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43 エピローグ②(終)※

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 アランは汚れた服を全部剥ぎ取って、自分も裸になった。恭弥をベッドに横たえると、全身にキスの雨を降らせていく。足先、ふくらはぎ、太もも、へそ、みぞおち。
 
「おいしそうになったね」

 出会ったころよりは健康的に肉の乗った肌に唇を沈めて、アランはささやく。
 
「ふあぁ」
 
 胸の先にかたちよい唇が降りると、恭弥はまた鳴いた。
 唇は顎から恭弥の唇へのぼる。
 アランの指が身体の下に回って、恭弥のうしろをローションで濡らしていく。
 
「恭弥くんのおまんこ、かわいい」
 
 愛され続けたそこは縦にひずんでいる。そのかたちをするすると撫でられ、女の陰唇のように変わってしまったことを理解させられる。
 
「うう、ぅ……」
 
 恭弥は恥ずかしさと快感で呻いた。
 少し指先で捏ねられるだけで、恭弥のうしろは柔らかくほどける。ぐちょぐちょと音を立てるそこはもう、完全にアランを受け入れるための場所だ。

「ほんとに生でいいの?」

 至近距離でじっと目を見つめられ、恭弥の思考はとろけていく。
 
「いい、です。はやく」

 アランのものを身体にいれることしか考えられない。
 恭弥は自分の腹に向いたアランの雄をそっと撫でた。いっぱいに張り詰めた肉色の先端が、じわりと蜜を浮かべた。
 力を失って小さくうなだれる恭弥のもののうえで、大きな影が揺れる。
 
「煽らないでって言ってんのに」

 アランはため息をついてみせた。
 
「脚ひらいて、ぼくに全部みせて」

 優しく命じられて、恭弥は膝の裏を自分で持った。恥ずかしい部分がひろがってアランの目の前に差し出される。
 
「いいこ」

 上げた膝の向こう側で、アランが目を細めている。
 何もまとっていない、アランの生々しい感触がうしろの溝に沿う。肉の棒は前後して、ローションをなまめかしく塗り広げていく。
 
「愛してるよ」

 恭弥は身体を震わせた。
 ぬぷぷ、と卑猥な音を立てて、アランのものがなかへぬめりこむ。
 
「んあぁ……ぁ、んああ」

 熱を帯びたアランの肌がじかに恭弥の粘膜を舐める。ひどくゆっくりと、蛇に似たかたちは恭弥の奥へもぐりこむ。
 裸の雄に犯されるのは、涙が出るほど気持ちよかった。

「気持ちいいの?」

 すすり泣きながら、恭弥はこくこくと頷いた。
 
「ぼくもだ。すごいね、これ」

 上げた脚をさらに押し上げて、アランは深く恭弥を貫いていく。
 
「ぁああっ」

 根元までねじ込まれて、恭弥は嬌声をあげる。さかさまになった恭弥の茎は力なく揺れ、残滓を恭弥の胸に散らした。
 
「いたくない?」

 恭弥は必死に首を横に振る。
 
「きもち、い……」
「そっかぁ。勃ってなくても、なかだけで気持ちよくなれるなんて、恭弥くんはすごいなぁ」

 そんな身体にしておいて、アランは綺麗な顔で笑った。
 
「大好き」
「おれ、も」

 アランは恭弥の手を脚から剥がして、正面から握りこむ。膝の下に腕が通っていて、どこにも逃げられない姿勢になる。
 本物のおもちゃみたいに、使われるしかない。そう思うと、恭弥はぞくぞくと興奮した。
 
「……っ、ああっ」
 
 剥き出しの雄が恭弥のなかをずるりと擦る。やけどしそうだと錯覚するほどの摩擦熱だ。
 
「かわいい。耳もほっぺも胸も、太ももの裏まで、真っ赤」
 
 腰骨が恭弥の尻をねっとりと押し上げ、ふたたび離れていく。
 じかに触れあった粘膜が擦れるたび、身体のほかの感覚が遠のいて、甘い痺れで身体がいっぱいになる。
 アランには何度となく抱かれてきたのに、こんな快感は知らない。今までのセックスは、全部この日のための前戯だった気さえした。
 
「ぁ、あっ、ん、んあぁあ」

 滲んだ視界の向こうで、アランが恭弥をじっと見下ろしている。
 
「たまんない」
 
 視線に焼かれて、恭弥の前は萎えたまま、透明な蜜をとろりと流した。蜜は恭弥の胸へゆっくりとつたっていく。
 
「わかる? 恭弥くんのなか、ぼくのかたちになっちゃってる」
 
 アランが優しく小突くと、恭弥の薄い腹にペニスのかたちの影が映る。
 
「ねえ、ぼくのしかいらない?」

 恭弥の好きな場所に先端を正確にあてながら、アランは尋ねる。奥がひどく痺れて、恭弥は頷くことしかできなかった。
 アラン以外なんて考えられない。そう言えたらよかったのに、喉から出るものは雌じみた喘ぎ声ばかりだ。
 
「よかった」
 
 アランはとん、と奥を叩いた。甘いごほうびをもらって、恭弥はつま先まで震えた。
 
「いきそうになったら抜くから」

 アランはそうささやいて、連続して恭弥のなかを叩いた。

「だ、め」

 恭弥は泣いた。
 
「ん?」

 雄の動きを繰り返しながら、アランは優しく訊き返した。

「ぬかない、で」

 そんないじわる、言わないで。
 
「いいの?」
「なかに、だして」

 アランの全部がほしくて仕方なかった。恭弥は泣きながらねだった。

「おれ、あんたの……おくさん、だから」
「――――君はほんとにかわいいなぁ」

 危険さを感じるほど、アランはうっとりとつぶやいた。

「……恭弥、くん、すき、すきだよ」
 
 アランは激しく恭弥のなかを穿った。ローションが泡立ち、粘膜どうしがこすれあって、ひどく卑猥な音を立てた。
 
「ぁああぁ、んぁ、ああぁあ」
 
 恭弥の肉壁が痙攣する。長い長い雌のオーガズムが恭弥の思考をさらって、何も考えられなくなる。
 
「ぼくの、恭弥くん……」

 太くかたい肉が凹凸を直接こすりあげる。
 
「あいしてる……」
 
 恭弥の好きな場所を知り抜いたそれが、しだいにがつがつと乱暴に突き上げる。
 
「はぁ、ぁは、ん、んむ」

 恭弥の唇がアランの唇に覆われる。
 ずん、とアランは腰を深く押し付ける。恭弥の視界が白で塗りつぶされる。
 
「……!!!」

 恭弥は甲高い悲鳴を上げた。
 アランが息を詰め、ぎりぎりと恭弥の手を握りこんでいる。
 どくん、どくん。熱いしぶきが恭弥の内側で跳ね返って、渦巻いている。
 
(あらん、さん……いってる……)
 
 そのことに気づくと、恭弥は甘い浮遊感にさらわれた。気持ちよくて、幸福で仕方なかった。
 
「ありがと、恭弥くん」

 唇をゆっくり離して、アランはとろりと笑った。
 
「もう少しこのままで、いい?」
「はい」

 アランは身体をつなげたまま、恭弥を抱きしめた。手が自由になった恭弥はそっとアランの髪を撫で、目を閉じた。
 
「なーごおぉぉ」

 幸福感に浸っていたふたりは、同時に顔を上げた。
 
「さちこさんが夜鳴きしてる」
「はあ。ぼく、もうちょっと恭弥くんを独占してたかったのに」
「どうせこれからはずっといっしょですよ」

 アランは幸せそうに笑った。
 
「うん」

 
 
「いいねぇ。おそろい」

 三か月後、アトリエのカウンターで手を並べ、できあがった指輪を眺めてアランはにやにやと笑った。
 
「結婚指輪がおそろいじゃなかったらまずいっすね」 
 
 恭弥の骨ばった手のとなりでは、アランの指の長さや優美さが目立って、なんだか悔しい。
 
「いいお店を教えてもらいました」

 男どうしでも何も言わず、シンプルで邪魔にならない指輪を仕立ててくれたので、恭弥はほっとしていた。

「サボ、センスだけは悪くないからね。でも、ぼくはもっと高いとこでもよかったんだぞ」

 店の人に聞こえないように、アランはぶつぶつと言った。

「お金は大事に使いましょう」
「はーい」

 最近のアランは素直に恭弥の言うことを聞くようになった。「奥さんには逆らわない」というのが、アランとサボ共通の口癖だ。
 
 法律的なことは、弁護士であるアランの伯父に頼んだ。伯父は霜山家の人ではなく、苦労人のようだった。アランの相談にもビジネスとしてきちんと対応してくれた。
 伯父経由で、霜山家にもアランが男のパートナーと『結婚』したことはつたわった。だがさいわい家族は会社の内紛で忙しかったようで、はっきりと反対してくる人はいなかった。
 
「まあ、歓迎はされてないんでしょうね」

 伯父との面会のあと、さちこさんを抱っこしながら恭弥は苦笑した。
 さちこさんは真顔でごろごろと甘えている。日に日に甘えん坊が深刻化している気がする。

「それはぼくも同じだよ。でもあの人たちより確実に幸せだから、ぼくらの勝ち」
 
 アランはネット記事を恭弥に見せた。
 
「ね?」
 
 アランの姉が頼った外資系企業は、持ち分をさっさとよそに売り飛ばしてしまったらしい。お家騒動は泥沼になりつつあった。
 
「たしかに大変そう」
「そっちのお母さんは、どうするの。あいさつに行った方がいい?」
「はがきを送りました。結婚したとだけ」

 相手が誰かも、今どこに住んでいるかも、詳しいことはすべて伏せた。

「あいさつはいりません。亜蘭さんのことを知ったら、母がお金目当てに近づいてくるのは見えてるんで。迷惑かけたくないです」
 
 アランはさちこさんごと、恭弥を抱きしめた。
 
「幸せになろうねぇ」
「もうなってますって」
 
 恭弥は部屋を見渡した。
 
「見てくださいよ」
 
 猫たちがキャットタワーやら爪とぎやら箱の中やら、好きな場所で食後を楽しんでいる。
 ルディは床に座り、しっぽをうねらせて子猫と遊んでやっている。
 ボンは雄の保護猫とキャットタワーの頂上をめぐって、ぽかぽかと殴り合いのけんかをしている。よく見るとどちらも腰がひけている。
 
「ほらそこ、けんかしないの。ボン、めっ」
「うぉっ」
 
 恭弥の胸を蹴って、どすんと女王が床に下りる。ふさふさとしたしっぽを揺らして、白猫は堂々と部屋を去っていく。部屋がにぎやかすぎるらしい。
 恭弥とアランは顔を見合わせ、くすっと笑った。
 
「すごい。見渡すかぎり、かわいいものしかいない」
「でしょう」
「君を含めて、ね」
「俺も亜蘭さんを含んでます」
「ぼくはね、かわいいんじゃなくてかっこいいの」
「はいはい」

 アランは少し真面目になって、恭弥の髪を撫でた。薬指に銀色が光っている。

「あの日、君に出会えてほんとによかった」
「俺もです」
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