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三章.
7話. ある特殊部隊の男が見た惨状〈ニ〉
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俺は単身で、NBIの施設の最上階五階での任務遂行に挑んでいた。明かりが漏れた五◯五と記させれた扉が唯一フロアで半分開いていた。必然的に、その実験室を警戒しながら半身で覗く。
今まで見てきた部屋とは異なり広い。
壁一面を大型モニターが占めている。操作用コンソールが複数配置され、数値が常に0を示している。中央には真っ二つに割られた培養槽があり、大量の液体が漏れ出ていた。
「SF映画かってんだ……」
俺が昔観た宇宙を舞台にした海外の字幕付きSF映画よりも、迫力と緻密さが感じられる実験室からは気色の悪さがこみ上げてくる。歩く度に砕けた培養槽の破片をバリバリと砕き割り、床に溜まり広がった液体が靴の底を濡らした。
培養槽の破片に、こびり付いた血が何の前触れもなく蒸発するのに俺は意識すら向けない。そんな些細な事よりも俺の視線は、片側の壁に空いた人一人がやっと通れそうな穴に向いていた。
「何だって……こんな事ばかり起こるんだ……」
注視せずとも分かる。その穴の先は、隣の研究室に繋がっている。そして黒い人工的に造られた四角い鉄塊にニンゲンが一人潰され、血が床を流れて汚していた。腕や足は鉄塊から中途半端にはみ出ている。四方八方に飛び散る肉片から、相当の勢いで鉄塊がニンゲンに落下したことが解る。
「こりゃあ……えぐいなぁ…………!!」
その大きい鉄塊の向こう。今回の任務の標的であり、身柄確保の対象者であるNBI研究所の所長━━檻咲 恭蔵が渇いた笑い声をあげて天を仰いでいた。その瞳は焦点が合っておらず、一本の棒が背筋に通っているのかと思わせるほどに直立的で、頭が九十度に折り曲がっているように見えた。
「……檻咲 恭蔵。お前及びNBIに不法で非人道的な実験を行なっている疑いが出ている。任意同行のご協力いただきたい」
俺は様子を伺いながらも短機関銃の銃口を向けて、檻咲 恭蔵の返答を待つ。
しかし、返答はない。
俺の脳裏に血を流す部下の隊員達の姿が過ぎり、銃を握る手に力が込もる。
「おい……檻咲 恭蔵!」
やはり、返答はない。
カッハッハッハッハッ……スッ…………ハッハッハ……ボファアアアアアアアア。
檻咲 恭蔵の口から渇いた笑い声が発せられていると、突然に口から大量の血が溢れて吹き上げる。重力に逆らわずに顎から真下に、流れ落ち続ける血液は数十秒間は止まなかった。
「おいっ……おいおいおい……!!」
俺は鉄塊を飛び越えて檻咲 恭蔵との距離を僅かに縮めるが、目に見えぬ圧が俺をその場に留める。
「嬢ちゃん、一体なんなんだ?」
今まで見てきた部屋とは異なり広い。
壁一面を大型モニターが占めている。操作用コンソールが複数配置され、数値が常に0を示している。中央には真っ二つに割られた培養槽があり、大量の液体が漏れ出ていた。
「SF映画かってんだ……」
俺が昔観た宇宙を舞台にした海外の字幕付きSF映画よりも、迫力と緻密さが感じられる実験室からは気色の悪さがこみ上げてくる。歩く度に砕けた培養槽の破片をバリバリと砕き割り、床に溜まり広がった液体が靴の底を濡らした。
培養槽の破片に、こびり付いた血が何の前触れもなく蒸発するのに俺は意識すら向けない。そんな些細な事よりも俺の視線は、片側の壁に空いた人一人がやっと通れそうな穴に向いていた。
「何だって……こんな事ばかり起こるんだ……」
注視せずとも分かる。その穴の先は、隣の研究室に繋がっている。そして黒い人工的に造られた四角い鉄塊にニンゲンが一人潰され、血が床を流れて汚していた。腕や足は鉄塊から中途半端にはみ出ている。四方八方に飛び散る肉片から、相当の勢いで鉄塊がニンゲンに落下したことが解る。
「こりゃあ……えぐいなぁ…………!!」
その大きい鉄塊の向こう。今回の任務の標的であり、身柄確保の対象者であるNBI研究所の所長━━檻咲 恭蔵が渇いた笑い声をあげて天を仰いでいた。その瞳は焦点が合っておらず、一本の棒が背筋に通っているのかと思わせるほどに直立的で、頭が九十度に折り曲がっているように見えた。
「……檻咲 恭蔵。お前及びNBIに不法で非人道的な実験を行なっている疑いが出ている。任意同行のご協力いただきたい」
俺は様子を伺いながらも短機関銃の銃口を向けて、檻咲 恭蔵の返答を待つ。
しかし、返答はない。
俺の脳裏に血を流す部下の隊員達の姿が過ぎり、銃を握る手に力が込もる。
「おい……檻咲 恭蔵!」
やはり、返答はない。
カッハッハッハッハッ……スッ…………ハッハッハ……ボファアアアアアアアア。
檻咲 恭蔵の口から渇いた笑い声が発せられていると、突然に口から大量の血が溢れて吹き上げる。重力に逆らわずに顎から真下に、流れ落ち続ける血液は数十秒間は止まなかった。
「おいっ……おいおいおい……!!」
俺は鉄塊を飛び越えて檻咲 恭蔵との距離を僅かに縮めるが、目に見えぬ圧が俺をその場に留める。
「嬢ちゃん、一体なんなんだ?」
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