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第一節 鋼色の空1
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黒絹の夜空には、刃のような三日月。
頼りない月が照らし出す街道沿いの森の中で、象牙色の上質なドレスを纏うその女性は、茶色の髪を振り乱しながら、髪と同じ色をしたその瞳を、湧き上がるに大きく見開いて、突如眼前に姿を現した黒絹のローブを纏う女妖にひたすら恐れ慄いたのだった。
「ひ・・・・ひぃ・・・・!!」
悲鳴にならない声を上げて、彼女は、夜露に濡れる草の上に尻餅をつくように倒れ込み、がくがくと顎を震わせて後退(あとづさ)りする。
輝く水色の瞳を、さも愉快そうに細めると、魔物の白い顔が邪な微笑で彩られた。
夜の闇を映したような長い黒髪が、まるで、地を這う蛇の如く、虚空にゆらゆらと揺らめいている。
まったく血の気のない死者の如き白い頬。
滴る鮮血の色にも似た女妖の紅い唇が、にやりと三日月型に歪んだ。
『おや・・・・そのように怖がらずともよかろう?そなたに良い物を与えてやるゆえ』
女妖の細い右腕が緩やかに黒絹のローブから伸びて、差し伸ばされた細い指先が、激しい恐怖にその身を女性の額を掴んだ。
「あ・・・・あぁ・・・・ああ!!」
何の抵抗も出来ぬまま、女性はその全身に冷たい汗をにじませて、強張る唇でうめきとも悲鳴ともつかない高い声を上げる。
がちがちと歯を鳴らす彼女の口を、女妖の左手が無理矢理こじ開け、その中に、鶏卵ほどの大きさをした黒い楕円の球体を押し込めたのだった。
「・・・・がはっ!!」
むせる彼女の額を、細腕には似合わぬ凄まじいで掴み上げ、赤い唇で邪に笑いながら、黒き楕円の球を吐き出そうとするその口元すらも凄まじい力で押さえつける。
女性は、その余りの苦しさに必死に足をばたつかせ、女妖の手を掴んでもがくが、振りほどく事など出来なかった。
やがて意識がとなり、口の中に押し込まれた黒き楕円の球がミシミシと音を立てて割れると、そこから飛び出した何かが、彼女の体内へと急速に吸込まれていったのである。
女性は、白目を、崩れるようにその場に倒れ伏した。
そんな様子を、赤い唇でニヤニヤと笑いながら見つめていた女妖は、恐ろしい程邪な表情にその顔を歪め、まるで母親が子供に語りかけるように言うのだった。
『はよう大きうなれ・・・・成熟するまで、そなたの気配は術者とてわからぬゆえ・・・・まもなく、あの忌々しい男が此処にくるはず・・・・よく働くのだぞ・・・・そなたは、いくらでもをゆえ』
暗い森の中に差し込む頼りない月の光が、女妖の邪悪な横顔を淡く照らし出していた・・・・
黒絹の夜空には、刃のような三日月。
頼りない月が照らし出す街道沿いの森の中で、象牙色の上質なドレスを纏うその女性は、茶色の髪を振り乱しながら、髪と同じ色をしたその瞳を、湧き上がるに大きく見開いて、突如眼前に姿を現した黒絹のローブを纏う女妖にひたすら恐れ慄いたのだった。
「ひ・・・・ひぃ・・・・!!」
悲鳴にならない声を上げて、彼女は、夜露に濡れる草の上に尻餅をつくように倒れ込み、がくがくと顎を震わせて後退(あとづさ)りする。
輝く水色の瞳を、さも愉快そうに細めると、魔物の白い顔が邪な微笑で彩られた。
夜の闇を映したような長い黒髪が、まるで、地を這う蛇の如く、虚空にゆらゆらと揺らめいている。
まったく血の気のない死者の如き白い頬。
滴る鮮血の色にも似た女妖の紅い唇が、にやりと三日月型に歪んだ。
『おや・・・・そのように怖がらずともよかろう?そなたに良い物を与えてやるゆえ』
女妖の細い右腕が緩やかに黒絹のローブから伸びて、差し伸ばされた細い指先が、激しい恐怖にその身を女性の額を掴んだ。
「あ・・・・あぁ・・・・ああ!!」
何の抵抗も出来ぬまま、女性はその全身に冷たい汗をにじませて、強張る唇でうめきとも悲鳴ともつかない高い声を上げる。
がちがちと歯を鳴らす彼女の口を、女妖の左手が無理矢理こじ開け、その中に、鶏卵ほどの大きさをした黒い楕円の球体を押し込めたのだった。
「・・・・がはっ!!」
むせる彼女の額を、細腕には似合わぬ凄まじいで掴み上げ、赤い唇で邪に笑いながら、黒き楕円の球を吐き出そうとするその口元すらも凄まじい力で押さえつける。
女性は、その余りの苦しさに必死に足をばたつかせ、女妖の手を掴んでもがくが、振りほどく事など出来なかった。
やがて意識がとなり、口の中に押し込まれた黒き楕円の球がミシミシと音を立てて割れると、そこから飛び出した何かが、彼女の体内へと急速に吸込まれていったのである。
女性は、白目を、崩れるようにその場に倒れ伏した。
そんな様子を、赤い唇でニヤニヤと笑いながら見つめていた女妖は、恐ろしい程邪な表情にその顔を歪め、まるで母親が子供に語りかけるように言うのだった。
『はよう大きうなれ・・・・成熟するまで、そなたの気配は術者とてわからぬゆえ・・・・まもなく、あの忌々しい男が此処にくるはず・・・・よく働くのだぞ・・・・そなたは、いくらでもをゆえ』
暗い森の中に差し込む頼りない月の光が、女妖の邪悪な横顔を淡く照らし出していた・・・・
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