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第三節 混迷の暁に騒乱はいずる3

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 緩やかに晴れていく朝もやの中に、掌にある遺跡の欠片が放つ金色の光が、ある一点をだけ指し示して、一直線に伸びている。
 踏みしめる大地に緑は無く、あの夜、灼熱の業火に焼き尽くされた惨劇の地は、今尚、その痕跡を止めているかのようだった。

 黒く変色した地表。
 ほんの僅かな土台を残すだけになった、焼け爛れた家屋の群れ。

 かつて、そこに住んでいた人間達の骸は、恐らく、骨も残らぬほどに燃やし尽くされてしまったのだろう・・・・

 荒れ果てて、いまや、ほんの僅かな生き物の命の気配すらないその地に、ロータスの大魔法使いの微かな足音だけが、切り立つ岩肌にこだましながら響いていく。

 緩やかに流れ行く白い靄の中に、音も無く伸びる金色の光の帯。
 その掌に握られた破片が示す場所は、惨劇の地の一番奥にある、かつては、アーシェ一族の長が住んでいただろう場所の向こう側である。

 甲高い悲鳴を上げながら、山脈の谷間を吹き抜ける風に、ロータスの雅な大魔法使いスターレットの持つ、輝くような蒼銀の髪が乱舞する。

 遺跡の欠片が示すその場所を、綺麗な銀水色の眼差しで鋭く見つめすえながら、蒼きローブの長い裾を流れるように揺らして、彼は、ゆっくりと、光の帯の先へと近づいていく。

 足場の悪い岩場を軽く飛び越えるようにして、微かな足音を響かせながら、白い靄の立ち込める大地を進んでいくと・・・・

 そこに、まるで、鑿で削られたかのように垂直に切り立つ、焼け爛れた漆黒の岩盤が姿を現したのだった。

 頭上に切り立つ絶壁の合間に、白く棚引く朝もや。
 金色の光が指し示すその場所には、どす黒く変色して微かにしか見ることはできないが、明らかに、何かの紋章と思しき物が大きく刻まれていたのである。

 その時、真っ直ぐにそれを指し示していた金色の閃光が、弾けるように四散して、天空に燦然と輝く太陽のような、目も眩むばかりの眩い光を解き放ったのである。

 弾けるように伸び上がる光の海が、朝もやで白く曇ったその虚空に、まるで打ち寄せる波が如く一杯に広がっていく。
 その余りの煌きに、スターレットは思わず、片手でその秀麗な顔をかばった。

 たゆたうように揺れる蒼銀の髪と、地面の上を流れるようにして棚引く蒼きローブ。
 辺りを支配した金色の輝きが、僅かにその規模を狭めた時だった、腕の隙間から覗く彼の銀水色の瞳に飛び込んできたもの・・・・

 それは、黒き岩肌に輝きながら浮かび上がった、あのレスタラス山の山頂で見たものと同じ、金色の鷹の紋章だったのである。

「これは・・・・・此処が、『箱庭』の入り口だと・・・・そう言うことか?」

 眩いばかりの光の中で、スターレットは、その銀水色の瞳を鋭く細めると、思わず、そんなことを呟いた。

 金色の鷹の紋章。

 それは、かつて、レスタラス山の山頂で闇の魔物を孤高のうちに封じていた、あの美しい妖精の女王を指し示す紋章である。

 彼は、ゆっくりと顔をかばう腕を退け、頭上の岩盤に浮かび上がるその紋章を凝視した。
 揺れる蒼銀の前髪の下から覗く銀水色の瞳が、にわかに禍々しくも神々しい深紅の色に変わり果てる。

 蒼きローブを舞い上げて、突然その場に巻き起こった風が、彼の肢体を包み込んだ・・・・

 正に、その次の瞬間だった。
 魔法を司る者の頂点を極める鋭敏なその感覚に、覚えのある何者かが、不意に西へと動く気配が触ったのである。

「!?」

 蒼きローブを羽織る広い肩をハッと揺らすと、スターレットは、その秀麗で雅な顔を鋭く歪めて、何かに気付いたように、白く煙る天空を咄嗟に見やったのだった。

 彼の感覚に触れるのは、それだけではない、もう一つ、とは違う別の邪な気配が、やはり西に向かって急速に移動している。
闇の者どもが、何かを企んでいる・・・・・
一瞬にしてそれを悟ったスターレットは、一度、岩盤に浮かび上がった、金色の大鷹の紋章を顧みると、どこか後ろ髪を引かれるようにその視線を細め、再び西の空へと深紅の眼差しを向けたのだった。
いずれ、この地には再び足を踏み入れることになるのだろう・・・・
びゅうんと鋭い唸り声を上げて、巻き起こった蒼き疾風が、ロータスの雅な大魔法使いの姿を、三度その場から掻き消していった・・・・

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