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ACT1-1
しおりを挟む~1988年11月~
*
新宿は異界だ。
だから、俺は新宿が嫌いだ。
どこを見ても人の頭がうごめいて、夜になると下品なネオンがギラギラしている。
新宿は、まるで、人間の人生を骨までしゃぶり尽くすような魔都市だ。
そんな印象しか俺にはない。
アタッシュケースを握り、苛々したまま俺は人混みをかき分けた。
今日の交渉は決裂に終わった。
先方が俺を疑っている。
無理もない。
俺は社内の機密情報をライバル企業に売ろうとしているんだ。
大手証券会社の内部情報は欲しいだろうが、あちらにとっても一か八かの賭けに近い。
俺に裏切られたら最後だし、俺自身が会社の産業スパイかもしれない・・・そう思っているんだろう。
だが・・・金が欲しいんだ、早くしてくれ。
俺は会社の金を横領して株を買い、大損失を出したばかりだった。
いくらバブル景気とは言え、あの額を補填するにはいささか厳しい。
ライバル会社なら喉から手が出るほど欲しいだろう企業秘密。
それを大金で売って、大損失の穴埋めをしないといけないんだ。
会社にバレたら警察沙汰になる。
取引先の社長令嬢とも婚約が決まったばかりだ。
そうだ、俺ほど優秀で将来性があって信頼できる男はいないだろ?
俺は、暑い訳でもなく額から流れてくる汗を、思わずスーツの袖で拭った。
自分で自分を肯定しながら、俺の中の焦りは心をどんどん圧迫していく。
金が必要なんだ・・・金が!
そんな事を思いながら、気を落ち着かせるために、俺は、行きつけのBARに向かって早足で歩いた。
その時、何故か不意に、歩道を占拠していた人混みが途切れた。
次の瞬間、俺の目の前に、息を飲むほど綺麗な女が現れる。
それは・・・まるでスローモーションのようだった。
ハリウッド映画の如く、車道に停まったリムジンから降りてきたその女。
その女は、新宿と言う街には不似合いなほど上品な面持ちを持つ、整って美しい顔立ちをしていた。
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新宿は異界だ。
だから、俺は新宿が嫌いだ。
どこを見ても人の頭がうごめいて、夜になると下品なネオンがギラギラしている。
新宿は、まるで、人間の人生を骨までしゃぶり尽くすような魔都市だ。
そんな印象しか俺にはない。
アタッシュケースを握り、苛々したまま俺は人混みをかき分けた。
今日の交渉は決裂に終わった。
先方が俺を疑っている。
無理もない。
俺は社内の機密情報をライバル企業に売ろうとしているんだ。
大手証券会社の内部情報は欲しいだろうが、あちらにとっても一か八かの賭けに近い。
俺に裏切られたら最後だし、俺自身が会社の産業スパイかもしれない・・・そう思っているんだろう。
だが・・・金が欲しいんだ、早くしてくれ。
俺は会社の金を横領して株を買い、大損失を出したばかりだった。
いくらバブル景気とは言え、あの額を補填するにはいささか厳しい。
ライバル会社なら喉から手が出るほど欲しいだろう企業秘密。
それを大金で売って、大損失の穴埋めをしないといけないんだ。
会社にバレたら警察沙汰になる。
取引先の社長令嬢とも婚約が決まったばかりだ。
そうだ、俺ほど優秀で将来性があって信頼できる男はいないだろ?
俺は、暑い訳でもなく額から流れてくる汗を、思わずスーツの袖で拭った。
自分で自分を肯定しながら、俺の中の焦りは心をどんどん圧迫していく。
金が必要なんだ・・・金が!
そんな事を思いながら、気を落ち着かせるために、俺は、行きつけのBARに向かって早足で歩いた。
その時、何故か不意に、歩道を占拠していた人混みが途切れた。
次の瞬間、俺の目の前に、息を飲むほど綺麗な女が現れる。
それは・・・まるでスローモーションのようだった。
ハリウッド映画の如く、車道に停まったリムジンから降りてきたその女。
その女は、新宿と言う街には不似合いなほど上品な面持ちを持つ、整って美しい顔立ちをしていた。
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