40 / 79
第三節 忘却の街7
しおりを挟む
そんな彼女に気付いているのかいないのか、ジェスターは、再び、異形の緑の眼差しを朽ち果てた街の遺跡に戻すと、鮮やかな朱の衣を翻し、ゆっくりとその足を古の街の遺跡へと向けたのだった。
「・・・・・着いて来い」
「何をするのです?」
「来ればわかる」
怪訝そうな顔つきをするリーヤが、緋色のマントと紺碧色の巻き髪を砂混じりの風に揺らして、背鞘に金色の大剣を負ったジェスターの朱の衣を足早に追いかけていく。
足元に絡みつく象牙色の砂を蹴りながら、朽ち果てた街の遺跡に足を踏み入れると、魔法を司る者ではないリーヤティアにも、得体の知れぬ奇妙で不思議な気配が、その体に確実に触れてきた。
足元の砂から沸き立つように吹き上がる、熱くもあり冷たくもあり、神々しくも禍々しい、優しくも険しい、相反する二つの得体の知れぬ何かが、彼女のしなやかな四肢を撫でるように通り過ぎていく。
「・・・・一体、何なのです・・・?この地のこの奇妙な・・・・」
綺麗な眉を眉間に寄せ、どこか鋭い視線でジェスターの背中を見つめたまま、リーヤティアは彼に聞いた。
しかし、そんな彼女に振り返る事もなく、いつもなら、またあの無粋な口調で何かを言っていよう彼が、低めた声で淡々として言うのである。
「これがこの地に蓄えられたアーシェの力だ・・・・・・お前、自分の身は自分で守ると言ったな?」
「言いました」
「その言葉、忘れるなよ」
「・・・・・どういう意味です?貴方は、一体何が言いたいのですか?」
「すぐにわかる・・・・・」
そう言った彼の片手が、ふと、朱の衣を纏う左胸を押さえた。
砂混じりの風に揺れる見事な栗毛の髪の下で、焼け付くような苦痛にしかめられたその表情を、リーヤからは伺い知ることは出来ない。
そんな素振りも、彼は一切彼女には見せない。
大きく肩で息をついて、燃えるような鮮やかな緑玉の瞳を細めると、彼は、砂に埋もれ、荒れ果てた街の丁度中心に位置する場所にある、神殿であった場所へと足を踏み入れたのだった。
かつては、荘厳(そうごん)で豪華であっただろう朽ち果てたアーシェの神殿は、今やその石作りの天井すら抜け落ち、ただ、瓦礫と砂に埋もれた廃墟と化していた。
だが、象牙色の砂に覆われ、崩れそうな数本の柱が残るだけの石の床に、たった一箇所だけ、砂に侵食されていない奇妙な場所があった。
その傍らに立ち、リーヤは、そこに刻まれている紋章を目にして、秀麗な顔を怪訝そうな表情に歪めたのである。
砂の侵食を拒むような白い床に刻まれた、その炎を纏う獅子の紋章は、呪われた一族と歴史書に名を残すアーシェ一族の紋章に相違ない・・・・。
彼女は、晴れ渡る空の色を宿した両眼を、ふと、隣に立っているジェスターの端正な横顔に向けた。
ロータスの一族と並び、膨大な魔力を司る大魔法使い(ラージ・ウァスラム)を生み出したアーシェの一族は、400年前、一族から反逆者を出したがために、この地を棄てざるを得なかった・・・。
鋭い無表情をしたまま無言で、炎の獅子の紋章を見つめている彼の顔を、殊更怪訝そうに覗き込みながら、リーヤは何かを言おうと桜色の唇を開きかけた。
その時、ふと、そんな彼の右の掌(てのひら)が、紋章の上へとかざされたのである。
とたん、そこに刻まれた紋章が、にわかに朱(あか)く眩い閃光を放ち、轟音と共にゆるやかに振動すると、アーシェ一族のその首長の血族にしか開くの出来ない神殿の隠し扉が、白い石の床を滑るようにゆっくりと左右に開いたのである。
「これは・・・・・!?」
驚愕したように、紺碧色の両目を大きく見開いたリーヤの目の前を、朱の衣がゆっくりと通り過ぎていく。
太陽の光に金色に輝く見事な栗毛の髪が、荒野を渡る風に乱舞した。
「・・・・・着いて来い」
「何をするのです?」
「来ればわかる」
怪訝そうな顔つきをするリーヤが、緋色のマントと紺碧色の巻き髪を砂混じりの風に揺らして、背鞘に金色の大剣を負ったジェスターの朱の衣を足早に追いかけていく。
足元に絡みつく象牙色の砂を蹴りながら、朽ち果てた街の遺跡に足を踏み入れると、魔法を司る者ではないリーヤティアにも、得体の知れぬ奇妙で不思議な気配が、その体に確実に触れてきた。
足元の砂から沸き立つように吹き上がる、熱くもあり冷たくもあり、神々しくも禍々しい、優しくも険しい、相反する二つの得体の知れぬ何かが、彼女のしなやかな四肢を撫でるように通り過ぎていく。
「・・・・一体、何なのです・・・?この地のこの奇妙な・・・・」
綺麗な眉を眉間に寄せ、どこか鋭い視線でジェスターの背中を見つめたまま、リーヤティアは彼に聞いた。
しかし、そんな彼女に振り返る事もなく、いつもなら、またあの無粋な口調で何かを言っていよう彼が、低めた声で淡々として言うのである。
「これがこの地に蓄えられたアーシェの力だ・・・・・・お前、自分の身は自分で守ると言ったな?」
「言いました」
「その言葉、忘れるなよ」
「・・・・・どういう意味です?貴方は、一体何が言いたいのですか?」
「すぐにわかる・・・・・」
そう言った彼の片手が、ふと、朱の衣を纏う左胸を押さえた。
砂混じりの風に揺れる見事な栗毛の髪の下で、焼け付くような苦痛にしかめられたその表情を、リーヤからは伺い知ることは出来ない。
そんな素振りも、彼は一切彼女には見せない。
大きく肩で息をついて、燃えるような鮮やかな緑玉の瞳を細めると、彼は、砂に埋もれ、荒れ果てた街の丁度中心に位置する場所にある、神殿であった場所へと足を踏み入れたのだった。
かつては、荘厳(そうごん)で豪華であっただろう朽ち果てたアーシェの神殿は、今やその石作りの天井すら抜け落ち、ただ、瓦礫と砂に埋もれた廃墟と化していた。
だが、象牙色の砂に覆われ、崩れそうな数本の柱が残るだけの石の床に、たった一箇所だけ、砂に侵食されていない奇妙な場所があった。
その傍らに立ち、リーヤは、そこに刻まれている紋章を目にして、秀麗な顔を怪訝そうな表情に歪めたのである。
砂の侵食を拒むような白い床に刻まれた、その炎を纏う獅子の紋章は、呪われた一族と歴史書に名を残すアーシェ一族の紋章に相違ない・・・・。
彼女は、晴れ渡る空の色を宿した両眼を、ふと、隣に立っているジェスターの端正な横顔に向けた。
ロータスの一族と並び、膨大な魔力を司る大魔法使い(ラージ・ウァスラム)を生み出したアーシェの一族は、400年前、一族から反逆者を出したがために、この地を棄てざるを得なかった・・・。
鋭い無表情をしたまま無言で、炎の獅子の紋章を見つめている彼の顔を、殊更怪訝そうに覗き込みながら、リーヤは何かを言おうと桜色の唇を開きかけた。
その時、ふと、そんな彼の右の掌(てのひら)が、紋章の上へとかざされたのである。
とたん、そこに刻まれた紋章が、にわかに朱(あか)く眩い閃光を放ち、轟音と共にゆるやかに振動すると、アーシェ一族のその首長の血族にしか開くの出来ない神殿の隠し扉が、白い石の床を滑るようにゆっくりと左右に開いたのである。
「これは・・・・・!?」
驚愕したように、紺碧色の両目を大きく見開いたリーヤの目の前を、朱の衣がゆっくりと通り過ぎていく。
太陽の光に金色に輝く見事な栗毛の髪が、荒野を渡る風に乱舞した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第二章】
坂田 零
ファンタジー
大大陸シァル・ユリジアン。
その大国リタ・メタリカは、古の呪いにより蘇ったラグナ・ゼラキエルの脅威に晒されていた。
国の各地で魔物が出現し次々と街を壊滅させていく中、【鍵】とよばれる王女リーヤティアはアーシェ一族最後の魔法剣士ジェスター・ディグと共にエトワーム・オリアの町を目指す。
にわかに暗黒竜の襲撃を受けた銀の森の守護騎士シルバ・ガイと青珠の守り手レダ。
ラレンシェイと取り戻そうとするスターレットは父の逆鱗に触れ封魔の塔に幽閉されてしまう。
魔王と呼ばれる魔法使いを封じるため、強者(つわもの)たちが織り成す幻想抒情詩第二章。
※この作品は、ラノベ系の設定でも文章でもありません。
徹底的に設定を練った活字が好きな人間が活字好きな人向けに書いた本格ファンタジー作品となっています。
異世界転生、チート、ギルド、魔法学院、ステ振り等の設定は皆無であり、今現在主流とされていそうな設定は一切使われていませんのでご了承ください。
そのあたりOkな方は是非ご覧ください。
オーソドックスな魔王退治ものでは多分ないです。
神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第三章】
坂田 零
ファンタジー
魔物達の襲撃に揺れる大国リタ・メタリカを、虎視眈々と狙うサングタール王国。
敵国を迎え撃つため、内海アスハーナへ向かう強者達。
その途中に立ち寄ったタルーファの町は、にわかに闇の魔物の襲撃を受け壊滅状態に陥ってしまう。
ジェスター・ディグが背負う重き運命に気づき始めるリーヤティア。
シルバ・ガイに愛しさを覚え始めるレダ。
そして、邪眼のレイノーラの憑とされたラレンシェイをスターレットは救えるのか。
それぞれが背負う運命と思いが複雑に交錯する幻想抒情詩第三章。
※この作品は活字が好きな人間が、活字を読むことが好きな人向けに書いている本格ファンタジーです。
異世界転生、ギルド、チート、ステ振り等、最近主流と思われる設定は何一つ採用していませんのでご了承ください。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ランク外の最弱職スマホマスターが実は最強だった話。
飛燕 つばさ
ファンタジー
この世界では、成人を迎えるとジョブを授かる。戦士や魔法使い。上位ジョブでは、剣聖や賢者も存在する。
主人公のヒビキは、これまで聞いたことのないジョブである『スマホマスター』のジョブを手にする。スマホマスターは謎が多いため、ランク外の最弱職と呼ばれていた。希望を持って王都までやって来たヒビキは、この事実に絶望する。
しかし、このスマホマスターは謎に包まれていただけで、実際には強力な能力を秘めていたのであった。ヒビキは、スマホマスターの能力で戦姫と呼ばれる強力なゲームキャラクターを顕現させて戦わせたり、それ以外の素晴らしい能力に目覚めていく…。
深淵に眠る十字架
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
悪魔祓いになることを運命付けられた少年がその運命に逆らった時、歯車は軋み始めた…
※※この作品は、由海様とのリレー小説です。
表紙画も由海様の描かれたものです。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる