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うーたんの裏切り

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「カッパだって~カッパ~」

 帰りの電車の中で、うーたんが時々えづきながらニヤニヤ言う。
 私は悲しくなって来た。
 もう三年も(寝取られて)恋人がいない私にとって、「次はカッパ」はこたえた。
 もしかしたらなんかこう、カッパみたいな人間、という意味かも知れない、と自分を慰めてみたけれど、カッパみたいな人間って要はそうゆう事だ。
 イケメンでそうゆう事だとしたら、随分ケチがつくではないか。
 私は気をしっかり持とうと、酔った頭を一振りして

「カッパなんていない」
「カッパカット~」
「不自然な自然なんて欲しく無い」
「お寿司食べたいね」
「……おぅええぇっ」

 黒々とした棒状の物を思い浮かべてしまい、私は電車の座席で盛大に吐いたのだった。

 酷いじゃないか。
 私はカッパで、「メイクラブ」する相手もカッパ?
 そんなの冗談が過ぎる。仕事も恋も落ち目で閉店後のシャッターに絡む独身女に余りにも酷い冗談だ。心に傷が盛大に出来た気がする。
 私はガランとしたワンルームのアパートにヨボヨボと帰宅すると、電気も点けずにあがり、異臭を放ちながらベッドにうつ伏せて「よよよ……」と泣きながらその夜をやり過ごした。



 しかし、次の日の朝起きると、なんてことはない。
 あれはただのいんちき占いだし、なんであんなに打ちのめされてしまったのかと言えば酔っていたからだ。
 休日だったのでのんびり午後までゴロゴロしてTVを流し見していれば、「は? カッパ?」と鼻で嗤えてしまえて、ホッとした。



 夏が来た。

 あのおばさんの占いを断じて、断じて気にした訳では無いけれど、私はキュウリ断ちをしたし、うーたんから『休日にメンズ達と河原でバーベキュー』のお誘いを受けても丁重にお断りした。
 バーベキューはかなりハイレベルな王子サマ達が集まったらしいけれど、全然。全然羨ましくなんかない。川は駄目。絶対ダメ。
 用心の為に海にも行かなかったし、アパートの傍の用水路からは離れて歩いた。
 そうこうしている内に、お盆休みの連休が来ようとしていた。
 とっくに夏は中盤である。
「そら見た事か、カッパの『か』の字もないじゃない」と私は安心していた。
 しかし、バーベキューで王子さまカレシをゲットしたうーたんの運命が、私の運命を変えた。
 お盆休みの初日から、私はうーたんと『山ガールになろう』旅行を計画していたのだけれど、うーたんは王子の帰郷のお供を立派に勤め上げたいと新たな目標を私にぶつけて来たのだ。
 方向性の違いでコンビ解消の危機。と言うか、既に解消せざるを得ない。
 でも大丈夫、これはしょうがない事例。大好きだよ。うーたんはうーたんだもん。立派にお供して、最高のドヤ話を聞かせてね。
 飲み会のネタとして「私、『山ガール』してます♡」という証明写真をわざわざ撮りに行く必要の無くなったうーたんは、私に二人分の旅行費を支払うと申し出てくれた。

「本当にごめんにゃん♡ 旅行費持つから、誰か他の人と言って来てにゃん♡」

『今は猫ちゃんになっちゃったけど、根は良い子。私の真の理解者』と心で繰り返しながら、私はそれを請け負った。
 さあ、問題はシンプルになった。
 私は旅行に行っても行かなくても損失が出ない。
 むしろ、タダで旅行だ。旅行と言っても、山奥のロッジで自炊する放置プレイ企画だけど。
 連休にハイライトが無いのは寂しいので、何人かに声を掛けてみたけれど、全滅した。
 最後に声を掛けた友人に、「タダだろうが何が楽しくてあんたと山奥で自炊をしたいのか」と聞かれた時に、心が折れた。

 もういい!! 一人で行く!!
 そして『山ガール』を極めるのだ!!
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