新宿情火~Flamberge~Ⅰ

坂田 零

文字の大きさ
上 下
1 / 14

ACT1-1

しおりを挟む
~1988年11月~
         *
 新宿は異界だ。
 
 だから、俺は新宿が嫌いだ。

 どこを見ても人の頭がうごめいて、夜になると下品なネオンがギラギラしている。

 新宿は、まるで、人間の人生を骨までしゃぶり尽くすような魔都市だ。

 そんな印象しか俺にはない。

 アタッシュケースを握り、苛々したまま俺は人混みをかき分けた。

 今日の交渉は決裂に終わった。

 先方が俺を疑っている。

 無理もない。

 俺は社内の機密情報をライバル企業に売ろうとしているんだ。

 大手証券会社の内部情報は欲しいだろうが、あちらにとっても一か八かの賭けに近い。

 俺に裏切られたら最後だし、俺自身が会社の産業スパイかもしれない・・・そう思っているんだろう。

 だが・・・金が欲しいんだ、早くしてくれ。

 俺は会社の金を横領して株を買い、大損失を出したばかりだった。

 いくらバブル景気とは言え、あの額を補填するにはいささか厳しい。

 ライバル会社なら喉から手が出るほど欲しいだろう企業秘密。

 それを大金で売って、大損失の穴埋めをしないといけないんだ。

 会社にバレたら警察沙汰になる。

 取引先の社長令嬢とも婚約が決まったばかりだ。

 そうだ、俺ほど優秀で将来性があって信頼できる男はいないだろ?

 俺は、暑い訳でもなく額から流れてくる汗を、思わずスーツの袖で拭った。
 
 自分で自分を肯定しながら、俺の中の焦りは心をどんどん圧迫していく。
 
 金が必要なんだ・・・金が!
 
 そんな事を思いながら、気を落ち着かせるために、俺は、行きつけのBARに向かって早足で歩いた。

 その時、何故か不意に、歩道を占拠していた人混みが途切れた。

 次の瞬間、俺の目の前に、息を飲むほど綺麗な女が現れる。

 それは・・・まるでスローモーションのようだった。

 ハリウッド映画の如く、車道に停まったリムジンから降りてきたその女。

 その女は、新宿と言う街には不似合いなほど上品な面持ちを持つ、整って美しい顔立ちをしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新宿情火~FlambergeⅡ~Ⅱ

坂田 零
恋愛
街の灯りはうざいぐらいギラギラと 眩しすぎるわもう全部消えて 新宿歌舞伎町にある高級クラブ輝夜。 NO1ホステスである美麗は、憂いを帯びた絶世の美女だ。 そんな美麗を取り巻く、愛と金と欲望の物語第二弾。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...