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第二節 白銀の守り手 青珠(せいじゅ)の守り手9

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 確かに、彼の言う通り、そのような土地の名前を彼女は聞いたことも無い。しかし、それより何より、彼のその無粋な言いようが彼女は気に入らないのだ。
 一国の王の娘として、多くの家臣や侍女に囲まれて生活していた彼女は、生まれてこの方、こんな無礼な言葉で話されたことなど一度もない。

「その言葉使いを改めなさい!ジェスター!私はリタ・メタリカの王女ですよ!」

 そんな彼女の言葉に、ジェスターは呆れたように広い肩でため息をつくと、その凛々しく端正な顔を実に不愉快そうに歪めたのだった。

「はぁ?馬鹿かお前は?言っただろ、俺にはお前がリタ・メタリカの王女だろうがなんだろうが関係ないと?言葉なんか通じりゃいいんだよ!」

「私は言葉使いを改めなさいと言っているのです!私に向かって馬鹿とはなんですか!?」

 リーヤの綺麗な眉がますます吊り上がる。
 しかし、ジェスターはそんなことなど全くお構いなしの様子で、ムキになる彼女を、相変わらずの不愉快そうな視線で見やるのだった。

「言葉の通りだよ!嫌だ嫌だ、鼻っぱしらが強いだけの世間知らずな姫君なんて・・・・お前が【鍵】じゃなければ、このまま此処に放り出していくところだ」

「なんなのですその言いようは!?貴方は、それで本当にスターレットの友なのですか!?」

「あぁそうだよ!悪いか?それが嫌なら城へ帰れよ?」

「誰が帰りますか!スターレットに逢うまでは絶対に城になど戻りません!」

 城を出て数日、彼との会話は常にこんな調子だ。
 全く自分に忠誠を見せない彼は、リーヤにとって正に異質の存在であった。
 今の今まで、少なくともこのような無礼な人物に彼女は出会ったことがない。

 空の色をそのまま映し出したようなリーヤの紺碧の瞳が、傍らで騎馬を駆るジェスターの横顔をぎろりと睨みつけた。
 その時、青く高い空の彼方で、西から渡る風が大きく唸りを上げた。
 疾走する騎馬の右舷に、霞むように見えてくる、連なる山々の蒼い影。

 ジェスターの燃えるような緑玉の両眼が、一瞬、何かに気付いたように見開かれた。
 風の精霊が伝えてくる、実に懐かしい人物の、鋭利だが、その中にどこかしらの穏やかさを含む沈着な気配。
 それと同じ気配を持つ人物など、彼の記憶の中にはたった一人しかいない。

 それは、雷(いかずち)の気質と言われ、ロータスやアーシェの血筋でもないのに、補助呪文も無しに魔法を使いこなし、『竜狩人(ドラグン・モルデ)』の強力な呪文さえ扱う事のできる人物であるはず・・・・・。
 ジェスターの持つ緑玉の視線が、不意に、遠く霞む山脈カルダタスの方へ向いた。

「・・・・あいつが、居る・・・・・?」

 独り言のようにそう呟いたジェスターの凛々しく端正な顔を、怪訝そうな顔つきでリーヤが見る。

「何を言っているのです?貴方は?」

「・・・古い知り合いが近くにいる」

「スターレットですか!?」

「いや・・・・これは、スターレットのあの気障な気配じゃなく、白銀の守護騎士の気配だ」

 彼は、そう答えて言うと、凛とした唇でどこか愉快そうに、しかしどこか穏やかに小さく微笑ったのだった。
 遠く霞むカルダタスの蒼い峰の方向から、風の精霊が伝え来る懐かしいその気配。
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