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一話
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家族旅行から帰ってきた日のことだった。
自室の扉を開けると見知らぬ少女が漫画を読んで、床に寝転んでいた。
まるで自分の部屋であるかのような寛ぎ具合。
私が部屋に入ってきたというのにこちらには目もくれず、漫画に熱中している。
少女をよく観察すると、身体全体が透けている。足元にかけて透明度は大きくなっており、少女が普通の人間ではないことが分かる。
幽霊……?
この家、大丈夫なのだろうか。幽霊住みついてるんですが……。
扉を開けたままフリーズしていたが、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
すると部屋にいた幽霊少女がちらりとこちらを見る。
目が合った。
しかし、何事もなかったかのように再び漫画に没頭し始める幽霊少女。
まるで私がいることが当たり前のような素振りだった。
旅行に行っている間に住みついたわけではなく、私が気付かないだけでずっといたのだろうか。
もしかしたら何か月も前からこの部屋にいるのかもしれない。突然見えるようになったのはなぜだろうか。霊感ってそんないきなり働き出したりするのか。家族旅行で行った歴史ある神社で霊感に目覚めたりでもしたのかもしれない。一瞬、ぞわってした気もするし。とりあえず後で部屋を除霊してもらおう。
幽霊がいて落ち着かないが、荷物を床に下ろし、元の場所へと戻していく。
幽霊だし踏んでも大丈夫なのだろうけど、なんとなく跨いで移動する。
片付けながら、ちらりと幽霊の方に視線を動かす。私があれこれ物を整理していても一切気にしていない様子だ。
この少女はいったい誰なのだろう。幽霊ということは既に亡くなっている方のはずだ。外見的には自分とあまり歳が変わらないように見える。
まだ若い方が亡くなるニュースをたまに見る。
同じ国で起こっていることなのにそれらを遠い出来事のように感じていた。
でも、今幽霊少女を目にして少し現実感が湧く。部屋に幽霊が住みついているという出来事に関しては現実味がないのだが。
もし、この少女が亡くなっていなければ私と同じ中学に通っていたのだろうか。もしかしたら友達になっていたかもしれない。頭の中を色んな考えが過ぎっていく。
そうこうしているうちに旅行鞄の中は空になっていた。全ての荷物が片付いたようだ。考え事をしていると時間はあっという間に進んでいく。
これからのことも考えなくちゃいけない。幽霊少女をずっと部屋に住みつかせておくわけにもいかないし。
幽霊と会話を試みてみる。
「あのー」
呼びかけてみるも返事が返ってこない。完全に無視されたか、聞こえていないのか。
「あのおぉー!」
声を張り上げてみる。すると少女はこちらに視線を寄越した。なんだこの人?みたいな顔をしている。こっちがしたい。
「聞こえてる、よね?」
確認のために尋ねる。少女は自分に向かって指をさす。
私はこくりと頷く。
「えっ」
少女が喋った。幽霊との意思疎通に成功したようだ。
「え……なんで、見えるの?」
「それは私が聞きたい」
「今までは見えてなかったんだよね?」
「うん」
幽霊と会話している。話のネタになりそうだ。誰も信じてくれなさそうだが。
「急に見えるようになるとか、そんなことあるんだ……」
少女がなにやらぶつぶつ言っている。
話せるなら聞きたいことが沢山あった。順に聞いてみることにする。
「あなたは、一体誰なの?」
「あたし? あたしは瑠香」
「瑠香さん……。私は穂香」
「それくらい知ってるよ。てかずいぶん他人行儀だね、お姉ちゃん」
んん?この少女とは今日が初対面のはずだ。私の知り合いに亡くなった人など一人もいないわけだし。勝手に住みついて親近感が湧いてきたのだろうか。
加えて、お姉ちゃんとはなんだ。私は生まれてこのかた一人っ子だ。妹などいないはず。知らない間にいたら怖い。
「えーと色々突っ込みどころあるけど、ひとまず置いておくよ」
「ん。りょ」
適当に返す瑠香。
「まず、あなたはいつからこの部屋にいるの?」
「ずーっとかな」
「ずーっと……って。もっとわかりやすく教えてよ」
「お姉ちゃんがこの部屋に住みはじめた時くらいからかな」
「え、ちょっとまって」
慌てて思考を巡らす。私が自分の部屋を持ち始めたのは確か小学一年生からだ。小学生になったというワクワク感と自分の部屋が出来たことで一歩大人に近づいた気分になったのを覚えている。ランドセル、勉強机などを買ってもらったりしてとても浮かれていた時期。お部屋でルンルンしていた気がする。振り返ればまだまだ子供だったなとちょっと恥ずかしい。そんな恥ずかしい場面も見られていたということなのか。嘘だと言ってほしい。
「小学一年生からこの部屋に住んでるんだけどその時期から一緒にいたの?」
「うん!」
満面の笑みでそう返す瑠香。軽く絶望するわたし。小学一年生から中学二年生の約8年間、一緒にいたとは信じたくなくて現実逃避したくなる。一人だからと気を抜いてやばい発言してないかな……してないよね……?
「お姉ちゃんが好きだったけど告白してフラれた、たか」
「言うなぁぁぁ!」
やばい発言してたわ。過去の黒歴史、全部ダダ漏れとか死にそう。
瑠香の口元を必死になって抑えたが幽霊なので全然意味を成していない。
「あの時めちゃくちゃへこんでたよね。あたし慰めたかったけど何言っても聞こえてないみたいだし、ほんと幽霊って困ったなあって」
ええ、困りますとも。人のプライベート空間に勝手に侵入されて。挙句の果てに黒歴史掘り返されて。
「……お姉ちゃん怒ってる?」
もちろん怒ってる。なんなんだこの自分勝手な幽霊は。もう部屋から追い出すしかない。
わたしの表情を見て察したのか、申し訳ない顔になる瑠香。
「ご、ごめん。昔のことだからもう乗り越えたかと思って。まだ引きずってたのに気づかなくてほんとにごめん」
必死に謝ってくる瑠香。引きずってはいないが、フラれたことなんて永遠の黒歴史だから掘り返さないでほしかっただけだ。面倒なので訂正しないが。
謝ってくれたし部屋から追い出すのは一旦保留にしよう。幽霊なので部屋がなくて困ってるかもしれないし。まって違う、そもそも幽霊に部屋なんか必要ないじゃん。はやく成仏してくれ……。
「ま、過去のことは忘れて。幽霊になってこの世界にとどまってるってことは、なにか思い残したことでもあるの?」
「あぁ、まあ、ある……ね」
なんだか曖昧な反応だ。触れられたくないのだろうか。
「そ、そんなことよりゲームしようよ!」
自分に不都合な質問をされたからか、話題を変えてきたぞ。
でも幽霊とゲームか。ちょっと興味はあるが、旅行から帰ってきたばかりで体は疲れきっていた。正直、早く寝たい。
「疲れてるから、明日でいい?」
不満げな表情を露わにしながらも瑠璃はしぶしぶ頷いた。
自室の扉を開けると見知らぬ少女が漫画を読んで、床に寝転んでいた。
まるで自分の部屋であるかのような寛ぎ具合。
私が部屋に入ってきたというのにこちらには目もくれず、漫画に熱中している。
少女をよく観察すると、身体全体が透けている。足元にかけて透明度は大きくなっており、少女が普通の人間ではないことが分かる。
幽霊……?
この家、大丈夫なのだろうか。幽霊住みついてるんですが……。
扉を開けたままフリーズしていたが、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
すると部屋にいた幽霊少女がちらりとこちらを見る。
目が合った。
しかし、何事もなかったかのように再び漫画に没頭し始める幽霊少女。
まるで私がいることが当たり前のような素振りだった。
旅行に行っている間に住みついたわけではなく、私が気付かないだけでずっといたのだろうか。
もしかしたら何か月も前からこの部屋にいるのかもしれない。突然見えるようになったのはなぜだろうか。霊感ってそんないきなり働き出したりするのか。家族旅行で行った歴史ある神社で霊感に目覚めたりでもしたのかもしれない。一瞬、ぞわってした気もするし。とりあえず後で部屋を除霊してもらおう。
幽霊がいて落ち着かないが、荷物を床に下ろし、元の場所へと戻していく。
幽霊だし踏んでも大丈夫なのだろうけど、なんとなく跨いで移動する。
片付けながら、ちらりと幽霊の方に視線を動かす。私があれこれ物を整理していても一切気にしていない様子だ。
この少女はいったい誰なのだろう。幽霊ということは既に亡くなっている方のはずだ。外見的には自分とあまり歳が変わらないように見える。
まだ若い方が亡くなるニュースをたまに見る。
同じ国で起こっていることなのにそれらを遠い出来事のように感じていた。
でも、今幽霊少女を目にして少し現実感が湧く。部屋に幽霊が住みついているという出来事に関しては現実味がないのだが。
もし、この少女が亡くなっていなければ私と同じ中学に通っていたのだろうか。もしかしたら友達になっていたかもしれない。頭の中を色んな考えが過ぎっていく。
そうこうしているうちに旅行鞄の中は空になっていた。全ての荷物が片付いたようだ。考え事をしていると時間はあっという間に進んでいく。
これからのことも考えなくちゃいけない。幽霊少女をずっと部屋に住みつかせておくわけにもいかないし。
幽霊と会話を試みてみる。
「あのー」
呼びかけてみるも返事が返ってこない。完全に無視されたか、聞こえていないのか。
「あのおぉー!」
声を張り上げてみる。すると少女はこちらに視線を寄越した。なんだこの人?みたいな顔をしている。こっちがしたい。
「聞こえてる、よね?」
確認のために尋ねる。少女は自分に向かって指をさす。
私はこくりと頷く。
「えっ」
少女が喋った。幽霊との意思疎通に成功したようだ。
「え……なんで、見えるの?」
「それは私が聞きたい」
「今までは見えてなかったんだよね?」
「うん」
幽霊と会話している。話のネタになりそうだ。誰も信じてくれなさそうだが。
「急に見えるようになるとか、そんなことあるんだ……」
少女がなにやらぶつぶつ言っている。
話せるなら聞きたいことが沢山あった。順に聞いてみることにする。
「あなたは、一体誰なの?」
「あたし? あたしは瑠香」
「瑠香さん……。私は穂香」
「それくらい知ってるよ。てかずいぶん他人行儀だね、お姉ちゃん」
んん?この少女とは今日が初対面のはずだ。私の知り合いに亡くなった人など一人もいないわけだし。勝手に住みついて親近感が湧いてきたのだろうか。
加えて、お姉ちゃんとはなんだ。私は生まれてこのかた一人っ子だ。妹などいないはず。知らない間にいたら怖い。
「えーと色々突っ込みどころあるけど、ひとまず置いておくよ」
「ん。りょ」
適当に返す瑠香。
「まず、あなたはいつからこの部屋にいるの?」
「ずーっとかな」
「ずーっと……って。もっとわかりやすく教えてよ」
「お姉ちゃんがこの部屋に住みはじめた時くらいからかな」
「え、ちょっとまって」
慌てて思考を巡らす。私が自分の部屋を持ち始めたのは確か小学一年生からだ。小学生になったというワクワク感と自分の部屋が出来たことで一歩大人に近づいた気分になったのを覚えている。ランドセル、勉強机などを買ってもらったりしてとても浮かれていた時期。お部屋でルンルンしていた気がする。振り返ればまだまだ子供だったなとちょっと恥ずかしい。そんな恥ずかしい場面も見られていたということなのか。嘘だと言ってほしい。
「小学一年生からこの部屋に住んでるんだけどその時期から一緒にいたの?」
「うん!」
満面の笑みでそう返す瑠香。軽く絶望するわたし。小学一年生から中学二年生の約8年間、一緒にいたとは信じたくなくて現実逃避したくなる。一人だからと気を抜いてやばい発言してないかな……してないよね……?
「お姉ちゃんが好きだったけど告白してフラれた、たか」
「言うなぁぁぁ!」
やばい発言してたわ。過去の黒歴史、全部ダダ漏れとか死にそう。
瑠香の口元を必死になって抑えたが幽霊なので全然意味を成していない。
「あの時めちゃくちゃへこんでたよね。あたし慰めたかったけど何言っても聞こえてないみたいだし、ほんと幽霊って困ったなあって」
ええ、困りますとも。人のプライベート空間に勝手に侵入されて。挙句の果てに黒歴史掘り返されて。
「……お姉ちゃん怒ってる?」
もちろん怒ってる。なんなんだこの自分勝手な幽霊は。もう部屋から追い出すしかない。
わたしの表情を見て察したのか、申し訳ない顔になる瑠香。
「ご、ごめん。昔のことだからもう乗り越えたかと思って。まだ引きずってたのに気づかなくてほんとにごめん」
必死に謝ってくる瑠香。引きずってはいないが、フラれたことなんて永遠の黒歴史だから掘り返さないでほしかっただけだ。面倒なので訂正しないが。
謝ってくれたし部屋から追い出すのは一旦保留にしよう。幽霊なので部屋がなくて困ってるかもしれないし。まって違う、そもそも幽霊に部屋なんか必要ないじゃん。はやく成仏してくれ……。
「ま、過去のことは忘れて。幽霊になってこの世界にとどまってるってことは、なにか思い残したことでもあるの?」
「あぁ、まあ、ある……ね」
なんだか曖昧な反応だ。触れられたくないのだろうか。
「そ、そんなことよりゲームしようよ!」
自分に不都合な質問をされたからか、話題を変えてきたぞ。
でも幽霊とゲームか。ちょっと興味はあるが、旅行から帰ってきたばかりで体は疲れきっていた。正直、早く寝たい。
「疲れてるから、明日でいい?」
不満げな表情を露わにしながらも瑠璃はしぶしぶ頷いた。
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