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ACT3 優柔不断は早々簡単に治らない9

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 店は無事に閉店した。 
 結局、酔いつぶれたきなこを俺が背負い、タクシーを捕まえて、あおいと一緒にきなこの自宅アパートまで来たのは午前1時を回った時だった。
 きなこは、背負われてるのも気づかすに、さっきからすーすーと気持ちよさそうな寝息を立ててる。
 あおいは、手慣れた様子でそんなきなこのバックとヒールを片手にもち、自分のバックから合鍵らしい鍵を取り出してした。

 「なんで俺が、きなこおぶって、こんなとこまで送ってこないといけなかったのか・・・」

 タクシーを降りて、思わずボソッと呟いた俺をあおいが可笑しそうに振り返る。
 
 「さすがにあたしも、きぃちゃんおんぶして帰ってはこれないよ!しょうがないじゃん、てっちゃんしか知り合いいなかったんだしさ!」

 「いや・・・確かにそうなんだけどさ・・・」

 女の子一人暮らしだからなのか、きなこの住むアパートは二階建てだがマンションのような玄関がある。
 そこのカギを開けて部屋までいき、更にそこでまたドアの鍵をあけるという仕組みだった。

 俺の住んでるとことは大違い・・・
 家賃高そうだな・・・

 俺はおもわず、きなこの部屋の前できょろきょろと周囲を見回してしまった。
 以前、きなこをアパートの前まで送ったことはあったけど、部屋にはいかなかったからな。
 まぁ、当たり前だけどさ・・・

 手慣れた様子で、きなこの部屋のドアを開けるあおい。
 そんなあおいに、俺は思わず聞いてしまった。

「あおい、よくきなこんとこ来んの?てか、地元にいるってことは、今日はオフだったん?」

 玄関でブーツを脱ぎながら、あおいはうふふっと笑って、きなこをおぶったままの俺に振り返る。

「仕事に煮詰まったときに逃げてくるんだよ、きぃちゃんとこ!
田舎育ちのせいか、東京にいると息詰まっちゃって」

「ああ・・・なんかわかるわ」

「朝には帰るけどね!夕方からレコーディングなんだ、新曲の!」

「おおう・・・まじか?」

「まじまじ!」

 こうやって受け答えする姿は、ほんと、トップアーティストって感じではないんだけど、なんだかんだいって、あおいには音楽で食ってるやつ独特のオーラがあるのを感じていた。

 玄関はオートロック。
 1LDKの意外と広いきなこの部屋。
 まじ・・・
 俺のとことは大違いだわ・・・ 
 これが格差ってやつだな・・・・
 さすがにこれを見ると、俺も真面目に色々考えないとダメかなとか思ってくる不思議。
 あおいが寝室のドアを開ける。
 俺は、なんとなく緊張しつつ、背中にいるきなこをそっとベッドの上おろした。

「ふにゅん・・・」

 めちゃくちゃ平和な顔で、寝てやがるきなこ。
 こいつに、いじめられっ子だった過去があるとか、この寝顔だけ見たら、誰もわからないよな。
 人にはそれぞれ、他人には見えない過去があるってことだよな・・・
 なんとなくそんなことを思って、寝てるきなこの頭をぽんっとたたく。
 あおいは、そんなきなこに布団をかけながら、何故か、俺に向かってにっこりと笑った。

「きぃちゃんごとお世話になって、ありがとう、てっちゃん」

「いいよ別に、じゃ、俺帰るよよ」

「おk!ほんとにありがとう!」

 あおいは俺のとこに小走りで近寄ってくると、大きなヘーゼルの瞳で真っすぐに俺の顔を見上げて、もう一度にっこり笑った。

 ああ・・・これで俺の忙しい日が終わる。
 でも、一日の終わりにこの笑顔をもらえるなら、別に悪くないかも。

 なんて、そう思った時だった。
 何故か、俺のスラックスの端を、誰かがぐいっと引っ張って、俺は思い切りぎょっとする。

「は・・・っ!?」

 見ると、寝てるはずのきなこの手が、何故か俺のスラックスを引っ張っていたのだ。

「なんだよきなこ!起きたのか??」

 俺の目の前で、きなこがむくっとゾンビのように起き上がる。
 そして、やけに座った半開きの目でベッドの上から俺を見上げると。
 寝ぼけてるのか起きてるのか、よくわからない感じで唐突にしゃべりだしたんだ。

「てっちゃん・・・・彼女しゃん・・・
ちゃんとしてあげないと・・・かわいそうだお・・・
てっちゃんクズだけど・・・たまにはけじめってだいじにょ・・・・
ちゃんと連絡しないとだめだよぉ・・・」

「・・・・・・・」

 とりあえず、クズクズ言われまくると、なんかモチベーション下がるわ!
 つか、こいつ、起きてんのか??
 

「おまえいつから起きてたんだよ・・・っ!?」

「てっちゃん・・・・」

「なんだよ!」

 座った目つきできなこは、じーっと俺の顔を見ると、何故かにっこり笑った。
 そして、後ろ向きでベッドに倒れながらこう言ったのだ。

「はやくインポ治るといいねぇ・・・・」

 ばたんっ
 くーくー

「・・・・おまえっ!!誰が!!」

 って言いかけた時、何故かあおいと目が合ってしまった。
 あおいは、妙に気の毒そうな顔をして・・・

「そ、そうだったんだ・・・気、気の毒に・・・」

「ちげぇぇぇぇぇえぇええわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 そう叫んだ俺の声は、寝込んだきなこには多分届いてない。
 あおいはと言えば・・・突っ伏すように笑っていた。

 ふざけんな!!
 トップアーティストの前でその発言はふざけてんだろぉぉぉ!
 きなこぉぉぉぉ!!!


 こうして、俺のせわしい一日は幕を閉じた・・・
 
 
 
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