上 下
101 / 131
第8章 人族の中の竜

第8章 人族の中の竜 4~惨劇

しおりを挟む
第8章 人族の中の竜 4~惨劇

●S-1:男爵領/大農場

 リズミカルな小太鼓ドラムの音が農場に響いた。
 低い音高い音を織り交ぜてテンポ良く。
 メロディーを刻むのは横笛ファイフの音色。
 演奏しているのは全て幼い少年であった。
 皆が色とりどりの派手な衣装をまとい集団の戦闘を歩く。
 鼓笛隊だった。

 巡回中の沙那はそれをお祭りの囃子かと思った。
 彼女の知る世界では良くある街頭パレードのようなものだったのだ。
「ね。クロちゃん、今日は何のお祭りなのー?」
 沙那は背後にいるであろうクローリーに声を掛けた。
 あまりにも楽しそうな曲に聞こえたのだった。

「祭りの話なんて……って、あれは」
 クローリーが目を細めて睨む。
 鼓笛隊の後ろに続くのは長槍パイクを掲げた集団。
 全員が鎧を身に着け、曲に合わせて進む。
「軍隊っス!」

 そこに現れていたのはバラント男爵ルネ・ディ・リュー率いる軍勢だった。
 総数は1000を超える。
 鼓笛隊に続くのは先ずは歩兵集団である長槍パイクの方陣。
 その後方には大楯と剣を構えた軽歩兵がやはり密集隊形で進む。
 そして、弓兵隊が並び、最後に騎馬隊がいた。
 騎馬隊の中にはルネ・ディ・リュー自身の姿もあった。


「なにあれー」
 沙那には緊張感がない。
 事態を把握できていないのだ。
「これはちっとばかりヤバいことになってきたっスな」
 クローリーは沙那を抱きかかえて地面に伏せた。

「きゃ!?クロちゃん-ん!こんなところでー!」
 沙那がじたばた暴れた。
「落ち着くっスよ。見つかると先に狙われるっス」
 クローリーは右手で沙那の頭を抑えつつ、左手で腰のポーチを弄った。
 そこには魔法の構成要素マテリアル・コンポーネントが入っているのだ。

「……なかなか困ったことになったっスな」
 冒険用装備ならいざ知らず。
 沙那の巡回に付き合うだけだったので戦闘向きのものは用意していないのだ。
 ここは一旦はやり過ごして連絡を取るべきだった。
 最初にシュラハトには知らせたい。

「こらー!はなせー!」
「きゅっ!きゅー!」
 ぺんぎんたちもクローリーの背中からなにから鰭で叩く。
「待て。待つっスよ。あれは戦争に来てる連中なんス」
 クローリーは腐っても帝国の領主である。
 何が起きつつあるか理解していた。 

「だってー。子供が演奏してるしー。みんな仮装してるよー?」
 それが沙那の、というべきか現代人が抱く印象だろう。
 子供が演奏して練り歩くのが鼓笛隊。
 それ自体は正しい。
 ただ、違うのは祭りのパレードのようなモノではない。

「あの子供らっスか?あれは行軍のリズムを取るための音楽っス」
 そう。鼓笛隊の本来の目的は士気高揚と共に、歩くリズムを整えるためのものだった。
 帝国の軍隊は歩幅を一定にした上で、リズムを取ることで移動速度を計算しやすいように構成されている。
 歩幅とリズムが一定ならば、時間当たりの行軍速度が凡そ判る。
 余談だがナポレオンはそのリズムを速めることで行軍速度を上げて、敵の予想を超えた動きをさせたことでも知られる。

「このままゆっくりと退るっスよ。……少し離れてから信号を打ち上げるっスから」
「むむむー?」
 沙那にはまだ状況が読めていない。
 クローリーは小さな筒を取り出す。
 火薬が実用化されたために用意された信号花火だった。
 通信手段が声を出すか早馬しかない世界ではとても有効なのだ。
 狼煙を上げるには設備と少々の時間がかかる。
 通信花火なら魔法で着火できるクローリーには最も早く連絡を取る手段なのだ。

「取り決めで赤色は緊急事態って合図になっているっス。で、これが……」
 握った筒は赤い彩色がされている。
「ま。シュラさんならすぐ気づいてくれるはずっス」
 クローリーは沙那を抱きかかえるようにじりじりと後退した。
 
「あっ!」
 これは沙那だった。
 後方に位置していた騎馬隊が隊列から離れたのだった。
 そして、農業中の女性を馬上槍ランスで突き刺した。
「な、なにあれ!」
 農婦を殺害した騎馬は板金鎧プレートメイルに身を包み、煌びやかな上衣サーコート姿の騎士だったのだ。
「騎士なのに女性を殺すのー!?」

「そりゃ当たり前っスよ」
「なんでー?騎士ってレディファーストとか言って女性をエスコートするものでしょー?」
 まさに現代人の発想だった。
 そして沙那は騎士≒侍のイメージを持っていた。
 むしろ侍の方が野蛮な印象だったろう。

「騎士が護るのは君主と貴婦人だけっス。庶民の女性は貴婦人じゃない……というか人間ですらないのがこの世界なんス」
 クローリーが吐き捨てるように言った。
 そう。騎士にとっての『レディ』は高貴な生まれの女性のことであって、庶民は含まない。
 むしろ中世では『斬り捨て御免』の権利がありながら庶民を切り捨てると『喧嘩両成敗』で斬った侍まで切腹にされる日本の方が特殊なのだ。
 だからこそロマンを求める騎士伝説が流行したのがヨーロッパだった。
 それに似た世界である帝国ではやはり騎士の権限は絶大だった。
 庶民と家畜は同じ扱いなのだ。

 クローリーがこの世界の領主としては少し違うのは、税を納める領民は領主の財産だと考えていたからだった。
 領民が減れば税収も減るのだから無下に扱うのは勿体ない。
 むしろ領民が豊かになればその分だけ税収は増えるはずというものだった。
 だからこそインフラ整備や投資に積極的なのである。
 巡り巡って自分の利益になる。
 それに、豊かになれば収奪目的の戦争はなくなって領地運営も楽になるだろう。
 冒険者として各地を旅したクローリーは人の流れを自由にすることにも前向きだったのだ。

「あの人には悪いことをしたっスが……さっさとここから離れ……」
 と、クローリーの腕の中から沙那がするりと抜け出した。
「ちょっ……!?さにゃ!?」
 ミニスカ―トを翻して走り出した沙那の手には新型の連発銃があった。

「こらあ!そこのゴリラ!まてえー!」


 農夫を突き殺した次に、傍にいた幼い少年に手を掛けようとしていたところだった。
 少年はおろかにも泣きながら向かってきていたのだ。
「愚民め」
 やはり無教養な庶民はこんなものか。
 逃げれば良いものを。
 騎士は馬上槍ランスを放り投げ、長剣ロングソードを抜いた。

 そこに奇声を上げながら、棒を持って走ってくる小柄な少女を見て騎士は首を傾げた。 
 農民には見えないがさりとて貴婦人にも見えない。
 少女の大きな胸が揺れるのを見て少し考える。
 殺すのは簡単だが、これなら捕まえて楽しむのもありかもしれない。
 兜の下の騎士の顔が不気味に歪んだ。
 
 その時。
 鈍い銃声。
 沙那の手に握られた連発銃だった。
 騎士は鎧を撃ち抜かれ、無様に落馬した。

「ぼく、大丈夫?」
 沙那が泣きじゃくる少年を抱きしめた。
「もう安心だからねー」
「……お母さんが……」
「仇は取った。だから逃げよー?」


「……あんの馬鹿娘が……」
 クローリーは堪らず天を仰いだ。
 少し離れて安全な場所から連絡をするはずだったのに。
「でも、あれがさにゃなんスなあ……」
 溜息を吐くと、その場で花火に点火した。
 ロケット花火のように空中に飛ぶと赤い煙を放って爆発した。


 異変に気付いた別な騎士が倒れた騎士の方に向かう。
 そこには脚を剥き出しにした胸の大きな少女と小さな少年がいた。
 特に脅威はないように思えたのだが……。
 少女が手にした杖から炎が走った。
 それが何かを理解する間もなく2人目の騎士も胸を撃ち抜かれていた。
 沙那はトリガーガードと一体化したレバーを前に動かすと廃莢し、次弾装填をした。


「魔女だ……あの魔女だ!」
 ルネは叫んだ。
 忘れもしない。
 あの炎を吹く魔法の杖。
「枢機卿台下!あれなる女が魔女ですぞ!」

「おお……」
 馬車から眺めていたクライスキーは目を見張った。
 杖から撃ち出す魔法は多々あれど、轟音とともに炎を撃ち出すものは知らなかった。
 戦闘系魔術師の使うものに魔法の礫マジック・ミサイルが似てはいるが、一撃で騎士を落馬させるほどではない。
 それに……。
 クライスキーは舌なめずりをした。

 小柄だが大きな胸に剥き出しの脚。
 異世界召喚者ワタリらしく金属光沢の髪をしているがなかなかの美貌だった。
「魔女は捕らえて尋問せねばのう……」
 下卑た笑いが顔を歪ませた。
「神殿騎士団!あの魔女を捕らえよ!」
 教会馬車の傍に待機していた神殿騎士たちは素早く動き始めた。


 沙那に向かって動き出した神殿騎士の一団を見て、クローリーも立ち上がった。
「教会か……」
 ルチアとマリエッラのことが思い出された。
 クローリーが殺意を抱くほどの相手はそうはいない。
「見捨てるわけにはいかねえっスな」
 冒険者時代にも危機的状況は何度もあった。
 どう切り抜けるか血が沸き立った。


 近づく神殿騎士に向けて沙那は発砲した。
 レバーアクション式の新型連発銃は素早く次の弾を撃てる。
 だが、欠点もあった。
 装弾数が少ないことと、いったん撃ち尽くすと再装填には手間も時間もかかるのだ。
 かちっと銃が空撃ちして、弾が切れたことを告げる。
 それでも沙那は少年を抱いたまま神殿騎士たちを睨みつけた。
 その強気な性格は沙那が他と違うところだろう。
 それでも危機は……最後は目前に見えた。

 甲高い大音量の汽笛が鳴った時までは。  
 


●S-2:男爵領/大農場

「もっと石炭を放り込んでくれ」
 ラベルは聞こえるように叫んだ。
 動かしていたのは農作業用の試作蒸気トラクターだった。
 灰色の煙を煙突から盛大に吹き上げ、激しく動く駆動ピストンからは白い蒸気が漏れる。
 
 ラベルは蒸気トラクターに石炭を積んでの起動中に、偶然にも一部始終を見ていた。
 状況を完全に把握していたわけではない。
 とはいえ沙那が飛び出し、少年を救おうとしたのは見てとれた。
 それで十分だった。
 徒歩の沙那が逃げ出せる余地はない。
 馬よりも速く走れるはずがないのだ。

 馬より……?
 すぐに気付いた。
 蒸気トラクターなら?
 農業用として時速数キロで運用することを想定していたものだが、移動するにはそれでは遅すぎるので減速機を使ってある。
 正確な速度は判らないが、かなりの速度が出るはずだった。
 何よりも蒸気窯と給水器を装備している蒸気トラクターは頑丈な上にすこぶる重い。
 衝突しても馬ぐらいは弾き飛ばせる。

機関銃ZPU付のトヨタがあれば簡単なんだがな……」
 砂漠や荒れ地でも最も信頼できる車両として知られるトヨタのSUVの荷台に武装を施したものは彼らにとっては最良の相棒だった。
 この世界でそれを求めるのはさすがに無理があったが、ヒット&アウェイしやすいのだ。
 蒸気トラクターはその点、加速はともかく曲がる止まるがかなり苦手だった。 
 上手くいくかは未知数というよりも低確率に思えた。
 それでも少年を救おうとした少女を見捨てる気にはならなかった。
 なにより、ラベルが銃を取った理由はそういった人々を救うためだったのだから。

「テクニカル・ガンワゴンというやつでスナ」
 石炭をスコップで窯へと放り込んでいたのはマーチスだった。
 技術系の開発に関わりが多い人物であった。
 これもたまたまラベルの蒸気トラクターの試験走行に立ち会いに来ただけだった。
 運良くなのか悪いのか巻き込まれてしまった形だ。
「次は蒸気機関の戦車でも考えますカナ」
「やめてくれ。それなら石油の確保か魔法で動く自動車を作ってくれた方が良い」
 ラベルはそう言うと、汽笛の鳴らす。
 騎士たちの注意をこちらに引きつけるためだった。


 神殿騎士たちが沙那に手を掛けようかという瞬間に、汽笛を鳴らしながら蒸気トラクターが騎士たちを跳ね飛ばして突っ込んできた。
「なんだ……あれは……」
 それはルネとクライスキー、そしてクローリーが同時に口に出た言葉だった。
 巨大な鉄の塊のような馬車?だった。
 その重量を利用して神殿騎士を数騎吹き飛ばす。
 
 ただ、なかなか止まらない。
 車輪がタイヤではない。
 ゴムはあるがゴムタイヤを製造する技術も基盤もないのだ。
 また、農業用トラクターという目的もあって車輪というよりはトータリー式の回転車になっていた。
 金属製の幅広の水車のようなものだ。
 地面を掻き上げる能力はまあまあなのでそこそこ加速はするが、ブレーキには向かない。
 ラベルが懸命に減速させようとするが、なかなか止まらずに更に神騎士たちを薙ぎ倒しながらゆっくりと止まる。
 神殿騎士に囲まれた中にだった。

「沙那。乗れ!」
 ラベルは叫ぶとギアをバックに入れる。
 構造上、完全に停車しないとギアが入らない。
 そもそもシンクロ装置がないので、力任せに叩き込まないといけない。
 ハンマーで叩いても良いくらいだった。

 一瞬、状況が判らずに呆然としかけた沙那だったが、すぐに気を取り直して少年を蒸気トラクターの運転台に押し上げる。
「おう」
 ラベルは少年の腕を掴んで引き上げた。
「さっすが夢の中ー!アクション映画みたいだねー!」
 沙那も転がる様に運転台に乗る。
「タイトルは暴走特急!アレキサンダー・エクスプレスって感じー?」
「どちらかというと包囲網under siegeじゃないですかネエ」
 マーチスは緊急時でもとぼけていた。

「っと、オレも邪魔するっスよ」
 最後にクローリーが飛び込んで来た。
 ラベルとマーチス同様に沙那を助けに来たのだが、蒸気トラクターに追い抜かれていたのだ。
「すごいことするっスなー」
 そう言うとクローリーは呪文をとなえる。
 ポーチから構成要素マテリアル・コンポーネントを取り出して、外へ投げた。
蜘蛛の網スパイダー・ウェブっス。しばらく足止めになるっス」
 直径5mほどの巨大な蜘蛛の糸のようなものが現われて神殿騎士たちを包む。
 これでかなり動き辛くなるはずだった。
 さらに木々や何か建物のようなものがあればさらに効果がは大きいはずだが。ここは芋畑で何もない。
 遮るものが少ないということは囲まれもしやすい。

「仕方ないデスナ……」
 マーチスは運転台から上半身を出すと右手で左の手首を握る。
 ごきっと音がして肘から先の義手が外れた。 
「……マーちん!?」
「お。おい。あんた」
 ラベルも目を見張った。
 義手の中から現れたのは金属の筒の束だった。
「奥の手デス」
 
 マーチスの左腕が炎を吐いた。
 4連銃身の散弾銃だった。
 沙那の連発銃とは違いマーチスのショットシェルにはペレットと呼ばれる細かい鉄球がたくさん仕込んだ特殊な弾丸だ。
 辺り一面にばら撒くために狙いをつけるというよりも近接距離を制圧するようなものだった。
 数騎の神殿騎士が撃ち倒された。
「すごーい」
「すげえっスな」
 驚く周囲にマーチスは肩を竦めた。
「問題は予備の弾丸がないことでシテ」
 無責任そうに笑って、ラベルに叫ぶ。
「今のうちに急いで後退デス!」

 蒸気トラクターが後進を始めた。
 思ったより速度が出るのは蒸気機関車としてのテストベッドでもあったために後進移動も想定内だったからだ。
 減速機の作りがきちんとしていなかったため……ではない。


「……なんという……なんということですかのお……」
 クライスキーの笑みは消えていた。
 恐ろしい。
 目の前で、あっという間に10を超える神殿騎士が倒されたのだ。
 何が起きたのか想像もつかない。
「魔女……たしかに魔女の仕業か……」
 何も判らないことが恐ろしい。
「追え。追うのだ」
 神殿騎士だけではなく、ルネ麾下の騎士たちも動き出した。


「乗り心地悪ーい!」
 沙那がぶーたれた。
 蒸気トラクターはタンク一体式なので元々サスペンションがない。
 前進後退を容易にするためだったが他にも航続時間が短いなど欠点も多い。
 蒸気機関車どころかリアニアモーターカーが開業しようかという時代の沙那にとっては驚くほど振動が多かった。
 おまけにタイヤでは無いのだ。

「……追ってくるよー?」
 沙那が前方を睨む。
「でも、騎馬だけ追ってくるのは何故ー?」
 歩兵の方は相変わらずに鼓笛隊を先頭に後進を続けていた。
「ああ。それは……略奪や殺戮の優先権は騎士にあるからっスな」
 クローリーが事も無げに言った。
「階級が上の者が先に美味しいものにありつけるって社会構造だからっス」
 クローリーが無表情になる。
 彼が最も唾棄して止まない風習だからだ。

「それに……庶民上がりの歩兵はいったん散開すると指示も命令も困難になるので戦闘に入るまでは隊列を崩させないのデス」
「えー?」
「そもそも散開戦術は銃が発展して機関銃が登場してからですカラネ」
 マーチスが言ったことは歴史的なことだ。
 第一次世界大戦で銃の射程距離が格段に向上したり機関銃が登場するまでは横陣で隊列を組んで一斉射撃が基本だった。
 それ以前だと密集隊形での激突が当たり前で、散開して戦うのは騎馬弓兵くらいのものである。
 火器がないこの世界では当然だった。

「さにゃ。水はいけるっスか?」
「にゃ?」
 沙那は首を傾げた。
「お湯をドバっと出せないっスか?」
「あ」
 沙那は頷いた。

「イズミちゃん」
「なぁに?」
 沙那の髪の毛の中からイズミの妖精が顔を出す。
「おねがい。お湯をいっぱい!」
「はぁい」
 イズミちゃんが小さく微笑んだ。
 得意の技で人間に喜ばれるのが嬉しいのだ。 


 突然に追撃しようとする騎士たちをお湯の濁流が襲った。
 何が何なのか判らない。
 何もないところから膨大な量のお湯が噴出したのだ。
 騎士たちは馬ごと流され、次々に落馬した。
 死ぬことはなくとも動きが取れない。

 何より地面がぬかるんだことは大きい。
 騎馬にとって最大の障害は水と泥濘なのだ。
 馬は足を取られてしまう。
 速度を失った騎兵は価値がほとんどなくなる。
 騎士たちは蒸気トラクターへの追撃を中止した。


「しっかし……こいつは厄介なことになったっスな」
 走り去る蒸気トラクターの中でクローリーはしゃがみこんだ。
 軍事を後回しにし過ぎたツケが来たことを悟っていた。
 防衛力の少ない豊かな土地はそれだけで狙われても仕方のないことなのだ。
 帝国内では当たり前のことであったのに、領地が発展していくことに浮かれて見過ごしていた。
 シュラハトが気にしていたのはこのことだったのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...