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第1章
第1章 エルフ?な不思議少女 1
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1 お風呂の中の少女
「ちょっとー!クロちゃん!なにこれえー!!!!?」
怒りの色を帯びた少女の叫び声とともに、クローリーの額に何かが投げつけられた。
「…………痛っ」
30分ほど前に彼が少女に渡してやった石鹸の塊であった。
石鹸自体が高価な貴重品なものなのに、さらに香水で匂いづけされた高級品である。
貴族くらいしか使うことのできない逸品であるのに、少女の扱いはとても雑だった。
「この石鹸はとっても高いんスよお……わっ!?」
額を手で押さえたところに、止めのように木桶が顔面に叩きつけられた。
「こっち見んなっ!」
クローリーはショックで仰け反った。が、一瞬だけ視界に少女が見えた。
少女は素っ裸だったのだ。
いや、正確には微妙に小さなタオルと湯気と、逆光によって細部は見えなかったが。
「シャンプーはないの!?リンスは!?髪がごわごわになったんだけどーっ!!」
まだまだ成熟には程遠い幼い顔立ちの少女は柳眉を逆立てて睨んでいた。
十分に美しい部類に入るだろう。が、可愛らしさの方が勝ってしまう年頃だ。
そのボディのシルエットは華奢というしかないほど細く、反比例して胸がかなり大きかった。
しかし、何より目立つのいはその髪の色だろう。
腰まで伸びるほどの金属光沢の桃色。ピンクブロンドというべきだろうか。
普通には存在しない色だ。
それこそがクローリーが彼女を保護した理由の一つでもあった。
お風呂に入ったら浴槽から水が溢れる。
それを不思議に思わない人と、そこに何かの意味を見つけようとする人、魔術師クローリーは後者だった。
とるに足らないように見えるモノ。珍しくもない普段の生活の中に普通に起きるコト。
昔から、それが何故なのかを考えるような変わった子供だった。
彼の父はそれを愚かなことと切り捨てず、面白いと考える……やはり一風変わった人間だった。
父が彼を魔術学院に進学させたのは、彼の知的欲求を充足させるためでもあり、何か新しいモノを見つけるような学者になるかもしれないと思ったからだった。
そうして育ったクローリーが果たして優れた学者になったというと、そうでもなかった。
せいぜい成績は中の上といったところ。
特別に目を見張るような研究をしていたかというと、そういう様子もない。
むしろ、彼の研究の対象は新しい発見や発明よりも、既存の魔法の効率化……といっていいのか、コストの削減と簡略化に終始していた。
そう、それは、今、まさに彼が行おうとしている魔法などに対しての研究だった。
彼が今、目の前の洗濯物を洗浄し、乾燥させる魔法。
これをもっと格安でできればなあ、というようなものだった。
手軽に安上がりに使える魔法の研究……それが進めばもっと便利な世の中になるだろう。
多くの魔術師はかってないほどの大規模な魔法や、新しい複雑な魔法の研究開発に血道をあげているが、クローリーは小さなものばかりを追い求める風変わりな男だった。
それもそのはず。衣類を洗濯する魔法には構成要素として1/5グラムのダイヤモンドが必要であり、乾燥の魔法にはさらに1グラムの砂金が必要なのである。
王侯貴族でも気軽には使えない、とっておきの特別な時にだけなんとか使用できるようなものである。
もし、これがもっと手軽な構成要素で行えるのならば……それも一般民衆が気軽に用意できる材料であるなら、日常生活は革命的に便利になるだろう。
そういった生活向上に繋がる魔法の研究がクローリーの目指すところだった。
もっとも……今、現在の彼がそういう発見をしたということはない。
したがって、貴重ななけなしの構成要素であるダイヤモンドと砂金を今まさに消費しようとしているところであった。
クローリーは使用に一瞬躊躇したものの、「これは必要経費!」と割り切って呪文を唱えることにした。
一般的に金属光沢の髪はエルフと呼ばれる存在の代表的な特徴である。
もちろんクローリーは少女をエルフと思った。
が、彼の知識上のエルフとは相違点がいくつか見られる。
切れ長の目や長い耳という典型的な特徴がないのだ。むしろ、人間に近い。
しかし、体はかなり細い。これはエルフに準じている。
のに関わらず、かなり大きな胸。これは一般的な人間の女性よりも大きく、貧乳で知られるエルフとは違って見える。
もっとも、彼が一番注目したのは性的な部分ではない。
ほっそりとした手の指。
その爪は光沢まであり、労働で傷だらけでくすんだものとは明らかに違う。
足の指も奇麗に揃っており、地面を踏みしめるように指が開いたりもしていない。
つまり、労働とは無縁の生活をしていたと考えられた。
そこからクローリーが出した推論は、『エルフの貴族の令嬢』あるいは、もしかしたら『王族』くらいのかなり高位の立場の人物ではないか、というものであった。
それならば多少は高飛車だったり、常識外れでも仕方ない。と考えていた。
それにしても石鹸を投げ捨てるなよ。とは思わないではなかった。
王侯貴族でもその価値を知らないはずはないのだ。
「……さっさと体洗ってくるっスよ。そこでぼーっと立ってると湯冷め……よりも、いろいろ丸見えになるっス」
痛む顔を押さえつつ、クローリーはにやりと笑った。
「この、すけべーっ!」
今度は握っていたタオルを投げつけてきた。
少女は真っ赤になって走り去って行った。
「あーあ。タオルまで投げつけると、マジ丸見えになっちゃうっスよー」
タオルが叩きつけられて実は前がまったく見えなかったのだが、ささやかな反撃とばかりに言ってみたのだった。
「やれやれ……」
クローリーは改めて洗濯物に向き直る。
泥というより汚水に塗れて悪臭まで放ている服一式は、先ほどの少女のものだった。
彼が知るどんな服ともデザインが異なり、これが彼の世界の服ではないことは判る。
見ただけでも縫製の緻密さは並みの職人の手によるものではない。
生地も彼が知るものとは微妙に違う。
光沢のある羊毛?いや違う。もっと滑らかな手触りの何かだ。
最初は普通に洗濯する……といっても浴場のお湯を使って、のつもりだったのだが、迂闊に扱う代物ではないと思いなおして魔法による洗濯を決意したのだった。
代償はあまりに高価だったが、雑に扱って台無しにするのは躊躇われた。
なにより彼にとって全く未知のものだったからだ。
クローリーはポーチから必要な構成要素を取り出して、呪文を唱えた。
効果はほんの数舜である。
茶色く薄汚れた状態の服が、まぶしいほどの純白と薄青の姿を取り戻した。
見れば見るほどエルフの王侯貴族にふさわしい素晴らしい仕立ての服である。
ただ、彼にとって不思議だったのは、高位の人物が着るには袖は短く、何よりスカートの丈が驚くほど短かったことだ。
膝が丸出し……どころか、一歩間違うと下着が見えそうなほどだ。
腕や足を晒す習慣がエルフにはあるのだろうか?
それ自体が彼の研究対象になるのかもしれない。
「あ。……これは…………わかるぞ。絹っスな?ハンカチか何か……」
一緒に魔法で洗濯した小さな布を広げてみた。
三角形の袋のような、しかし穴が何か所か開いた……。
「こらあああああああああっ!さわるなああああああああああーっ!!!」
今度は浴場の備品である垢すり器がクローリーに叩きつけられた。
クローリーは知らなかった。
彼の常識ではそれと同じ用途のものは長いズボン状のものか、あるいはカボチャのようなドロワーズのはずだったからだ。
そう。その小さな布切れは彼女の下着だったのだ。
「ちょっとー!クロちゃん!なにこれえー!!!!?」
怒りの色を帯びた少女の叫び声とともに、クローリーの額に何かが投げつけられた。
「…………痛っ」
30分ほど前に彼が少女に渡してやった石鹸の塊であった。
石鹸自体が高価な貴重品なものなのに、さらに香水で匂いづけされた高級品である。
貴族くらいしか使うことのできない逸品であるのに、少女の扱いはとても雑だった。
「この石鹸はとっても高いんスよお……わっ!?」
額を手で押さえたところに、止めのように木桶が顔面に叩きつけられた。
「こっち見んなっ!」
クローリーはショックで仰け反った。が、一瞬だけ視界に少女が見えた。
少女は素っ裸だったのだ。
いや、正確には微妙に小さなタオルと湯気と、逆光によって細部は見えなかったが。
「シャンプーはないの!?リンスは!?髪がごわごわになったんだけどーっ!!」
まだまだ成熟には程遠い幼い顔立ちの少女は柳眉を逆立てて睨んでいた。
十分に美しい部類に入るだろう。が、可愛らしさの方が勝ってしまう年頃だ。
そのボディのシルエットは華奢というしかないほど細く、反比例して胸がかなり大きかった。
しかし、何より目立つのいはその髪の色だろう。
腰まで伸びるほどの金属光沢の桃色。ピンクブロンドというべきだろうか。
普通には存在しない色だ。
それこそがクローリーが彼女を保護した理由の一つでもあった。
お風呂に入ったら浴槽から水が溢れる。
それを不思議に思わない人と、そこに何かの意味を見つけようとする人、魔術師クローリーは後者だった。
とるに足らないように見えるモノ。珍しくもない普段の生活の中に普通に起きるコト。
昔から、それが何故なのかを考えるような変わった子供だった。
彼の父はそれを愚かなことと切り捨てず、面白いと考える……やはり一風変わった人間だった。
父が彼を魔術学院に進学させたのは、彼の知的欲求を充足させるためでもあり、何か新しいモノを見つけるような学者になるかもしれないと思ったからだった。
そうして育ったクローリーが果たして優れた学者になったというと、そうでもなかった。
せいぜい成績は中の上といったところ。
特別に目を見張るような研究をしていたかというと、そういう様子もない。
むしろ、彼の研究の対象は新しい発見や発明よりも、既存の魔法の効率化……といっていいのか、コストの削減と簡略化に終始していた。
そう、それは、今、まさに彼が行おうとしている魔法などに対しての研究だった。
彼が今、目の前の洗濯物を洗浄し、乾燥させる魔法。
これをもっと格安でできればなあ、というようなものだった。
手軽に安上がりに使える魔法の研究……それが進めばもっと便利な世の中になるだろう。
多くの魔術師はかってないほどの大規模な魔法や、新しい複雑な魔法の研究開発に血道をあげているが、クローリーは小さなものばかりを追い求める風変わりな男だった。
それもそのはず。衣類を洗濯する魔法には構成要素として1/5グラムのダイヤモンドが必要であり、乾燥の魔法にはさらに1グラムの砂金が必要なのである。
王侯貴族でも気軽には使えない、とっておきの特別な時にだけなんとか使用できるようなものである。
もし、これがもっと手軽な構成要素で行えるのならば……それも一般民衆が気軽に用意できる材料であるなら、日常生活は革命的に便利になるだろう。
そういった生活向上に繋がる魔法の研究がクローリーの目指すところだった。
もっとも……今、現在の彼がそういう発見をしたということはない。
したがって、貴重ななけなしの構成要素であるダイヤモンドと砂金を今まさに消費しようとしているところであった。
クローリーは使用に一瞬躊躇したものの、「これは必要経費!」と割り切って呪文を唱えることにした。
一般的に金属光沢の髪はエルフと呼ばれる存在の代表的な特徴である。
もちろんクローリーは少女をエルフと思った。
が、彼の知識上のエルフとは相違点がいくつか見られる。
切れ長の目や長い耳という典型的な特徴がないのだ。むしろ、人間に近い。
しかし、体はかなり細い。これはエルフに準じている。
のに関わらず、かなり大きな胸。これは一般的な人間の女性よりも大きく、貧乳で知られるエルフとは違って見える。
もっとも、彼が一番注目したのは性的な部分ではない。
ほっそりとした手の指。
その爪は光沢まであり、労働で傷だらけでくすんだものとは明らかに違う。
足の指も奇麗に揃っており、地面を踏みしめるように指が開いたりもしていない。
つまり、労働とは無縁の生活をしていたと考えられた。
そこからクローリーが出した推論は、『エルフの貴族の令嬢』あるいは、もしかしたら『王族』くらいのかなり高位の立場の人物ではないか、というものであった。
それならば多少は高飛車だったり、常識外れでも仕方ない。と考えていた。
それにしても石鹸を投げ捨てるなよ。とは思わないではなかった。
王侯貴族でもその価値を知らないはずはないのだ。
「……さっさと体洗ってくるっスよ。そこでぼーっと立ってると湯冷め……よりも、いろいろ丸見えになるっス」
痛む顔を押さえつつ、クローリーはにやりと笑った。
「この、すけべーっ!」
今度は握っていたタオルを投げつけてきた。
少女は真っ赤になって走り去って行った。
「あーあ。タオルまで投げつけると、マジ丸見えになっちゃうっスよー」
タオルが叩きつけられて実は前がまったく見えなかったのだが、ささやかな反撃とばかりに言ってみたのだった。
「やれやれ……」
クローリーは改めて洗濯物に向き直る。
泥というより汚水に塗れて悪臭まで放ている服一式は、先ほどの少女のものだった。
彼が知るどんな服ともデザインが異なり、これが彼の世界の服ではないことは判る。
見ただけでも縫製の緻密さは並みの職人の手によるものではない。
生地も彼が知るものとは微妙に違う。
光沢のある羊毛?いや違う。もっと滑らかな手触りの何かだ。
最初は普通に洗濯する……といっても浴場のお湯を使って、のつもりだったのだが、迂闊に扱う代物ではないと思いなおして魔法による洗濯を決意したのだった。
代償はあまりに高価だったが、雑に扱って台無しにするのは躊躇われた。
なにより彼にとって全く未知のものだったからだ。
クローリーはポーチから必要な構成要素を取り出して、呪文を唱えた。
効果はほんの数舜である。
茶色く薄汚れた状態の服が、まぶしいほどの純白と薄青の姿を取り戻した。
見れば見るほどエルフの王侯貴族にふさわしい素晴らしい仕立ての服である。
ただ、彼にとって不思議だったのは、高位の人物が着るには袖は短く、何よりスカートの丈が驚くほど短かったことだ。
膝が丸出し……どころか、一歩間違うと下着が見えそうなほどだ。
腕や足を晒す習慣がエルフにはあるのだろうか?
それ自体が彼の研究対象になるのかもしれない。
「あ。……これは…………わかるぞ。絹っスな?ハンカチか何か……」
一緒に魔法で洗濯した小さな布を広げてみた。
三角形の袋のような、しかし穴が何か所か開いた……。
「こらあああああああああっ!さわるなああああああああああーっ!!!」
今度は浴場の備品である垢すり器がクローリーに叩きつけられた。
クローリーは知らなかった。
彼の常識ではそれと同じ用途のものは長いズボン状のものか、あるいはカボチャのようなドロワーズのはずだったからだ。
そう。その小さな布切れは彼女の下着だったのだ。
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