新宿情火~Flamberge~Ⅰ

坂田 零

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ACT1-2

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 濃いアイラインに縁取れた印象的な切れ長の目と、長い睫毛。

 はっきりとした二重まぶたに茶色がかった大きな瞳。 

 背中の真ん中あたりまである黒い巻髪が、高層ビルの谷間を吹き抜ける風にふわりと揺れた。

 胸元の開いた黒いドレスに毛皮のコートを羽織り、その豊満な胸元を彩るのは、大粒のエメラルドをあしらった金のネックレス。

 すらりとして形の良い足には金色のハイヒール。

 俺は、思わず立ち止まり息を飲んだ。

 それは、薄汚れた街に女神が舞い降りたような光景だった。

 その時だった。

 薄汚い街に降りた女神が、俺の目の前で突然バランスを崩したんだ。

 運悪く、女の履くピンヒールの先が歩道のタイルに挟まったらしい。

「あっ・・・!」 と女は小さな悲鳴をあげた。

 俺は思わず、片腕を伸ばして女神の体を抱きとめる。

 ぐっとくびれた女の細い腰を抱いて、俺は半分放心したまま彼女に聞いた。

「だ、大丈夫ですか?」

 俺はそう声をかけると、女の大きな目がわずかに細まった。

 紅い口紅が塗られた花びらのような唇が、含んだように微笑する。

 その妙に色気のある微笑みに、俺は思わずどきっとした。

 鼻腔をかすめる甘い香水の匂い。

 どこかの高級クラブのホステスだろうか・・・?

 こんな綺麗な女を、俺はどこの店でも見たことがない。

 そもそも、この女は新宿の女のような野暮ったい印象じゃなかった。

 どちらかと言えば、銀座の女のような優雅さと上品さがある。

 そして、美しすぎるこの容姿のせいもあるのかもしれないが、この女には、どこかしら漂うような妖しい艶があった。

 俺の目の前で、女の紅い唇がゆっくり開く。

「ありがとうございます。あやうく、ドレスを汚すところでした・・・助かりました」

「え・・・いえっ」

 女は俺の顔から近い場所で「うふふ」と微笑(わら)った。

 そんな女の後ろから、迎えのボーイだろうか・・・?黒服の若い男が慌てた様子で駆けよってきた。

「美麗(みれい)さん、お怪我はないですか!?」

「大丈夫・・・この人が助けてくれたから、私は平気」

 女はそう言って、焦った顔をしているボーイに微笑みかけると、おもむろに俺の顔を振り返った。

「ねぇ、お兄さん?これからどちらに行かれるの?」

「えっ、え?!お、俺ですかっ?いや・・・行きつけのBARに・・・」

「私も、連れていってくださらない?」

「・・・っ!?」

 狐につままれたような顔をしているだろう俺を、女は悪戯な微笑で見つめていた。

 だがそんな女に対して、ボーイは制止する訳でもない。

「え・・・いや!あなたのようなセレブリティが行く店じゃないですよ・・・?!」

「あら、私、セレブリティなんかじゃないわ・・・ただの田舎娘よ」

 女はそう答えて、まるで大輪の花が咲くように艶やかに微笑んだのだった。
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