを通り過ぎ、食堂の扉を開く。
「相変わらず早食いやなぁ…。ほんまに栄養取れてるんやろか?」
「てめぇは食い過ぎだ。その量…身体のどこに吸収されてんだよ。」
「…早い悪い、多い良い?」
「悪くはねぇけど…度が過ぎるのは良くねぇな。」
「…どがすぎ?」
「いっぱい食べるのは良い事だけど、食べ過ぎるのは良くないって事だよ。」
「…難しい。」
「お前はいっぱい食え。ガキのくせに痩せ過ぎだ。」
「そうだね。これから僕達と色んな所に行く事になるだろうから、沢山食べて体力付けないと。」
「今度、俺と一緒にルームランナーで走り込みでもしよか!いつでも部屋に来てええからな?」
「…分かった。」
「ねぇアーちゃん。これも食べてみない?苦くないから美味しいと思うよ。」
「…食べる。」
賑やかな食事の時間はあっという間に過ぎていき、すっかり暗くなった部屋で1人、眠りについた。
しばらく眠った後、私は目を覚ました。部屋を出て、トイレのある方へ歩みを進める。
トイレを済ませて部屋に戻ろうとした時、窓の外に見える月が、細く鋭く尖っているのが見えた。
いつもよりも軽い足取りで階段を駆け下り、大きな扉を開けて外に出る。冷たい風が吹き付け、髪が大きく広がった。
「う、うわぁぁぁー!お化けぇぇぇー!」
遠くの方から叫び声が聞こえ、辺りを見渡す。
ローゼのような声が聞こえた気がしたが…彼の姿は、どこにも見当たらなかった。
私はそのまま部屋へ戻り、ベッドに横たわって再び瞼を閉じた。
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