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第8章 人族の中の竜

第8章 人族の中の竜 9~WAR and PEACE

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第8章 人族の中の竜 9~WAR and PEACE

●S-1:帝国帝都スルヴィエ郊外

 ミュア・レールはヴァースから聞いた方角を元に東へと歩き始めていた。
 彼独りである。
 道案内をヴァースにしてもらおうと思っていたのだが、強く断られてしまった。
 何やら別件の用事があるとのことだった。
 道すがら、もう少し事前に情報を得ておきたいところであったが仕方ない。
 纏まった食事をとらない分、歩きながら硬パンビスケットを齧っていた。
 飲み物は濁った水。
 新鮮な井戸水といえば聞こえは良いが、井戸は天候に弱い。
 雨が降った後はどうしても濁りが出てしまう。
 それでも腐った水よりはだいぶマシだった。


 その様子をヴァースは見ていた。
 ドラゴン固有の魔法の一つである透明化インビジビリティで姿を消していたのだ。
 彼個人だけなら空を飛べばよいのだが、不思議なことに歩いていた。
 ミュアの後ろをゆっくりと追跡していたのだ。
 明確な理由はない。
 強いて言えば、勘だった。

 帝都で気安く声をかけてきた男に若干ながら警戒していたのだった。
 並みの人間ではない。
 ヴァースが見た帝都は困っている人間にやさしい声をかける雰囲気はなかったからだ。
 その日その日を暮らすのに必死で、住民に余裕がない。
 上流階級の人間はまして庶民を人間として見ていない。
 突き抜けたお人好しなのか。

 いや。それは違う。
 過去の経験がそう言っていた。
 1000年前には人族の中で戦乱を生きてきたのだ。
 怪しげな人物には鼻が効く方だと自負していた。
 こいつはおかしい。

 聖職者だからか?
 違う。
 そういった慈悲深さとは違うのだ。
 時折見せる何かを狙うような、こちらを品定めしているような視線。
 誰にでも優し気な表情を見せる人間に優しい人はいない。
 八方美人は概ね、誰にも優しくないものだ。

 別れて追跡を始めたのは観察するためだった。
 アレキサンダー男爵領に興味を示したのも怪しい。
 どれだけ発展していようがたかが辺境の小領主。
 帝都を歩くような人間の気を惹くほどのものだろうか。


 ミュアは気楽なものだった。
 尾行されてるとは露にも思っていない。
 そもそもそんな理由がないと考えていた。
 見た目だけならフラフラしている貧乏青年でしかない。
 司祭という割に何も仕事をしていないようにも見えた。

 酔っ払いか何かのように歩きながら、やがて郊外の館へと足を向けた。
 帝都周辺に点在する小さな村……街道沿いの宿場町を兼ねている地域にある小綺麗な建物だ。
 裕福な村長か、あるいは村を管理する領主の館にも見える。
 宿屋でなく、教会でもないのに向かうことにヴァースは疑念を持った。
 教会で無料で宿泊できるとか言ってなかっただろうか?



●S-2:帝都郊外/別邸

 屋敷の前には衛兵が2人立っていた。
 警備が厳重すぎるようにも見えるが、裕福な家主なら不思議ではない。
 ここは帝都から1日ほど離れているのだ。
 城壁で守られているわけではない。
 領主ですら略奪を平気で行う世界で、賊の襲撃を警戒しない法はない。

 ミュアは聖印と割符を見せると、かって知ったる家のように中に入っていった。
 割符?
 ヴァースにはそれが引っ掛かった。
 商取引ならいざ知らず、館に入るために必要なものだろうか。
 1000年の月日の経過で、人族の習慣が変わったのだろうか。
 姿を消しているとはいえ、ヴァースは逡巡した。
 ああいった古典的な警備の方が通り抜けることが難しい。


「やあ」
 ソファに掛けたままイストは鷹揚に右手を挙げた。
「また徘徊してるのか」
 埃をかぶったミュアを上から下まで眺めて言った。
「いーや。帝都に上都してみたら、君が会議に出てたって聞いてさー」
 ミュアは相変わらず飄々とした様子だった。

「酷いものだろう?」
「いやあ。前と何も変わってないって感じかなー」
「そうか」
 イストは面白くもなさそうな顔をした。
「じきに……変わるさ」

「あ。そーそー。帝都で変なおっさんから聞いたんだけど。アレキサンダー男爵領って知ってるー?」
 その一言で表情が変わる。
 イストにとっては嫌悪の対象だったからだ。
「なんかこー。色々便利だったり、豊かだったりするらしいんだけどねー。どこまで事実なんだかー」
「……なあに。すぐに消えてなくなるさ。教会の討伐対象になったことだし」

「へー?じゃー、金になるモノがあるってことかー」
 ミュアは教会の内情をそこそこ理解している。
 教会上層部は利益のためには動くが、なければ放置というのが基本的な姿勢だ。
「噂もまーまー真実だってことかなー」
「どうだかね。それより……」
 イストはミュアに視線を合わせた。

「興味があるのか?」
「まーねー」
 ミュアは否定しない。
「主にお金になりそうっていう部分がねー」
 これは偽らざるを得ない事実だった。
「大主教や枢機卿が動くんだから、さぞや大金があるんだろうねー」
「どうかな」

 イストにとってクローリーはとるに足らない下等な相手だった。
 競争相手ですらない。
 気に入らないから手始めに血祭りにあげてやろうという程度でしかない。
「大魔法を使うことのできないエルフを掻き集めているバカだよ」
 彼にとって大魔法が使えない異世界召喚者ワタリイコールエルフは存在価値がなかった。
 戦場を支配できるほどの大魔法があって、初めて利用価値があるものだからだ。
 それは多くの王侯貴族の普遍的な価値基準だった。

「へー。何の理由があってそんなことするんだろうねー」
「知らん」
 即座に否定した。
 イストは真っすぐ異世界召喚者ワタリと向き合ったことがない。
 道具としてしか見ていないからだった。
「放っておいて良さそうな相手なのに、何かを仕掛けたくなるんだー?」
 イストはミュアの言葉に顔を顰めた。

 単純に自称エリートから見たら、クローリーは劣等生でしかない。
 特別な能力は微塵も感じない。
 ただ、クローリーの研究が高位魔術師の目を留めたことが気に入らないのだった。
 発端はそれだけだった。
 それは次第に憎しみになった。
 思うように評価されない自分との比較から来た焦りかもしれない。
 やがてそれは時間とともに憎悪になった。

 そのようすをミュアは白けたように眺めていた。
 自分が有能で理性的であるつもりの人間ほど、感情で動きやすいことを知っていた。
 どういう経緯かは知らないが、イストがアレキ何とか男爵を異常なほど嫌っているのは感じていた。
 何かを仕掛けるのも、戦争を起こすのも勝手にすればよい。
「どんなことになるかは少し楽しみだけどねー」

「辺境の小領主だ。いつでも簡単に潰せるが、人がどう動くかを見る実験には丁度良い」
「ふーん」
 ミュアはイストの野心を薄々気づいてはいる。
 元々は成り上がることしか考えていなかったはずだが、事が思い通りに進むことに味を占めて野心を肥大化させつつあるのだ。
 人を道具のように便利に使うことができる才能があると自負しているのだろう。
 はたしてどうかな?
 それがミュアの想いだった。

 闇取引や駆け引きは野心を充足させるものであるのは確かだろう。
 そして、イストにはそこそこの人的魅力カリスマと知能はある。
 ただ……上手く行っている人間ほど見えないものがある。
 誰もがその優秀な知略に振り回され続けるかどうか。
 そもそも。
 愚か者は得てして予想外の行動を起こすものだ。
 手綱を取っていたつもりが、とんでもない行動を起こすことだってあり得る。

 なにより、自分がそうなのだ。
 ミュアはそう考えていた。
 イストの策略は理詰めすぎるのだ。
 そこそこの知能があるほど引っ掛かりやすい。
 あるいは……。
 自分のような臍曲がりだと思わぬ反応があるかもしれないのだ。

 イスト。
 君は格上には利益を示すが、格下と思った相手は何の利益もなく自分の指示に従うのが当然だというエリート意識が染み付きすぎてる。
 利益となるエサがなければ下剋上だってあり得るんだよ。

 そうミュアは考えていた。
 自分も格下の席に置かれているという実感があったからこそ。
 100%思い通りに動く保証はない。
 自分の利益のために裏切ることだってあるのだ。
 と喉から出そうになるほどだった。


「っ!?……魔法結界に何か触れたな?」
 イストが方眉を上げた。
 用心深い彼は館の周囲に魔法結界を張っていた。
 そこに魔法が、あるいは魔法の物体や存在が触れると、術者である彼の元に反応が届くのだ。
 魔法的な警報も兼ねている。

「えー?なんだろうねー」
 ヴァースに尾行されていることに気づいていなかったミュアは暢気な反応だった。
 同時に、だからこそイストを無視できない事実を突きつけられているのだ。
 大胆でありながら、身の回りのことには用心深い。
 疑い深いだけかもしれない。
 それでも注意を怠らないところはイストの長所だった。
 驕った態度さえなければ。


 屋敷の中へ侵入しようと一歩踏み入れたヴァースは静電気が走るような衝撃を受けた。
「……結界か。警報アラームの魔法か」
 彼は自分の迂闊さに歯ぎしりした。
 知らず知らずに人族を見下げていたせいだろう。
 魔術師だっているのだ。
 それがミュアか館の主かはわからないが。

 ヴァースはそれ以上は踏み込まずに退散することを選んだ。
 いろいろ気になることを確認しておきたかったのだが仕方ない。
 警戒されている状態で集められる情報は多くはないだろう。
 そもそも彼の勘が尾行に繋がっただけで、根拠はないのだ。


「もしかして、彼かなー?いや、ないかー」
 ミュアは疑問を口にしてすぐに自分で否定した。
「なんだ?心当たりがあるのか?」
「いやー」
 ミュアは首を激しく横に振った。
「帝都で面白いものを見たことを思い出しただけさー」
 嘯いて笑う。

 この時、イストもヴァースも気づいてはいなかったが。
 系統こそ違うもののミュアはイストと同等かそれ以上の魔術の使い手であったのだ。
 ヴァースに声をかけたのは、彼が人ならざるものであることに気が付いていたからだった。
 さすがにヴァースがドラゴンであることにまでは気づいていなかったが、魔族か何かではないかと疑っていた。

「ほら。一応、本業は悪魔払いだからさー。なんかそれっぽいことをって思ってさー」
 ミュアはイストの下僕ではないのだ。



●S-3:郊外

 ミュアは翌朝には屋敷を去っていた。
 相変わらずトボけた様子で徒歩の旅だ。
 ヴァースはそれを姿を消して追っていた。
 彼はクローリーたち以外の人族を見てみたかったのだ。
 もちろん怪しいというのはある。
 だが、それ以上にもっと色んな情報を得たかった。

 2日が経過した。
 向かっているであろうアレキサンダー男爵領はまだ遥か先だ。
 遠いのはもちろんのこと、道が余り良くないからだった。
 街道の舗装は荒れ放題のまま。
 クローリーの連絡馬車も通るであろう道なのだが、さすがに手が回ってはいない。
 車輪や車軸の故障を修理するための鍛冶屋と契約をするのがせいぜいでしかなかったからだ。

 周囲の風景は帝都とは違った田園風景が広がっていた。
 それだけだったならば、豊かな景色に見えなくもなかったろう。 
 ところが、道端にはしばしばしゃがみ込み動けなくなった民衆が見えた。
 すでに屍と化した姿もある。
 座り込んだ幼い子供たちも見える。
 帝都の華やかな宮殿や教会からは想像もできないものだった。
 思わず目を背けたくなるような世界だ。

 そこに激しい馬蹄の響きが聞こえた。
 一騎の騎馬武者が馬を走らせてきた。
 あたりの民衆を蹴散らしていく。
 やがて小さな2人の子供の傍まで来ると、鞭を振るった。
 馬にではない。
 子供たちにである。

 バシッと風を切り裂くような鋭い音とともに子供の一人を打ち倒す。
「愚民が!邪魔である!騎士のお通りだ!」
 とっさに小さい方を庇った子供が叩きつけられた。
 鮮血が舞った。
「家畜にも劣るわ!」
 もう一度、鞭を振り上げる。

 今度は庇われたはずの小さい方の子供が立ち上がって、倒れた子供の盾になろうとした。
 決死の覚悟で騎士を睨む。
「その顔は不敬である!」
 鞭が振り下ろされる。
 その瞬間……。

 騎士の右腕の肘から先が断ち切られた。
 剣の刃先が光ったのがヴァースにははっきり見えていた。
「う……うわあああ……拙者の腕がぁっ!?」
「クソ野郎はお前だ」
 そこには剣を持ったミュアの姿があった。

 もしもここにシュラハトがいたなら、その剣が多島海サウザンアイランズ由来の細剣ワオドゥであったことに気づいたかもしれない。
 斧とカミソリを併せ持ったような鋭利さだった。
「うが……うがああ………」
 騎士はもんどりうって落馬し、地面を無様に転げまわった。
「殺しはしない。利き腕を失って庶民の苦労のほどを思い知るがいい」
 ミュアの目は鋭い。
 そして、容赦なく騎士の腹を蹴った。

 ミュアは振り返って、子供を抱き起す。
「……酷い腫れだが、大丈夫だ。これなら治る」
 そっと傷跡を指先でなぞるると、傷がきれいに消えていった。
 マリエッラたちが持つ奇跡の御業だ。
 もちろんヴァースはそのことを知らない。

「そっちの子も。良く頑張ったな」
 震える足で何とか立ち続ける小さい方の子供にも優し気な声をかける。
「親はどうした?家は?」
 ミュアの問いに、抱き起された子供が首を横に振った。
「いないよ。この前の戦で殺されたんだ……」

 今の帝国に明確な敵はいない。
 かつてのように蛮族や魔物と対峙することはほとんど稀だ。
 つまり、戦というのは、隣国の領地を収奪しようと攻め込んできた勢力との戦争だ。
 少ない食物を奪い合う戦い。
 もちろんいつも最大の被害者は農民をはじめとする庶民だった。

「そうか」
 2人の子供のお腹が鳴る。
 空腹なのだろう。
 子どもは食べられる量が少ない分、消化も早く大人以上に空腹は堪えるはずだ。
「食ってないのか?」
「うん……2日くらいかな」
 子供の2日は大人だと一週間以上といってよい。

「なら、これをやる」
 ミュアが背負い袋から食べ物を出した。
 ヴァースはそれがいつもの硬パンビスケットかと思ってみていた。
 だが、取り出したのはふんわりした白く柔らかいパンだった。
「ちょっと固くなってるかもしれないが、お貴族様のパンだから他よりましなはずさ」
 そして、今度は肉を出した。
 薄切りといっても厚みのあるベーコンだった。
「挟んでで食うと良い。それと……」

 今度は小さい子供の方に小さな袋を渡した。
 袋を開けると皺だらけの黒い粒状のものが一握り入っていた。
 小さい子供は恐る恐る、でも空腹に耐えきれずにそれを口にした。
「あ……甘ーい!」
 子供の目から星が飛び出しそうだった。
「レーズンの砂糖漬けだ。多くはないから仲良く分けるんだぞ」
 ミュアの笑顔に子供たちが強く頷いた。


「お前何者だ?」
 いつの間にか姿を現したヴァースがミュアの後ろに立っていた。
「おや?あなたでしたかー」
「騎士の腕を一太刀で切り落とすなんて普通じゃないな」
「見られてましたか……いったでしょー?司祭だって。ただ、ちょっとだけ剣も使えるだけですよー」

「それに自分は粗食のくせに知らない子供にはまともな食料を渡すのか」
「ん。んん-。あれもとっておきの自分用だったんですけどねー」
 ミュアは笑って誤魔化す。
「砂糖は帝国じゃ貴重品のはずだ」
「たまたま手に入れたんですよー」
 ミュアはとぼける。
 もちろんイストの屋敷から頂いてきたものではあったのだが。

「教会の司祭なら、そういう施しをするものなのかもしれないが。……騎士を斬ったのはマズかったんじゃないのか?」
「……あなたも帝都で見たでしょう?」
 ミュアは溜息を吐く。
「その服からもあなたがそこそこ富裕層なのは判るんですが、何とも思いませんでしたかー?」
「……国が荒れてることか?」
「宮殿をいくつも見たでしょう?豊かなものはより豊かな生活をして、貧しい弱者はより貧しくなっている構図を」
「……まあな」
 ヴァースには少しわかる。
 それを改善しようと帝国の基礎を作り上げたのが彼の友人ルキウスなのだ。

「金持ちと、そうでない人ができるのは仕方ないのではあるのですがね。庶民を蔑ろにするのは頂けないんですよ」
 久しぶりの食べ物にありつく子供たちを眺めつつミュアが呟く。
「自分が困らない立場だと弱者を虐げることにも、見過ごすことにも気を使わなくなるのです」
「そうだな」
「それが行き過ぎて、あのように無頼な振る舞いをする支配層は看過しかねるのですよ」
「それは人なら仕方ないのではないか?」
「仕方なくないですよ。冷静になれば理解できるはずなのです。搾取し、殺し、庶民なんて畑から自然に生えてくるくらいの感覚がおかしいのです」  

「富裕層がより豊かになろうとしたら何が効率よいと考えます?」
「増税か?」
「それが間違いなのですよ。同じ税率でも人が2倍に増えれば税収も2倍になります。減らすよりも増やす方が圧倒的にお得なのですよ」
「そりゃ理屈はそうだが」
 ミュアはヴァースを値踏みするように見る。
「略奪や殺戮では収入は減る一方なのです。領主間で奪い合いをするのはまさに愚の骨頂。そうは思いませんか?」
「……どうかな」
 ヴァースもまたミュアをどう捉えてよいか迷っていた。

「私はね。教会も王侯貴族もパイの奪い合いをするよりも、まずはパイを大きくすることを考えるべきだと思うのです」
「それには……世の中が腐りすぎているんじゃいのか?」
「そうです。腐敗してます。し過ぎています」
 ミュアは頷いた。
「帝国の人口はこの数百年、ほとんど変化していないのです。人が増えていない。これは異常です」
「……ふむ」
「こんな子供たちがいっぱいいます。子供の半数は大人になる前に亡くなります。運良く大人になっても命長らえるとは限りません」
「そんなに死ぬのか?」

「残念ながら。これを変革可能なのは権力者だけです。全員でなくとも半分でも理解してくれれば……」
 ヴァースはふと疑問に思った。
「なら、お前さんの上司を説得するとかあるだろう?教会はかなりの権限を持つのではないかな?」
「それくらいではもう修正しきれませんよ」
 ミュアは笑った。
「帝国は破壊して再構築するしかないのですよ」
 目が光る。
「私は革命を起こしたいのですよ」

「か、革命?」
「そうです。腐敗した連中を一掃し、新世界を作るのです」
「……本気か?」
「残念なことに、まだ力も同志も足りませんが」
 ミュアはちらりとヴァースを見やる。
「あなたは他の富裕層とは違う感じがする。だからこそ話しましたが」
「?」
「可能なら協力者になって欲しいくらいですよ」
 ヴァースは息を飲んだ。
 目の前の男は何を言い出しているのだろうか。

「一緒に革命を起こしませんか?」
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