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第一節 鋼色の空6
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気強いレダの眼差しが、まるでごまかすようにそんな一手に出たシルバの端正で精悍な顔を鋭く見た。
鮮やかな紅色の瞳の中で、彼は、その凛々しい唇だけで困ったように小さく笑う。
ブーツの踵が黒馬の腹を蹴ると、高く騎馬が、軽快な蹄の音を白樺の木々の合間に響かせて、ルード街道へと疾走していく。
鞍上に、横に座った姿勢のレダが落馬しないよう、さりげなく二の腕をその背中にあてがって、手綱を取る彼の澄んだ紫水晶の隻眼が、真っ直ぐに騎馬の疾走する先を見つめすえていた。
元来、さして饒舌ではない彼が、その場を凌ぐために取った苦肉の策が、功を奏したのか奏さなかったのか・・・・
頬の辺りに、彼女の視線が痛いように突き刺さってはいるものの、取り敢えず、その口は塞げたようだ・・・
こんな所で、『この体は魔力に侵されていつ果てるかもしれない、あれはその発作のようなものだ・・・』と言ったところで、彼の生死など、彼女には何ら関係のない事の筈だ。
なんと言っても、自分は、彼女の父の仇であり、彼女の人生を波乱なものに変えてしまった張本人なのだから・・・・
そんな事を思っていたシルバの聴覚に、高く鳴ると疾風の唸声に混じり、実に不機嫌そうなレダの声が飛び込んできたのである。
「本当に・・・・どうしようもない人ね?貴方は?」
その言葉に、紫水晶の隻眼を真っ直ぐ前に向けたまま、彼は嫌味ではなく答えて言った。
「反論はしないよ」
「・・・・・・私、貴方のことをまだ恨んでるわ」
「君の恨みが晴れたなんて、思ってはいないさ」
「恨んではいるけど・・・・貴方がどういう人なのか、何故父を殺したのか、全部理解した・・・・・・・
だから・・・だから、私」
まるで拗ねた子供のような顔つきをして、桜色の唇を尖らせるレダの秀麗な顔を、彼の紫水晶の右目が、ちらりとだけ不思議そうに見やる。
「・・・・・・・・?」
騎馬の蹄が地面を蹴る度、彼の視界の中で、彼女の藍に輝く黒髪が弾むように揺れていた。
彼女は、少しだけ躊躇ったように紅の瞳で虚空を見ると、風に飛ばされそうな程微かな声で言ったのである。
「・・・・心配・・・したのよ・・・・」
「・・・・?・・・・・」
だが、それは、響き渡る馬蹄の音と虚空を駈ける風に掻き消されてしまい、彼の耳には届かなかったようだ。
森の木々がざわめく。
天空の西側には、激しい雨を予感させる黒い雲が広がり始めていた。
鮮やかな紅色の瞳の中で、彼は、その凛々しい唇だけで困ったように小さく笑う。
ブーツの踵が黒馬の腹を蹴ると、高く騎馬が、軽快な蹄の音を白樺の木々の合間に響かせて、ルード街道へと疾走していく。
鞍上に、横に座った姿勢のレダが落馬しないよう、さりげなく二の腕をその背中にあてがって、手綱を取る彼の澄んだ紫水晶の隻眼が、真っ直ぐに騎馬の疾走する先を見つめすえていた。
元来、さして饒舌ではない彼が、その場を凌ぐために取った苦肉の策が、功を奏したのか奏さなかったのか・・・・
頬の辺りに、彼女の視線が痛いように突き刺さってはいるものの、取り敢えず、その口は塞げたようだ・・・
こんな所で、『この体は魔力に侵されていつ果てるかもしれない、あれはその発作のようなものだ・・・』と言ったところで、彼の生死など、彼女には何ら関係のない事の筈だ。
なんと言っても、自分は、彼女の父の仇であり、彼女の人生を波乱なものに変えてしまった張本人なのだから・・・・
そんな事を思っていたシルバの聴覚に、高く鳴ると疾風の唸声に混じり、実に不機嫌そうなレダの声が飛び込んできたのである。
「本当に・・・・どうしようもない人ね?貴方は?」
その言葉に、紫水晶の隻眼を真っ直ぐ前に向けたまま、彼は嫌味ではなく答えて言った。
「反論はしないよ」
「・・・・・・私、貴方のことをまだ恨んでるわ」
「君の恨みが晴れたなんて、思ってはいないさ」
「恨んではいるけど・・・・貴方がどういう人なのか、何故父を殺したのか、全部理解した・・・・・・・
だから・・・だから、私」
まるで拗ねた子供のような顔つきをして、桜色の唇を尖らせるレダの秀麗な顔を、彼の紫水晶の右目が、ちらりとだけ不思議そうに見やる。
「・・・・・・・・?」
騎馬の蹄が地面を蹴る度、彼の視界の中で、彼女の藍に輝く黒髪が弾むように揺れていた。
彼女は、少しだけ躊躇ったように紅の瞳で虚空を見ると、風に飛ばされそうな程微かな声で言ったのである。
「・・・・心配・・・したのよ・・・・」
「・・・・?・・・・・」
だが、それは、響き渡る馬蹄の音と虚空を駈ける風に掻き消されてしまい、彼の耳には届かなかったようだ。
森の木々がざわめく。
天空の西側には、激しい雨を予感させる黒い雲が広がり始めていた。
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