上 下
65 / 92
9.俺と母親の幸せの形

47

しおりを挟む
 アパートに向かう間、ほとんど無言の車内。なんとなく居心地が悪いなぁ、なんて思ってたタイミングで、俺のバッグの中からマナーモードにしてあったスマホの振動音が聞こえてきた。

「でなくていいのか」

 こんな時間に誰からだ? と思いながら、電話にでようか迷ってた俺に、若頭のほうから聞いてきた。

「あ、はい……じゃ、す、すみません」

 手にした携帯に表示されている名前を見ると、みわ子からだ。そういえば、拉致られた後、まったく連絡も入れてなかったことを思い出す。俺は慌てて、電話に出た。

「は、はいっ」
『政人、今、どこっ』

 みわ子の悲鳴のような焦った声が聞こえてきた。たまたま目が覚めたのかもしれない。
 いつもなら俺も帰宅して、寝てすらいる時間。それなのに帰宅した様子もなく、LINEでの連絡もないのに気付いて電話してきたのかもしれない。
 俺だって二十歳を過ぎた大人なんだけど、借金取りに脅され続けてたみわ子にしてみれば、もしかして、という恐怖はいまだに残ってる。だからこそ、マメに連絡をいれてはいたのに。今回ばかりは俺の失敗だ。

「ごめん、連絡し忘れてた。今、そのぉ……」

 つい、チラリと隣に座る若頭の顔色を伺ってしまう。

「し、知り合いの人の車で送ってもらってるから」
『そ、そうなの? 本当に?』
「ほ、本当、本当。あ、もうすぐ着くから」
『わかった。迎えに行く』
「うぇっ!? いいよっ……あ、ああ、切っちゃった」

 まさかの、みわ子迎えに行く発言……若頭見たら、ビビっちゃうか……と思ったけど、若頭単体なら、ヤクザだとは思わないか? スキンヘッドたちだったらアウトだな。

「なんか、随分と騒がしかったな」
「あ、ああ、母がちょっと……心配性でして……」

 苦笑いしながらそう答えると、若頭が気の毒そうな顔をする。

「お前もいい大人だろうに」
「はぁ……うち、母子家庭で……ちょっと、色々ありまして……」

 そんな俺たちを助けてくれたのは、若頭の父親なんですけどね。それは口にしないけど。
 みわ子に伝えた通り、大通りの角を曲がった細い通りの突き当りに、俺たちのアパートが見えてきた。と同時に、パジャマに大き目なグレーのパーカーを羽織ったみわ子の小さな姿が見えてきた。心配そうな顔でウロウロしているのが、街灯に照らされてるせいで、よく見える。

「うわ、マジでヤバイ」

 つい、ポソッと呟いた声に、若頭がニヤニヤ笑う。

「しっかり怒られろ。俺が見届けてやる」

 夜中に怒鳴り散らすことはないとは思うけど、怒られるのは目に見えてる。でも、そもそも、この車見ただけで、みわ子、ビビりそうなんだけど。
 車がみわ子の目の前に停まった。俺は溜息をつきながら後部座席のドアを開けた。 案の定、みわ子は目をまんまるにして固まって立ってる。

「えーと、ただいま」
「……」

 みわ子、声もない。
 若頭が反対側のドアから降りて、俺の隣へと歩いてくる。うん、デカいよね。みわ子、ポカーンとした顔で見上げてる。

「すみませんね。マサトくん、遅くまで連れまわしちゃって……」
「へっ」

 みわ子、変な声で返事するな。口、口開いたまま。閉じろ、みっともないから。恥ずかしいなぁ、と思いながら、若頭のほうへとチラリと目を向けると、なぜか若頭のほうもみわ子のことを見ながら目を見開いてる……あれ、なんで?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...