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<ACT3 女神の気まぐれ>3
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「ダメよコージくん、私はいいの、気にしてないわ」
「でも、美麗さん・・・!」
「いいのよ、練習を邪魔してしまったのは、私たちだしね」
美麗さんは、やけに落ち着いた表情をして、紅い口紅が塗られた唇で、妙に冷静に微笑(わら)っていた。
そして、ゆっくり俺の前に出ると、そのクソガキと向かい合い、真っすぐにそいつの目を見たんだ。
ガキがますます不審そうな顔つきで、美麗さんの綺麗な顔を睨むように見る。
美麗さんは、そんなクソガキに頭を下げながら、落ち着いた声色で言った。
「練習の邪魔をしてしまって、本当にごめんなさい。
あまりにも素晴らしい演奏だったから・・・
どうしても、弾いてる人の顔が見たくなってしまったの。
私たち、あなたが思ってるような人間じゃないから、安心して。
でもまさか、あなたのような若い子が弾いてるとは思わなくて、とても驚いたわ」
その言葉に、今度はガキの方が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきをした。
「・・・え?あんたたち、矢嶋興業の連中じゃないの?」
その名前が出た瞬間、俺と美麗さんは思わず顔を合わせた。
俺も美麗さんも同じことを思ったんだと思う。
美麗さんは、ゆっくりと視線をガキの方に戻して、少しだけ困ったように綺麗な眉頭を寄せて言う。
「全然違うわ、びっくりさせてほんとにごめんなさい。
たまたま散歩してたら、あなたの弾くバイオリンの音が聞こえてきて・・・
私たち、あの連中のような物騒な人間じゃないのよ。
コージくん、私の名刺を出して」
「かしこまりました」
俺は、ジャケットの内ポケットから、美麗さんに預かっていた財布を出して、それを美麗さんに渡した。
ルイヴィトンのその財布は、セカンド財布として美麗さんがいつも俺に預けてくれているものだった。
ブルーのマニュキュアに染められたしなやかな指先が、その中から仕事用の名刺を取り出す。
それをガキへの鼻先へと差し出して、美麗さんは艶やかに微笑(わら)った。
「club輝夜(かぐや)の美麗といいます、よろしくお見知りおきください」
「club・・・輝夜?」
きょとんとた様子でその名刺を受け取ると、ガキがまじまじと美麗さんを見る。
「club輝夜って・・・歌舞伎町で有名な高級店の?」
「あら、あなたみたいな若い子にも知ってもらえてるなんて、嬉しいわ」
「なんであんな高級な店のホステスがこんなところに???」
「私、そこにある児童公園のブランコが好きで・・・たまに夜中に遊びにくるの」
まるで少女のような顔つきで美麗さんがそういうと、鼻っ柱の強そうだったクソガキが、急に気が抜けた顔になって、バイオリンを大事そうに抱えたまま、へなへなと地面に座り込んでしまったんだ。
美麗さんが慌ててそんなクソガキの隣に座り込む。
「大丈夫?!どうしたの?具合でも悪いの?」
本気で心配そうな表情で美麗さんがそう言うと、ガキは急に、くすくすと可笑しそうに笑い出した。
「嘘でしょ?club輝夜のホステスがブランコ遊びなんて!!
ってか、なんかその話聞いたら、ちょっと安心しちゃって・・・!
ついに僕も矢嶋に監禁されて臓器売られるのかと思って、実はすっごいびびってたから」
「えぇ?」
「だって、ほら、そこの兄さん、すげー怖い顔してるんだもん・・・」
このガキ、はったりだけは一端ってことか・・・ってか、すげー怖い顔ってなんだ!?
そう反論しそうになったが、そこは大人だ、口に出すのはぐっと我慢してみた。
「でも、美麗さん・・・!」
「いいのよ、練習を邪魔してしまったのは、私たちだしね」
美麗さんは、やけに落ち着いた表情をして、紅い口紅が塗られた唇で、妙に冷静に微笑(わら)っていた。
そして、ゆっくり俺の前に出ると、そのクソガキと向かい合い、真っすぐにそいつの目を見たんだ。
ガキがますます不審そうな顔つきで、美麗さんの綺麗な顔を睨むように見る。
美麗さんは、そんなクソガキに頭を下げながら、落ち着いた声色で言った。
「練習の邪魔をしてしまって、本当にごめんなさい。
あまりにも素晴らしい演奏だったから・・・
どうしても、弾いてる人の顔が見たくなってしまったの。
私たち、あなたが思ってるような人間じゃないから、安心して。
でもまさか、あなたのような若い子が弾いてるとは思わなくて、とても驚いたわ」
その言葉に、今度はガキの方が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきをした。
「・・・え?あんたたち、矢嶋興業の連中じゃないの?」
その名前が出た瞬間、俺と美麗さんは思わず顔を合わせた。
俺も美麗さんも同じことを思ったんだと思う。
美麗さんは、ゆっくりと視線をガキの方に戻して、少しだけ困ったように綺麗な眉頭を寄せて言う。
「全然違うわ、びっくりさせてほんとにごめんなさい。
たまたま散歩してたら、あなたの弾くバイオリンの音が聞こえてきて・・・
私たち、あの連中のような物騒な人間じゃないのよ。
コージくん、私の名刺を出して」
「かしこまりました」
俺は、ジャケットの内ポケットから、美麗さんに預かっていた財布を出して、それを美麗さんに渡した。
ルイヴィトンのその財布は、セカンド財布として美麗さんがいつも俺に預けてくれているものだった。
ブルーのマニュキュアに染められたしなやかな指先が、その中から仕事用の名刺を取り出す。
それをガキへの鼻先へと差し出して、美麗さんは艶やかに微笑(わら)った。
「club輝夜(かぐや)の美麗といいます、よろしくお見知りおきください」
「club・・・輝夜?」
きょとんとた様子でその名刺を受け取ると、ガキがまじまじと美麗さんを見る。
「club輝夜って・・・歌舞伎町で有名な高級店の?」
「あら、あなたみたいな若い子にも知ってもらえてるなんて、嬉しいわ」
「なんであんな高級な店のホステスがこんなところに???」
「私、そこにある児童公園のブランコが好きで・・・たまに夜中に遊びにくるの」
まるで少女のような顔つきで美麗さんがそういうと、鼻っ柱の強そうだったクソガキが、急に気が抜けた顔になって、バイオリンを大事そうに抱えたまま、へなへなと地面に座り込んでしまったんだ。
美麗さんが慌ててそんなクソガキの隣に座り込む。
「大丈夫?!どうしたの?具合でも悪いの?」
本気で心配そうな表情で美麗さんがそう言うと、ガキは急に、くすくすと可笑しそうに笑い出した。
「嘘でしょ?club輝夜のホステスがブランコ遊びなんて!!
ってか、なんかその話聞いたら、ちょっと安心しちゃって・・・!
ついに僕も矢嶋に監禁されて臓器売られるのかと思って、実はすっごいびびってたから」
「えぇ?」
「だって、ほら、そこの兄さん、すげー怖い顔してるんだもん・・・」
このガキ、はったりだけは一端ってことか・・・ってか、すげー怖い顔ってなんだ!?
そう反論しそうになったが、そこは大人だ、口に出すのはぐっと我慢してみた。
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