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25 帰ってからが大変だった※ (おわり)

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 呼応するように、俺の息も浅く早くなっていく。
 
「は、ぁ、っ、はぁ……」

 息を吸うたびにアルファのフェロモンが肺に満ちていく。サノユーのにおいに染められて、全身の神経がぶわりと敏感になる。
 サノユーの吐息さえ、肌に触れた途端に性感に変わって、俺を追いつめる。
 こわい。だがそう思う理性が、フェロモンの力で無理やり奪われていく。
 このにおいは媚薬だ。雌を無力にし、抵抗を奪い、孕ませるための、媚薬。
 
「僕の……オメガ……」
 
 震えるサノユーの手が、俺の手足を拘束する。もう優しさは感じられない。痕になりそうな乱暴さで、俺の手首を握りしめている。
 ずん。サノユーは強く腰を打ちつける。
 
「あぁ゛……!!」
 
 俺は悲鳴をあげた。今までとはまるで違う。身体のつくりが根本から変わっていく。
 あまりに快楽が圧倒的で、自分に男のものがついていることを忘れてしまう。
 俺は雌だ。うしろで感じるのが当然だ。
 俺はこうやって、アルファのもので突かれるために生まれてきた存在だ。
 
「ねえ、朝くん、わかる? ほら、濡れてるよ……もうびしょびしょ」

 サノユーの手が無遠慮に俺の尻をなぞる。ぐちゃりと濡れた音が鳴る。ローションとは違う、薄いとろみがサノユーの手を汚していく。

「もう、お前のここ、おんなのこだ」

 ぐちゅん。俺に理解させるように、サノユーは大きく突き入れた。

「ほら、おんなのこの音。ね?」 
「んあぁあああ……っ」

 俺はべしょべしょに泣いていた。
 気持ちよくてたまらない。
 サノユーの大きなもので中を擦られること以上の幸福なんて、この世界にあるんだろうか。
 
「お前がどんなに後悔したって、もうベータのおとこのこには戻れない」

 俺は一生懸命首を横に振った。
 戻りたくない。
 
「オメガ、で、い……さのゆ、の、オメガが、いい」

 必死に言うと、サノユーは息苦しそうに笑った。

「かわいそうな朝くん。ここがねぇ、おんなのこのお豆になっちゃったんだよ? それでもいいの?」

 サノユーの指が、びん、と俺の先端をはじいてくる。
 鋭い快楽がうしろへ響いた。
 中の感覚を高めるための、小さなおまけ。指で弄ってもらうと濡れてしまうもの。そう理解させられている。
 それでいい。

「い、いい、いい」
「そっかぁ」

 サノユーはうれしそうに言って、腰を波打たせる。ずるりと内壁を擦られて、俺はすすり泣くことしかできない。

「すごいよ、おっぱいの先っぽ、腫れちゃってぷるんぷるん。貧乳のおんなのこみたい。もう人には見せられないねぇ、オメガの胸は恥ずかしいとこだから。アルファに襲われても文句言えなくなっちゃうんだよ?」

 サノユーは胸の先をつまんでみせる。指の間で弄ばれて、粒はじんじんと痺れた。

「や゛ぁあ」

 サノユー以外なんていやだ。俺はぐずぐずと首を横に振る。 
 サノユーは呆れたように微笑んで、奥を叩く。
 
「こんなにされちゃって。それでも僕が好きなの?」

 俺は必死に頷いた。
 捨てないで。俺をこんなにしておいて、行ってしまわないで。
 俺の心を読んだのか、サノユーはうっとりと目を細めた。

「なら、責任とってあげるね。一生、僕が面倒見てあげる。お前は僕の番(つがい)になるんだ」

 もうろうとしながら、俺はふわふわと笑った。
 つがい。いらないベータじゃなくて、つがい。

「朝くん何にも知らないから、いろいろ教えてあげる。番になったらねぇ、僕がラットのときはいっしょにお休みして、僕が満足するまで僕に犯されなくちゃいけない。番の義務だから」

 楽しみだなぁ、と言って、サノユーは奥をどちゅ、と突いた。
 
「んなあああ」
「それに、発情はオメガのお前にも来る。僕がほしくてほしくて、僕のおっきいののことしか考えられなくなって、ふつうの生活なんて送れなくなる。それがオメガ」

 俺はぼんやりとサノユーの優しい声を聴いていた。気持ちよさが容量をオーバーして、頭が馬鹿になっていた。

「はあーっ……はー……」
「僕の花嫁さん。そのにおい、発情してるよね?」

 わからない。知らない。
 俺にわかるのは、気が狂いそうに気持ちいいことと、サノユーが好きなことだけだった。

「そっか、初めてだもんね。わかんないよね」

 腹の奥が何かを渇望して、媚びるようにうねる。
 ここに、ほしい。死ぬほどほしい。
 
「いいにおい、たまんない……いくらでもだせちゃいそ」 

 サノユーは俺の頭を抱え込むと、がつがつと早く動き始める。
 いつもより滑りがよくて、熱が猛烈に中を渦巻いて、嵐のようだった。
 
「元ベータって妊娠できるのかなぁ? お前のこと、孕ませてみたいな、でも赤ちゃんに関心をとられるのは悔しい」 

 熱くてたっぷりの体液を、奥に浴びせかけられたい。オメガの本能に駆られて、俺は身体を震わせた。
 
「朝くんさえいれば、どっちでもいいや」

 無理やり上を向かされる。俺のうなじがサノユーにさらされた。

「一生、いっしょだよ」

 サノユーの唇が首筋に吸い付く。
 次の瞬間、ぷつりという音とともに、感じたことのない鋭い快楽が身体を駆け抜けた。
 サノユーの犬歯が、俺の肌を破っていた。
 俺の知らない甘いにおいが傷口から噴き出す。
 
「あ゛ああああ!!!!」

 腹の中にどぷどぷと大量の白濁を注がれて、俺は絶頂した。
 
 
 
 
 ぼんやりとした意識の中で、サノユーのよそゆきの声を聴いている。
 
「すみません、水上朝の家族の者ですが、今日は体調不良により業務をお休みさせていただきたく……」

 俺の口はサノユーの左手でふさがれている。

「はい。ありがとうございます、上司の方によろしくお伝えください。失礼いたします」

 見えない相手に頭を下げてから、サノユーは通話を切ってスマートフォンを放り投げた。
 声ががらりと欲まみれになる。
 
「電話、終わったよ。花嫁さん。これで今日はずっと独占できる、ね」
 
 ね、と言うのと同時に、サノユーはぱん、と俺の奥を叩いて動きを再開した。
 電話をかけている間、サノユーは俺を貫いたままだった。サノユーが言うには、アルファとオメガだと、よくあることなのだそうだ。
 本当かどうかは知らない。
 馬鹿になった頭では、もうどうでもいい。
 
「ふぁああっ、ぁあ、ああ」
 
 一生懸命こらえていた喘ぎが口からとめどもなく溢れだした。
 気持ちよくて、苦しくて涙が出た。

「声、我慢してて偉かったねぇ。電話の間じゅう、ずっと僕のおっきいのを突っ込まれてたってばれたら、仮病だって怒られちゃう」

 ぱちゅん、と腰を打ちつけて、サノユーは笑う。

「いや、仮病じゃないか。身体がおかしいのは嘘じゃないもんねぇ」

 いとおしそうに俺を撫でて、サノユーは俺を揺さぶり続ける。

「会社の人、びっくりするだろうな。朝くんがオメガにされちゃったって聞いたら。きっとちょっとは想像しちゃうね、朝くんがお尻を差し出して、めちゃくちゃにされてるとこ。恥ずかしいねぇ? 僕のオメガさん」
 
 恥ずかしい。だが、うれしい。もうベータじゃない。サノユーのオメガだ。
 
「婚姻届、もらっといてよかったぁ。あとでハンコついて出そうね?」

 俺は幸せだった。一瞬たりとも俺を手放そうとしないサノユーは多少異常な気もしたが、たいしたことではない。



 ちなみに戸籍の性別がベータのまま変わっていなかったので、婚姻届は受理されるまで半年かかった。
 ともかく、こうして俺は世界で四番目、日本で二番目のオメガ転化成功例となり、俺とサノユーは幸福なカップルとなった。
 寝室を圧迫していた俺のベッドは完全に不要となったので、めでたく粗大ごみの日に回収されていった。
 
「お、おめでとう、ございます……?」
 
 結婚を報告したとき、桜田さんもたぬきちゃんも、ひきつった笑いを浮かべていた。世界一美しい花嫁となった俺がうらやましかったに違いない。
 もちろん両親は結婚の報告に大喜びしていた。佐野家の方も、俺の人品骨柄には文句がつけられなかったらしく、とくに反対はしてこなかった。
 新郎新郎ともどもタキシードを着こみ、結婚式は盛大に行われた。大学時代の悪友たちも勢ぞろいして俺を冷やかした。「きれいだぞサノアサ」という、最高に俺にふさわしい掛け声を浴びながら、俺はサノユーと腕を組んで教会を出た。
 ハネムーンは奮発して海外にした。
 が、サノユーが出発早々にラットを起こしてしまったため、正直ホテルで抱かれていた記憶しかない。パリもロンドンもさっぱり覚えていない。
 
「これなら高円寺でよかっただろ」

 帰りの飛行機で、俺は文句を言った。
 
「生理現象だから仕方ないんだよ、ごめんね。またお金貯めて来よう」
「お前の場合、次もなりそうなんだよな……」
「でも、嫌じゃなかったでしょ?」

 手をつながれて、思わず赤くなった。

「う、うん……」
 
 困ったことに、抱かれれば抱かれるほど、サノユーが好きになっていってしまう。
 オメガの本能のせいだと諦めて、俺は俯いて手を握り返した。
 
「待って。僕のおよめさん、かわいすぎ」

 サノユーは照れはじめた。俺は危険を察知した。

「お、おい、頼むからここでさかるなよ、狭いんだぞ、10時間耐えてくれ」
「つらいよぉ」

 はた迷惑なアルファと麗しい花嫁を乗せ、飛行機は青空を割っていく。
                                         


 
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