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ACT3 優柔不断は早々簡単に治らない3

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 俺は、カウンター越しにきなこの腕をひっぱった。

「おい、きなこ、個室に移動だ」

 きなこは、一瞬、きょとんとしたが、ふと、店の中を見渡して、何故かてへっと笑うと脳天気に「ほほーい」と答えた。
 俺は、きなこと、いまやトップアーティストとなりつつある、Marinを個室へと案内した。

 うちの店に一部屋だけあるPT用の個室は、普段はもちろん開放してない。
 8畳ほどのその部屋には、狭いながらもバーカウンターがあって、そこでショットできるようになっている。
 きなことMarinは、揃ってカウンターにすわり、俺ら三人、すっかりこの個室に隔離されることとあいなった。

「きなこ、なに飲むの?」

 きなこは、いつものようにののほんと俺を見つめ返しながら、何故か妙に機嫌よさげにこたえて言う。

「あおちぃと同じのでいいよ!」

「・・・・おまえ、あんま酒飲めないのに・・・そんなキツイの飲んでいいんか?」

「あおちぃいるから平気!」

「・・・おまえ・・・」

 思わずあきれた顔をした俺。かぶっていたボンネットを脱ぎながら、Marinが、そんな俺に笑いかけてきた。

「大丈夫!あたしがちゃんとお世話する!慣れてるし!」

 その笑顔は、トップアーティストの笑顔というより、くったくのない無防備な笑顔だった・・・

 あまりにも無防備に笑うから、俺は不覚にもどきっとしてしまう。

 トップアーティストも、ステージを降りれば、ごく普通の女の子って訳か・・・
 まじまじと、Marinの笑顔を見つめていた俺。

 弱冠見惚れ気味だった俺の頬を、いきなりきなこがつねる。

「うぁ!い、痛てっ!」

「てっちゃん!!!鼻がぞうさんみたいに伸びてる!!!」

「ぞうさんてなんだ!?あほかおまえ?!」

「すけべ根性丸出しのてっちゃんが悪い!!!」

「失礼なこと言うな!!!」

 そんなやりとりを聞いていたMarinが、いきなりくすくすとおかしそうに笑いだす。

「仲いいね~~~?付き合ってるの?」

「ないない!」

「ないない!!!」

 きなこと俺、なんか同じ台詞を同じタイミングで思わず口に出す。
 それを聞いたMarinはさらに爆笑した。

「あははは!おっかしい!!んー・・・ていうか、てっちゃん!」

「え?」

 天下のMarinにいきなりそう呼ばれて、俺は一瞬、きょとんとする。

「て・・・てっちゃんて・・・」

「だって、きぃちゃんがそう呼ぶから、マネしてみたよ」

「マネしてみたよ・・・って。まぁ・・・なんというか・・・ありがとう?」

「きぃちゃんの言うとおり、てっちゃんて面白いね。
大体、あたしがMarinだってわかると、みんな、変な媚売ってくるのにさ、全然普通なんだもん」

「あぁ・・・どうも、すいません」

 思わず謝る俺。そんな俺を見て、Marin はまた爆笑だ。

「別に謝らなくてもいいよ!そのほうが全然嬉しいし!
変なお世辞言われたり、急に写真とられたり、そんなことされるのも好きじゃないしね!」

 Marinはそう言って、また笑う。つか、この子、ほんとによく笑う子だな・・・
 有名なアーティストなのに、なんか、全然、鼻にかけてないっていうか、妙に親近感の沸くキャラをしてる子だ・・・

「まぁ・・・有名になったらなったで、苦労も色々ってことな・・・」

 俺は、きなこに頼まれたカクテルをシェイカーで振りながら、そんなMarinをまじまじと見る。
 グラスにカクテルを注いで、きなこの前に出しながら、俺は、さっきから疑問に思ってたことを二人に聞いてみた。

「ところでさ・・・二人ってさ、友達なの?」

 それに答えたのは、きなこだった。きなこは、カクテルグラスをそっと指先で持ち上げながら、のほほんと言う。
「友達っていうかぁ・・・・従姉妹?」

「従姉妹・・・だと!?」

「うん!小さい時から仲よかったんだよ・・・ね~~~!」

 言葉の語尾で、Marinに振り返りながら、きなこは、ちみっとカクテルを口にする。

 ぶんぶんと首を縦に振りながら、Marinも、移動時にフロアから持ってきた、ムーンリバーを一口飲む。
 きなこは言葉を続けた。

「最初は叔父さんも叔母さんも反対して大変だったんだよね~あおちぃは結構苦労してるんだよ!てっちゃんも少しは見習ったら?」
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