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第5章 第一次辺境紛争
第5章 第一次辺境紛争~6 戦後の後始末と新たな足音
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6 戦後の後始末と新たな足音
朝になると戦闘は終わっていた。
結果的にはアレキサンダー男爵領内へ侵入される前に蛮族軍を殲滅した形だった。
数的優勢に慢心していた蛮族軍、そこに漁夫の利を得ようとしていたバラント男爵軍も油断していた。
クローリーたちは必死だったが情報が不足していた。
お互いが状況を把握していないうちに激突してしまった結果だった。
遭遇戦と偶然の積み重ねでクローリーたちは勝利したが、薄氷を踏むようなものでもあった。
それでも、何の準備もできていない状態でも事なきを得たのは僥倖だった。
『戦争は始めるよりも、終わらせる方が難しい』
とは良く言ったものだとクローリーは独り言ちた。
勝っても負けても奇麗に終わらないのは世の常である。
その点、帝国内の諸侯同士の戦争は気楽なものだ。
『お決まり』の暗黙のルールがあり、敗北した方が支払う相場も、相場以上にせびる勝者もない。
例外は流れ矢などで当主などが戦死した場合くらいだ。
後継者がいなかった時などは特に顕著だろう。
逆にそれで『偶然』によって他家を乗っ取ることもあり、なかなか油断のならない腹黒い世界である。
戦後処理に関してはクローリーたちの戦争はまだ楽な方だった。
猪人族は通称蛮族回廊と呼ばれた緩衝地帯である森の奥の権益を失った。
族長以下多くの兵員を失い、10年くらいは回復できなさそうである。
森は結構焼いてしまったこともあって、人族が開拓を進めて人族領域を増やすことになった。
小鬼族はより悲惨で、参戦したほぼ全員が戦死した。
『ほぼ』というのは何とか逃げ遂せた者もいなくはないだろう、という程度のものだった。
蛮族回廊近くの植民村は全て失われた。
そして問題はバラント子爵だった。
アレキサンダー男爵家が使った戦費は全額補償……これは至って普通だ。
厄介なのは当主であるルネ・ディ・リューを捕縛したので身代金を要求できることだった。
もちろんクローリーの思うまま吹っ掛けても構わないのが帝国のルールだ。
しかし、クローリーは感情的にそれができなかった。
バラント子爵も決して裕福とは言えない。
そうでなければ蛮族と結託して攻めてきたりはしない。
否。蛮族と通じたこと自体が処刑されても文句は言えないくらいなのだ。
クローリーが躊躇するのは、払われるものが唯でさえ貧しい領民の血税だというところなのだった。
諸侯同士の戦いで敗北した側の領民が飢餓に苦しんで餓死などは良くあることだ。
普通の帝国貴族は領民のことなど気にもしないが、ただクローリーはそうではなかった。
「食えない領主が食えない領民からさらに搾り取るんス。……さすがにやりきれねーっスな……」
クローリーは凝ってもいない肩を叩いた。
封建領主はお金が無ければ領民から搾り取る。
食料が不足すれば領民から搾り取る。
帝国はそれが当たり前になっていた。
賠償金を受け取ろうにも、それは相手の領民から奪うことと同義だった。
「……オレは賢者と初めて会った時に聞いた話に憧れていたんス」
「にゃ?」
「庶民がそこそこ自由に豊かに生きていける世界のことを聞いたからっス」
「んー」
沙那にも今なら少し分かる。
帝国の庶民は貧しい。
身分制度は厳格で沙那が生きていた世界とはだいぶ異なっていた。
貧富の差が大きくなりつつあると言われていたが、この帝国世界のように圧倒的多数の貧しい市民とほんの一部だけが贅沢に与れるほどの過酷さはなかった。
賢者はさらに沙那よりも豊かな時代から来たのだから、この世界の人間から見れば夢の世界である。
搾取する側の貴族という立場にいると気付かないものだが、クローリーは旅もしてきたので良く知っていた。
「話に聞くほどのものまでは難しいとは思うっスが、領民が野垂れ死ぬのが当たり前みたいのはなくしたいんスよ」
「じゃー。何にも取らないとかはー?」
「そいうわけにはいかないっス。報復とまではいわねーっスが、相応の損害を与えないと舐められちゃうんス」
「べつにいーじゃないー?」
「いーや。何も払わなくて良いと聞いたら、それまでやる気の無かった奴まで攻めてくることになるっス」
「……あー」
沙那もなんとなく状況を理解しかけた……ところで思いついた。
「んー。じゃーさー。お芋とか作らせてあげればいいじゃないー?」
「……へ?」
「焼けた森を開拓して村を作るって話してたでしょー?」
「そうっスなー」
「だからー。貧しくて大変な人たちに移民して貰って開拓するのー」
「……」
クローリーは目から鱗が落ちた気がした。
「それっス!」
クローリーが手を打った。
「領地間の移動禁止を禁止にして領民の移動を自由にする。……でー、そこで開拓団募集!でー、資金や道具を援助するんスな」
「あ。それいいかもー」
「そうすると相手から領民という財産を頂くことで制裁になる。で、重税掛けようとすると……こっちの開拓村に亡命……になるから領民を過剰に搾り取れないっスなー」
「そっか。こっちへ逃げ出せないようにするにもー、移動の自由を法律で縛るからーってことー?」
沙那は両手の人差し指をとんとんと合わせた。
人の移動のつもりなのだろう。
「あっちは領民に逃げられ過ぎると大変スからな。重税なんかかけられないっス」、
相手を一方的に弱体化させて、相手が復讐を企んでも先立つものが無くなる。
しかも長期的には領民が大きな損はしない。
アレキサンダー領の開拓地に逃げだせば良いのだから。
帝国世界で協定を踏み躙るのは大変だ。
帝国は完全な分裂を防ぐために貴族間の協定違反にはとても厳しい。
協定違反は周囲の貴族からの懲罰の絶好の口実になる。
懲罰対象となった領主が近くにいたら……周囲は目の色変えて攻めてくるだろう。
大義名分ができて略奪し放題だ。
周囲の複数の領主から懲罰されることでより悲惨な末路になるだろう。
何もかも毟り取られて取り潰しすらありうる。
「良いこと考えたっスな!」
クローリーは嬉しくて沙那をぎゅっと抱きしめた。
「ちょ?なにするのー!?」
「いやあ。助かるっス!」
「やめろー!へんたーい!えっちー!」
「うひひひひー。……お?なんか柔らかいっスなー」
すりすりもふもふ。
「こ……の……」
沙那が握り拳を振り上げた。
クローリーの足元でぺんぎんたちがぺんぎんソードでぺしぺし叩いている。
「あ。……たんま」
「天誅ー!」
クローリーはボコボコにされた。
「何じゃれてるんだ?あいつら」
少し離れて椅子に腰かけていたシュラハトが呆れた。
「えー?良いじゃないよお」
マリエッラはご機嫌だ。
「あたしのクロサニャらぶらぶ大作戦が上手くいきそうでえ」
「……バカバカしい」
「悪くないと思うんだけどお。目下のあたしの野望かなあ」
「……つまんね」
シュラハトは大きく欠伸した。
それでも沙那が来てから急速に何かが変わりつつあることは実感していた。
* * *
「まったく……やられましたわ」
アリシアは少し悔しそうだった。
「私よりもあの乳デカ娘が名を挙げてしまいましたもの」
「アリシア様、お言葉が……」
「あら。いけませんわ。ほほほ」
「あれはエルフですので、見た目が少し目立つだけでございます」
侍女が慌てて宥める。
アリシアはくすりと笑う
「対立したいわけじゃありませんの。競い、高め合えるライバルにはなれるかもしれませんわね」
「でも……」
アリシアはふと立ち止まった。
「これでアレキサンダー男爵はカストリアと互角の力を手に入れますわね」
アリシアが考えていたのは開拓村と移民だった。
どのくらい人口が増えるかは判らないが、評判を聞きつけて流民が集まるだろう。
10年くらいでかなりの規模になるかもしれない。
逆に治安が悪化することで軍事化を強めることになるかもしれない
「どう治めるでしょうね」
力を持ったクローリーがカストリアと対立しないとも限らない。
「友となるか敵となるか……」
* * *
以前から、アレキサンダー男爵領はインフラ整備のための大工事で多くの出稼ぎや移民を受け付けていた。
そこに開拓村が加わり人口は劇的に増加した。
しかし、人が流入すれば治安は悪化する。
そこで治安悪化の解消のために軍事……ではなく、行ったのは定期的に祭りを行うことだった。
領内の教会組織が主催して行うことでガス抜きを行うのだ。
教会にはお金が入るため敵対を避けることが出来た
これはマリエッラにはあまり面白くないものだったが、彼女自身も名目上は教会に仕える神官だったので小さく溜息を吐くだけで納めた。
少々過激ともいえるくらいに派手なお祭りになったものの、結果としては暴徒が発生し難くなったのは確かだった。
もちろん。その程度で完全に治まるようなものではない。
それでも締め付けるよりはマシだった。
反発させるよりもエネルギーを別方向に向ければ大きなトラブルは減るからだ。
少なくとも多くの人はその景気の良さそうな雰囲気には好意的で、移民は加速することになった。
問題は集まる移民は基本的に経済難民であり、帝国らしく識字率は低く、単純作業にしか就労できない者が大部分だったことだった。
アレキサンダー男爵領で10年後20年後を見て行われている義務教育制度は、その成果を出すのはまだまだ先である。
兵士としての動員も考えないことはなかったが、兵士自体が治安悪化の要素になるのは危険ということで行わなかった。
クローリーたちは見た目に目立つエルフを頻繁に開拓地を巡回させ、そこにあることないことエルフの武勇伝を噂で広めることで心理効果を狙った……が、一部では子供の躾に『言うこと聞かないとエルフがくるよ!』とおかしな使われ方もしたりだった。
おかげで、たまにエルフを見て泣き出す子供がいたらしい。
「こりゃ思ったより大変っスなー」
開拓村を視察したクローリーは大きく溜息を吐いた。
簡単に言葉で開拓と言ったもの現地は想像を超えていた。
木を斬って森を切り開くのはまだ良い。
木はそのまま木炭にされ、あるいはそのまま燃料として使えるので開拓者たちの当面の収入にできた。
問題は幾つもあるが切実なのは水だった。
上下水道はクローリーにとっては夢の第一歩であり、最低限保証したいものだった。
町へはすでに通したものの、それを郊外にまで伸ばすのは資金も労働力も足りなかった。
森を走るヴィスラ川は何とか使用に耐えるのだが、人口急増による水質の悪化が懸念されていた。
「あちらを立てればこちらが立たず……金が足りねーっスなあ」
「また何か儲かること考えないとねー」
沙那は足元に纏わり付くぺんぎんたちに小魚ビスケットを与えながら気楽に言った。
為政者の苦労はまだ彼女には判らない。
部下に「これやっといて」と丸投げができない。
帝国の常識を破るようなエルフの知恵を導入していく作業なのだから、クローリー自身がしなければならないことが多すぎた。
なによりアレキサンダー男爵領は辺境の小領なのだ。
元々人材は少なく、識字率の低さ故に役人は少ない。
大車輪で走り回るベンチャー企業の社長みたいなものだ。
「せんせーせんせー!さにゃせんせー!」
10歳くらいの少年たちが走り寄ってきた。
開拓地にも学校を作り、沙那も定期的に教員として回っているので子供たちには顔馴染みだ。
「なーにー?宿題でも出してほしいのー?」
「やだー!」
子供たちがぺんぎんたちを押しのけて沙那の足元に集まる。
沙那は笑ってしゃがみ、子供たちと目の高さを合わせる。
普段からは想像できないほど子供には優しい。
「あ。白ー」
「こら、見るなー!」
沙那のスカートはかなり短いのでしゃがむと見えちゃうのだ。
「あのねあのねー」
「井戸がー」
「井戸?」
「うん。大人たちが井戸掘ったんだけど、なんかガスが出て来たんだって」
「へー。じゃあ、この辺りにも灯りができるかなー?」
「それがねー」
子供の1人が困ったような顔をした。
「火が点かないんだ」
「にゃ?」
「火が付くと灯りになるって聞いてたからみんな喜んで火を点けようとしたんだけど」
「点かなかったのー?」
「そー」
「そっかー。残念だったねー」
沙那が少年の頭を撫で回す。
「それがねー。それがねー。すごく変なんだ」
「変?どんなー?」
「来れば判るよー。こっちこっちー!」
子供たちが沙那の手を引っぱる。
「あ。そこのおじさんも来るー?」
「おじさんってオレっスか……?」
クローリーが渋い顔をした。
まだ20代前半。充分に若いつもりなのだ。
とはいえ子供たちには親しみのある学校の先生ならともかく、まず見ることのない領主様の顔など知るはずもない。
そういう子供から見ればクローリーは『ちょっと若い』おじさんでしかない。
「ま。行ってみるっスよ」
これも視察の一部と思って首を叩いて背を伸ばす。
報告書の中だけではわからないこともあるだろう。
「あー。あー。あー」
その掘りかけの井戸の周りでは子供だけではなく大人も混じって奇妙な声を上げていた。
「おー。おー。おー」
「ワレワレハウチュウジンダ」
妙なことを口走るパーチスまでいた。
「あ。パーちんー。何やってるのー?」
「やあ。さにゃこさん。どーですか?ワタシの萌えボイスは?」
そう笑うパーチスのこえが妙に甲高い。
大昔の機械音声のようだった。
「なにそれー?面白ーい」
見ると色んな人が次々に井戸に近づいて大きく息を吸っている。
するとみんな声が甲高いおかしな声になる。
それでお互いの様子を笑い合っている。
「あー。これってー。バラエティ番組とかでったまに見るアレかなー?」
「たぶんそーデス」
「まったく……。こら、吸い過ぎると死ぬのじゃ」
呆れ顔のヒンカも来た。
子供たちに呼ばれたのかもしれない。
「え?毒なの!?」
「えー!?」
「違うのじゃ。酸素が入ってないと呼吸できなくなるからじゃ」
「あー」
沙那はちょっと納得した。
「これってそうなんだー?」
「これでゴムがあれば風船作って祭りで飛ばせマスナ」
「まーね」
「……どういうことっスか?」
1人クローリーだけ置いてけぼりだ。
ヒンカはその凹凸の少ない胸を張ってクローリーを見る。
「ヘリウムだよ。常識じゃあり得ない話じゃが……」
「へ?」
「普通は特定の天然ガスの中に1%も含有してるかどうかなんじゃが……」
「貴重なもんなんスか?」
「まあ貴重というか……現状は使い道が何もないんじゃ。が……垂れ流すのは勿体ないのじゃ」
ヒンカが井戸を覗き込み噴出元を確認した。
「妾の国の一部でしか取れない特殊なガスでな。戦略物資として世界に通用するものなのじゃが……」
「へー?パーティーグッズなのにー?」
「……そんなアホな使い方しかしないのは日本人だけじゃ。ロケットの推進剤にも使われる代物じゃぞ」
「えー!?」
クローリーにはもちろん会話の意味は理解できない。
それでもエルフ世界では重要なものらしいとだけは感じた。
「都合が良いというか悪いというのか、妾の世界の常識から外れたものがちょいちょいあるのじゃ」
「……意外とこの世界特有の、魔法の存在に由来するかもしれませんネエ」
「使い道ができれば大きな財産になろうというものじゃが……」
今の時点では遊ぶ以外に使い道がないものだった。
* * *
蛮族回廊を越えた遥か北に、その町はあった。
太陽は出ているはずなのにその地域はどこか暗く陰っていた。
空気自体が重く感じられる。
空は薄っすらと灰色の雲に覆われていた……雲?否、一帯の空を包み込む巨大な靄のようなものだ。
それは眼下の町に立ち並ぶ煙突群から吐き出されている何かであった。
その靄を突っ切って何かが降りてくる。
急降下してきたかと思うと、ふわりとホバリング状態になり城頭に着床した。
大きな翼を鳥のように開いていたが、畳むと人型になった。
しかし人間ではない。
どこか猫背気味に立ち上がった爬虫類じみた何かだった。
有翼魔と呼ばれる魔族である。
魔族は人族と対立する蛮族の中でも最も厄介な類のものだ。
ほとんどが攻撃的で容赦がない……それは人族とお互い様かもしれない。
「早かったな。チューソン」
低いがよく通った声の汎用蛮族語が聞こえた。
チューソンと呼ばれた有翼魔は長い首をぐるりと回して声の方を見た。
声の主は人型だった。
口元から覗く鋭い八重歯さえなければ人族にしか見えないような男だ。
身につけているのも仕立ての良い白い夜会服のようなものだった。
「どうだった?」
「これは……伯爵様」
チューソンは頭を下げた。
「挨拶はいい。それでどうだった?」
「は……」
チューソンは蛇のような長い舌をしゅるしゅると出し入れしながら頷く。
「人族のサルどもは魔術砲撃部隊をかなりの数を配置しているようで」
「ふうん」
伯爵は金で装飾されたケースの中から細巻煙草を取り出し、端を噛み切った。
「150年ぶりだからね。サルも進化したのかな」
にやりと笑う。
鋭い八重歯……牙が光る。
「おおよその数は?」
「は。だいたい……100ほどかと」
「すごいな。皇帝親衛隊並みだね」
軍事力として攻撃魔法を使える部隊で100人もいるというのは大兵力だった。
帝国全軍合計でも300と集められるかどうかだ。
「それでは猪頭族どもくらいでは1000や2000いても敵わないだろうな」
呪文を唱え指先に小さな火を出し、細巻煙草に火を点ける。
クローリーが求めて止まない便利魔法を自らの能力で自在に使えるのだ。
「勝ち戦に安心して緩んでいるところを叩こうか」
伯爵は紫色の煙を吐いた。
「判るね?チューソン」
「は?」
「わ、か、る、ね?」
「は、はは!幼竜も使って宜しいので?」
「わ、か、っ、て、い、る、ね?」
「は、はい?」
「……殺すぞ」
「ひっ!?ひいっ!」
チューソンは身を縮めておろおろした。
か細い声を出す。
「おねがい……殺さないで……」
伯爵は右手を小さく払った。
チューソンは伯爵の不興を買ったと気付いて慌てて飛び去った。
「……魔族は頭が悪いな。あいつだけかな」
伯爵は弾丸のように飛び去って行くチューソンをゴミでも見るような目付きで眺めた。
「伯爵様」
陰からスッと姿を現す女性。
闇に溶け込むような肌の色、金色の瞳、そして金属光沢のプラチナブロンド。
切れ長の目に長く尖った耳。
帝国内では見ることのない種族、異世界召喚者とは全く異なる本来の意味のエルフ、それもダークエルフと呼ばれるものだ。
地下世界を故郷とする彼らは蛮族世界でも珍しい存在だ。
「ノワール」
伯爵はダークエルフの名を呼んだ。
「見てこい」
それだけで十分だった。
意を察したノワールは闇に溶けるように姿を消す。
「火を点けたのはそちらだ。サルども」
その町は蛮族回廊を越えた遥か北。
帝国の人々は知らない。
そこまで踏み入れた人族はほとんどいないからだ。
入ったら出られない蛮族の町シュラークはそこにあった。
朝になると戦闘は終わっていた。
結果的にはアレキサンダー男爵領内へ侵入される前に蛮族軍を殲滅した形だった。
数的優勢に慢心していた蛮族軍、そこに漁夫の利を得ようとしていたバラント男爵軍も油断していた。
クローリーたちは必死だったが情報が不足していた。
お互いが状況を把握していないうちに激突してしまった結果だった。
遭遇戦と偶然の積み重ねでクローリーたちは勝利したが、薄氷を踏むようなものでもあった。
それでも、何の準備もできていない状態でも事なきを得たのは僥倖だった。
『戦争は始めるよりも、終わらせる方が難しい』
とは良く言ったものだとクローリーは独り言ちた。
勝っても負けても奇麗に終わらないのは世の常である。
その点、帝国内の諸侯同士の戦争は気楽なものだ。
『お決まり』の暗黙のルールがあり、敗北した方が支払う相場も、相場以上にせびる勝者もない。
例外は流れ矢などで当主などが戦死した場合くらいだ。
後継者がいなかった時などは特に顕著だろう。
逆にそれで『偶然』によって他家を乗っ取ることもあり、なかなか油断のならない腹黒い世界である。
戦後処理に関してはクローリーたちの戦争はまだ楽な方だった。
猪人族は通称蛮族回廊と呼ばれた緩衝地帯である森の奥の権益を失った。
族長以下多くの兵員を失い、10年くらいは回復できなさそうである。
森は結構焼いてしまったこともあって、人族が開拓を進めて人族領域を増やすことになった。
小鬼族はより悲惨で、参戦したほぼ全員が戦死した。
『ほぼ』というのは何とか逃げ遂せた者もいなくはないだろう、という程度のものだった。
蛮族回廊近くの植民村は全て失われた。
そして問題はバラント子爵だった。
アレキサンダー男爵家が使った戦費は全額補償……これは至って普通だ。
厄介なのは当主であるルネ・ディ・リューを捕縛したので身代金を要求できることだった。
もちろんクローリーの思うまま吹っ掛けても構わないのが帝国のルールだ。
しかし、クローリーは感情的にそれができなかった。
バラント子爵も決して裕福とは言えない。
そうでなければ蛮族と結託して攻めてきたりはしない。
否。蛮族と通じたこと自体が処刑されても文句は言えないくらいなのだ。
クローリーが躊躇するのは、払われるものが唯でさえ貧しい領民の血税だというところなのだった。
諸侯同士の戦いで敗北した側の領民が飢餓に苦しんで餓死などは良くあることだ。
普通の帝国貴族は領民のことなど気にもしないが、ただクローリーはそうではなかった。
「食えない領主が食えない領民からさらに搾り取るんス。……さすがにやりきれねーっスな……」
クローリーは凝ってもいない肩を叩いた。
封建領主はお金が無ければ領民から搾り取る。
食料が不足すれば領民から搾り取る。
帝国はそれが当たり前になっていた。
賠償金を受け取ろうにも、それは相手の領民から奪うことと同義だった。
「……オレは賢者と初めて会った時に聞いた話に憧れていたんス」
「にゃ?」
「庶民がそこそこ自由に豊かに生きていける世界のことを聞いたからっス」
「んー」
沙那にも今なら少し分かる。
帝国の庶民は貧しい。
身分制度は厳格で沙那が生きていた世界とはだいぶ異なっていた。
貧富の差が大きくなりつつあると言われていたが、この帝国世界のように圧倒的多数の貧しい市民とほんの一部だけが贅沢に与れるほどの過酷さはなかった。
賢者はさらに沙那よりも豊かな時代から来たのだから、この世界の人間から見れば夢の世界である。
搾取する側の貴族という立場にいると気付かないものだが、クローリーは旅もしてきたので良く知っていた。
「話に聞くほどのものまでは難しいとは思うっスが、領民が野垂れ死ぬのが当たり前みたいのはなくしたいんスよ」
「じゃー。何にも取らないとかはー?」
「そいうわけにはいかないっス。報復とまではいわねーっスが、相応の損害を与えないと舐められちゃうんス」
「べつにいーじゃないー?」
「いーや。何も払わなくて良いと聞いたら、それまでやる気の無かった奴まで攻めてくることになるっス」
「……あー」
沙那もなんとなく状況を理解しかけた……ところで思いついた。
「んー。じゃーさー。お芋とか作らせてあげればいいじゃないー?」
「……へ?」
「焼けた森を開拓して村を作るって話してたでしょー?」
「そうっスなー」
「だからー。貧しくて大変な人たちに移民して貰って開拓するのー」
「……」
クローリーは目から鱗が落ちた気がした。
「それっス!」
クローリーが手を打った。
「領地間の移動禁止を禁止にして領民の移動を自由にする。……でー、そこで開拓団募集!でー、資金や道具を援助するんスな」
「あ。それいいかもー」
「そうすると相手から領民という財産を頂くことで制裁になる。で、重税掛けようとすると……こっちの開拓村に亡命……になるから領民を過剰に搾り取れないっスなー」
「そっか。こっちへ逃げ出せないようにするにもー、移動の自由を法律で縛るからーってことー?」
沙那は両手の人差し指をとんとんと合わせた。
人の移動のつもりなのだろう。
「あっちは領民に逃げられ過ぎると大変スからな。重税なんかかけられないっス」、
相手を一方的に弱体化させて、相手が復讐を企んでも先立つものが無くなる。
しかも長期的には領民が大きな損はしない。
アレキサンダー領の開拓地に逃げだせば良いのだから。
帝国世界で協定を踏み躙るのは大変だ。
帝国は完全な分裂を防ぐために貴族間の協定違反にはとても厳しい。
協定違反は周囲の貴族からの懲罰の絶好の口実になる。
懲罰対象となった領主が近くにいたら……周囲は目の色変えて攻めてくるだろう。
大義名分ができて略奪し放題だ。
周囲の複数の領主から懲罰されることでより悲惨な末路になるだろう。
何もかも毟り取られて取り潰しすらありうる。
「良いこと考えたっスな!」
クローリーは嬉しくて沙那をぎゅっと抱きしめた。
「ちょ?なにするのー!?」
「いやあ。助かるっス!」
「やめろー!へんたーい!えっちー!」
「うひひひひー。……お?なんか柔らかいっスなー」
すりすりもふもふ。
「こ……の……」
沙那が握り拳を振り上げた。
クローリーの足元でぺんぎんたちがぺんぎんソードでぺしぺし叩いている。
「あ。……たんま」
「天誅ー!」
クローリーはボコボコにされた。
「何じゃれてるんだ?あいつら」
少し離れて椅子に腰かけていたシュラハトが呆れた。
「えー?良いじゃないよお」
マリエッラはご機嫌だ。
「あたしのクロサニャらぶらぶ大作戦が上手くいきそうでえ」
「……バカバカしい」
「悪くないと思うんだけどお。目下のあたしの野望かなあ」
「……つまんね」
シュラハトは大きく欠伸した。
それでも沙那が来てから急速に何かが変わりつつあることは実感していた。
* * *
「まったく……やられましたわ」
アリシアは少し悔しそうだった。
「私よりもあの乳デカ娘が名を挙げてしまいましたもの」
「アリシア様、お言葉が……」
「あら。いけませんわ。ほほほ」
「あれはエルフですので、見た目が少し目立つだけでございます」
侍女が慌てて宥める。
アリシアはくすりと笑う
「対立したいわけじゃありませんの。競い、高め合えるライバルにはなれるかもしれませんわね」
「でも……」
アリシアはふと立ち止まった。
「これでアレキサンダー男爵はカストリアと互角の力を手に入れますわね」
アリシアが考えていたのは開拓村と移民だった。
どのくらい人口が増えるかは判らないが、評判を聞きつけて流民が集まるだろう。
10年くらいでかなりの規模になるかもしれない。
逆に治安が悪化することで軍事化を強めることになるかもしれない
「どう治めるでしょうね」
力を持ったクローリーがカストリアと対立しないとも限らない。
「友となるか敵となるか……」
* * *
以前から、アレキサンダー男爵領はインフラ整備のための大工事で多くの出稼ぎや移民を受け付けていた。
そこに開拓村が加わり人口は劇的に増加した。
しかし、人が流入すれば治安は悪化する。
そこで治安悪化の解消のために軍事……ではなく、行ったのは定期的に祭りを行うことだった。
領内の教会組織が主催して行うことでガス抜きを行うのだ。
教会にはお金が入るため敵対を避けることが出来た
これはマリエッラにはあまり面白くないものだったが、彼女自身も名目上は教会に仕える神官だったので小さく溜息を吐くだけで納めた。
少々過激ともいえるくらいに派手なお祭りになったものの、結果としては暴徒が発生し難くなったのは確かだった。
もちろん。その程度で完全に治まるようなものではない。
それでも締め付けるよりはマシだった。
反発させるよりもエネルギーを別方向に向ければ大きなトラブルは減るからだ。
少なくとも多くの人はその景気の良さそうな雰囲気には好意的で、移民は加速することになった。
問題は集まる移民は基本的に経済難民であり、帝国らしく識字率は低く、単純作業にしか就労できない者が大部分だったことだった。
アレキサンダー男爵領で10年後20年後を見て行われている義務教育制度は、その成果を出すのはまだまだ先である。
兵士としての動員も考えないことはなかったが、兵士自体が治安悪化の要素になるのは危険ということで行わなかった。
クローリーたちは見た目に目立つエルフを頻繁に開拓地を巡回させ、そこにあることないことエルフの武勇伝を噂で広めることで心理効果を狙った……が、一部では子供の躾に『言うこと聞かないとエルフがくるよ!』とおかしな使われ方もしたりだった。
おかげで、たまにエルフを見て泣き出す子供がいたらしい。
「こりゃ思ったより大変っスなー」
開拓村を視察したクローリーは大きく溜息を吐いた。
簡単に言葉で開拓と言ったもの現地は想像を超えていた。
木を斬って森を切り開くのはまだ良い。
木はそのまま木炭にされ、あるいはそのまま燃料として使えるので開拓者たちの当面の収入にできた。
問題は幾つもあるが切実なのは水だった。
上下水道はクローリーにとっては夢の第一歩であり、最低限保証したいものだった。
町へはすでに通したものの、それを郊外にまで伸ばすのは資金も労働力も足りなかった。
森を走るヴィスラ川は何とか使用に耐えるのだが、人口急増による水質の悪化が懸念されていた。
「あちらを立てればこちらが立たず……金が足りねーっスなあ」
「また何か儲かること考えないとねー」
沙那は足元に纏わり付くぺんぎんたちに小魚ビスケットを与えながら気楽に言った。
為政者の苦労はまだ彼女には判らない。
部下に「これやっといて」と丸投げができない。
帝国の常識を破るようなエルフの知恵を導入していく作業なのだから、クローリー自身がしなければならないことが多すぎた。
なによりアレキサンダー男爵領は辺境の小領なのだ。
元々人材は少なく、識字率の低さ故に役人は少ない。
大車輪で走り回るベンチャー企業の社長みたいなものだ。
「せんせーせんせー!さにゃせんせー!」
10歳くらいの少年たちが走り寄ってきた。
開拓地にも学校を作り、沙那も定期的に教員として回っているので子供たちには顔馴染みだ。
「なーにー?宿題でも出してほしいのー?」
「やだー!」
子供たちがぺんぎんたちを押しのけて沙那の足元に集まる。
沙那は笑ってしゃがみ、子供たちと目の高さを合わせる。
普段からは想像できないほど子供には優しい。
「あ。白ー」
「こら、見るなー!」
沙那のスカートはかなり短いのでしゃがむと見えちゃうのだ。
「あのねあのねー」
「井戸がー」
「井戸?」
「うん。大人たちが井戸掘ったんだけど、なんかガスが出て来たんだって」
「へー。じゃあ、この辺りにも灯りができるかなー?」
「それがねー」
子供の1人が困ったような顔をした。
「火が点かないんだ」
「にゃ?」
「火が付くと灯りになるって聞いてたからみんな喜んで火を点けようとしたんだけど」
「点かなかったのー?」
「そー」
「そっかー。残念だったねー」
沙那が少年の頭を撫で回す。
「それがねー。それがねー。すごく変なんだ」
「変?どんなー?」
「来れば判るよー。こっちこっちー!」
子供たちが沙那の手を引っぱる。
「あ。そこのおじさんも来るー?」
「おじさんってオレっスか……?」
クローリーが渋い顔をした。
まだ20代前半。充分に若いつもりなのだ。
とはいえ子供たちには親しみのある学校の先生ならともかく、まず見ることのない領主様の顔など知るはずもない。
そういう子供から見ればクローリーは『ちょっと若い』おじさんでしかない。
「ま。行ってみるっスよ」
これも視察の一部と思って首を叩いて背を伸ばす。
報告書の中だけではわからないこともあるだろう。
「あー。あー。あー」
その掘りかけの井戸の周りでは子供だけではなく大人も混じって奇妙な声を上げていた。
「おー。おー。おー」
「ワレワレハウチュウジンダ」
妙なことを口走るパーチスまでいた。
「あ。パーちんー。何やってるのー?」
「やあ。さにゃこさん。どーですか?ワタシの萌えボイスは?」
そう笑うパーチスのこえが妙に甲高い。
大昔の機械音声のようだった。
「なにそれー?面白ーい」
見ると色んな人が次々に井戸に近づいて大きく息を吸っている。
するとみんな声が甲高いおかしな声になる。
それでお互いの様子を笑い合っている。
「あー。これってー。バラエティ番組とかでったまに見るアレかなー?」
「たぶんそーデス」
「まったく……。こら、吸い過ぎると死ぬのじゃ」
呆れ顔のヒンカも来た。
子供たちに呼ばれたのかもしれない。
「え?毒なの!?」
「えー!?」
「違うのじゃ。酸素が入ってないと呼吸できなくなるからじゃ」
「あー」
沙那はちょっと納得した。
「これってそうなんだー?」
「これでゴムがあれば風船作って祭りで飛ばせマスナ」
「まーね」
「……どういうことっスか?」
1人クローリーだけ置いてけぼりだ。
ヒンカはその凹凸の少ない胸を張ってクローリーを見る。
「ヘリウムだよ。常識じゃあり得ない話じゃが……」
「へ?」
「普通は特定の天然ガスの中に1%も含有してるかどうかなんじゃが……」
「貴重なもんなんスか?」
「まあ貴重というか……現状は使い道が何もないんじゃ。が……垂れ流すのは勿体ないのじゃ」
ヒンカが井戸を覗き込み噴出元を確認した。
「妾の国の一部でしか取れない特殊なガスでな。戦略物資として世界に通用するものなのじゃが……」
「へー?パーティーグッズなのにー?」
「……そんなアホな使い方しかしないのは日本人だけじゃ。ロケットの推進剤にも使われる代物じゃぞ」
「えー!?」
クローリーにはもちろん会話の意味は理解できない。
それでもエルフ世界では重要なものらしいとだけは感じた。
「都合が良いというか悪いというのか、妾の世界の常識から外れたものがちょいちょいあるのじゃ」
「……意外とこの世界特有の、魔法の存在に由来するかもしれませんネエ」
「使い道ができれば大きな財産になろうというものじゃが……」
今の時点では遊ぶ以外に使い道がないものだった。
* * *
蛮族回廊を越えた遥か北に、その町はあった。
太陽は出ているはずなのにその地域はどこか暗く陰っていた。
空気自体が重く感じられる。
空は薄っすらと灰色の雲に覆われていた……雲?否、一帯の空を包み込む巨大な靄のようなものだ。
それは眼下の町に立ち並ぶ煙突群から吐き出されている何かであった。
その靄を突っ切って何かが降りてくる。
急降下してきたかと思うと、ふわりとホバリング状態になり城頭に着床した。
大きな翼を鳥のように開いていたが、畳むと人型になった。
しかし人間ではない。
どこか猫背気味に立ち上がった爬虫類じみた何かだった。
有翼魔と呼ばれる魔族である。
魔族は人族と対立する蛮族の中でも最も厄介な類のものだ。
ほとんどが攻撃的で容赦がない……それは人族とお互い様かもしれない。
「早かったな。チューソン」
低いがよく通った声の汎用蛮族語が聞こえた。
チューソンと呼ばれた有翼魔は長い首をぐるりと回して声の方を見た。
声の主は人型だった。
口元から覗く鋭い八重歯さえなければ人族にしか見えないような男だ。
身につけているのも仕立ての良い白い夜会服のようなものだった。
「どうだった?」
「これは……伯爵様」
チューソンは頭を下げた。
「挨拶はいい。それでどうだった?」
「は……」
チューソンは蛇のような長い舌をしゅるしゅると出し入れしながら頷く。
「人族のサルどもは魔術砲撃部隊をかなりの数を配置しているようで」
「ふうん」
伯爵は金で装飾されたケースの中から細巻煙草を取り出し、端を噛み切った。
「150年ぶりだからね。サルも進化したのかな」
にやりと笑う。
鋭い八重歯……牙が光る。
「おおよその数は?」
「は。だいたい……100ほどかと」
「すごいな。皇帝親衛隊並みだね」
軍事力として攻撃魔法を使える部隊で100人もいるというのは大兵力だった。
帝国全軍合計でも300と集められるかどうかだ。
「それでは猪頭族どもくらいでは1000や2000いても敵わないだろうな」
呪文を唱え指先に小さな火を出し、細巻煙草に火を点ける。
クローリーが求めて止まない便利魔法を自らの能力で自在に使えるのだ。
「勝ち戦に安心して緩んでいるところを叩こうか」
伯爵は紫色の煙を吐いた。
「判るね?チューソン」
「は?」
「わ、か、る、ね?」
「は、はは!幼竜も使って宜しいので?」
「わ、か、っ、て、い、る、ね?」
「は、はい?」
「……殺すぞ」
「ひっ!?ひいっ!」
チューソンは身を縮めておろおろした。
か細い声を出す。
「おねがい……殺さないで……」
伯爵は右手を小さく払った。
チューソンは伯爵の不興を買ったと気付いて慌てて飛び去った。
「……魔族は頭が悪いな。あいつだけかな」
伯爵は弾丸のように飛び去って行くチューソンをゴミでも見るような目付きで眺めた。
「伯爵様」
陰からスッと姿を現す女性。
闇に溶け込むような肌の色、金色の瞳、そして金属光沢のプラチナブロンド。
切れ長の目に長く尖った耳。
帝国内では見ることのない種族、異世界召喚者とは全く異なる本来の意味のエルフ、それもダークエルフと呼ばれるものだ。
地下世界を故郷とする彼らは蛮族世界でも珍しい存在だ。
「ノワール」
伯爵はダークエルフの名を呼んだ。
「見てこい」
それだけで十分だった。
意を察したノワールは闇に溶けるように姿を消す。
「火を点けたのはそちらだ。サルども」
その町は蛮族回廊を越えた遥か北。
帝国の人々は知らない。
そこまで踏み入れた人族はほとんどいないからだ。
入ったら出られない蛮族の町シュラークはそこにあった。
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